『古都』
「まちが小説を書かせる」の代表が京都ではないでしょうか。本書の冒頭に登場するのは、老舗だけど今は商売がうまくいかなくなっている呉服問屋の娘・千重子。彼女は、庭のもみじの古木に二つのくぼみがあり、そこにすみれが咲いているのを見て「こんなところに生まれて、生きつづけてゆく……」とつぶやきます。この娘がのちに出会う人を予感させるシーンで、古都の四季のうつろいをふんだんに盛り込んだ、文豪の名作です。
605円/新潮文庫
『東京23話』
なんと主人公は23区たち! イケイケの港区の意外な過去と現在、皇居や最高裁を有する生真面目な千代田区が見守った来日ミュージシャンなど、区の特色をキャラにし、彼らが自身を語る異色の短篇集です。最後に「東京都」が登場。「自分は永遠に完成することがないのだ。何度も何度も、誕生しつづけるのだ」という言葉に、江戸の頃から変わらない住む人々の気骨やまち自体の魂が、せりあがって来ます。
704円/ポプラ文庫
『新橋パラダイス
駅前名物ビル残日録』
「東京の声」の収集場所、おじさんたちの聖地としてメディアによく出るのが新橋です。本書は再開発で存続に赤ランプが灯る「ニュー新橋ビル」と「新橋駅前ビル」のルポで、行列ができる洋食屋からあやしいマッサージ店まで異業種がひしめく前者と、ディープな飲み屋が並ぶ地下街で有名な後者を写真とともに紹介。「最後の秘境は東京のど真ん中にあった!」という帯文どおりの眺めがここにあります。
1,760円/文藝春秋
『人生の約束』
忙しすぎたり生き急いだり、人生の意味が見えなくなりそうな人にとって、この映画は休息地点そのものです。テレビドラマ界の巨匠・石橋冠が1本だけ映画を撮りたいという衝動に駆られて生まれた隠れた名作の題材は、江戸時代から続く実在のお祭り。経営者として仕事一筋だった男が親友の故郷・富山県新湊を訪れ、親友が死の直前まで参加したがっていた「新湊曳山まつり」に参加し、人との絆を取り戻し、再生していくんです。圧巻なのは画面いっぱいに広がる提灯山の灯りや情緒あふれる景色や神輿の迫力。静と動のコントラストが際立った景色がたっぷり! 日本ならではの風景美を再認識し、日本をあらためて好きになります。
『ブルックリン』
故郷であるアイルランドを離れ、新天地アメリカ・ブルックリンへとひとり渡った女性がしなやかに自立していくさまを描いた成長物語です。孤独と対峙しながら都会で暮らす主人公。都会と田舎という対照的に描かれたまち並みがより切なさを誘い、行ったことがないはずのアイルランドへの郷愁で胸がいっぱいになります。故郷から離れて暮らしたことがある人、泣けますよ。アイルランド出身の両親を持つ主人公を演じるシアーシャ・ローナンは、ハリウッド若手筆頭株。25歳になるまでにアカデミー賞に4回もノミネートされた超演技派! この映画の人物が実在していないなんてありえないと毎度感じさせる、たしかな演技力からも目が離せません。
『ベルファスト』
1969年の北アイルランドのベルファストを舞台に、激動の時代に翻弄されるベルファストの様子や、困難の中で大人になっていく少年の成長を描いた感動作。アカデミー作品賞にノミネートされました。自己形成の時期であろう9歳の子供目線で描かれるベルファストの紛争は、シリアスな時代なのに意外なほど朗らかなシーンが多い。これは、家族愛の物語なんだと気づかされます。少年の瞳を通してその時代を見ることで、まちについて、家族というものについて、新鮮な発見もたくさん。モノクロ映画ですが、カラフルな演出もあり、今と昔のベルファストのまち並みを旅することができます。そのまちに残るもの、去るもの。どちらも包み込むあたたかなメッセージが沁みました。
配給:パルコ、ユニバーサル映画