農家さんに学ぶ味噌づくり! 時間をかけてわかるつくり手の思い
みなさんこんにちは!川瀬良子です。未だに続いているコロナ禍ですが、農業旅にも影響があります。緊急事態宣言中は東京から出られない、栃木の農家さんのお手伝いにも行けない……あぁ~畑いきたぁぁぁい! という状況でした。そんななか、「味噌づくり教室」をオンライン形式で開催している農家さんがいる、という情報が! 今ではすっかり一般的になったオンラインイベントですが、農家さんご自身が発信するのは珍しいことです。今回はそんな一風変わった味噌づくりをレポートします。
目次
コロナ禍を逆手にとった石川県「風来」さんのアイデア
「味噌づくり教室」を実施しているのは、菜園生活「風来(ふうらい)」の西田栄喜(にしたえいき)さん。石川県で自他供に認める「日本一小さい専業農家」として開業、従事していたサービス業で培った川下からの発想で、最終的な食の形式や食べ方に合った野菜づくりを追求しています。著書には『小さい農業で稼ぐコツ』(農山漁村文化協会)、『農で1200万円!』( ダイヤモンド社)などがあるユニークな農家さんです。
私がこの情報を知ったのは、パーソナリティを務めているラジオ番組「あぐりずむ」(TOKYO FM)で西田さんにインタビューをすることになり、スタッフの方から「オンラインで味噌作り教室をやっている農家さんがいるので参加してみる?」と教えてもらったことがきっかけでした。コロナ禍を逆手にとった斬新なアイデア! もともと味噌づくりには興味があったので、すぐに申し込みをしました。「風来」のホームページから注文すると、事前に必要なものが自宅に届くので、手軽にチャレンジできます。
パソコン画面を前に材料を揃えて準備万端
参加したのは、2021年1月末。私が選んだ「茹で大豆」セットに入っていたのはこちら。
・茹で大豆
・特製米糀
・塩
・3.6Lタッパー
・レシピ
写真にはありませんが、おまけとして「ひと口味噌」も入っていました。
セットは3種類あり、大豆を煮るとことから挑戦する場合は生大豆のセット、混ぜるだけで簡単につくりたいという初心者向けにはペースト大豆のセットもあるので、好みに合わせて選んでくださいね。自分で用意するものは、大きめの鍋。鍋がない場合は100円ショップなどにある新品のバケツでも作業しやすいそうです。
当日、茹で大豆などをテーブルの上に並べ、パソコンを広げてスタンバイ。時間までワクワクしながらも、目の前にあるのは大豆・糀・お鍋……パソコン!? となんとも不思議な気持ちになりました(笑)
時間になると、石川県にいる西田さんのにこやかな表情が画面に現れました。参加者一人ひとりに話しかけて場をなごます姿からは、明るく優しい人柄が感じられます。味噌づくり教室は今年でなんと7年目。今や「失われつつある農家の知恵」なのだそうですが、こうしてオンラインも駆使しながら、多くの人に伝えようという西田さんの思いも聞けて、不安や緊張もすぐにほぐれました。
使用する大豆は、西田さんの友人でもある石川県の農家さんが栽培しているもの。糀は、地元能美市の米100%の自家製糀。「同じ地域で育ったものは相性がいいんですよね~」と西田さん。そんなひと言もとても勉強になります。
この日は、新潟、埼玉、大阪などからご家族で参加されている方が多かったのですが、中には2度目という方も。何度も言っちゃいますが、東京の家のリビングに居ながら、全国各地の方と時間を共有できるって面白い!
手順は簡単! 体力はたっぷり使います
味噌の作り方を説明すると、糀と塩を混ぜる→ペースト状の大豆を加えよく混ぜる→タッパーへ。あとは、あれば食品由来のアルコールスプレーをかけたら完成。とてもシンプルです。ですが、私が選んだセットの大豆はペースト状ではなく、茹で大豆。ペースト状になるまでしっかりと大豆を潰していかなければなりません。この作業に、ものすごく体力を使いました。
チャック付きの厚手のビニール袋に、茹で大豆約2.3キロが入っています。これを平たく横向きに置いたら、袋の上に手のひらを当て、もう片方の手のひらを上にして全体重をかけて潰していきます。手をパーにしたりグーにしたり、粒を見つけたら指でピンポイントに潰したりしても、なかなか大豆の形は無くなりません。無心に、ただひたすらに集中して、大豆と向き合います。疲れた~と思って画面に目を向けると、子どもたちが一生懸命同じ作業をしていて、みんな頑張っているんだ! と、パワーをもらいます。西田さんが「川瀬さ~ん、頑張りましょうね~。粒が残っていてもそれはそれでおつまみになっておいしいですよ~!」とか「○○ちゃ~ん!今大豆食べたの見えてたよ~」などと声をかけることで、笑いが起きるシーンも。おかげで一体感が生まれて、楽しみながら進めることが出来ました。あ、この作業、麺棒がある方はもちろん使っていいんですよ。
20分程で大豆は無事ペースト状に。 糀、塩、ペーストになった大豆、すべてをよく混ぜ合わせたらタッパーに移して完成! 味噌づくり全体にかかった時間は1時間15分程でしたが、あっという間に感じました。人生初の自分で作ったお味噌、どんな味がするのかなぁ~。
見ないこと、忘れること、そして大事なことがもうひとつ
ところでこのお味噌、いつ食べられると思いますか?1カ月後? 3カ月後? なんとなんと、およそ9カ月後!なんです。それまでは、冷蔵庫の野菜室で保存し発酵させます。こんなに時間がかかると知らなかったので驚きました。9カ月の間に気にしてちょこちょこふたを開けたりすると、雑菌などが入ってしまうこともあるので「途中で見ない」「存在を忘れる」のが重要とのこと。そしてもうひとつ 「開けたときに白いカビのようなものがあっても、それは酵母のかたまり。慌ててとったりしないこと!」と大事なポイントを教わって、オンライン味噌づくりは無事終了しました。
それから9カ月……ではなく、7か月後、8月の終わりごろでした。それまでタッパーの存在を忘れることができていたのですが、急に気になってしまい、我慢ができずにフタを開けてしまいました。すると……ぎゃーーー! カビです。白いふわふわしたものが表面の所々に。やってしまった~。落胆しながら白いところをスプーンで削って取り除き、悲しみに打ちひしがれながらも(大袈裟)食べてみたい気持ちは抑えきれず(笑)、お味噌汁にしたところどうでしょう。
「塩っ辛い!」
失敗しちゃったのかなぁ~。
落ち込みながらSNSのダイレクトメッセージで西田さんに報告したところ、すぐに返信が。
「冷蔵庫で保存していたのであれば、まだ早いと思います。カビは白でした? 青でした?白ならカビというより酵母のかたまりですので大成功です! 青でもそこを取り除けば問題ありません。あと1カ月置くと味が全然変わってきますよ~。酵母は取らずに、そのまま、そのまま。存在を忘れるのが成功のもとです(笑)」
暖かいメッセージに涙です。え~? 酵母だったの!? 大成功なの!? なんでとり除いちゃったんでしょう……。でも、確かに。西田先生は言っていたんですよ。「白いものはカビではなく酵母。慌てて取ったりしないと」先生の話をしっかり聞いていないところは子どものころから変わっていないようです。お味噌の存在は忘れてもいいのですが、先生のお言葉は心に留めておかなければいけませんね。
苦難を乗り越えて、味わい深い味噌が完成
それにしても、オンラインで味噌づくりを学んで、その後の相談までSNSでできるなんて。昔ながらの味噌づくりが、令和のカタチになって繋がっていくことがとても面白いですよね! 一時はどうなることかと思いましたが、西田さんのアドバイスもあり、10月に改めてお味噌汁をつくってみたら、これがとってもおいしかったんです! フライングしてしまった8月の尖った塩辛さが丸~くなっていて感動。そして、大豆の粒々感が程よく残っていて、いや、粒のままの姿も結構残っていますが、売っているものでは味わえないおいしさがありました! まさに、手前味噌ですが(笑)
お味噌が無事完成したのち、西田さんに改めて話を伺いました。
「オンラインだとそれぞれの家庭でやるので、リアルの教室に普段連れて来られない小さいお子さんも参加できると好評でした。茹で大豆をつぶしてもらうんですが、子どもによって集中したり、すぐ飽きたりと(笑) 画面越しにも伝わってきました。自分でつくった味噌は、子どもたちもよろこんで食べているようです。オンラインぬか床教室、キムチ教室などもやりましたが、地域の伝統の漬物がアーカイブされていくといいなと思っています。プロの味噌屋さんに行けば味噌づくりの手際のよさは見られるのですが、マネできないですよね。教えているところがみなさんの記憶や動画として残ることで、知恵の伝承になればと思ってます」。
何でも買えてすぐに届く時代に、自分でつくる楽しみ、時間をかけることの大切さを教えてもらいましたた。地域、伝統を大切にされている農家さんだからこその知恵や想いを直接教えていただけるなんて、本当にすごいことです。そして、貴重でかげがえのない時間をオンラインで手軽に体験できる有難さ。ぜひみなさんも、今だからこそ。オンラインで農業や伝統に触れてみてはいかがでしょうか。
・菜園生活 風来
HP:http://www.fuurai.jp
金額:【ペースト大豆】味噌造りセット4,428円、【茹で大豆】味噌造りセット4,212円、【生大豆】味噌造りセット3,672円
※教室は、野菜作りがスタートすると忙しくなるため、2022年は4月いっぱいまでの予定。ノウハウが詰まった動画を見ながら、ひとりでチャレンジすることもできます。詳しくは、風来さんのホームページをご確認ください。