【川瀬良子の農業旅】千葉県の枝豆農家・実さんを通して見つけた野田市の魅力
こんにちは! 川瀬良子です。今回は夏になると毎日のように食べたくなる野菜“枝豆”をつくっている千葉県野田市の農家・山田実さんの元を訪れました。畑から車で数分に位置する古民家カフェでは枝豆たっぷりのメニューも! 道中思いがけず野田市の最新スポットにお邪魔するなど、ほっこりあたたかい旅になりました。
目次
アパレルから農家に転身。野田の名産・枝豆を育てるまで
千葉県野田市で、枝豆とさつまいもの栽培を行う山田実(やまだみのる)さん。広さ約9反の畑をおひとりで管理されています。ちなみに千葉県のキャラクター「チーバくん」の鼻の先端のところが野田市です。
共通の知人がいたことで実さんと知り合い、穏やかでよく笑うお人柄に魅了され「どんな枝豆をつくっているんだろう」と興味を持ったのがきっかけで、枝豆の収穫時期に畑で収穫体験をさせてもらったり、実さんが経営する古民家カフェにも遊びに行ったことも。実さんがSNSにアップする写真は、カフェのスイーツ、古民家ならではの古道具、旅の写真などさまざま……それだけで多才なのがわかるのですが、改めて“農家としての実さん”(笑)に、会いに行ってきました!
野田市出身の実さんは現在44歳。農家として独立して5年目の若手農家です。20~35歳まではアパレル業に携わっていたのですが、徐々に農家を志したそう。「趣味の登山やキャンプをしに、休みの日は全国を回っていました。田舎の方へ行くとあちこちに野菜が売っているので、そのうち採れたての野菜を買って帰るようになって。おいしくて、野菜っていいな、野菜って何なんだろう、って興味が出てきたんです。家庭菜園でもやりがいを感じるようになって、自分に合ってる気がしたんですよ、それで、あ~農家いいかもなって」。
代々続く農家などではなく、新規で自ら農業の道へ。と言いつつもその時は“なんとなく”だったそう。地元野田市の農業支援制度を使い、枝豆農家で約4年間研修を受けたのち独立。枝豆を選んだのも、自ら決めたわけではなく市からの紹介でした。「畑が実家からも近かったのでちょうどいいなと。野田が枝豆の産地っていうのは頭の片隅にはあって、それこそ研修先が枝豆の栽培が盛んなところだったので、この技術は習得したいと思いました。もちろん大変なこともたくさんありましたけどね~(笑)」と苦労も明るく笑い飛ばす実さん。「流れに身を任せてるだけです」と言いながらも、与えられた環境でしっかり学ぶ姿には、とても感心します。
今年の収穫は例年の半分。自然と向き合うのも農業
農業につきものの苦労のひとつが、自然との共存です。今年の枝豆は、約3反の畑で栽培し、1万本以上は採れる予定だったそうですが、6月上旬に野田市で局地的に雹が降り、枝豆の半分がその被害にあってしまったそうです。
「雹に打たれて成長中の苗の茎や葉が折れちゃいました。半分やられちゃって……」独立してから、天候による被害は初めてだそう。「でも仕方ないですよね、自然相手なので。これぞ農業だなって。来年またがんばろって感じです。今年は儲けも半分なんで節約します!」と、またまた笑い飛ばし、常にポジティブ! もともとアウトドア好きな実さんの、自然を寛大に受け止める深さを感じました。
畑で会う枝豆の姿に新しい発見も
そんな貴重な枝豆を収穫させていただきました! 今年育てている品種は、香りと甘みが強いのが特徴の夏風香(なつふうか)。
枝を束ねて上に引っこ抜くと、ガサッと土から出てきます。 スーパーでよく買う“枝から外された鞘がネットにたくさん入っている状態”しか見たことない人も多いのでは。改めてぷくっと膨らんだ鞘が枝についている状態を目にして「これぞ枝豆!」と思わず声に出してしまいました。さらに、鞘をじーっと見てみると、ふわっふわのかわいい産毛が! 「この産毛はしっかり成長しているしるしなんです。収穫してからも鮮度をはかるめやすになります」。と教えてくれました。産毛にハリがなくペタンとしているものは、収穫されてから時間が経っているんですね。なるほど~!これはこれから枝豆を選ぶときの基準になりますね。
「このあと、カフェで茹でた枝豆を食べてくださいね」 と言っていただきウキウキしながら畑を後にし、カフェに向かう、と思いきや「野田の新しい取り組みがあるので案内しますよ」とのこと。愛宕駅近くの、明治時代からの歴史ある街並みのエリアに連れて行ってくれました。地元農家さんイチオシの新スポットとは……?
野田の新スポット「旧中村商店」
畑から車で約5分、愛宕駅から徒歩12分程度の位置にあるのが「旧中村商店」。出桁造りの建物が現れます。古いものが大好きな人たちが集まり、古民家や蔵を再生し活用しているそうです。母屋の「CB PAC」は、食品から雑貨まで千葉のものだけを集めたギフトショップ。お店の前では淹れたてのコーヒーの提供もしていました。
隣接する倉庫に入っているのは花や観葉植物の店「BABABA」。歴史を感じる外観と、高さのある倉庫の空間を活用し生き生きとした植物が配された店内に心地いいギャップを感じます。
どちらもとにかくおしゃれ! 昔の建物のよさをそのまま活かしつつ、現代風にアレンジして活用しています。実さんと店員の皆さんのやわらかい空気感がどことなく似ていて、お話を聞いていても、笑顔が絶えません。共通するのが「野田を盛り上げたい」という心意気。「ほかの地域から来てもらえるのも嬉しいですが、まずは野田の地元の皆さんに知ってほしいですね」(「CB PAC」柿木さん)。「野田に来た人が旧中村商店に行ってから、僕のカフェに寄って帰ってくれる、みたいな流れができたらいいね、ってよくみんなで話してるんですよ」と実さん。思いがけず野田市を愛する若手のみなさんの声を聞くことができ、またゆっくり来たいと思える場所に出会うことができました。
◆旧中村商店(@kyu_nakamurash)
住所:千葉県野田市野田335
CB PAC(@cbpac.cbpac)
BABABA(@bababa_1117_)
古民家を活用したカフェ「実のる屋」
古いものを大切にされている実さんのカフェも築80年ほどの古民家。古いよさは残しながら、とてもおしゃれにリフォームされ、インテリアも昔ながらのものを上手に使っています。当初は栽培したさつまいもを焼き芋に加工して売るための場所として借りたものの、焼き芋の売れ残りが出てしまったそう。「友達に相談したら、加工してアイスとかにしたら? とアドバイスしてくれたんです」。生産者だからこそ、ロスをなくしたいという気持ちは、ひと一倍強く感じたのだろうと思います。
そんな中、カフェを経営していた仲間がお店を畳んだり、スイーツを作れる友人が一緒にやりたいと手を挙げたりと、タイミングよく集まったことで「じゃあみんなでやっちゃう? みたいになって」。ここでも流れるままに進んだ実さん。とはいえ、その人柄で自然と周りを巻き込んだようにも思えます。
「古民家の前の道は僕の中学の時の通学路なんですよ。まさか30年後に、ここでカフェやるなんて、想像もしなかったです(笑)」
お待ちかねの枝豆、夏風香をカフェ店員に変身した(!)実さん自ら持って来てくださいました。茹でた状態でも産毛がはっきりわかります。食べてみると、プリっとしていて噛むたびに枝豆のあおい香りが口いっぱいに広がります。飲み込んだ後もしばらく香りが残っているほど!“香”という漢字が名前に入っているのも納得です。いやぁ~とってもおいしい! 雹の被害をくぐりぬけての貴重な一品であること、実さんの野田への思い……いつもはパクパク食べてしまう枝豆ですが、この時ばかりはゆっくりしっかり感じながらいただきました。
「農家をやっていて嬉しいのは、やっぱり作物ができたとき。うわ~できたー! っていう安心感もありますし」と実さん。それにしても店員までやっていることにびっくり! お店に立つのはどうしてですか? という問いには「ん~話好きなんで」のひと言。そんな控えめな実さんですが「お客さんがおいしいと喜んでくれるのがいちばんですね」と話す胸内には熱い思いがある様子。農家として野菜をつくりながら、カフェ店員としてお客さんの感想を直接聞けることが、モチベーションに繋がっているのだと思います。
「でも恥ずかしがりやなんで、キッチンからあまり出ないときもありますよ~」って、おぉ~い(笑)。ぜひ、実さんに会えるか会えないかも楽しみにして、足を運んでみてください。
実さんとお話をしていると、考えているだけではなく“とりあえず飛び込む”ことで、自分も周りも動かすことができる。と強く感じます。「とりあえずやってみるって大事っすよね~。ダメだったらダメで。とりあえず、まだまだいろいろチャレンジしていきますよ」。流れに身を任せていると言いながらも、新たな農業スタイルを確立している実さん。その流れは実さん自身がつくっている感じもしますし、ポジティブで明るく、シャイな一面もある実さんの周りに、似た感性のあったかい人たちが集まってくるのだと思いました。
「カフェはほぼ毎週末やっていますが、12月ぐらいになったら焼き芋が始まるんで、ぜひ食べに来てください!」カフェ特製の焼き芋が焼けるのは、実さんだけ。つまり、12月からの「パーラー実のる屋」には確実に(笑)実さんはいるそうです。野田市に行ったら旧中村商店をふらりと巡り、農家さんに会える、かもしれないカフェ・実のる屋で、いろんなお話をしてみてください。畑や生産者さんに想いを巡らせて料理やスイーツをいただくと、本当に味わいが変わりますよ。
取材の翌日は、「旧中村屋商店」でシーズンラストの枝豆の販売をする予定とのこと。“なんとなく”で始めた農業が、いつしか野田で生活する人にとって欠かせない場所のひとつになっていく、そんな地域の魅力をつくりだす人々の思いに触れる農業旅になりました。
◆実のる屋
住所:千葉県野田市柳沢40-6
アクセス:アーバンパークライン「愛宕駅」から徒歩約15分
営業時間など詳細は実のる屋(@3noru8)、パーラー実のる屋(@3noru_8)にて