沖縄のソウルフード「ブルーシール」って結局なに!? 県民に愛される理由を聞いてみた
沖縄を訪れたことがなくても、アイスブランド「ブルーシール」の名前を聞いたことがありませんか? 暑い沖縄でアイスクリームが好まれることはわかりますが、県内だけでも19店舗(!)を展開するほど県民に支持されるスイーツは、全国を見渡してもそうそうありません。ブルーシールアイスがなぜこんなに深く県民の生活に根付いているのか、そして一番おいしいフレーバーはなんなのか(個人的な興味です)……。ブルーシールの広報・松田さんにお話を伺いました。
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一度は別業種に就職するも、ブルーシール愛が高じて入社。先輩たちのブルーシール愛の
深さに感銘を受け、継承しようと日々奮闘中。プライベートでは2児の母。結婚を機に沖
縄っぽくない名字に変わったものの、旧姓に思い入れが残る。好きなフレーバーは販売終
了した「レインボーシャーベット」でひそかに復活を狙っている。
――インタビューの前に! ここ(パレットくもじ店)に来るまで、ブルーシールのロゴ T シャツを着ていらっしゃる方とかなりすれ違いました。すごいですね!
ありがとうございます。オリオンビールさんにはとても及びませんが、皆さんに愛されて
いてうれしい限りです。県民にとってはあまりに身近すぎるので、大人よりもお子さんが
着てくれている印象です。
――店内にもグッズが多いですね。お土産に買われる方も多いのでは?
もともとは自社生産・自店販売のみだったのですが、だんだんとお土産店でも販売されるようになりました。いろんな方に知っていただく機会が増えて良かったです。
“アメリカ生まれ”のブルーシールが沖縄で育った理由
――それほどまでにブルーシールさんが愛されている理由に迫りたいと思うのですが、ホームページに「アメリカ生まれ、沖縄育ち」とありました。本社はアメリカですか?
元々はアメリカに本社があったフォーモスト社が、戦後、沖縄米軍基地内で暮らす人々にとって欠かせない乳製品を作るための工場を設立したのが始まりです。牛乳やチーズ、バターなども作っていましたが、やがてアイスが主軸となっていきます。基地内での契約満了に伴い、拠点を浦添市へ。当時、沖縄県の人口が約100万人だったため「100万人の乳製品」をスローガンに掲げていました。今や多くの沖縄県民にとってブルーシールは生まれたときから当たり前のようにあるアイス屋さん。わたしも幼いときから家族ドライブの際には特に、浦添市内にある牧港本店に必ず立ち寄っていましたね。
――小さいころからの思い出の味なんですね!
いろんな種類があったので眺めるだけでも楽しいんです。ちなみに現在は定番のものを約20種類、ほか年4回登場する季節限定を用意しています。店頭に出すラインナップは年に1度くらいのペースで見直していますが、アイスのベースは創業時から受け継いでいる100種類以上のレシピです。
人気の沖縄フレーバーの一方で本命は“ソフトクリーム”!?
――沖縄ならではのメニューもありますよね!
2000年に開催された九州・沖縄サミット首脳会合をきっかけに世界中から沖縄県が注目されたことで、「沖縄県内にある企業だからこそ、ほかでは味わえない沖縄県産の素材を使ったアイスを作ろう」となったと聞いています。
――どのようにメニュー開発するんですか?
まずはフレーバーになりうる「県産の素材」を探しつつ、トレンドの味を参考にしています。今はどんなものが好まれていて、それをどうやったらブルーシールらしいアイスとして表現できるかを考えて、新しいフレーバーが決まります。そこに、フォーモスト社によって作られたアイスクリームのベース(土台)に組み合わせることで新たなメニューが誕生します。かつては「海ぶどう」や「もずく」なんてメニューも開発されたようですが、おいしいことが一番の優先事項なので、商品化には至らなかったようです。
――試行錯誤を重ねていますね! 一番の人気のメニューを教えてください。
県内の方にも県外の方にも、ダントツで「塩ちんすこう」が人気です。県内の方にも「塩ちんすこう」が好まれていることは、実は私たち社員にとって意外(笑)だったんですが、ちゃんと沖縄の銘菓が支持されているんだなとしみじみと感じました。ほかには、王道ですが「サンフランシスコ ミントチョコ」は人気トップ3に常に入ってきますね。また沖縄県民はチョコレートが好きな傾向があって、チョコレート系のフレーバーも人気です。
――これは食べてほしい!というものはありますか?
「バニラソフト」でしょうか。というのも、県内に住むご年配の方にとって、ブルーシールといえば「ソフトクリーム」と認識されているほど、昔からあるメニューなんです。ブルーシールのアイスは植物油脂を使っているので、コクがありつつもサッパリとした味わいで、それが一番感じられるのがバニラソフトかなと思っています。そのソフトクリームのベースを使ったシェイクが今年リニューアルしたので、そちらもぜひ味わってほしいですね。
――アイスやソフトクリーム以外のメニューも多いですよね。
アイスに何かをプラスすることでよりおいしく味わえるようになれば、とメニューを考えています。例えば、2023年6月に一新したクレープは、食感にこだわって生地を見直し、焼き立てでご提供しています。それも含めてすべて、バニラアイスに合うように開発しています。
大事にしたいのは「アメリカ生まれ、沖縄育ちのアイスブランド」であること
――商品づくりだけでなく、「hug3do(ハグサンド)by BLUE SEAL」といった新業態シ
ョップがオープンするなど、常にチャレンジされています。
実は、hug3do by BLUE SEALのオープンについては、社内でかなり議論を重ねました。ブルーシールのアイスを使っていても、アイスを挟むクッキーはオリジナルで開発していますし、内装なども従来の店舗と全く異なるデザインのためです。ただ、ブルーシールを食べ慣れた県内の方は気づいてくださるんですよね。「あ、これブルーシールのアイスだ」って。見た目が違っても味が浸透しているんだ、と嬉しく感じました。
――店舗ごとにも外観などのデザインが違いますよね?
もともとアメリカンダイナーをイメージした店づくりをしていたのですが、店舗が増えるにつれ、商業施設内の店舗はその施設のデザインに合わせるなど、各店舗でばらつきがあります。行く先々で違うデザインが見られるのもおもしろいと思ってもらう反面、ブランドの形が明確になっていないのはもったいないと社内でも意見があがり、今年の夏のブルーシール牧港本店リニューアルを皮切りに、今後は統一感を出していく予定です。「アメリカ生まれ、沖縄育ちのアイスブランド」なので、従来のアメリカンダイナーらしい要素は残しつつ、沖縄らしさを感じられるあしらいなどを取り入れていこうと考えています。
県民に寄り添うアイスブランドであるために
――創業76年を迎え、家族三世代でブルーシールを楽しんでくださるご家族も多くなりました。
おじいちゃん・おばあちゃんが昔デートに来ていた場所に、孫と一緒に来ている、という光景はとても微笑ましく、誇らしいものです。また、ご家族だけでなく、50代くらいの男性方が一人でふらっと食べにくることも。他県の方にこの話をすると「そんな光景、見たことない!」と驚かれて初めて、「こんなに皆さんの暮らしのそばに置いてもらえることは特別なんだ」と気付かされました。
――創業から変わらないものはありますか。
企業理念に掲げているのですが、「アイスがもたらす、笑顔のために」というのは変わっていません。アイスを通して皆さんに笑顔になってもらえるよう心がけています。たとえば、現在も配送から販売までを手掛けるセールスドライバーを自社で抱え、町中にある小さなお店にもフォローが行き届くようにしています。また製造・倉庫管理もすべて自社で行っているんです。そのため、去年の大型台風で本島からの物流が1週間ほど滞った際も県民のみなさまにアイスをお届けすることができました。
――どんなときでも、アイスが食べられるようになっているんですね!
でも、少しずつ県民のなかでも「食べたことない」という人が増えてきているんです。なので、もっとお客様に歩み寄っていかなければな、と痛感しています。そこで、2008年2月の60周年を機に「ジュニア育成」活動を始めました。なかでも「絵本読み語り活動」では、ブルーシールのスタッフが県内の保育園・幼稚園など子どもたちの施設へ出向いてオリジナル大型絵本の読み語りをしています。最後にブルーシールアイスをプレゼントするのですが、子どもたちがとても喜んでいるのを見てスタッフも元気をもらえるんです。さらに、そこで出会った子どもたちが後日お店に来てくれたときに、スタッフのことを覚えていたりして交流が生まれることも。こういったつながりが増えていくのがうれしいな、と感じています。
『月刊旅色5月号』では沖縄・那覇を大特集
近年はお客さんであるわたし達もお店側もSNS映えするスイーツを求める傾向にありますが、ブルーシールはあくまでも「沖縄県民のために」をモットーに商品開発・店舗経営を行っていました。それゆえ沖縄県民にとって“当たり前”の存在になれたのだなと感じ、沖縄県民への思いのアツさに圧倒された取材でした。