新旧の魅力が入り交じる豊橋駅周辺で昭和ノスタルジーを感じる一日
歴史やものづくりに触れられる旅が大好きな、昭和生まれの旅色LIKESライター・長月あきです。夏の暑さが和らぎ、だんだんと秋らしくなってきました。街歩きにはぴったりの季節ですね。今回はノスタルジックな昭和の雰囲気があちこちに残る、愛知県豊橋市の豊橋駅近辺を散策してきました。
目次
大正から100年を駆け抜ける東海地方唯一の路面電車
愛知県の東南端に位置する豊橋市には、東海地方に唯一残る路面電車が走っています。豊橋駅前を起点に中心市街地を運行し、大正14年の開業から約100年近く、市民の足として親しまれてきました。国道のど真ん中をゆったり走る様子は、豊橋を象徴する風景です。私は路面電車が走る街に住んだことがないので、目にすると、なんだかテンションがあがる!
ルーツは戦後の闇市。用水路の上に建つ「水上ビル」
豊橋駅から徒歩約10分。昭和40年頃から約60年続く「水上(すいじょう)ビル」と呼ばれる商店街を訪れました。東西約800メートルにわたって、ゆるやかな曲線を描いて立ち並ぶ15棟のビル群。牟呂(むろ)用水という農業用水路の真上に建てられていることが、「水上」の由来です。
豊橋は、太平洋戦争の空襲で市街地が焼け野原となりました。戦後、露天商人たちによって青空市場、闇市がつくられます。彼らは、戦災復興事業における再整備に伴い、2度、市場の移転を求められました。駅前の市街地には新たな土地の確保が困難だったため、捻り出されたアイデアが、農業用水路に蓋をし、ビルを建てるというものだったそう。なんとも斬新なアイデアですね。ビルの下になっているので水路は見えませんが、かつての橋の欄干(らんかん)※1 が、ビルの狭間に残されています。ビルが水路の上に建っていることを知らなければ、なんだか不思議な光景です。
※1 橋から落ちないようにするための柵のようなもの
「昭和」と「令和」が入り交じる水上ビル商店街
近年新しく開業したお店もあります。昭和の面影が残る老舗だけでなく、新旧の魅力が入り交じる商店街です。
イチオシ! 老舗のお好み焼き「伊勢路本店」
店の看板が魅力的なお好み焼き屋。開店と同時に入店したあと、15分もしないうちに満席になってしまうほどの人気店です。
年季の入った壁のメニュー表を眺めながら迷いに迷って、牛すじのねぎ焼きを注文。蝶ネクタイのマスターが「お昼はご飯が無料でついてくるよ」といってくれるも、ご飯は辞退。その後も食べている最中に「ご飯はいいの? 」と優しい口調で繰り返し尋ねてくれました。慣れた様子の常連さんとのやりとりにも、なんだかほっこり。味はもちろん、店員さんの温かい接客とお店の雰囲気で、すっかりファンになりました。絶対また食べに行きたい!
◆伊勢路本店
住所:愛知県豊橋市駅前大通1丁目114
電話:0532-53-7012
営業時間:11:30~22:00
定休日:水曜日
カリッ、もちっとした食感のカヌレが絶品! 「珈琲とカヌレ」
「伊勢路本店」を出て徒歩約30秒。2021年にオープンしたカヌレ専門店があります。外側がカリッと硬め、内側はもっちりした生地のカヌレは、とてもおいしくて、あっという間にペロリ。2~3個はいけそう……。
◆珈琲とカヌレ
住所: 愛知県豊橋市駅前大通1丁目114-116
電話: 0532-54-4100
営業時間:10:00〜18:00
定休日:月曜日
商店街には、レトロな看板や、昔の問屋街の名残で問屋がいくつかありました。
近年開業したらしい、おしゃれな外観のお店も色々あります。
◆水上ビル
住所:愛知県豊橋市東小田原町88
※営業時間や定休日は、店舗によって異なります。
戦禍を免れた「豊橋公会堂」
路面電車に乗り、水上ビル近くの「駅前大通」電停※2 から約5分ほど乗車して「市役所前」電停へ。降りてすぐのところに、昭和初期に造られたレトロな建物があります。空襲で焼け残った市立の公会堂です。風格のある建物は、外観やほとんどのドアが当時のまま。国の登録有形文化財になっており、今も講演会や各種のイベントに使用されています。
※2 路面電車の停留所の略称
◆豊橋公会堂
住所:愛知県豊橋市八町通二丁目22番地
電話:0532-51-3077
開館時間:9:00~21:00
休館日:毎月第3月曜日(当該日が国民の祝日または振替休日に当たるときはその翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
公会堂のすぐ近くに、豊橋市役所に隣接する豊橋公園があります。徳川家康・酒井忠次(ただつぐ)ゆかりの吉田城があった場所です。明治以降、大日本帝国陸軍の歩兵第18連隊の兵舎が置かれ、日清戦争から太平洋戦争まで、多くの兵を送り出した地でもあります。歩兵第18連隊は、昭和19年、太平洋戦争時にグアムで玉砕。現在、市民の憩いの場になっている公園内には、いくつかの戦争遺跡が残されています。昭和が遠くなっても、忘れてはいけない記憶を留めている場所のひとつです。
◆豊橋公園
住所:愛知県豊橋市今橋町
レトロな内装やオリジナル文具も可愛い老舗ベーカリー「ボン.千賀」
路面電車の「駅前大通」電停近くにある、大正元年創業の老舗パン屋「ボン.千賀」。昭和54年に店舗を改装、喫茶スペースをオープンしたそう。店内では、昭和レトロな当時の内装や建具が、今も使われています。
◆ボン.千賀
住所:愛知県豊橋市駅前大通1-28
電話:0532-53-5161
営業時間:10:00~21:00 ※変動あり
定休日:日曜日 ※不定休あり
古きよき昭和と新しい時代が共存する街
あちこちに昭和の雰囲気が残る豊橋駅周辺エリアですが、再開発が進み、街の姿は着々と変わりつつあります。水上ビルも、老朽化が進んでいるので、そう遠くない将来、その姿を変えることになるのではないかと思います(といっても、権利関係が複雑で建て替えは難しいそうですが)。豊橋駅は東海道新幹線の停車駅であると同時に、複数路線が乗り入れる東三河地方の交通の要です。豊橋を訪れる方はもちろん、乗り換えに下車される方も多いはず。せっかくなので、新旧の魅力が交差する駅周辺エリアを散策してみてはいかがでしょうか。