見方を変えると当たり前の光景がまちの資源に変わる!? “まちの革命家”に聞いた北海道美唄市の魅力
『月刊旅色』2023年7月号で、北海道の美唄(びばい)市を特集しました。そのなかで、美唄市の観光振興に奔走している人がいると聞いて伺ったのが、一般社団法人ステイびばいの工藤賢さん。北海道美唄市で生まれ育ち、まちのすばらしさを魅せる方法を模索し続ける工藤さんから、観光資源の探し方を学びました。「私の地元(青森県)ってなにもないじゃん」と思っていた高校時代の自分にも教えたい、まちの魅力を探す方法とは?
目次
道外で美唄が知られていないことがショックだった
――「ステイびばい」はどんな組織ですか?
札幌から車で約1時間、観光地の旭川や富良野・美瑛にも近くなる利点を生かして、美唄に滞在してもらうことを促進しています。旅行に来た際の拠点となる場所として滞在してもらい、滞在中の楽しみを作り出します。居心地のいい美唄にまた来たいなと思ってもらえるファンを増やす入口を担う役割を果たしたいと思っています。
――なるほど。“滞在してもらう=ステイする”から「ステイびばい」という名称なのですね。立ち上げのきっかけは何だったのですか?
道外にでたときに、あまりにも美唄のことを知らない人が多いことがショックでした。例えば美唄の名産品にハスカップがありますが、東京ではハスカップ自体を知らない人もいました。そんな状況では、近隣の札幌や旭川に旅行に行く人はいても、美唄はただ通り過ぎられてしまうだけ。そんな現状に気づいたときに、「何とかしなければ」と思いました。
当時は美唄市役所で働くいち職員でしたが、北海道大学で「デスティネーション・マネージャー」育成プログラムがあると知り、学びたいと思いました。「デスティネーション」とは目的地のことで、「デスティネーション・マネージャー」は観光まちづくりのリーダーを担う人のこと。40数名ほど受講希望者がいるなか、履修できるのは毎年5名だけという狭き門でしたが、一期生として無事に入学。観光地域マネジメントやDMO運営のことなどを学びました。その後も「もっと何か美唄に役立つことを身につけたい!」と思い、総合旅行業取扱管理者の国家資格を取るなど、3年間修行に出たのです。
ようやく昨年の3月に美唄市で協議会を立ち上げ、11月にはDMOの役割を担う「一般社団法人ステイびばい」を立ち上げました。「行政がやる」ではなく、美唄にあるものは美唄の資産として地域が一体となって取り組む必要があると思っています。
美唄はあくまで旅の拠点でいい
――ステイびばいは、具体的にどんなことをされているのですか?
毎年5月頃に開催している桜祭り「びばいさくら」には、地元だけでなく、最近では道内外、海外からも多くの人が来てくれます。しかし、駐車場がたくさんあるわけではないので、渋滞が起きてしまうことが問題でした。せっかく来てくれたのに嫌な思い出になってしまうこともあるのです。そこで、今年は美唄市までは電車で来てもらうことを促進し、多くの方が来ても混雑しないような受け入れ態勢を整えようと、美唄駅から会場の近くの温泉施設「ゆ~りん館」までのタクシー往復券を販売しました。今後も宮島沼など、駅から離れているスポットへの交通手段を工夫できないか検討中です。最近はモニタリングツアーも行っていて、美唄にステイしてもらった感想や意見をもらうなど、関係人口やファンを増やす取り組みを考えています。
――美唄のことを考え続ける工藤さんが思う、美唄市の魅力は何ですか?
今までは不特定多数の人をとにかく呼ばなければと思っていました。ただ、観光を勉強するため美唄から離れた際、美唄はそういう場所ではないなと気づきました。美唄はゆったりと広い空間の中で、自然の豊かさを感じながらホッと癒される場所。都心の札幌から車で約1時間、ちょっと離れるだけで自然豊かで落ち着く“拠点”。新千歳空港からも約1時間20分で行くことができ、旭川や富良野・美瑛に観光に行く際の“拠点”として最適だなと思いました。美唄はいい“拠点”です。
――これからどんなことをしていきたいですか?
今後は滞在中の楽しみも作っていきたいと考えています。例えば、空き家を活用した古民家カフェや、キッチンを設置したコンドミニアムの施設で名産のアスパラガスを新鮮なうちに食べてもらうようにしたいと思っています。
あとは、炭鉱メモリアル森林公園やかつて石炭を運ぶのに使っていた「旧東明駅」、美唄市郷土史料館で炭鉱の歴史について学んでもらい、安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄で、石炭を使ったストーブを体験してもらうプランなど。石炭採掘が日本の経済を支えていたことを知ってもらい、年配の方「炭都・美唄」のことを知っていると思うので、美唄市の歴史的な建造物などを懐かしみながら楽しんでもらえると思います。
ほかにも、名産品であるアスパラガスの収穫体験やハスカップでジャムをつくる体験など季節ごとにできる体験がいくつもあります。また最近、美唄に野球の独立リーグができました。どこかの野球チームが旅行に来ながら交流試合をして、試合のあとは名産品を使ったBBQを食べてもらえるようなプランや、空調設備に雪を使ったSDGsな取り組みを見ながら学べる教育旅行なども検討していこうと思っています。
さまざまな体験を楽しんでもらい、何回も来てもらいたいです。そして子育て世代になったときに2年間くらい美唄市にステイしてみよう、と思ってもらえるくらい好きになってもらうのが夢ですね。そうしたらいつか美唄に住んでくれることも。まずは好きになってもらう入り口を作っていきます。
当たり前のなかにある資源でつくるまちの楽しみ方
――最後に、工藤さんから同じようにまちを盛り上げたいと考える人へアドバイスがあれば教えてください。
見方を変えるとどんどんまちの魅力が見えてくるんです。この前も市外の方に「美唄から見えるピンネシリ※1が一番きれい」と言われて、ハッとしました。ピンネシリは私たちにとっては校歌の歌詞に入っているくらい見慣れた風景ですが、確かに冬になると浮き出ているように見えるんです。それも美唄が一番美しく見えると知り、これも観光資源なのかと気づきました。一度市外に住んでみて「やっぱり、いいところだ」と確信しているので、もっと多くの人に美唄の魅力を知ってもらいたいです。
※1 美唄市の北部に位置する樺戸連山(かばとれんざん)の一つ
終わりに
工藤さんから、次々に出てくるアイディアや意見を聞きながら美唄への熱い思いを感じました。これからの取り組みにも注目していきたいです。『月刊旅色』7月号では、そんな美唄市でのゆったりした時間の過ごし方を、貫地谷しほりさんがナビゲートしています。ぜひご覧ください。