【福岡】ノスタルジック北九州! 日本の近代化を支えたまちを歴史的建築物から知るロマン旅

福岡県北九州市は、明治から昭和にかけて石炭関連で繁栄の基礎を築いた工業都市です。どこか懐かしさを感じる風景は、令和へと受け継がれ、形を変えながら大切に残されています。なかでも繁栄の牽引的存在の旧安川邸や日本有数の石炭集積地となった北九州市若松区などは、現在も大切に保存・利用され、生活に溶け込んでいます。そんな風景が広がるまちに、「ちゃんと旅を考えると、旅はもっと楽しくなる」、ちゃん旅を連載する美娜が訪ねました。
目次
北九州の繁栄を築いた「旧安川邸」

北九州市指定文化財に指定されています。
明治期に炭鉱関連事業で財を成し「筑豊御三家」と呼ばれた炭鉱王のひとり・安川敬一郎が晩年を過ごした邸宅です。安川氏は、安川電機や九州工業大学を設立し、北九州の発展に貢献してきました。明治45(1912)年に若松から移築され、現在は北九州戸畑区の夜宮(よみや)公園内にあります。「大座敷棟」、「南蔵・北蔵」、昭和2(1927)年竣工の「洋館棟」、昭和13(1938)年竣工の「洋楓本館棟」など、明治・大正・昭和初期の各時代の建物が現存する貴重な住宅建築です。
平成34(2022)年4月に一般に向けて公開が始まりました。大座敷からみる庭園、和洋混在の建築、玄関正面に植えられた樹齢100年近いカイズカイブキなど気品あふれる佇まいが訪れた人を感心させます。まだまだ冬の空気が残る3月中旬に訪れた際、庭園では黙々とスケッチをされている人たちがいました。ほかにも将棋の対局、お庭Yoga、着付け教室など気軽に利用できるイベントが開催され、地元内外の方が訪れます。
♦旧安川邸
住所:北九州市戸畑区一枝1-4-23
電話:093-482-6033
営業時間:9:00~17:00
休館日:火曜日
入館料:一般 260円、小・中学生 130円
ノスタルジックな風景広がる海岸通りの「北九州市旧古河鉱業若松ビル」

窓枠や歩くときしむ廊下など一部は当時のまま。
江戸時代中期は年貢や石炭の積出港とされていた北九州市若松区。日本近代化により炭田の開発・鉄道の整備などをして、日本有数の石炭集積地となりました。石炭から石油へ時代が変わると、洞海湾(どうかいわん)に面した若松南海岸通りに多くあった海運関連会社は衰退していきます。老朽化や人口減少が進んだまちは、かつての風景が失われつつありました。そんななか、市民による建物保存活動と北九州市による保存改修工事が行われ、新たな観光資源として現在に残っています。
海岸通りに悠々と建つ「北九州市旧古河鉱業若松ビル」は、大正8(1919)年に完成しました。レンガ造りと円形の塔が象徴的で華やかな外観です。一時は、入居者がいなくなったことや、建物の老朽化もあって解体の危機にあったものの、平成12(2000)年に46,000名以上の署名と約7400万以上の寄付で修繕することができました。現在はコミュニティーセンターとして、会議や、コンサートなど、幅広く利用されているそうです。訪れた時は、市民によるフリーマーケットが開催されていました。
♦北九州市旧古河鉱業若松ビル
住所:福岡県北九州市若松区本町1-11-18
電話:093-752-3387
開館時間:9:00~17:00
休館日:火曜日・年末年始
モダンでハイカラなオフィス街
石炭会館

壁に目地を入れた石造り風の建物は、海岸通りでもひときわ目をひきます。
海岸通りに並ぶ洋風建築群が、ノスタルジックな風景を作り上げています。なかでも明治38(1905)年に建てられた「石炭会館」は、若松区内に現存する最も古い建物です。若松港同盟石炭問屋組合が約300坪の土地を購入し、組合の事務所、石炭会館を完成させました。現在も株式会社石炭会館の事務所として使われているほか、1階にはクロワッサンで有名な「三日月屋」の販売所もあります。歴史的建造物の有効活用の素敵な事例です。
◆石炭会館
住所:福岡県北九州市若松区本町1-13-15
※現在も使用中の為、見学は1階玄関ホールのみ
◆三日月屋 若松店
住所:福岡県北九州市若松区本町1-13-15
電話:093-771-7979
営業時間:9:00~19:00
上野ビル
筑豊地方の炭鉱買収や鉄道の整備をきっかけに、旧三菱合資会社若松支店の事務所として、大正2(1913)年に完成しました。鉱滓(こうさい)※1 煉瓦造りの3階建てで、窓まわりや壁部分に当時の姿が残り、戦後を舞台にした映画やCMのロケーションとしても使われています。内部中央の吹き抜けを囲むように、デザイン事務所やカフェ、セレクトショップなどが入る人気スポットです。
※製鉄所の高炉で鉄を作る過程で得られる副産物のこと
♦上野ビル
住所:福岡県北九州市若松区本町1-10-17
電話:093-761-4321
事務所エリアは見学不可
おわりに
北九州市は明治以降日本の近代化を牽引した四大工業地帯のひとつで、かつては公害問題があがっていた地域でしたが、改善に力を入れ、1980年代には環境再生を果たした奇跡のまちとして国内外に紹介されるようになりました。2022年には「日本新三大夜景都市」の1位を獲得するなど観光にも力を入れています。そんな生まれ変わったまちで、新たな活用法を見出された工業都市の文化財たちは、かつての工業都市・北九州を守り育てていました。今回のちゃん旅(=ちゃんと旅を考える)は、昭和生まれの私が、昭和・平成・令和と生きた時代を重ねながらみてきました。めまぐるくし変わっていく中で、残り続ける建物や風景から、先人たちが日本の近代化にどれだけの希望持っていたか、後世に受け継ぐ大切さをどう考えていたのか、少しだけ垣間見れた気がします。新しい感じ方や考え方が生まれる“旅”に出かけてみてくださいね。