近江八幡はこんなまちです

琵琶湖の東岸に位置する近江八幡は、悲劇の関白として知られる豊臣秀次（豊臣秀吉の甥）が開いた城下町で、江戸時代には近江商人と呼ばれる豪商の拠点として栄えました。多くの史跡や情緒豊かなまち並みが今も残る、人気の観光スポットです。

江戸時代末期から明治にかけて建築された商家が並ぶ。

風情ある近江八幡のまち並み。

ウィリアム・メレル・ヴォーリズとは？

1905年24歳で来日し、近江八幡にあった滋賀県立商業学校（現：八幡商業高校）の英語教師に着任しました。多くの生徒に慕われましたが、仏教を信仰する地元住民からキリスト教の布教活動が問題視され、わずか2年で教職を失います。解雇後も近江八幡に留まったヴォーリズは、建築家として建築事務所を開き、実業家としてメンソレータム(現：近江兄弟社メンターム)を日本に輸入し、さらに病院や学校などの社会事業も幅広く展開していきます。1964年に亡くなるまでの間、近江八幡に根を下ろし、多様な活動を続け、近江八幡市の名誉市民第1号となりました。ちなみに、建築家として名高いヴォーリズは、元々建築家志望ではありましたが、大学で専門の教育を受けてはいません。彼は独学で学んで経験を積み、各地に多くの建築物を残しました。さらに音楽にも造詣が深かったようで、行動力があるだけでなく、多才な人物であったようです。

近江兄弟社本社。1階はメンターム資料館になっている。

本社の目の前の広場にあるヴォーリズの像。

近江八幡市内にはヴォーリズが携わった建築物が20余り現存していますが、内部を見学できる建物は多くありません。そんな中、近江八幡観光物産協会主催で、年に2回、一部建築物の特別公開があります。2024年春の公開は4月26日から5月6日（月・祝）の間の指定日に開催。特別公開を前に、いくつかの建築物を紹介します。

通年、内部見学が可能な建築物

1. 旧八幡郵便局

和洋折衷の外観が印象的な旧八幡郵便局。

旧八幡郵便局の局長は、ヴォーリズの八幡商業高等学校の教え子の一人だったとか。

入って左手にある「ひとつぶの種カフェ」。

クリスタルのドアノブ。ヴォーリズ建築の特徴のひとつだとか。

マップは200円で購入可能。収益は、旧八幡郵便局の保存・改修に使われるそう。

ヴォーリズの手によって増改築された八幡で最初の郵便局。1961年まで郵便局の役割を果たした後も事務所・倉庫・店舗など多岐にわたって使われてきました。その後、長く空き家となり老朽化していましたが、1997年から地元市民の熱意により、セルフビルド方式で少しずつ改修が進められ、見事に再生。土・日曜日に無料公開されており、予約無しで見学することができます。なかにはヴォーリズの軌跡や旧八幡郵便局についてわかりやすく解説したパネル展示があります。数名からはじまった改修活動の輪は徐々に拡がり、市民の手によって再生されていった過程も紹介されています。歴史的建造物としての価値はもとより、市民による建築物の再生・保存活動自体に大きな価値を感じました。入口で販売されている近江八幡市内のヴォーリズ建築マップは、各建築物の特徴と見学可否がわかりやすく記載されており、イラストが素敵なのでおすすめです。

◆旧八幡郵便局
住所：滋賀県近江八幡市仲屋町中8
電話：0748-33-6521
営業時間：土・日曜日 11:00～17:00
定休日：祝日にあたる平日
料金：無料
予約：不要

2. ヴォーリズ記念館

ヴォーリズ夫妻の最後の住居。

日本名は「一柳米来留（ひとつやなぎめれる）」だった。

入館記念品としてもらえるクリアフォルダ。

ヴォーリズ夫妻の最後の住居が、現在記念館として公開されています。内部見学は予約が必要ですが、空いていれば当日予約も受付けてもらえます。見学できるのは1階の居間のみで、解説映像を視聴した後、係の方が説明をしてくれました。室内には各種資料や写真、ヴォーリズの使っていたピアノ等が展示されています。内部の写真撮影は禁止ですのでご注意ください。

◆ヴォーリズ記念館
住所：滋賀県近江八幡市慈恩寺町元11
電話：0748-32-2456
入館時間：10:00～16:00
休館日：月曜日、祝日、その他不定休
料金：500円、高校生以下無料
予約：必要 ※電話予約のみ

3. ハイド記念館

左が教育会館、右がハイド記念館。

幼稚園舎として建設されたハイド記念館。隣には講堂兼体育館として建設された教育会館があります。メンソレータム社の創始者の寄付で建築されました。今も教育施設として使用されていますが、平日は見学が可能です。

◆ハイド記念館
住所：滋賀県近江八幡市市井町177
電話：0748-32-3444
営業時間：月～金曜日 10:00～16:00
定休日：土日祝日、年末年始、お盆期間中、その他学校行事などにより不定休のため、事前に電話で確認要
料金：500円
予約：不要

外観。

4. 近江八幡市立資料館

八幡警察署として使用されていた、築70年ほどの建物を改築設計。現在は郷土資料館として近江八幡市立資料館(ほか、歴史民俗資料館もあり)として使用されています。

◆近江八幡市立資料館
住所：滋賀県近江八幡市新町2丁目22
電話：0748-32-7048
営業時間：9:00～16:30（入館は16:00まで）
定休日：月曜日（祝日の場合は開館）、祝日の翌日、年末年始
入館料：一般 300円、小中学生 150円 ※単館券（旧西川家住宅や、かわらミュージアムとのセット入館券あり）
予約：不要

春の特別公開期間のみ内部見学ができる建築物

1. アンドリュース記念館

ヴォーリズが設計した第一号の建築物。大学時代の親友であるアンドリュースの死後、貯蓄と遺族から贈られた資金を捧げて作られたそう。国の登録有形文化財に指定されています。

◆アンドリュース記念館
住所：滋賀県近江八幡市為心町中31
電話：0748-32-7003

2. ウォーターハウス記念館

ヴォーリズとともにキリスト教の伝道活動をしていた米国人・ウォーターハウスの居住した住宅です。2023年度より、宿泊やガイドツアーなどの観光事業へ活用し、収益の一部を維持管理費用として積み立てる取り組みがはじまりました。また、イベントスペースとしての活用も検討中のようです。

◆ウォーターハウス記念館
住所：滋賀県近江八幡市池田町5丁目21
電話：0748-32-4654

外観のみ見学可能な建築物

1. 近江八幡教会牧師館

近江兄弟社の社員寮として建てられた建物。地塩寮（ちえんりょう）という名前は「あなたがたは地の塩である」という聖書の言葉に由来するそうです。現在は近江八幡教会が取得し、牧師館として会議や集会等に使用されています。

◆近江八幡教会牧師館
住所：滋賀県近江八幡市為心町上17
電話：0748-32-2480

2. 八幡商業高等学校本館

敷地内は関係者以外立ち入り禁止。

滋賀県立商業学校（現：八幡商業高校）を2年ほどで解雇されましたが、後に校舎を改築する際には設計を任され、現在も使われています。ちなみに八幡商業高校は、伊藤忠商事社長、ワコール創業者、日本生命保険社長、元内閣総理大臣、故・宇野宗佑氏などを輩出した伝統校です。

◆八幡商業高校
住所：滋賀県近江八幡市宇津呂町10

3. 池田町洋風住宅街

赤レンガの塀が100mほど続く住宅街。

吉田悦蔵邸。

ウォーターハウス記念館のほか、旧ミッションダブルハウス、吉田悦蔵邸、石橋邸（旧近江家政塾）の4棟が並ぶ洋風住宅街。ヴォーリズ夫妻も住んでいたことがあるそう。

◆池田町洋風住宅街
住所：滋賀県近江八幡市池田町5丁目
電話：0748-33-6061

ヴォーリズ建築でティータイムを楽しめる建築物

1. 十人十家 Cafe&Bar・Art Lab

八幡観光のメインエリアからは少し離れた徒歩20分程度の場所にあります。

一枚板の味のあるバーカウンター。夜はバーとして営業しています。

ティータイムのつもりがお腹が空いていたのでナスのトマトソース パスタを注文。モチモチの麺でおいしい！

建築デザイナーであるオーナーさんが、一年近くかけてリノベーションし、2021年にオープン。カフェだけでなく、建築デザイン事務所にもなっています。建物はかなり老朽化し、シロアリ被害も受けており、改修には想定以上の工期がかかったのだとか。改修作業には子どもを含むボランティアの方も参加したとのことで、作業中の様子も写真で拝見しました。参加した人にとっても、ヴォーリズ建築を身近に感じる、またとない機会になったのではないでしょうか。

◆十人十家 Cafe&Bar・Art Lab
住所：滋賀県近江八幡市土田町819-7
電話：080-9290-5278
営業時間：月火曜日 18:00～22:00、金土日祝日 12:00～22:00
定休日：水曜、木曜日
駐車場：有

2. クラブハリエ日牟禮（ひむれ）カフェ

バームクーヘンで有名なクラブハリエの工房とカフェを併設。さらに奥にはヴォーリズの手がけた旧・忠田邸を改修した特別室もあります。特別室でも飲食を楽しめますが（有料）、前日までの予約が必要です。

正面。

カフェの奥に見える2階建ての建物が特別室。

◆日牟禮カフェ
住所：滋賀県近江八幡市宮内町日牟禮ヴィレッジ内
電話：0748-33-9995（予約専用）
営業時間：10:00 ～ 17:00（L.O. 16:30）
予約：要予約

建築めぐりがヴォーリズの知られざる偉業を知るきっかけに

日米関係が悪化してきた太平洋戦争勃発直前、日本人として永住を決意したヴォーリズは日本に帰化。終戦時、昭和天皇の処遇に関して、連合国軍総司令官ダグラス・マッカーサーと近衛文麿元首相との会談実現のために尽力したといわれています。その後、昭和天皇が戦犯裁判を免れたことは周知の事実。彼は戦後日本の復興に少なからぬ影響を及ぼしたのかもしれません。今回の建築めぐりで、建築家・実業家の枠を超えた、ヴォーリズの偉業や人物像に触れ、想いを馳せるきっかけになりました。
近江八幡には他にも、織田信長の安土城跡、時代劇のロケ地としても知られる八幡堀などの歴史スポットや、「ラ コリーナ近江八幡」のようなおいしい人気スポットが点在しています。また、近江八幡から車で40分ほどの豊郷町に、ヴォーリズ建築の1つ、豊郷小学校旧校舎群があります。大規模改修工事が2024年3月に終わり、美しくなった校舎の内外を見学することができます。今回の改修はオリジナルの復元がテーマで、より元の建物の再現度があがっているそうで注目です。「ヴォーリズ建築特別公開 2024春」と併せて、GWのお出かけ候補にいかがでしょうか。


◆ヴォーリズ建築特別公開 2024春
公開プラン①アンドリュース記念館、ヴォーリズ記念館
場所：近江八幡市アンドリュース記念館（近江八幡市為心町中31）、ヴォーリズ記念館（近江八幡市慈恩寺町元11）
期間：2024年4月26日（金）、27日（土）、28日（日）、29日（月・祝）、30日（火）、 2024年5月1日（水）、2日（木）、3日（金）、4日（土）、5日（日）、6日（月・祝）
時間：10:00～16:00
料金：1館 400円、2館 700円 ※高校生以下無料

公開プラン②吉田悦蔵邸、ウォーターハウス記念館
場所：吉田悦蔵邸（近江八幡市池田町5丁目21-3）、ウォーターハウス記念館（近江八幡市池田町5丁目21）
期間：4月28日（日）、29日（月・祝）、5月4日（土）、5日（日）
時間：13:30～14:30
定員：各14名
料金：2,000円
※事前申し込みが必要です。問合せ先：0748-32-7003（近江八幡観光物産協会）
※上記のほかに特別ガイドツアーもあります。
※各プラン、ツアーの詳細は「滋賀・びわ湖観光情報」でご確認ください。