ご自身が青・壮年期 、田中泯さんが老・晩年期の葛飾北斎を体現している、映画『HOKUSAI』。まずは、完成した作品をご覧になっていかがでしたか?
見た後ですごくパワーをもらえるというか、背中を押してもらえるような作品だと思います。努力をし続けた人が晩年になって評価される。評価を徐々に獲得できたのはすべて努力のおかげだということが、夢があってとても好きでした。天才と言われる人にも努力していた時があったのかも、と思えるのがうれしかったです。
青・壮年期の北斎は謎が多いですが、映画で描かれる人物像はどんな印象でしたか?
写楽や(喜多川)歌麿が目の前で評価されて、挫折を味わい、自分探しをしていくなかで、自分には風景画が合っていることに気づき、しっかり自分を見つけていく感じが、引きの強い人だなと思いました。壁を壊してでも前進するというか、パワフルだなとも感じますし。感情が表に出てしまう人で、不器用だなと思います。
絵を描いてばかりいるのに、瀧本美織さん演じる奥さんからあんなに愛されていたのは、どうしてだと思いますか?
わからないけど……圧倒的なカリスマですよね。江戸のバンクシーみたいな。時代劇ということで距離を感じてしまう人もいるかもしれないけど、アートの世界に置き換えたら前衛的。自分を貫いて、生涯絵を描き続けていて。そんなところに惹かれていたのではないかと思います。
同じ役柄を演じるにあたり、田中泯さんと意識を共有するために話はされましたか?
驚くかもしれませんが、全く話していないんです。こういう取材を泯さんと受けた時にようやく、「やっぱりそう思っていましたか!」と確認した感じです。撮影時期も、僕が先で泯さんが後半で、会う期間がなかったんですよね。
お互いの撮影を見に行くこともなく?
そうなんです。クランクアップの日に初めて2人で現場にいて、一緒に絵を描くシーンを撮影したんですけど、そこで僕は安心感を得ましたね。
というのも、それまでの撮影では、北斎はスケールが大きな人ですし、参考資料があまりないので、僕は「このシーンはこういう北斎でいいのか」というのを監督と毎回相談しながらやっていきました。それでラストシーンで泯さんとお会いした時に、ものすごい安心感というか、「もしかしたら本当にこういう人生だった可能性あるよな」と思うぐらい、説得力を感じたんです。
絵についても、僕は何時間も習って、先生に「本番は自分で描いて大丈夫」と言っていただけて安心していたら、泯さんはもっとお上手で。すべて上に行くなと思って……おそるべしでした。
シーンでいうと、柳楽さんが海に入る場面も印象的でした。
ズタボロになって北斎は旅をするのですが、あの時もう人生を一回あきらめるぐらいの気持ちでいたのかなと思います。そんな時海にたどり着き「俺は海を描きたいんだ!」ということに気づく。それまで人物画を描いていた人が、いきなり波の絵にフォーカスを変えるというのが本当にすごいなと思います。それをどう表現するんだろうってずっと考えていましたけど、割と即興でやりました。楽しかったですね。
ちなみにあのシーンは(京都の)京丹後の海なんですけど、『太陽の子』というドラマの撮影でも京丹後に行っているので、去年京丹後の海の水を飲みまくっている俳優はたぶん僕ですね。
京丹後の海に入る柳楽さんに注目ですね。撮影は京都で?
去年は京都に半年ほどいました。京都大好きです。昔、お寺に関わる役柄を演じるために修行に行ったこともあります。嵐山の奥の方の、太秦も越えたエリアのお寺でした。座禅をして、精進料理を食べて、読経をして。
地方ロケでは、撮影の合間に街を見て回ったりもしますか?
たまに、ですね。朝ドラの『まれ』に出させていただいた時、撮影とは別でスタッフさんたちと石川県の能登に遊びに行く機会があったんですけど、撮影中より現地の方とも話せますし、見落としていたものがしっかりと見られて、充実した時間になるなと感じました。
撮影中はなかなかゆっくりできないですよね。プライベートで旅行には行きますか?
多くはないですけど、たまに行きます。そんなに遠くなくて行きやすいので、箱根の日帰り温泉はけっこう好きです。最近はキャンプもやりたいなと思っています。
旅好きな人って、生きていく上での知恵もある気がするんですよね。旅上手な人は生きるのが上手なイメージがあります。何回も旅をしていたら、「この場合はああしない方がいい」とか、いろいろ反省点があるじゃないですか。僕はまだあんまり難しいところには行ってないのですが。
9月20日に出版される『やぎら本』は、海外で撮影されたとか。
そうなんです。29歳の1年間をおさめていただいて。1月から3月は、ニューヨークで語学留学していた時に撮っていただいて、台南ではナチュラルな感じで撮っていただきました。台湾が好きなんですよ。ヨーロッパとかに比べると近いですし、小籠包が本当に好きなのでプライベートでも行きます。行ったらもう、食べるのは小籠包ばっかりです(笑)。
ニューヨークの印象はいかがでした?
いろんな出会いがありますね。最初、知り合いが一人しかいなかったんですけど、その人が紹介してくれた人がまたレストランを紹介してくれたり、いい出会いがあるとそれが連鎖していく感じが本当にあるんだなと思って、不思議でした。ニューヨークも台南も、違うカメラマンさんに撮っていただいて、本当にいい写真が多いので見ていただきたいです。