回転する食べ物

小林エリカの旅と創造

連載第19回

艷やかな赤みのマグロ。黒々とした海苔に巻かれた宝石粒のようなイクラ、濃厚なオレンジ色のウニの軍艦。そこに続くのは、なぜかりんごジュースとオレンジジュース。
その全てが色とりどりの皿に乗せられ、ゆっくりとしたペースでベルトコンベアーの上で回転している。
回転寿司とは、なんとファンタスティックなものなのだろう。
先日友人に連れて行ってもらった小田原の回転寿司店には、なぜか生ハムやラム餃子まであって、最高だった。
美味しい食べ物がいっぱい、しかも回転してる!
ただそれだけで、私の心は激しく躍る。

確かあれも小田原だった。子どもだった私は、笹かまぼこ屋を見学し、ベルトコンベアに乗せられた笹かまぼこが回転するさまに魅せられ、延々その場を離れようとしなかった。
美味しい食べ物がいっぱい、しかも回転してる! の典型例である。
しまいには酔って気持ちが悪くなり撤退、以後何ヶ月か笹かまぼこが食べられなくなるという顛末だったのだが。

思い起こせば、『チョコレート工場の秘密』(ロアルド・ダール著、田村隆一訳、評論社)という本が私は好きだった(後にティム・バートン監督が映画『チャーリーとチョコレート工場』をつくっている)。
美味しい食べ物がいっぱい、しかも回転してる! それがお菓子! とくれば最強だ(まあ、本や映画では、回転してる、だけではすまないのだけれど)。

回転寿司屋のベルトコンベアの上にバスクチーズケーキを見つけたときの興奮はこれだったのか。
ところで、なぜ人間はケーキを回さずして、寿司を回すことにしたのだろうか。
と、そこまで思ったところで、かつて昭和のデパートに存在していた、菓子の回転台のことを思い出す。それは「スイートプラザ」や「ラウンドコーナー」などという名前で呼ばれていたそうで、山のように積み上げられたチョコレートやクッキー、キャンディーがぐるぐると回転する仕組み。私の記憶は曖昧だが、どうやらそこから量り売りで菓子を購入できたらしい。
これも、美味しい食べ物がいっぱい、しかも回転してる! の一例。

回転する食べ物たちを思い浮かべる。
甘いものもいいけれど、やっぱり塩っぱいものなら寿司だけでなくラーメンも。いや、小籠包なんかが回っていても楽しいかもしれない。いやいや、流しそうめんという回転もあるではないか。
気づけば私の頭の中には幾多の美味しいものが惑星の如くぐるぐる回り続けている。

文・絵小林エリカ
小説家・マンガ家。1978年東京生まれ。アンネ・フランクと実父の日記をモチーフにした『親愛なるキティーたちへ』(リトルモア)で注目を集め、『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)で第27回三島賞候補、第151回芥川賞候補に。光の歴史を巡るコミック最新刊『光の子ども3』(リトルモア)、『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(集英社)発売中。