超怖と絶景どちらを選ぶ? 徳之島で第六感がフル回転の朝焼けドローン

鹿児島県

2019.04.22

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超怖と絶景どちらを選ぶ? 徳之島で第六感がフル回転の朝焼けドローン

ドローンを飛ばすとき、わたしの場合、隅へ隅へ、人のいない自然の中へと行きがちです。しかも、日の出・日の入り前後の撮影が多めなので、「よくまあ暗い中そんな場所に、一人で行ったな」と我ながら感心することもあります。撮影中は夢中だからいいとして、その前後が問題なんですよね。まあでも別に何もないじゃないですか、大抵は。そう、大抵は。ごくまれに、めちゃくちゃ感じちゃうこともありまして……。今回は、ドローン旅でなければ一人で行かないはずだった場所での、第六感話をお届けしたいと思います。

誰もいないのに人口密度が高い!? 見えぬ観客に見守られ朝焼けを飛ぶ

めちゃくちゃ美しかったんです。朝焼けの様子が幻想的で、なんだかしんみりしました。もしかしたら“しんみり”なんて、日の出で初めて感じたかもしれません。そんないつもとは違う感覚で、一瞬一瞬が釘打ちされたように印象的だった時間、まずは動画でご覧ください。

こちらは鹿児島県の奄美群島のひとつ、徳之島の中心、亀徳からほど近い「なごみの岬公園」からの情景です。ここには初めて訪れました。前夜に朝焼け撮影によさそうなスポットを地図で探していて見つけたんです。探した基準は、島の東側で、海岸線により近づけること。

ドローン旅の絶景写真

到着したのは日の出の30分ほど前。まだまだ辺りは暗いです。でもせっかく撮影するならすぐスタンバイすべきなんです。空は気分屋ですからね、いつすごい現象が起こってもおかしくないし、逃したくないですから。

それが……どうにも降りたくないんですよ、車から。

「雲、多そ」

降りたくない正当な理由を見つけてひとり言。一瞬安心するも、

「雲なんてすぐ様子変わるんだから、行かなきゃ後悔するよ!」

今度は心の中で叱咤激励。「後悔するよ」このフレーズはよく効くんです。空の表情は一期一会。二度とそっくりそのままの空なんて出合えませんからね。

ドローン旅の絶景写真

まもなく日の出の頃、だんだんと雲が色づいていきます

ドローン旅の絶景写真

太陽は雲の中に昇りました

ドローン旅の絶景写真

ゆっくりと光が差す感動的な瞬間ったら!

なんとか自分を急き立て、機材を持って車から降りると、公園の入口の方へ向かいます。きっとあの入口から入って、奥までずずいと進めば、見晴らしのいいところに行けるのでしょう。それにしても、歩いているこのほんの少しの時間で、空はどんどん色っぽくなっていきます。いい予感! 

入り口まで来ると石碑が並んでいました。うん、観光地にはこういうのよくあるな。始めは特に気に留めなかったのですが。

「おはようございます、お邪魔します。こちらからの朝焼けがどうにもすばらしそうです。すみませんがドローンを飛ばさせてください。電池1本分だけ!」

急に手を合わせ、明確に言葉にしてお願いしました。すごく自然に。だって、めちゃくちゃ感じるんですもの、お邪魔します感ありすぎ(笑)。

わたしは普段、霊感だとかそいうものとは無縁です。でもこのとき初めて、明らかに大量のナニカ、何もないのに密度が高い……ようなことを感じました。一瞬引き返そうかと思いましたが、あまりに向こうの様子が気になって。「引き返したら絶対後悔するよ」と、手を合わせたというわけです。

公園の奥の、小高く海に向かって開けたところまで行き、離陸によさそうな地点を探しました。その間、背筋がゾワワワワー。ところが、「ここから飛ばそう!」と意気込んだ瞬間からゾワゾワがストップしましてね。本気力ってすごいものです。さらには、フライト中の集中力もすごく高い、いつも以上に超夢中。怖い気持ちを忘れたいのと、実際世界がすばらしすぎて!

ドローン旅の絶景写真

自分の立つ丘の下には、大きめの潮溜まりが点在していました。太陽が光を降らせると、波のない静かな海面にくっきりと空が映り写り込むんです。リーフエッジはそう遠くないところにあり、優しくも力強い波の所作が、上下の空と一緒に目に飛び込んで来て……すばらしいったら。油絵を3Dにした世界の中を漂っているような錯覚を受けました。世界の隅々が劇画チックすぎるんです。

ドローン旅の絶景写真

視界の隅々が手抜かりなく美しい

ドローン旅の絶景写真

海面に映り込んだ空は、ファンタジー風の色でした

太陽が昇り切ると、浅瀬に映る空はさらにくっきり。レンズを下に向けて、なんどもなんども、納得のいく映像になるよう飛ばしました。

結局、電池が1本終わると、

「すみません!! どうかもう一本分、ここで撮影させてください!」

と撮影延長。

この日は長潮(潮の干満の差がもっとも少ない)で、干潮と満潮のちょうど中間くらいの時間でした。つまり、水深が深くも浅くもないときを狙えば、似たような情景が生まれているかもしれません。

なごみの岬のプチ恐怖体験、ちゃんと理由がありました

さて、その日はそれからダイビング講習。地元のインストラクターさんと海に向かいながら朝の出来事を話したんです、うっとりと。そしてゾワっと。

「なごみの岬の朝焼け、すごかったぁ……行きました?」
「あぁあそこね、朝は行ったことないな」
「そうなんですか! 人生でも忘れられないほどでしたよ、潮溜まりに映り込んで」
「へえ! 暗いうちから行ったの?」

「そう、真っ暗で怖かったな……あのぅ。あそこ、なにかうわさあります?」
「うわさ?」
「でるとか言われます? めちゃくちゃ感じちゃったんですよね、手を合わせましたもん」
「なごみの岬だもんね……あるかもね」
「!!」

「あそこは戦没者のお墓みたいな所なんだよ。沖で日本軍の輸送船が沈没してね」 
「はっ。石碑がたくさん並んでました」
「うん、慰霊碑ね」
「そうでしたか、怖すぎて石碑の道は最後まで行かなかったんです」

ドローン旅の絶景写真

島の西側でダイビング講習

わたしが手を合わせたのは入り口付近の石碑の前。石碑が続くのはわかったけど、進めませんでした。でも実はそこには「慰霊碑」と大きく掘られたものがあったそうです。

1944年、富山丸という輸送船が沖縄に向けて航行している最中、亀徳の約3キロ沖で、米艦魚雷に撃沈されたそうです。積んでいたガソリンは流出し海上で引火、まさに火の海となったとか……このときの犠牲者は3800名前後で、タイタニック号の沈没と並ぶ第一級の惨事になったとのことでした。

「なるほど……深いほどきれいだったんです。人を呼び寄せるための朝日だったのかもしれませんね」

ドローン旅の絶景写真

引き返さずに撮影して本当によかった。あの情景は、わたしたちを呼び寄せるために用意されるのかもしれないと思うから。

戦争の過去は日々遠くなっていきます。わたしは、正直なところなるべく知りたくないと思ってしまいます。怖いし、暗い気持ちになるから。でも、今生きているひとりひとりが、過去も今もしっかり了解した上で、未来を作って行かないといけないというのもわかります。

「忘れちゃダメよ、絶景特典つけるから、ここに来て考えてみてよ!」

もしかすると、そんな発信だったのかもしれません。そして、この日呼ばれたのがドローンに夢中すぎるわたしだったのは、特典を撮影してアピールしてほしいからかと。それでこうして書いているのです。

これをご覧になって「なごみの岬」を訪れていただけたなら、そうでなくとも、一瞬でも過去の反省事項に考えを及ばす時間を持っていただけたなら幸いです。

Author

ドローン旅作家 とまこ

ドローン旅作家

とまこ

元秘境ツアー添乗員で現在は“おしゃれパッカー”、“美肌ダイエットマスター”として本の執筆や講演、TV出演など多方面で活躍する旅作家。「離婚して、インド」(幻冬舎文庫)など既刊12冊。2017年から旅先でのドローン撮影を始め、今では「飛ばさないと落ち着かない!」というほどのドローン好き。旅先での美景、絶景の撮影はもちろん動画の編集も手掛ける。

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