ミュージシャン、俳優 峯田和伸
“映画を見ている時って
その街に旅行する感じに
近いかもしれない”
役者としても活躍している
銀杏BOYZ・峯田和伸さんにインタビュー。
雪深い季節に地元・山形で撮影された
映画『越年 Lovers』のお話のほか
峯田さんならではの旅エピソードとは。
取材・文/小林未亜(エンターバンク)
撮影/山下陽子
スタイリング/入山浩章

山形が舞台の映画『越年 Lovers』について、まずは出演オファーが来た時の気持ちを教えて下さい。

地元の山形が舞台で、しかも山形弁のセリフで、それを台湾の監督が撮るというので、面白そうだなーと思って受けました。今まで山形を舞台にした作品に出たことがなかったので。

山形という場所で、山形弁でやるお芝居は、他の作品と気持ち的に違いますか?

違いますね。僕、マネージャーも同級生で地元の友達なので、普段東京にいても山形弁でしゃべっているんです。仕事ではもちろん標準語でしゃべりますけど、頭の中で山形弁から標準語に翻訳しているので、ちょっとジレンマがあるというか。山形弁だとその翻訳がいらないので、気持ちは乗りますよね。例えば「お腹が減りました」ってセリフがあるとしたら、「腹減ったんだず」の方がそのまま感情で言えるというか。

台湾の監督のもとでのお芝居も初めてかと思いますが、いかがでしたか?

やりにくさはなかったです。言葉はもちろん違いますけど、違う分、手を叩いて笑ってくれたり、交わった時に「あ、通じた」っていう喜びがあったり。

台湾の方ならでは、と思った部分はありました?

台湾映画は何本か見ているんですけど、僕が見た台湾映画ってわりかし淡々とした印象だったんですね。それで今回、クライマックスに二人(峯田さんと橋本マナミさん)が雪の中でもみ合うシーンがあるんですけど、大事なとこなので普通だったらセリフの時に顔のアップ撮りません? でも寄りは撮らず、ずっと引きで撮っていて。下半分が雪、上半分が空っていう画面の中、中央で二人がもみ合っている、みたいな。そういう部分は、台湾の人らしいなって思いましたね。「ここ、寄りで撮らないんだ」って。

景色もちゃんと映したい、ということなんでしょうか。

そう思いました。役者を映すというよりかは、田舎の茶の間とか雪山の中に人物がいて、その状態を撮っているみたいな。おしゃれで、北欧映画みたいになっていて、山形とは思えなかったですね。

確かに雪山や樹氷が映る景色は素敵でしたが、撮影は寒くて大変だったのでは?

大変でした……。ホッカイロいっぱい付けてました、コートの中に。カメラの場所も分からないくらい真っ白で何も見えなくて。見た人はたぶんCGだと思うんだろうなー。台湾のスタッフは雪を見るのが初めての人ばっかりだったので、最初すごいテンション上がっていたんですけど、20分もしたらみんな死にそうな顔してました(笑)。

そういったロケーションは、お芝居をする上で影響はありますか?

あると思います。演劇でも、抽象的なセットと具体的なセットだと、テンションも動き方も変わると思います。今回山形が舞台ということで、子供の時からかいでいた匂いがあるというか、そういう街の中でできたので、気持ちいいと言うと変ですけど、まったくやりづらさはなかったですね。

峯田さんから見て、山形の魅力はどんなところだと思いますか?

人でいうと、素朴で、あまり前に出すぎない距離感ですかね。本当はくっつきたいとか、告白したいっていう気持ちはあるんですけど、それをストレートに出すのが恥ずかしいっていうのが東北の人はあるんじゃないですかね。

映画の中の二人はまさにそのイメージですね。

山形の人っぽいなあって思いますよね。

共演された橋本マナミさんも山形のご出身ですが、同郷の方同士で何か通ずるものは感じますか?

カメラが回ってない時に、山形弁で「初めまして」って言った第一声で、「あ、同じ土地の人だ」と思えたりすると、やっぱいいですよね。落ち着けるというか。あと彼女自身が本当に魅力的で、すれてなくて、裏表がなくて、あのままの優しい人だったので、自分も気持ちよくできたんだと思います。

今回の映画は、峯田さんご出演の山形パートのほか、台湾やマレーシアを舞台にした3つの物語で構成されています。台湾やマレーシアに思い入れなどは?

マレーシアは行ったことないんですけど、台湾はプライベートでも何回か行っていて、人も場所もすっごい好きです。映画祭に呼ばれて行ったり、バンドでイベントに呼ばれて行ったり、歓待される立場で行っているので優しかったというのもあると思うんですけど。でもそれにしても、みんな来てくれたことを喜んでくれて、ストレートに気持ちを伝えてくれて。すごいお世話になったな、台湾の人には。

街の印象はいかがですか? 好きな場所とか。

台北でいうと、夜店みたいなのがずっと並んでいるところ(夜市)が面白いですよね。活気があって。そこで臭豆腐とかも食べました。来たからには食べようってことで、みんなでチャレンジして食べたんですけど、うわー……って(笑)。そんな僕らを見て台湾の人が喜んでる、みたいな。僕らでいうと、日本に遊びに来た外国人に、納豆食べさせて「うわー!」ってなっているのを見てゲラゲラ笑う、みたいなことでしょうね(笑)。

映画を見て旅に行きたくなることってありますか?

見るたびに行きたくなりますね。映画で追体験して、行った気になったり。例えば『ナイト・オン・ザ・プラネット』とか。だいたい映画を見ている時って、ストーリーを追うというよりかは、その街に旅行する感じに近いかもしれないです。その街の映像とか街の中にいる人を見て楽しんでいる、みたいな感じがあるなあ。

映画とかで見た場所に、実際行ってみたことは?

映画というか音楽で、ビートルズとか自分が好きになったロックバンドが生まれた場所ってことで、去年初めてロンドンに行きました。すっごいよかったですね。街を歩きながら「ここからビートルズが生まれたのかー」って。ロンドンに行くのは長年の夢だったので、歩いている人を見ているだけで「うわー」みたいな(笑)。田舎もん丸出しなんですけど。

ほかに印象的だった場所は?

家族旅行とかじゃなくて、初めてプライベートで旅行した場所がサンフランシスコで。サンフランシスコも音楽が盛んな街ですからね。ヒッピーとかの文化も残っているから、街並みが東京じゃ考えられないぐらい、パステルカラーの家がバーって並んでいて面白いですよ。気取っていなくて、疲れない。公園と森と街並みが共存していて、仙台みたいな感じかな。古本屋とレコード屋さんとスケボーショップとカフェがぶわーって並んでいたり。

旅先ではどういう風に過ごすんですか?

歩いて、散歩して、だいたいレコード屋さんに行きますね。

旅行に必ず持って行くものとかは?

特にないですね。だいたい向こうで調達します。着替えも持って行かないです。それこそサンフランシスコに行った時、初めての海外旅行でちょっと浮かれたっていうのもあって、コンビニ袋にパスポートとタバコだけ入れて行きました。(袋を手で振り回す仕草で)こうやって「おはようございまーす」って成田に集合して(笑)。

それで不便はなかったんですか……?

なかったですね。どうしても欲しかったら友達に借りればいいんですよね。

では、そんな峯田さんなりの旅を楽しむポイントがあれば教えてください。

ガイドブックに載っているような観光名所もいいんですけど、一人で電車に乗って、ガイドブックも見ないで、感覚で「ここいいな」って思ったら降りて、そこから散策して歩く、みたいなのが一番楽しいですよね。

峯田和伸さんが旅に行きたくなる映画

『ナイト・オン・ザ・プラネット』

『ナイト・オン・ザ・プラネット』

Blu-ray3,080円/DVD1,980円 発売中
発売元・販売元:バップ

ジム・ジャームッシュの監督・脚本による1991年の作品。「5都市が舞台になっていて、最初ロサンゼルスから始まり、そこからニューヨーク、パリ、ローマに行って、ヘルシンキで終わるんです。タクシーに乗って、っていう設定は同じで。デフォルメされているとは思うんですけど、人の性格とかストーリーがそれぞれの街になじむ内容になっていて、見ていると旅行に行った気になりますね」(峯田)
INFORMATION
『越年 Lovers』©2020映画「越年」パートナーズ

『越年 Lovers』

12月18日(金)より山形・仙台先行公開中、2021年1月15日(金)より新宿バルト9ほか全国公開

芸術家・岡本太郎の母としても知られる作家・岡本かの子の短編小説を、同作に感銘を受けた台湾の監督グオ・チェンディ(郭珍弟)が脚本・監督を務め映画化。日本の山形、台湾の台北と彰化県の海辺の町、マレーシアのクアラルンプールといった3つの地を舞台に、素直になれない3組の男女の恋模様を描く。山形パートは、峯田さん演じる寛一が、初恋の相手・碧(橋本マナミ)のいる故郷へ数十年ぶりに帰るところから物語が始まる。

監督・脚本:グオ・チェンディ(郭珍弟)
出演:峯田和伸、橋本マナミ、ヤオ・アイニン(ピピ)、オスカー・チュウ(邱志宇)、ユー・ペイチェン(余佩真)、ウー・ホンシュウ(呉宏修)ほか
配給:ギグリーボックス

Profile
峯田和伸
峯田和伸Kazunobu Mineta

1977年12月10日生まれ、山形県出身。1996年にGOING STEADYを結成し、2003年の解散後、銀杏BOYZを結成。初主演映画『アイデン&ティティ』(2003年)で役者デビュー。以降、音楽活動と並行して『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(2010年)、『ピース オブ ケイク』(2015年)、『猫は抱くもの』(2018年)などに出演。連続ドラマ初主演を務めた『奇跡の人』(NHK BSプレミアム/2016年)が平成28年度(第71回)文化庁芸術祭でテレビ・ドラマ部門の大賞を受賞。そのほか、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』(2017年)、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(2019年)など幅広く活躍。

あの人の旅カルチャー

今月のテーマ「雪景色」 「雪景色」をテーマに本と映画の“目利き”が作品をセレクト。
一面に広がる雪原やしんしんと降る雪景色を楽しめるエンタメ作品が集結。

Book

  • 『暴雪圏』

    『暴雪圏』
    舞台は北海道。爆弾低気圧が近づく田舎町にはわけありの人々が……。不倫相手に脅されている主婦、ヤクザの組長宅に強盗に入った男、家出少女、こんな日にペンションにやってきた60代の夫婦、そして町に来て二年目の巡査部長。ほかにも事情を抱えた人が登場し次々事件が起こりますが、最大の主人公は暴風雪そのもの! スピーディな展開と迫力ある描写にうなります。アクション映画好きにおすすめ。
    佐々木譲/著
    825円/新潮文庫
  • 『365日北海道絶景の旅』

    『365日北海道絶景の旅』
    北海道の365日ぶんの絶景写真集です。圧巻はやはり晩秋から春遅くまで登場する雪景色!初詣でにぎわう北海道神宮の、お参りに来た人たちの帽子に降り積もる雪片、薄く雪化粧した流氷を割って進むクルーズ船「ガリンコ号」、霧氷に彩られた釧路湿原、雪原を元気に走る鷹栖町の犬ぞり、そしてもちろん「雪まつり」など、あげるときりがありません。白く雄大な風景の美しさをご堪能ください。
    いろは出版/編
    3,740円/いろは出版
  • 『今月使いたい
     茶席の和菓子270品』

    『今月使いたい茶席の和菓子270品』
    本書は全国の茶席菓子のビジュアル本です。「12月」には薄氷の張った水辺と傍らに咲く寒菊や、旅人たちの編笠に降り積もる雪をイメージした名品、「1月」には松の枝の上の雪や、綿帽子をかぶった富士山を模した美しい品々が。また「冬」というページには京都の白い山並みを表すお菓子などがあり、名菓に閉じ込められた雪景色の豊かさにうっとり。お店のウェブサイトや主な出店先付きです。
    淡交社編集局/編
    1,760円/淡交社
間室道子さん 代官山 蔦屋書店

代官山 蔦屋書店に勤める文学担当のコンシェルジュ。雑誌「婦人画報」の連載を持つなど、さまざまなメディアでオススメの本を紹介するカリスマ書店員。文庫解説も手掛け、書評家としても活躍中。

Movie

  • 『フレンチアルプスで
     起きたこと』

    『フレンチアルプスで起きたこと』
    スキー場で突然、雪崩発生! 夫は家族を守るのか。それとも自分だけ逃げるのか。結論、夫はスマホと手袋を持って1人咄嗟に逃げてしまいます。目の前でそれを目撃した妻は、夫不信に。フレンチアルプスを舞台に“男女の危機的状況下での行動差”というまさかの題材で繰り広げられる、男女の本能の違いを学ぶ映画。途中、人間関係がつららレベルで凍てつきますが、ちゃんと雪解けします。理想の男性像が確立している女性、必見! これを観ると男性に過度の期待を抱かずに済むようになりますよ(笑)。
    DVD4,180円 発売中 発売元・販売元:オデッサ・エンタテインメント
  • 『素晴らしき哉、人生!』

    『素晴らしき哉、人生!』
    私のベストXmas映画です。雪が降りしきるクリスマスの夜、将来に絶望し身投げしようとしている男のもとに天使が現れ、彼の生まれてこなかった地球を彼に見せることに――。自分の存在がちっぽけに思える人、この映画は1人の人間がどれだけ周りに影響を与えているか教えてくれます。その結果、自分の人生を抱きしめたくなる名作中の名作! アメリカでは、現在も毎年テレビ上映されていて、その結果、今ハリウッドで活躍する映画監督のほとんどがこの作品に影響を受けることに。モノクロすらも味わい深い。
    Blu-ray(デジタル・リマスター版)2,075円 発売中 発売元・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
  • 『Love Letter』

    『Love Letter』
    岩井俊二初の長編映画。雪の小樽と神戸、2つの街を舞台として、手紙を軸に展開されるラブストーリーです。婚約者を亡くした女性が、彼のかつて暮らした場所に手紙を送ると返信が届き、そこから初恋の思い出が呼び起こされていきます。大切なものは失って初めて分かるのは世の常ですが、昔あった風景に、今はもうその人がいないことの儚さ。それを「これでもか!」というほど、美しい映像美で届けてくれます。いまを大切に生きようという直球のメッセージが沁みる、寒い冬が恋しくなる特別な映画。
    Blu-ray5,280円/DVD4,180円 発売中 発売元:フジテレビジョン 販売元:キングレコード
東 紗友美さん 映画ソムリエ

映画ソムリエとして、テレビ・ラジオ番組での映画解説や、映画コラムの執筆、映画イベントのMCなど幅広く活躍。映画ロケ地巡りも好き。日経電子版で「映画ソムリエ 東紗友美の学び舎映画館」を連載中。

※価格はすべて税込みです