「あれ食べに行こう」からはじまる旅 タベサキ

僻地の旅館でラーメン!?

ラーメン王国山形で
期間限定の味を求め
いざ、真冬の海岸へ

1人あたりのラーメン消費量、
人口比における店舗数などで
全国1位に君臨するのは、なんと山形県。
あふれんばかりのラーメン愛が、
10月から5月までしか味わえないという
かわったラーメン店を生みました。

建物の裏手には海が広がりサーファーたちが集う
入口の先にある旅館には似つかわしくない案内板
玄関をくぐると目に入るのが、唐突に釣られた案内板
長い廊下の先にあるのれんをくぐると出会える
元旅館というだけあり、親しみやすい雰囲気を醸す内装
自家製アゴ出汁と小麦が香る中華そば
あっさりとした口当たりながら、しっかりとコクが広がる
タベサキ「旅館×ラーメン」

元旅館主人・掛神淳さんがつくる入魂の一杯に全国からファンが集う

元旅館主人・掛神淳さんがつくる入魂の一杯に全国からファンが集ういらっしゃい!

「昨日来たの? 飛行機の本数減ってるから大変だよね。早くからごめんね」と笑顔で迎えてくれたのは、店主の掛神淳(かけがみあつし)さん。50年以上前に旅館として創業した琴平荘を、人気ラーメン店に育てた仕掛け人です。2002年から旅館閑散期の11月~3月の期間限定でラーメンの提供を開始。「旅館業の片手間ではなく、専門店以上にこだわりたかったから、製麺機もすぐに買いましたよ(笑)」と豪快に笑います。しかし、味はとても繊細。他店で修業はせず独自の研究のみでつくられた味は瞬く間に全国に広がり、店前にはずらりと行列ができるほどに。今ではお客さんからの強い要望もあり、旅館を廃業し5月まで営業を延長。

タベサキ「旅館×ラーメン」

ラーメン好きを飽きさせない進化する中華そば

ラーメン好きを飽きさせない進化する中華そば」

豊かに香る魚介出汁の決め手は、三瀬沖など近海で捕れたトビウオ(アゴ)。その旬である夏、「焼き干し」という伝統的な製法にこだわり、全て手作業で旨味を凝縮。自家製麺は小麦の香りが生きる朝練りで、手もみによる絶妙な縮れ具合でスープに良く馴染みます。庄内豚の肩バラを使用したチャーシュー、1週間かけて仕込むメンマなど、店主のラーメン愛がつまった一杯。スタンダードな「あっさり」と、脂多めの「こってり」が選べます。どちらも750円。掛神さんのおすすめは「あっさり」。

店主の掛神淳さん
「ラーメン好きは浮気性ですから大変(笑)。今でも閉店の間は全国を食べ歩いて研究しています。2020年は無理だったけど、また行けるといいな~」
タベサキ「旅館×ラーメン」
いつもは50人超えの行列もいまは車で行儀よく待機

いつもは50人超えの行列もいまは車で行儀よく待機

山形第2の都市である鶴岡の中心地から車で約30分、大自然に囲まれた三瀬海岸沿い。コロナ禍においては、密を避けるため、自動整理券の機械が導入され、自家用車で待機するシステムとなっており、開店前になるとわらわらと人が来店。お店のすぐ裏手の海岸では、サーフィンを楽しんでいる人も散見され、それを眺めているのも楽しいです。

店主の掛神淳さん
「こんな風になる前は、9時ごろにはだいたい50人くらい並んでたんだけどね……」。※編集部が9時ごろにとった整理券は14番。
タベサキ「旅館×ラーメン」
旅館の佇まいを生かし隣席との距離もしっかり確保

旅館の佇まいを生かし隣席との距離もしっかり確保

長い廊下を抜けると、大広間に到着。元々旅館だけありラーメン屋としては類を見ないほど店内が広く、まるでショッピングセンターのフードコートのような佇まい。同じ室内で食べますが、空間を生かしてソーシャルディスタンスも十分に確保。案内用の看板など、昭和風情が残る旅館らしい雰囲気のなかで待機することも醍醐味のひとつ。

店主の掛神淳さん
「換気扇や空気清浄機、セミセルフレジを新調するなど、約500万円かけて新型コロナウイルス対策に奔走しました。安心して来てください」。
タベサキ「旅館×ラーメン」
大切な来訪者に“ラーメンを振る舞う”のが山形の文化

[DATA]
中華そば処 琴平荘 (ちゅうかそばどころ こんぴらそう)

住所/〒999-7463 山形県鶴岡市三瀬己381-46
電話/0235-73-3230
定休日/木曜
営業時間/11:00〜14:00(例年10月1日から5月31日までを予定)
座席数/48席(座敷12卓※相席なし)
アクセス/JR羽越本線 三瀬駅から徒歩20分
駐車場/約50台(その他、周辺にも駐車スペースあり)

大切な来訪者に“ラーメンを振る舞う”のが山形の文化

山形県は、ラーメン専門店の数が人口10万人あたり約70軒と、他県を圧倒する日本一の激戦区。切磋琢磨する環境のなかラーメン文化も洗練され続けています。「お客さまは常に新しい味を求め続けています。だからこそ、その一歩先ゆくクオリティを常に求めないと。半世紀以上も前から“大切な来訪者には、自宅で出前ラーメンを振る舞う”というのが、山形文化。その気持ちで今でも最高の一杯を提供しますよ」と掛神さんは柔和に笑います。

ご馳走さまでした。

山形拉麺カルチャー

県民1人あたりのラーメン消費量、人口10万人当たりのラーメン店舗数ともに全国1位を誇る山形県。地域によって麺やスープの特色がまったく異なるため、多彩な味わいに出会えるのも魅力です。お客様を家に招いた際のおもてなしや、学生の部活の差し入れとしてラーメンの出前が定番となっている地域もあるそう。今回は、そんな山形県のラーメン文化を解き明かします。

文/霜越緑(エフェクト)

拉麺Topic1 ご当地ラーメンが多数!

山形県の様々な地域に個性的なご当地ラーメンが存在し、地元の方や旅行者に食されています。今回はその中でも注目度の高い5種類のご当地ラーメンを紹介しましょう。
赤味噌ラーメン
赤味噌ラーメン

県内問わず全国のラーメンファンから人気を集める「赤味噌ラーメン」。濃厚な味噌スープにピリッとした辛味噌が効いたくせになる1杯です。味噌を少しずつ溶かして食べることで辛さと味わいの変化を楽しむことができます。

とりもつラーメン
とりもつラーメン

県の北部、最上地方の中央部にある新庄市を中心に食べられている「とりもつラーメン」。赤モツと呼ばれる心臓、砂肝、きんかんなどが入っています。店舗によって麺やスープ、モツの煮方に違いがあるため食べ比べもおすすめです。

冷やしラーメン
冷やしラーメン

その名の通り麺もスープも冷たい「冷やしラーメン」は盆地特有の暑さが続く夏にもラーメンを楽しみたいというお客さんの一言から作られたそう。トッピングにはきゅうりやかまぼこが入っており、すっきりとした味わいが特徴です。

酒田ラーメン

酒田市を中心とした庄内地方北部で食されています。魚介系の出汁が効いた醤油味のスープに、熟成させた自家製麺を使用。極薄の生地でできたワンタンがトッピングされることも。

米沢ラーメン

米沢市で提供される「米沢ラーメン」は、通常より多くの水分を含んだ手もみのちぢれ麺と、鶏ガラや煮干しで出汁をとったスープが特徴。あっさりとした素朴な味わいが人気です。

拉麺Topic2 市役所にラーメン課!?

山形県南陽市役所には、日本唯一の「ラーメン課」が存在します。ラーメン課立ち上げから現在まで南陽市のラーメンのPRに注力してきた鈴木聡さんにお話を伺いました。
市役所にラーメン課!?

「山形県南陽市役所では2016年7月に『ラーメン課R&R(ラーメン&レボリューション)』を発足しました。きっかけは市内の小中学生へのアンケートで『南陽市にある県外の人に勧めたいもの』の上位にラーメンがあがったことです。南陽市にある60店舗ほどのラーメン店はそれぞれ麺やスープ、味付けが異なり、さまざまなジャンルのお店が密集しているのが特徴。どんな人でも好みの味に出会える百花繚乱なラーメン店はまさに市が誇る食文化です。『ラーメン課R&R』では、ラーメンのどんぶりとレンゲのセットやステッカーが景品としてもらえるカードラリーの開催、漫画『ラーメン大好き小泉さん』とコラボした広告を作成するなど、全国に向けその魅力を発信。2017年には東北芸術工科大学の学生がデザインしたラーメンマップ『なんようしのラーメン』を作成しました。南陽市のラーメン情報が満載のマップを片手に好みの味を探す旅にでかけてみてください」

ラーメン課R&R(ラーメン&レボリューション)

拉麺Topic3 蕎麦屋でもラーメンが!

蕎麦屋でもラーメンが!

山形のラーメンを語る上で外せないのが「鳥中華」。蕎麦屋で生まれたラーメンとして県内外の人々から愛されています。蕎麦のつゆに使われる和風だしのスープに中華麺を投入。鶏肉、天かす、海苔などがトッピングされています。もともと蕎麦屋の賄いとして作られていたものが人気となり、メニューのひとつとして広まりました。蕎麦屋でラーメン。それがスタンダードというのが山形スタイルなのです。

拉麺Topic4 溢れるラーメン愛の理由

溢れるラーメン愛の理由

山形県にラーメンが広まるきっかけとなったのは1923年。横浜中華街で料理屋を営んでいた中国人が関東大震災で被災し、県内各地に移り住むようになりました。そこで開いた数々のラーメン屋台が後に県全体に広がっていったと言われています。そうして県民に定着したラーメンは、親戚が集まった際などに出前を取るお寿司の代わりに食されたり、蕎麦屋の新メニューとして登場したりと、他県と異なるユニークな文化となったのです。