今イケてる自治体は?須崎市に革命を起こした元公務員・守時氏に聞く令和時代の地方創生
高知県須崎(すさき)市のご当地ゆるキャラ「しんじょう君」を知っていますか? 2013年に誕生以来、あれよあれよと人気キャラに成長し、3年後には「ゆるキャラグランプリ」で優勝。さらに、しんじょう君効果によって、須崎市のふるさと納税寄付額が8年間で200万円から26億円に爆増(!)と、 かわいい顔してすんごい影響力を持つキャラなんです。
この「しんじょう君」を仕掛けたのが、須崎市の元公務員・守時 健(もりとき たけし)さん。現在は公務員を辞めて起業し、しんじょう君のプロデュースを続けながら、高知だけでなく全国の自治体を盛り上げるためにバリバリ活動されています。
そんな守時さんに、2023年に10周年を迎えたしんじょう君の今後の野望や、ゆるキャラってまだイケてるの? 今イケてる自治体ってどこ? などなど、令和時代のゆるキャラ戦略や地方創生について、ゆる~く伺いました!
写真/酒井貴弘(アディクトケース)、旅色編集部
目次
高知県須崎市の市役所職員時代に、ゆるキャラ「しんじょう君」を誕生させ、'16年にゆるキャラグランプリ王者に輝く。その後、須崎市のふるさと納税をSNS&ゆるキャラ戦略で1000倍に増やし、地域活性に貢献。現在は独立し、地方創生ベンチャー「パンクチュアル」代表を務める
10周年を迎えたしんじょう君、次なる野望は……
2013年に須崎市のご当地ゆるキャラとして誕生したしんじょう君。現在X(旧Twitter)のフォロワー数は約12万人、クスッと笑える内容や共感を呼ぶ投稿で、度々バズりまくることでも知らています。プロデューサー・守時さんによる数々のチャレンジと功績については、あらゆるWEB記事や守時さんの著書で語られているので(ググってね)、今回は「これから」の話を聞いてみようと思います。
ーー今や大人気キャラクターになったしんじょう君ですが、これまでブログやSNSで発信してふるさと納税寄付額アップにつなげたり、eスポーツ大会に出たり、クラウドファンディングで銅像プロジェクトを立ち上げて大成功したりと、10年間でいろいろな挑戦をされてきましたよね。10周年を迎えて次のステップに行くのかなと思うのですが、今後の野望はありますか?
守時「ないですね」
ーーえっ。
守時「ないです。てか野望とかあったことないです」
ーーえーー……。計画的に施策を打ってきたわけではなく、そのときどきで、できることをしてきたって感じでしょうか。
守時「まあ、そうですね。須崎や高知のプロモーションをするって目的はありますけど。目標とかはもったことないです」
ーーといいつつ、ゆるキャラファン層から、SNSで面白がってくれる人、eスポーツ界隈まで、幅広いファン層を獲得してきたのでは。今後リーチしたい層はありますか?
守時「あぁ~~そこもあんまり考えてないですね。eスポーツも、たまたましんじょう君が得意だったから勝手にやってみたって感じですし」
※しんじょう君はeスポーツ大会に出場し優勝歴もあるガチ勢
ーーお、おう……。
もうお気づきかと思いますが、守時さん、かなりゆるい雰囲気の方です。寝起きくらいテンション低めです。「敏腕プロデューサー」「ふるさと納税寄付額を1000倍にした革命児」などのイメージから、勝手にイケイケドンドンなオラオラ系お兄さんを想像していたら(失礼)、全然違うというかむしろ真逆でした。守時さんがプロデュースしたしんじょう君も適当な性格で、その勝手きままさややる気のなさがウケているのですが、守時さんの性格がそのまま反映されているような気がします。
しかし、このままでは何も聞き出せなさそうな気配なので……
事前リサーチで守時さんはガンダム好きだと踏んでいた筆者。ここで守時さんのテンションを上げるべく夜なべして作ってきたガンプラ「アッガイ Ver.しんじょう君」を召喚しました。 ※唐突にすみません
すると、この日初めてのニッコリスマイル……!(うれしい)
予想通りガンダムファンだった守時さん。オルフェンズとZが好きだそうです。
それでは、守時さんがノッてるうちにじゃんじゃん続きを聞いていきます。
ゆるキャラ戦略はまだイケるのか
ーーしんじょう君のSNSでの影響力、本当にスゴイですよね。コロナ禍でピンチだった事業者を応援して売上を回復させたり、ふるさと納税の寄付額を1000倍に伸ばしたり。うちも人気ゆるキャラを育てたい! という自治体も多いと思うのですが、そもそもゆるキャラ戦略ってまだアリですか?
守時「全然アリだと思います。ゆるキャラってすごく普遍的なものなので。そもそも、しんじょう君を作る前からゆるキャラブームは終わったっていわれてましたよ。ゆるキャラブームというか、くまモンとふなっしーがブームだっただけで、ゆるキャラ市場自体はそんなに変わってないんですよね」
ーーゆるキャラ自体はずっと定番であるものなのですね。それなら、今から参入してもチャンスはありますか?
守時「全然あるかと。もちろん、キャラがいなくてもInstagramが強かったり、Youtubeが得意な自治体とかはいっぱいありますけど。コアファン獲得にはやっぱりキャラクターは強いと思います」
ーーいま人気のないキャラはテコ入れしたり、いっそ新しくした方がいいのでしょうか。私の地元、C市のキャラの△△(※自粛)はいまいちかわいくないので、あまり応援する気が起きないんですよね。しんじょう君みたいな、かわいくて面白いキャラがうらやましいです。
守時「△△は頑張ってる方だと思いますけど(笑)。まあでも、今あるものを活かした方がいいのでは。やりよう次第だと思います。それと、行政の予算の張り方って変なので、『今だ!』って時に思いっきり張ったりとか、『もういいでしょ』ってなって張らなくなったりするんですよね。急にやりだしたりやめたりするよりは、一定してコツコツやり続けるのがいいと思いますね」
伸びそうなのは広島・岡山・倉敷
ーー守時さんの会社「パンクチュアル」では、須崎市だけでなくさまざまな自治体のふるさと納税運用代行を行っているんですよね。全国各地いろいろと見ているなかで、ここは伸びそう! と思うのはどこですか?
守時「広島市、岡山市、倉敷市あたりはすんごい伸びると思います。人口が多くてモノがいっぱいあるのに、ふるさと納税規模は全然なんです。あとは、うちが代行やってる松山、下関なんかも」
ーーそもそも知名度があって大きいところは強いと。そういうところは、ちゃんとやれば必ず伸びるって感じでしょうか。たしかに、人口2万人の須崎市より遥かに大きくて資源もたくさんあるのなら、やり方次第で爆増しそうですね……!
ーー大きくてモノもある自治体が有利なのは分かりました。が、小規模でこれといった特産品もない自治体はどうすればいいのでしょうか。私の地元のC市は何もないんです。須崎も小さい町だけど、カツオとか柑橘とかいろいろあるじゃないですか!
守時「目立ってないだけで何かしらはあると思います。C市だったらシラスめっちゃ穫れますし。須崎だってもともと『何もない町』って地元民が言ってましたから。要は気合いが足りないですね」
ーーた、たしかに……何かしらはあるはずなので、それをどう活かすかですね。
守時「須崎市のふるさと納税寄付額って、今中国・四国地方で1位なんですけど、ふつうだと勝てるわけないんです。もっと大きい都市いっぱいあるし。例えば、松山市なんか人口40万人超えていて、須崎市の20倍の規模。なのに須崎市の方が強いんですよね。気合いが足りないですよ」
ーーやっぱ気合いか~~。
泉佐野市の「#ふるさと納税3.0」はスゴイ
ーー守時さんの会社では、ふるさと納税運用以外にも、地域活性化のためにいろいろなプロジェクトを行っているんですよね。そんな守時さんから見て、「ここはスゴイな、イケてんな!」と思う取り組みをしている自治体ってありますか?
守時「大阪の泉佐野市はすごいですね。泉佐野って特産品がない場所だったんですけど、地場産品をつくる事業者の企業誘致をする「#ふるさと納税3.0」っていう仕組みをつくって、それがすごく伸びていて。寄附額も100億円を突破しています。
ーー「#ふるさと納税3.0」って、ふるさと納税を利用したクラウドファンディングの仕組みですよね。目標金額が集まったら、特産品をつくる企業の誘致や支援ができて、そこでつくった返礼品をゲットできるっていう。泉佐野市はこの仕組みでヤッホーブルーイングの醸造所の誘致にも成功したとか。特産品がなくても、こういうやり方があったか! っていう、すごく新しいふるさと納税のカタチですよね。
この先の地方創生はどうあるべき?
ーーリモートワークが広がって、地方に移住する人の話も聞いたりしますが、まだまだ地域格差って埋まらないと思います。これからの地方創生はどうあるべきでしょうか?
守時「若い人が都会に出るのは悪いことだとは思ってなくて、都会に優秀な人を送りこむためにも、田舎が豊かでないといけないと思ってます。ふるさと納税を工夫したり、SNSを活用して地域の情報を発信したり、田舎でも豊かになれる方法はいっぱいあります。田舎だからって諦めずに、世界と戦っていくっていう姿勢が絶対必要だと思いますね」
ーー実際に小さな町、須崎を豊かにした守時さんだからこそ説得力があるお言葉です。ありがとうございました!
終始独特のゆる~い雰囲気で、淡々と話してくださった守時さん。もはやしんじょう君以上にキャラ立ってね? と思いました。
おまけ① 守時さんにサインをもらう
守時さんの著書『日本一バズる公務員』にサインを書いてもらったところ……
いややなせたかし先生に怒られるて。
守時さんの著書『日本一バズる公務員』には、しんじょう君をブレイクさせたノウハウや、ふるさと納税寄附額やEC売上を増やしていった地道な方法などが面白く分かりやすく書かれています。笑えるしためになるので、ぜひ読んでみてください!
おまけ② しんじょう君とアッガイVer.しんじょう君
しんじょう君ご本人にも、アッガイVer.しんじょう君を持ってもらいました。かわいい~