【川瀬良子の農業旅】料理人から花農家⁉ 希少な植物を育てる「山本サルサ園芸」へ
こんにちは! 農業旅を連載している旅色アンバサダーの川瀬良子です。今回は、栃木県小山(おやま)市で珍しい植物を栽培している「山本サルサ園芸」へ。料理人から転身し、農家歴6年目を迎えた山本健太さんにお話を聞いてきました。
目次
山本さんとの出会い
昨年9月の農縁プロジェクトで山本さんに出会いました。その時の様子は前々回の連載記事からご覧ください。
山本さんは、観賞用のユーカリやアマランサス、バラ、アーティチョークといったあまり聞き馴染みのない珍しい植物を栽培しています。野菜など食べるものではない、見て楽しむ観葉植物を作っている農園にはあまり行ったことが無かったので、実際に見てみたい! と出会った翌月に畑へ行かせてもらいました。
山本さんの人生を動かしたバラ農園へ
山本さんの暮らす小山市は、栃木県の南部に位置し、首都圏から1時間ほどでアクセスできる利便性に富んだまち。徳川家康ゆかりの開運の地として知られ、農業も盛んです。そんなまちで山本さんはいくつか畑を持っていて、小山駅から車で20分ほどのところにバラ農園「モンデローズ」があります。こちらは、山本さんを料理の世界から農業へと導いた數度(すうど)祐介さんと運営しています。数十種類のバラを育てていて、初めて見る栽培の様子と花の美しさに感動しました。(ハウス内は企業秘密がいっぱいということで非公開です。)
◆モンデローズ
住所:栃木県小山市田間809
初めての植物がたくさん! 山本サルサ園芸ツアーへ
続いて案内していただいたのが、アーティチョークの畑。ところで、アーティチョークはご存知ですか? あざみを大きくしたような紫色の花を咲かせるのですが、咲く前のつぼみ部分を食べるのが特徴です。日本ではまだ珍しいですが、イタリアなどの地中海地域では身近な食材で、普段の料理に取り入れられているそう。新鮮なものはそのまま食べられますが、一般的には加熱調理をしていただく食材。一度お店で食べたことがあるのですが、栗やゆり根のようにホクホクした食感で、おいしかった印象があります。
アーティチョークの旬は5~7月初旬。この日は旬から数か月経っていたので、なっている姿は見られなかったのですが、枯れた状態のものでもとても大きく、イガイガとした独特な姿。見慣れない光景に、どこか違う国にワープしたような不思議な感覚になりました。
隣には、カラフルなジニアが咲いています。ジニアはいろんな種類があるので色づきや形が違ってかわいい!
お花屋さんに売っている切り花の状態は見たことがあるのですが、畑で見ると葉の緑、空の青とのコントラストでさらに可憐に思えました。愛でる山本さんの姿も素敵です(笑)。
この日は強風だったのですが、風に負けまいと揺れる姿が。かっこよく存在感がある赤紫色のお花は「アマランサス」です。スーパーフードとして名前を知っている方もいるかもしれません。
大きな猫じゃらしのようなお花は「ミレット・パープルマジェスティ」。名前は初めて聞くかもしれませんが、お花屋さんや飲食店などに飾られている植物として目にする機会があるかと思います。
車で少し移動したところにある大きな敷地で栽培しているのが「ユーカリ」。アロマオイルに使われたり、コアラが食べたりというイメージしかありませんでしたが、葉の色が濃くて観賞植物としてもすてき! (ちなみに、数百種以上あるユーカリの中でコアラが好んで食べるのは、12種類だけだそうです。)土とユーカリの木と、空しかない空間も、異国感が漂っていました。
ほかではなかなか見られない植物ばかりの「山本サルサ園芸ツアー」。発見がたくさんあって楽しかった~! ※一般向けのツアーは行っておりません。
◆山本サルサ園芸
住所:栃木県小山市田間809
今までとこれからをインタビュー
熊本県出身の山本さんは、ファッションの専門学校に通うために上京。お寿司屋でのアルバイトで料理がとても楽しく感じ、のめり込んでいったそうです。そこから好奇心が高まり20代は懐石料理、メキシカン、イタリアン、フレンチ、ケータリング専門業者など、興味のあることをとことん追求。28歳のころには、數度さんがオーナーを務める都内のバーで働いていました。數度さんがある日、バラ農家を始めたと聞き、「バラを作るってどうやるんだろ」と、興味を持ち畑に通うように。そこでアーティチョークと出会い、その存在は知っていたものの、畑になっているものを収穫し、実際に食べた山本さんは「こんなにおいしいものも作っているなんてすごい! 」と感動しました。「自分でアーティチョークや他の野菜を作ってレストランもやったら最高に楽しいぞ」と農家への転身を夢見るようになったそう。「アーティチョークと出会えてなかったら農業はやってないかもしれないですね~。農業はまったく知らなかったけど、あんまり考えずに飛び込んだのもよかったかもしれない」という山本さんにインタビューをしました。
ーー山本さんはご自身の栽培している植物のことを、メインではない“おかず系植物”と表現しています。どうしておかず系にチャレンジしようと思ったのでしょうか?
アーティチョークとの出会いもありますが、最初の設備投資が抑えられることがよかったです。栽培にかかる燃料や肥料代などコストが低いのに、出荷先では意外と高値で買ってもらえることも魅力でした。とはいえ、夏の暑さに向いてないものがあったり、思いのほか虫の被害に悩まされたり失敗の連続。去年は、バラの運営と協力関係を結びながら、自分だけの栽培で生計が成り立ったそうです。毎年条件が違う自然と向き合う農業の厳しさが伝わってきます。
ーー楽しさはどんな時に感じますか?
シーズン変わって初めに出てきた花を見られるのはすごく楽しいです。つぼみ出てきた! そろそろ咲くんじゃないかな~。くるぞ、くるぞ! みたいな(笑)出荷が始まる、という緊張感も好きなんです。マラソン大会のスタート時間が迫ってくるような緊張感に似てるんですよ。よーいドン!のあの緊張感。出荷できる喜びを感じます。
ーーそれを楽しめちゃうところがすごいですよね。山本さんは、きっと農家にすごく向いているのかもしれないですね。今まで全く農業のご経験はなかったんですよね?
農業の経験はなかったんですけど、熊本の実家におじいちゃんとおばあちゃんがやっている大きめの家庭菜園の畑があって。上京してからは実家に帰ると最初に畑に行って野菜の様子を見るようになりました。畑で育っている野菜を見るとなぜかすごく安心するんですよね。
ーールーツの中に、土、畑、野菜があったんですね。
野菜がだんだん大きくなっていく姿を毎日見ていて“そこにある生命力”みたいなもの食卓で食べる、っていう流れを子どもながらに感じていました。大人になってからは、畑はパワースポットのように感じます。農家が向いていた、というより、畑に馴染みあったんだと思います。畑で一人で過ごすことも大好きで、音楽を聞きながらもできるし自由度も高い農業は、自分でスケジュールも組めるので、家族と過ごす時間も増えたそう。ものすごい広い遊び部屋を持った、みたいな感覚もあるかもしれないです。しかし、圧倒的に人づきあいが少なくなるので、書道教室を始めました(笑)。
ーーえー!? その二刀流も珍しい!
書道も昔から好きで、研修なども受けてから満を持して書道教室をスタートしました。子どもも大人も通ってくれていますよ。畑とは全く違う楽しさがあってバランスが取れて楽しいです。
アーティチョーク・ユーカリ・バラなど、年間合わせて数十種類を作っている山本さんは「年間を通して、僕が作った花だけで花束を春から秋まで作れるようにしたいですね」と、さらなる目標も教えてくれました。チャレンジしながら品種を増やして、それを直接お客様に売るカタチを作ったり、農園に来ていただいた方が摘んだ花で、花束を作るワークショップを開催するという夢もあるそう。
さいごに
興味が湧いたら追求して、チャレンジや緊張感をまるごと楽しむ山本さん。だからこそ、栽培している人が少ない希少な植物と向き合うことができるのかな、と感じました。お話を改めて聞いたのは2024年が明けてすぐのタイミング。私も山本さんのように、今年はチャレンジを楽しむ年にしよう、と心に決めました! 山本さんありがとうございました。