【岐阜市】日本に1本しかない希少種の桜って? 伝説の中将姫ゆかりの桜を訪ねて
奈良県に数々の不思議な伝説が残る、中将姫をご存じでしょうか? 岐阜県には中将姫ゆかりの、日本に1本しかないと言われる不思議な逸話を持つ桜があるんです。併せて、東海エリアにある中将姫に関連するスポットを、旅色LIKESライター・長月あきが去年の写真を交えてご紹介します。
目次
謎の伝説が残る中将姫とは
747(天平19)年、平城京で藤原豊成という貴族の娘として誕生。幼くして母・紫の前を亡くしたのち、後妻として迎えられた継母から、命を狙われるほどのいじめを受けていました。14歳のころ、継母から逃れるため、周囲の人々の力を借りて宇陀の山中に隠れて暮らし始めます。しかし翌年、藤原豊成と再会し、奈良の都に連れ戻されます。
信仰心が篤い中将姫は、その後當麻寺(たいまでら)に出家することに。「法如」という戒名を授かった姫は、ある老尼に蓮糸を織り始めるよう導きを受けます。一晩で織り上げたものが、約4m四方もの大きな「當麻曼陀羅」という織物です。それから12年後、29歳で極楽浄土へ旅立ちました。當麻曼陀羅は奈良県葛城市にある當麻寺で、大切に保管されています。
日本に1本しかない稀少種・中将姫誓願桜がある「願成寺(がんじょうじ)」
不思議な伝説が残る中将姫ゆかりの地として知られるお寺が、奈良県から遠く離れた岐阜県にあります。それが岐阜市の「願成寺」。執拗ないじめを受けてい中将姫が継母から逃げるため、長谷寺や雲雀山(ひばりやま)などを転々としていたところ、願成寺の噂を耳にして、参詣にはるばる訪れたそうです(奈良から岐阜まで!?)。長旅の疲れから婦人病にかかり苦しみましたが、願成寺の観音様に一心に祈ったところ、病気が治癒したという言い伝えがあります。病気治癒後に中将姫が境内に植えたとされるヤマザクラが、中将姫誓願桜です。
中将姫誓願桜は、本堂の目の前にあります。樹齢1200年以上の巨木で、ヤマザクラが突然変異して生まれました。自然交配で生まれた桜としては、日本にたった1本しかないという希少品種で、国の天然記念物に指定されています。中将姫が植えたヤマザクラが、偶然にも突然変異したのでしょうか。
ちなみに、石柱の「天然記念物中将姫誓願桜」の文字は、当時の文部大臣で後に総理大臣となった鳩山一郎氏によるものだとか。達筆な方だったんですね。
「中将姫誓願桜」の特徴は、花びらの数が多いこと。通常、ヤマザクラの花びらはソメイヨシノと同じ5枚ですが、中将姫誓願桜は23~36枚の花びらを持った、八重咲の花を咲かせます。実生(みしょう)や接木(つきぎ)が困難とされていたそうですが、県の農業試験場で他の桜へ接木することで、枝分けに成功しています。
2017年、接木で枝分けに成功した中将姫誓願桜の2世が、かつて中将姫が出家をした當麻寺に植樹されました。接木で枝分けされた木は他にもありますが、岐阜県以外では當麻寺に植樹されたものが初めてなのだとか。當麻寺の中将姫誓願桜も、毎年花をつけているようです。
宇宙桜とは? 中将姫の命日に発芽した奇跡のストーリー
2008年、中将姫誓願桜は宇宙に国内14の桜の名木の種を持って行くという、有人宇宙システム株式会社が行った社会貢献事業「花伝説・宙へ!」に参加します。その時、中将姫誓願桜から採取された約250粒の種が、国際宇宙ステーションに持ち込まれました。実は、中将姫誓願桜は、それまで種から発芽して育ったことがない桜でした。にも関わらず、約8カ月半後、地球に帰還した種を蒔くと、なんと2つが発芽したのです! 1つ目の種が発芽した日は、奇しくも中将姫の命日とされる3月14日だったそう(命日は旧暦の3月14日なので、厳密には違う日なのでは……という気もしますが)。
さらに、発芽した2本は奇跡的な早さで成長し、2本とも4年後に開花します。開花までは通常10年ほどかかるらしく、非常に早い開花なのだそう。
種から発芽して育ったことのない桜が、宇宙から帰ってきてなぜ発芽したのか? なぜ成長が早いのか? 科学的な説明は難しいのだそうです。宇宙から帰ってきた桜「宇宙桜」も境内に植えられています。
去年行った時には、すでにほとんど散っていたものの、よく見るとまだちらほらと残っている花がありました。宇宙帰りの桜は、通常のヤマザクラと同じ5枚の花びらでした。一瞬、花の形が違うのに直系? と思いましたが、親木とのDNA鑑定の結果、90%直系であると判定されているそう。突然変異をする前の、ヤマザクラ本来の形に戻ったのですね。中将姫の伝説が、今もなお続いているような気がする、不思議な桜です。
◆願成寺
住所:岐阜県岐阜市大洞1-21-2
電話番号:058-243-2154
拝観時間:9:00〜17:00
拝観料:無料
駐車場:あり
願成寺以外にも、東海エリアに中将姫ゆかりのスポットがあるので、ご紹介します。
中将姫の曼陀羅が伝わった「日輪山曼陀羅寺(にちりんやままんだらじ)」
桜を植え、長い祈りを捧げた後、中将姫は奈良の當麻寺で織ったものと同じ、蓮糸の曼陀羅を織り上げ、願成寺に納めます。曼陀羅はその後長く、寺の宝物として大切にされていたものの、なぜか尾張国の円福寺に飛んでいったそう。円福寺は、東の空から日輪が出ると同時に曼陀羅が飛んできたので、のちに「日輪山曼陀羅寺」と名前を改めることになります。
日輪山曼陀羅寺は願成寺から車で約40分、愛知県江南市にあります。広い敷地を持つ浄土宗の古刹で、正堂は国の指定重要文化財となっています。願成寺に比べて大きなお寺です。
境内には本堂、曼陀羅堂、地蔵堂があります。地蔵堂は今の曼陀羅堂が建てられる前まで曼陀羅を安置していた建物で、現在は地蔵菩薩を安置している愛知県指定文化財です。
境内は藤の名所「曼陀羅寺公園」として有名。藤棚の藤の木には、芽がたくさん付いています。毎年4月後半から5月初旬には「こうなん藤まつり」が開催されます。2024年は4月15日~5月5日とのこと。ゴールデンウィークを利用して行ってみてはいかがでしょう。
◆日輪山曼陀羅寺
住所:愛知県江南市前飛保寺町202
電話番号:0587-55-1695
中将姫をイメージしたお菓子が売られている「御菓子司 柏屋」
続いて紹介するのは、曼陀羅寺から歩いて約10分の場所にある「御菓子司 柏屋」。綺麗な建物ですが、創業は江戸末期という老舗の菓子店です。
購入したのは、中将姫をイメージした洋風の焼き菓子「中将姫」と、曼陀羅寺にちなんだ「まんだらもち」。中将姫はブッセ風の焼き菓子で定番の白クリームのほか、いちごと西尾抹茶の3種類がありました。まんだらもちは、わらび餅のようなプルプルのお餅にきな粉がたっぷり。山梨の信玄餅に似たお菓子です。
◆御菓子司 柏屋
住所:愛知県江南市飛高町門野90
電話番号:0587-54-1237
営業時間:9:00~20:00
定休日:月曜日(祝日は営業)
3月下旬以降は桜が見頃
伝説に基づいた中将姫ゆかりの地は、奈良県でなく、今回ご紹介した岐阜・愛知、またそれ以外の地域にも残されています。中将姫のモデルになった人物が、あちこちにいたのかもしれません。1200年以上も前の伝説とともにある珍種の桜と、宇宙から帰ってきて発芽した種。物語はまだ続いていそうな気がします。まもなく桜の開花を迎える時期。これから各地で素晴らしい桜が見られますが、日本に一本しかない桜を見に行ってみるというのはいかがでしょうか。