旅色プラス
雑誌『自遊人』が手がける浅間温泉リノベーションプロジェクト「松本十帖」の一環として、今年7月にプレオープンしたブックホテル「松本本箱」。さっそく宿泊体験をしてきた旅色編集部が、その模様をレポートします。
「松本十帖」とは、長野県・浅間温泉内の旅館や空き家を再生して行われる、エリアリノベーション。「里山十帖」や「箱根本箱」に続き、雑誌『自遊人』が手がけるホテルとしては4・5軒目となる2つのホテルをはじめ、カフェや醸造所を展開し、温泉街を活性化するプロジェクトです。今回はスタッフの小沼さんにプレオープン中の「松本本箱」と、その他周辺施設を案内してもらいました。
今年7月23日より宿泊可能となっているのが、ブックホテルの「松本本箱」です。湯坂通りにあった老舗旅館「小柳」をリニューアルし、「豊かな知との出会い」をテーマに、本に浸れる旅時間を提案するホテルになっています。
チェックインは、宿泊棟から少し離れたコーヒースタンド「おやきと、コーヒー」で。昭和の初めに建てられ、かつては芸者さんの置屋(休憩室)だった建物を改装して使われています。かつて浅間温泉内は100人以上の芸者さんがいたお座敷文化の地。今では一人もいなくなり、持て余していた建物を再利用することになったそうです。
宿泊者はセルフ端末にてチェックイン手続き後、2階のカフェスペースでウェルカムスイーツのおやきと飲み物をいただくことができます。おやきは野沢菜とつぶあんから、飲み物はコーヒー(ホット・アイス)とほうじ茶(ホット・アイス)から選ぶことができ、到着時の疲れをほっと癒してくれます。すぐに食べられないという方には、翌朝まで利用可能なチケットがもらえるので、好きな時間に立ち寄ってみてください。宿泊客以外でも、カフェやバーとして利用できるそうですよ。
おやきはアツアツ。モチモチとした生地と野沢菜の食感がクセになります。
チェックインと食事を済ませたら、ホテルまでは車で送迎してもらうことができますが、せっかくなので浅間温泉街を散策しながら徒歩で向かうのがおすすめです。少し坂がありますが、5分程度で到着することができます。
いよいよブックホテルの館内に入ると、奥の方まで本がずらり。1階は絵本から小説、雑誌、漫画まで約1万冊が集められた本屋になっていて、宿泊客でなくとも実際に購入することができます。姉妹施設「箱根本箱」と異なるのが、松本が誇る3つのガク都(学・楽・岳)のうち特に「学」を意識したラインナップ。日本で最初につくられた学校のひとつ、開智学校が残っているここ松本で、知性を深め、じっくりと読み込めるような本がセレクトされています。
選書は日本出版販売の「YOURS BOOK STORE」と、ブックディレクターの幅 允孝(はばよしたか)さんによるもの。インデックスに沿って、生命の歴史を辿りながら、一番奥には新しい生活様式を考えるポストコロナゾーンも設けられています。松本本箱はコロナウイルスの影響で開業を延期し、その間コンセプトの見直しや選書内容の変更もあったそうです。
本箱の新たなコンセプトが大きく現れているこちらの壁面。左側6列を占めているのが、あの「風の谷のナウシカ」です。作品の中にはマスクをしていないと生きられない「腐海」という世界があり、映画だけではあまり知られていない、現代を象徴するような物語が描かれているそうです。この日案内をしてくれた小沼さんもおすすめの作品です。
本箱内は大人向けと子供向けのゾーンに分かれていて、子供向けのほうは迷路のように本を探して楽しめるようになっています。
小柳時代の浴場をそのまま使っているので、蛇口や鏡もそのまま!
「オトナ本箱」へは、温泉旅館ならではののれんをくぐって。
こちらのゾーンは、デザイン書やビジュアルブックなどがメイン。元の浴場の内装を生かしたアートな空間で、のんびり時間を過ごすことができます。
もっとじっくり本を読みたい方には、半個室のスペースもあります。4室すべて異なる構造で、コンセントも完備されているので、時間を忘れて本の世界に浸りましょう。
今回宿泊させていただいたのは、最上階5階のスイートルーム。125平米あり、最大5名宿泊可能です。1階の本箱含め内装のデザインは、SUPPOSE DESIGN OFFICEの谷尻誠さん、吉田愛さんによるもの。前旅館の壁や天井をはがし、コンクリートの躯体をあらわしたまま当時の内装を生かした設計が特徴的です。
大きな窓からは北アルプスの山並みと、夕方には日が沈む絶景が見えるパノラマビュー。窓の開放感に加えて、仕切りを多く設けていない室内は、とても広々と感じられます。
24部屋ある客室はすべて露天風呂付き、こちらのスイートルームにはさらに内風呂も完備。
部屋にはフリータンブラーが用意されており、1階に設置されたコーヒーマシンや客室内のキッチンで利用することができます。そしてなんとこちらは持ち帰りOK。使い捨てのものをなるべく減らしたいという松本本箱の想いから、アメニティも最小限に、必要なものは館内の廊下から自ら選択して利用可能です。
客室内や、廊下にももちろん本棚が。1階で販売されている本は購入しないと部屋に持ち込むことはできませんが、廊下にある本は自由に部屋に持ち帰って読むことができます。ホテル全体を通して、じっくり本に浸る旅のスタイルが提案されています。
夕食は、1階のダイニング「三六五+二」にて。名前の由来は、1年365日毎日の食に、十帖の「歴史」と「文化」をプラスしたダイニングのコンセプトから。また、365+2=367は長野県を流れる千曲川の長さでもあるそうです。当初予定していたビュッフェスタイルを廃止し、すべてコース料理での提供となっています。
夕食の特長は、中央で焼かれる薪火料理。ダイニング内には薪火の芳ばしい香りが。
「薪の上のアミューズ」(信州味噌のグリッシーニ/りんごのミニおやき/野沢菜クリームプチシュー)
選べる前菜「三六五+二 分の三」(写真は焼き茄子、自家製リコッタ、ドライトマト/破竹、桜えび、いんげんのマリネ/松本名物 山賊焼き)
「薪火グリル」(写真は放牧豚肩ロース)
「フライパンごはん」(焼きとうもろこし)
そのほかにも、信州の野菜を使ったサラダや浅間いちごを使ったデザートなど、地元食材をおいしくいただける料理が次々に登場。飲み物はりんごジュースや信州薬膳茶、またオリジナルの樽生シードル(りんごのお酒)など、こちらも松本周辺の名産がふんだんに使われています。
朝食はお部屋にて。新鮮野菜をたっぷり使った、体が喜ぶ朝ごはんが運ばれてきます。
自家製ボイルハムとサラダは、全粒粉ロールにはさんでいただきました。客室の大きな窓から降り注ぐ朝の日差しを浴びて、旅の2日目を気持ちよくスタートです!
松本本箱から山の方へ少し登っていったところに9月オープン予定なのが、カフェ「哲学と甘いもの」。少し難解な哲学書を読みながらスイーツを食べる、というコンセプトのカフェです。なぜ哲学なのかは、自遊人のクリエイティブディレクター・岩佐十良氏のインタビュー記事をぜひご覧ください。
スキーマ建築計画の長坂常さんが手掛けた内装は、アンティークなものと工業的なものがミックスされたおしゃれな空間。もともと2家族が住んでいた民家を改装し、窓や天井、柱などほぼそのまま活用されています。
ここで暮らしていた人の生活を感じる、柱のシールもそのままに。
松本本箱のすぐ横、大正時代に物置として使われていた土蔵は、醸造所として改装中。自遊人にとっても初となるお酒の醸造にチャレンジし、信州のりんごを使ったクラフトシードルを製作予定です。オープン後は見学もできるようになるそうなので、ぜひ今後の情報をチェックしてみてください。
松本本箱をはじめとした松本十帖は、ホテルと温泉街内だけで旅を満喫できる場所になっていました。新しい旅のスタイルを体験しに、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか? 【関連記事】これからは“生活観光”の時代。「松本十帖」開業の岩佐十良氏にインタビュー 「里山十帖」や「箱根本箱」などライフスタイルホテルを手掛け、今年新たにエリアリノベーシ...
◆松本十帖 松本本箱
住所:長野県松本市浅間温泉3-13-1
電話:0263-46-0500
料金:1泊2⾷付き22,500円~(2名利⽤時の1名料⾦)
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