「あれ食べに行こう」からはじまる旅 タベサキ

泡に歴史あり!?創業160年の味
代々、選りすぐってきた宇治ならではの茶の風味
宇治地方といえば、日本を代表する高級茶葉の産地。煎茶や玉露などの製法が育まれた“日本茶のふるさと”とも言われます。その品質とブランドを影から支える茶問屋が、京都らしさが色濃く残る祇園にカフェをオープン。これまでの常識を覆す、お茶の楽しみ方を提案中だとか!?老舗の誕生秘話から、これからの未来を感じる話題まで……やっぱり奥が深い、京都のお茶文化をお楽しみください!
宇治茶が完成するまでの工程は非常に複雑。生産、製茶、販売まで、北川半兵衞商店の役割は幅広い
時代は変われど、本質は変わらずより良い茶を求め160年
いかにして際立たせるか主役は色とりどりの茶の個性
茶詠み2,800円はカフェを象徴するメニュー。
個性的な日本茶を飲み比べつつ、一口菓子とのペアリングまで楽しめる
タベサキ「宇治ならではの茶の風味」
初代の茶道楽から始まった問屋としての輝かしい歴史

初代の茶道楽から始まった問屋としての輝かしい歴史

「『既製品のお茶だけでは満足できない』と、初代である北川半兵衛は最高の茶葉を探し集めていたそうです。しかし幕末まで、宇治茶は特別な権利を持つ茶師しか商いが許されておらず、半兵衛は茶師の家系ではありませんでした」と語るのは6代目北川直樹さん。1861年5月、今から丁度160年前に幕府が茶商を自由化したことで、晴れて北川半兵衞商店として設立。一躍、半兵衛の厳選した宇治茶が全国に広まることとなりました。現在まで74回開催された全国茶品評会でも、最高賞を獲得すること11回。契約栽培農家を含めると受賞歴40回以上と、日本を代表する茶問屋の一角を担っています。

初代の茶道楽から始まった問屋としての輝かしい歴史
初代の茶道楽から始まった問屋としての輝かしい歴史
茶の味を決定づける合組というブレンドの技

茶の味を決定づける合組というブレンドの技

“時代に合わせ、お茶づくりに挑戦し続けること”が、北川半兵衞商店の理念。「自社の茶園で品評会用の抹茶を作りながら、そこで培った技術を17軒の契約栽培農家に広めています。各茶園で摘まれた茶葉は蒸し、揉み、乾燥などの工程を経て荒茶となりますが、この時点ではまだ完成品ではありません。その数百種にもなる多種多彩な荒茶の個性を見極め、配合することが合組(ごうぐみ)という茶問屋の腕の見せどころです」と直樹さん。銘柄ごとに5〜10種類ほどの荒茶を組み合わせることで、常に一定の品質を保ち続けているそうです。そうして技を受け継ぎながら、代々守り抜いてきた日本茶を「もっと気楽に楽しんでいただきたい」と開始したのがカフェ事業でした。

茶の味を決定づける合組というブレンドの技

祇園に誕生したカフェで日本茶の魅力を再発見

店内に小気味よく響くシェイカーの音。カクテルグラスに注がれたのは、なんと最高級の抹茶でした。「さまざまな方法で冷たい抹茶を点てて飲み比べたら、このやり方が最も美味しかったんです」と語るのは、店舗統括マネージャーの山形陽さん。「茶道により敷居が高いイメージになっている抹茶を、もっと身近なものにしたいんです」とも話します。茶筅で点てた温かい抹茶も、あえてグラスで提供。煎茶、ほうじ茶、和烏龍茶、和紅茶と飲み比べできるセットが「作法を気にせず、じっくり味わえる」と特に評判です。テアニンという煎茶の旨み成分を際立たせるため柴漬けをチョイスするなど、各お茶に合わせた一口菓子も個性豊か。新しいお茶の世界が広がるカフェとして大きな注目を集めています。

祇園に誕生したカフェで日本茶の魅力を再発見
「もしも千利休が現代にいれば、同じようにシェイカーを振っていたかもしれませんよ」
店舗統括マネージャーの山形陽さん
祇園 北川半兵衛

茶問屋の強みを活かしたスイーツ茶室をイメージした斬新な空間

構想と準備に10年もの歳月を費やし、立地からメニューまで「一切妥協していない」という祇園 北川半兵衛。抹茶アイスを一口食べるだけでも、老舗茶問屋の矜持が伝わってきます。「旨みと香りはしっかりと、渋みや苦味は優しく穏やか。アイスとして成立する限界まで、高級抹茶の比率を増やしているんです」と自信をのぞかせていました。ほかにも1層ずつ重ね4日かけて作る7層仕立てのケーキなど、抹茶スイーツは多種多彩。ワンプレートで食べ比べできる抹茶のデグリネゾン2,600円が人気を集めています。また、築約120年の町家を改装した店内は、スタイリッシュでありながら、古い茶箱を階段横に積み上げていたり、茶壺を植木鉢に再利用していたり。古今のお茶文化が同居する、居心地の良い空気に包まれていることも、多くのファンが足繁く通う理由なのです。

祇園 北川半兵衛

[DATA]
祇園 北川半兵衛

住所/〒605-0074 京都府京都市東山区祇園町南側570-188
電話/075-205-0880
定休日/不定休
営業時間/11:00~22:00(18:00~は夜カフェ営業)
座席数/32席
アクセス/京阪本線 祇園四条駅から徒歩6分
駐車場/無

chapter 2

日本茶とお菓子、その運命的なめぐり逢い

甘いお菓子と日本茶を一緒に楽しむようになったのは、江戸時代になってから。
しかし、それ以前から歴史のなかでは何度も邂逅していたようで……。
舞台は長きに渡り文化の中心として発展してきた古都、京都。
お菓子と日本茶は、はじめから結ばれる運命にあったのかもしれません。

遣唐使がもたらした貴族や僧侶だけの楽しみ

はじめて日本にお茶を持ち込んだのは遣唐使だったと言われています。最古の記録は815年に記述された「日本後記」の一文。唐から帰った高僧が嵯峨天皇に茶を煎じて献上したというものです。ほかには「805年、最澄が茶の種を比叡山に植えた」という言い伝えや、「空海と茶を飲み、山に帰るのを送る」といった嵯峨天皇の歌も残ります。この時代のお茶は、身分の高い貴族や僧侶だけが口にすることのできる、非常に貴重な存在でした。

茶は唐から持ち帰った貴重品

密教のお供え物として唐から伝わったお菓子

密教のお供え物として唐から伝わったお菓子

お菓子を日本に伝来したと言われるのも遣唐使です。唐菓子(からくだもの)と総称される最初期の和菓子ですが、なんと当時の姿のまま現在まで保存されているものもあります。それが1617年創業の老舗、亀屋清永の清浄歓喜団(2個入1,296円)。比叡山の指導者から製法を受け継いでおり、前日から身を清めるといった過程を含め、一から手作りしているそうです。胡麻油で揚げられているため食感豊かで香りも上質。なかの小豆餡からはシナモン、クローブ、白檀といった7種のお香も広がります。

亀屋清永 本店
住所/〒605-0074 京都市東山区祇園石段下南
電話/075-561-2181
定休日/水曜(不定休あり)
営業時間/8:30~17:00
アクセス/京阪本線 祇園四条駅から徒歩7分
駐車場/無

戦乱の時代ながら武士の間で大流行

織田信長がお茶に傾倒したきっかけと言われるのが、はじめて訪れた京都での出来事。1568年、念願の上洛を果たした信長に、武士や商人が価値の高い名物茶器をプレゼントしたそうです。これに気を良くしたのか、翌年から名物茶器の収集を開始。商人や寺院から半ば強制的に買収したことから「名物狩り」と言われています。集めたコレクションで茶会を催し権威を示したり、褒美として部下に与えたり、信長は茶の文化を政治にも取り入れました。

茶は政治的に重要な存在

信長との戦のさなか兵糧として生まれた銘菓

信長との戦のさなか兵糧として生まれた銘菓

1570年から11年もの長きに渡り、信長は石山本願寺を攻め続けました。その際に兵糧として開発されたものが、やがて代表的な京菓子のひとつに発展します。発案者は本願寺の供物や慶事に関わるお店の3代目。名前の由来は、後に信長と和睦した本願寺の顕如上人が、京都の邸宅にて「忘れては波の音かと思うなり、枕に近き庭の松風」と詠んだ歌から。それが、創業1421年の亀屋陸奥が誇る歴史的ロングセラー商品、松風(16枚 化粧箱入1,100円)です。もっちり力強い食感と、麦芽飴による自然な甘さが特徴。白味噌の深いコク、ケシの実の香ばしさも効いた、豊かな風味に仕上がっています。

亀屋陸奥
住所/〒600-8227 京都府京都市下京区菱屋町153
電話/075-371-1447
定休日/水曜
営業時間/8:30~17:00
アクセス/各線 京都駅から徒歩15分
駐車場/無

平和な世を知らしめる無礼講の大茶会

信長の跡を継ぎ天下統一を成し遂げた豊臣秀吉も茶の湯を好みました。その魅力を大衆にまで広く浸透させた有名なイベントが、1587年開催の北野大茶湯。「貴賤貧富の別なく、数寄者であればだれでも、手持ちの道具を持参し参加せよ」と呼びかけました。開催当日は約1000人が来場し、平等にくじ引きをして選ばれた参加者を、千利休、津田宗及、今井宗久という3大茶人、そして秀吉自らが名物茶器でもてなしたそうです。

茶は天下泰平の象徴

天下人も認めた羊羹のご先祖様

天下人も認めた羊羹のご先祖様

秀吉が政庁兼邸宅として京都に建設した聚楽第(じゅらくだい)でも、大茶会が開催されました。1589年、その引出物として各地の大名に贈ったのが、現代まで続く煉羊羹のルーツとなった紅羊羹です。大名たちの間で絶賛された羊羹を手掛けたのは創業1461年の菓子屋、鶴屋。江戸時代、屋号は駿河屋に変わりましたが、伝統の技術は脈々と受け継がれています。なかでも太閤秀吉献上羊羹1,620円は、腕利きの職人が400年以上昔の味を再現したもの。小豆こし餡に葛粉と小麦粉を加え竹皮で包み、じっくりと蒸し上げているそうです。ほのかな竹の香り、もっちりした柔らかな食感。ほど良い甘さにより小豆本来の味が引き立ちます。

総本家駿河屋善右衛門 伏見本舗
住所/〒612-8083 京都府京都市伏見区京町3-190
電話/075-611-5141
定休日/水曜
営業時間/9:00~18:00
アクセス/京阪本線 伏見桃山駅から徒歩1分
駐車場/無