【倉方俊輔の建築旅】まちに息づく“神戸らしさ”を感じる「神戸モダン建築祭」が11月より開催!
普段は一般に立ち入れない建物やエリアを一斉に公開する“建築のお祭り”が、関西から広がっています。今年は大阪、京都に次いで、新たに神戸でも開催。神戸にある建築を通して、このまちの魅力に触れてみませんか。
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関西エリア各地で開催される建築祭
関西エリアの“建築のお祭り”は大阪で2014年に始まり、今年10回目を迎える「生きたミュージアムフェスティバル大阪」(略称:イケフェス大阪)が、そのきっかけでした。初めて見る部屋のデザインに驚いたり、イベントに参加したりして、まちが一斉に盛り上がります。「フェスティバル」の名の通り、建物の持ち主や関係者のご厚意で、それぞれに趣向を凝らした公開が実現。イケフェス大阪は10月28日(土)〜29日(日)に開催されるので、ぜひ足を運んでみてください。
京都では2022年に「京都モダン建築祭」がスタートしました。イケフェス大阪は原則無料ですが、こちらは完全に民間での立ち上げで、期間中のすべてに有効なパスポート制となっています。今回は、昨年より参加建物もエリアも倍増させ、期間も延長。11月2日(木)〜12日(日)に開催され、定員のある特別ツアーについては10月6日(金)午前10時まで抽選申し込みを受け付けています。
そして今年、大阪、京都に続いて、神戸でも開催。「神戸モダン建築祭」が11月24日(金)〜26日(日)に催されます。今回は公開建物の中から、3点を見ていきましょう。どれも大阪公立大学工学部建築学科の教授として、私が建築デザイン研究室の大学院生・学生たちと「生きた建築プロジェクト」として関わっています。「神戸らしさ」を現在の視線でアップデートしたいと考えています。
神戸らしい洋館が目を引く「北野メディウム邸」
「北野メディウム邸」は、神戸らしい洋館です。以前は旧スタデニック邸の名で知られ、外国人貿易商の私邸だったと言われています。今から130年ほど前の明治20年代に建設されました。神戸北野異人館街の中でも最古の部類に属するものです。木造の洋館で、下見板張りや縦長窓が特徴的です。
2022年1月、ここにカフェやコワーキングスペース、ハウススタジオがオープンしました。目にも美しいアフタヌーンティーも楽しめるカフェは、一躍人気に。時を経た木のぬくもりが、快適なコワーキングスペースを生み出しています。本物の文化財としての空間に、センスの良いアンティーク家具が組み合わされて、他にない撮影やイベントの空間になっています。
それまで非公開だった建築に新たな息吹を吹き込んだのは、株式会社ROUGH LABO代表取締役の山本宝さん。神戸市に生まれ、26歳で創業して、起業を目指す若者などのコワーキングスペースを大阪で成功させました。この洋館の佇まいに惚れ込み、持ち前の明るい熱意がオーナーに届いて、若さ溢れる現在の場所が生まれました。樹齢120年となる前庭のソテツも、大事に塗り重ねられた洋館の塗装も、喜んでいるように思えます。神戸は100年以上前から、晴れやかな挑戦を積み重ねて築かれてきたまちですから。
「神戸モダン建築祭」の期間中には、カフェ以外のスペースに特別に入れるようにしていただき、特徴的なベランダの明るさが実感できます。神戸の洋館を若々しい目で捉えるイベントも当日、かけ合わせる予定です。当館を「メディウム」(媒体)と名づけた山本さんの気持ちを拡げていきたいのです。
◆北野メディウム邸
住所:兵庫県神戸市中央区山本通2- 9-19旧スタデニック邸
電話番号:078-855-3900
公式HP:https://mediumtei.com/
開校100周年を迎える学校も参加「神戸山手女子中学校高等学校」
来年で創立100周年を迎える「神戸山手女子中学校高等学校」の校舎も、特別に開けていただくことができました。神戸にゆかりの深い学校です。1924年に創立した山手学習院を前身として、多くの卒業生を送り出してきました。
1936年に完成した本館が今も現役。のちに完成した最新鋭の施設と共に、現在も生かされているのはなぜか、その秘密とは? 校長先生や教員の方とお話しして、学校の広報部のメンバーを中心に建築ツアーを開催し、参加者に教えてもらう機会が実現しました。この学校では運動部はもちろん、データサイエンス部なども含む、さまざまな部活動が活発に行われています。そこには、まだ女子教育の場に乏しかった大正時代、そんな状況を変えようと神戸の人々が設立した学校の先駆的な伝統が息づいているようです。
本館は神戸の斜面に打ち勝つかのように、鉄筋コンクリート造で築かれています。その中に広々とした講堂があり、和室の作法室も抱えています。当時流行したアール・デコのデザインも丁寧に残されているのです。当時最先端の構造とデザインを備えた生きた遺産であることが、ご理解いただけるでしょう。自分で学び、考え、他者とコミュニケーションを取る。さまざまな意味を持つ建築は、現代的な教育にも有効です。
◆神戸山手女子中学校高等学校
住所:神戸市中央区諏訪山町6番1号
公式HP:https://www.kobeyamate.ed.jp/
安藤忠雄設計の建物が増えるきっかけとなる「ローズガーデン」
最後に知っていただきたいのは、現代に近い建築もまた、神戸の財産であること。安藤忠雄さんの設計で1977年に完成した「ローズガーデン」はその後、周辺に安藤忠雄さんが設計した商業施設が多く建てられるきっかけになりました。壁を巧みに駆使し、幾何学的な構成で迷宮のような効果を生み出しているのが安藤忠雄さんらしさです。
「神戸モダン建築祭」の会期中には、普段は見られない部屋が公開され、中庭では「北野ポップアップアートシアター」が開催されます。イベントの参加は日中無料で、特別なアートや出店をどなたでも楽しめます。「北野ポップアップアートシアター」の仕掛け人は、編集事務所「アンテナ」を経営する、編集者の安田洋平さん。神戸・北野に大きな可能性を感じて、東京から9年前に引っ越してきた安田さんが、周辺に新たな人のつながりをつくるべく、2021年から2回開催しました。
今回「神戸モダン建築祭」とのコラボレーションを承諾いただいたことで、一層の広がりが生まれることを期待しています。さらに、安藤忠雄さんの初期作品群に注目が集まるように、研究室で展示も行います。
◆ローズガーデン
住所:兵庫県神戸市中央区山本通2-8-15
おわりに
建築を生かし、楽しむことが、まちづくりにもつながる。従来の文化財公開とも異なる流れが、神戸でも始まりました。この秋、神戸モダン建築祭にご注目ください。
◆神戸モダン建築祭
会期:11月24日(金)〜26日(日)
チケット:オンライン決済2,000円、セブンイレブン店頭購入2,500円
昨年開催された「京都モダン建築祭」開催の様子はこちらから。