放送中の朝ドラの主人公 牧野富太郎（1862-1957） 天王寺墓地

江戸時代（文久2年）生まれの人物では珍しく英語表記が並び、生没年も西暦

“日本の植物学の父”と讃えられる植物分類学者。NHKの朝ドラ『らんまん』主人公のモデルとして今年大きな話題になっています。高知に生まれ、小学校中退後に独学で植物学を研究。日本全国の植物を精力的に採集して歩き、発見した新種に日本人として初めて「ヤマトグサ」と学名をつけました。78歳で研究の集大成となる『牧野日本植物図鑑』を出版、同書は今も書店に並んでいます。生涯に1,500種もの新種を発見、命名し、作成した標本は実に40万点！
富太郎の墓の左隣には富太郎を陰で支えた寿衛（すえ）夫人が眠り、墓石に妻への感謝を込めた歌が刻まれています。谷中には他にも谷中霊園などメジャーな墓地がありますが、なかでも天王寺墓地は最も日暮里駅から近く、富太郎のお墓まで徒歩2分ほど。案内の石標「牧野富太郎墓所入口」も設置され、墓マイラー初心者にうってつけの偉人墓です。ぜひ牧野博士で墓マイラーにデビューしてください。


◆護国山尊重院　天王寺
住所：東京都台東区谷中7-14-8
電話：03-3821-4474

来年から一万円札の顔に 渋沢栄一（1840-1931） 谷中霊園

栄一の墓は文字が見えにくいが、雅号の「青淵」（せいえん）を冠し「青淵渋沢栄一墓」と刻まれている

大河ドラマ『青天を衝け』の主人公として描かれ、2024年からは新一万円札の顔になる実業家です。農家出身ですが縁あって徳川慶喜に仕え、欧州視察を経て維新後の日本の近代化に尽力しました。「実業家は利益を独占するのではなく、国全体を豊かにすることを心がけ、富は全体で共有するものとして社会に還元せよ」と説き、日本初の株式会社「第一国立銀行」（現みずほ銀行）のほか日本鉄道会社（ＪＲ東日本）、東京電力、東京ガス、日本郵船、キリンビール、日経新聞など企業500社の設立に関わります。また、支援した医療、福祉、学校関連の団体は600にのぼり、第1次世界大戦後は反戦平和を訴えノーベル平和賞候補に2度選出されました。
桜の名所としても知られる谷中霊園にある墓域は、かつて高い石柵があり門も施錠されていましたが、2014年から誰でも自由に墓参りできるように。栄一の墓は約100m先の慶喜公の墓所を向いており、左から兼子（後妻）、栄一、敬三（孫）、千代（先妻）と並んでいます。区画は「乙11号1側」。


◆谷中霊園
住所：台東区谷中7-5-24
電話：谷中霊園管理所：03-3821-4456（8:30～17:15）

生誕120年を迎える童謡作詞家 サトウハチロー（1903-1973） 雑司ヶ谷霊園

墓に刻まれた言葉から、個人的に最も感銘を受けた墓碑

童謡『ちいさい秋みつけた』『うれしいひなまつり』、歌謡曲『リンゴの唄』『長崎の鐘』など、生涯に約２万もの詩を書いた童謡作詞家・作家です。今年で生誕120年、没後50年を数えます。別れの多い人生で、母は若くして病死、3人の弟たちのうち、節（たかし）が広島滞在中に原爆で被爆死、弥（わたる）はフィリピンで戦死、久（ひさし）は19歳で恋人と心中しています。姉はとても優しく結婚も決まっていましたが、18歳で病死しており『うれしいひなまつり』の２番で「お嫁にいらした姉様によく似た官女の白い顔」と、詩の中で姉を結婚させてあげています。心臓発作により70歳で永眠しました。
墓に刻まれた言葉は「ふたりでみると すべてのものは 美しくみえる」。これは男女でなくとも、友人、親子、師弟、あらゆる人間に当てはまります。人間の分断が指摘される今の社会で、他人と分かち合い一緒に触れるものは、どんなものでも美しく見えると教えてくれるメッセージは尊いです。区画は「1種5号25側25番」。


◆雑司ヶ谷霊園
住所：豊島区南池袋4-25-1
電話：雑司ケ谷霊園管理事務所：03-3971-6868（8:30～17:15） ※駐車場は17:00まで

『シン・仮面ライダー』が大ヒット 石ノ森章太郎（1938-1998） 祥雲寺

墓石の色は美しいレッド・ブラウン

今春、庵野秀明監督が手がけた『シン・仮面ライダー』が興行収入20億円を超える大ヒットを記録しました。原作者は森羅万象を描く“萬画家”と称した石ノ森章太郎。18歳で東北から上京し、手塚治虫、藤子不二雄、赤塚不二夫らが暮らすトキワ荘で最年少の住人に。20代半ばに原稿料を前借して世界旅行に出かけて見聞を広め、国籍や人種の違いを超えた9人が平和の為に戦う『サイボーグ009』を生み出します。キカイダー、ゴレンジャーなどのSFヒーローものから、時代劇『佐武と市捕物控』まで、生涯に全500巻770作品を描きあげ、ギネスブックに「１人の著者によって出版された最多コミック記録」として認定されました。
墓所は池袋から一駅、要町駅に近い祥雲寺にあり、本堂裏手の壁際に眠っています。その傍らにはサイボーグ009や仮面ライダーなど24作品のキャラクターのレリーフが寄り添い、賑やかです。


◆祥雲寺
住所：豊島区池袋3-1-6
電話：03-3984-2408

生誕200年、革新的な考えを持った幕臣 勝海舟（1823-1899） 洗足池公園

墓石の文字は徳川慶喜の筆

今年は勝海舟の生誕200年。下級幕臣の家に生まれ、貧しくて買えない蘭和辞典を医者から借り、1年かけて全頁を筆写しました。外国の兵学書は、購入者に掛け合って６kmの道を半年間通い詰めて写しきっています。やがて幕府に才覚を認められ咸臨丸（かんりんまる）の艦長となり、日本人初の太平洋横断を成功。当時の日本人にとって“国”とは“自分の藩”でしたが、海舟は藩の枠を越えた「日本の海軍」を作りあげました。戊辰戦争では江戸城無血開城によって市民150万人を焦土の危機から救います。「日本、朝鮮、中国の三国が同盟して技術を発展させていくべきだし、そうしなければ西洋人に踏みつけられる」との信念を持っていました。
墓は別邸があった洗足池公園の池のほとり。市民が散歩をする公園の片隅というのが、権威主義者でなかった海舟らしいです。墓のすぐ側には、敵であり友だった西郷の魂を慰霊するために自費で建立した祠があります。近年、墓所の南隣に「勝海舟記念館」が開館しましたので併せて巡ってみては。


◆洗足池公園
住所：南千束2-14-5
電話：地域基盤整備第三課：03-3726-4320

大河ドラマで波乱万丈の人生が描かれる 徳川家康（1543-1616） 日光東照宮

３代将軍・家光の霊廟もあり、歴史ファンはぜひ訪れたい徳川の聖地

生誕480年の今年、大河ドラマ『どうする家康』の主人公として生涯が描かれている神君（しんくん）・家康公。祖父も父も家臣の裏切りで暗殺され、自身は幼い頃から人質として織田や今川に預けられます。信長が桶狭間で今川を倒し、家康が故郷の岡崎に戻れたのは17歳。そこから39歳の本能寺の変まで信長の影響下にありました。55歳のときに秀吉が亡くなり、60歳でついに天下人に。大坂の陣で豊臣勢を滅ぼしたとき、家康は既に72歳。その翌年、天下太平となり安心して旅立ちました。穏やかな心持ちが感じ取れる2首の辞世を残しています。応仁の乱から大坂の陣まで、150年も続いた戦乱の時代を終わらせた家康。晩年は、これまでに命を奪った者に対する供養の為か、部屋にこもって３万回もお経を書き連ねており、その巻き物が現存しています。
遺言により、墓所は日光東照宮の山の奥、石段を登りつめた先に造営。日光は江戸の“真北”に位置します。北極星の周囲を星々が周ることから、古代中国では不動の北極星を、万物を支配する天帝と見なしていました。家康は亡くなった後も自身が江戸の守護神となり、関東の北から護ることを願ったのでしょう。


◆日光東照宮
住所：栃木県日光市山内2301
電話：日光東照宮社務所：0288-54-0560
拝観時間：4月1日～10月31日（09:00～17：00）、11月1日～3月31日（09:00～16:00）※各期間とも受付は閉門30分前に終了
拝観料：大人・高校生：1,300円、小・中学生：450円

【番外編】生誕100年で盛り上がる 忠犬ハチ公（1923-1935） 青山霊園

墓前はハチへの贈り物でいっぱい

今年生誕100年となるハチ公。1924年、東大農学部教授の上野英三郎博士は、生後50日の秋田犬の仔犬を家族に迎え、ハチと名づけ可愛がります。翌年、上野博士が脳溢血により急逝。その後、飼い主が次々と変わり、最終的に上野宅に出入りしていた植木職人・小林菊三郎が預かることに。博士の他界から２年が経った頃から、ハチは代々木の小林家から渋谷駅に通うようになり、帰らぬ主人を10年近く駅前で待ち続けました。ハチは有名になるまで子どもにいじめられたり、屋台の店主から邪険に扱われたりしたそう。そんなハチを哀れに思った人物が新聞に寄稿した「いとしや老犬物語」が話題となり人々の態度は激変、餌を持ってハチを囲むようになりました。1934年、渋谷駅前にハチ公像が完成し、除幕式にハチも参列します。その翌年、ハチは癌により11歳で他界しました。
ハチの身体は国立科学館に寄贈されてはく製になり、骨は青山霊園の上野博士の墓前に埋葬されました。区画は「１種ロ６号12側」で、犬養毅や浜口雄幸など元総理や政界の大物が多数眠る青山霊園の特別区域と道を挟んで面しているので見つけやすいです。


◆青山霊園
住所：港区南青山2-32-2
電話：青山霊園管理所：03-3401-3652（8:30～17:15）

おわりに

谷中霊園や雑司ヶ谷霊園、青山霊園は各界の著名人が多く眠り、交通アクセスも良いです。お盆をきっかけに、今年話題になった故人をぜひ訪ねてみてください。

◆カジポン・マルコ・残月（文芸研究家/墓マイラー）
1967年生まれ。大阪府出身。文芸研究家にして“墓マイラー”の名付け親。芸術家や作家をはじめ人生に感動を与えてくれた恩人に「ありがとう」と感謝の言葉を伝えるため、10代の終わりから 36年にわたって墓巡礼を続け、世界101カ国、2,500人以上に墓参。「民族や文化が 違っても、人間は相違点より共通点が“はるかに”多い」をモットーに、メディアで墓巡礼の素晴らしさを語り続けている。レギュラーに『ラジオ深夜便 世界偉人伝』（NHK）、『お墓から見たニッポン』（テレビ大阪）、著作に『世界音楽家巡礼記』（音楽之友社）、『東京・鎌倉有名人お墓お散歩ブック』（大和書房）、共著に『地球の歩き方・世界のすごい墓』『地球の歩き方・ジョジョの奇妙な冒険』（Gakken）など。偉人の墓と生涯を紹介したHP『文芸ジャンキー・パラダイス』は累計8,000万件アクセスを超える。