[タベサキ Vol.11]ご当地スーパーの味 イツモノ
「飛騨パイン」(岐阜県・ファミリーストアさとう 桐生店)
岐阜県
2020.04.28
タベサキ
地方の馴染みの食を支えるご当地スーパーで、そのエリアならではの“いつも”の味をピックアップ! 今回は、レトロなパッケージがかわいい、岐阜のフルーツ牛乳。
文:菅原佳己
「飛騨パイン」
飛騨パイン(110円)
朴の葉に地元でつくられた味噌とネギやキノコなどを混ぜ、食卓で焼きながら食べる郷土料理「朴葉味噌」など、飛騨高山には、山の暮らしの滋味深い味わいが多い。それなのに、なぜか高山で一番人気のご当地飲料はポップな「飛騨パイン」。レトロ感あるパッケージに、懐かしい「フルーツ牛乳」を思い出させる甘酸っぱさは、ここでは定番。同シリーズのオレンジとコーヒーにもファンは多い。
冷涼な空気と水のいい土地は、牛がストレスを感じずに健やかに暮らせるため、質も量も申し分のないミルクを生産できるといわれている。年間平均気温は11℃で、酒づくりに適した清らかな水もある、飛騨高山。明治時代からの乳業の歴史があった。
メーカーの飛騨酪農農業協同組合によれば、当時の牛乳はまだ、病人や乳幼児のための「薬」であり、経営は不安定だったとか。やがて、昭和の時代に牛乳の一般消費も増えたものの、今度は敗戦で飼料不足に陥ってしまった。その危機を救ったのは、地元の人々が届けてくれた、米ぬかだった。援助のおかげでミルクは絶えることなく供給され、牛の命と地域の乳業を助けたのだ。
昭和の平和な時代になると、いよいよ、大手メーカーから「フルーツ牛乳」なるものが発売され、一斉を風靡することとなる。銭湯や海水浴で飲むフルーツ牛乳の甘酸っぱさが、子どもにとってはふつうの牛乳より断然ランクが上だった。
1965年、まずは「飛騨オレンジ」が発売され、その人気を見るや否やすぐに「飛騨パイン」を新型ルーキーとして投入。なぜ、パインなのかは会社にも記録が残っていなかったが、雪国にとって、パイナップルは憧れの「南国」をイメージしやすかったのではないかと想像する。やがて「飛騨パイン」はロングセラーとなっていく。
おいしい牛乳に、憧れのパインのコラボは大成功。飛騨の隅々まで浸透した。ところが一方で、大手が高いシェアを誇っていた都会では、いつしかフルーツ牛乳と呼ばれたものは姿を消し、ついには「牛乳と呼んではいけない」という法律の改正に巻き込まれることに。
まだ道路網も情報網も発達していなかった山奥の飛騨では、都会のそんな状況をまったく知ることなく、ただひたすらに代々、飛騨パインを綿々と飲み繋いできたのである。飛騨パインがご当地飲料になった理由だ。
ちなみに、今は青々とした新緑の朴葉が手に入るため、期間限定で、朴葉ずしも店先に並ぶだろう。懐かしい味わいの「飛騨パイン」もよく売れる。そして嬉しいのは、飛騨高山に行かずとも、ファミリーストアさとうのネットショップで、「飛騨パイン」を含めた飛騨のおいしい乳製品を買うことができるのだ。
Profile
スーパーマーケット研究家
菅原 佳己(すがわら よしみ)
スーパーマーケット研究家。夫の転勤で国内外の転居を繰り返すうちに、スーパーの魅力に気づき、埋もれた日常食の発掘などの研究をスタート。ご当地スーパーやご当地グルメブームの火付け役として、テレビや雑誌、新聞などで活躍している。著書は『日本全国ご当地スーパー掘り出しの逸品』(講談社)など多数。新刊『東海 ご当地スーパー 珠玉の日常食』(ぴあMOOK中部)では、より狭くディープに探究。
https://www.gotouchisuper.online
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