映画『君は彼方』は、松本さん演じる高校生の澪(みお)が、諦めがちで自信のない自分を変えようともがく姿が、不思議な世界を舞台に描かれています。まず、完成した作品をご覧になっていかがでしたか?
台本を一通り読み込んでお芝居させていただいたんですが、できあがったものを見て初めて、「こういうことを伝えたい映画だったんだ」というのがすごくわかったといいますか。いろんな予想を裏切って、前半のテンションが嘘だったみたいに後半は絶望が描かれていたり、ファンタジーの中にも「人ってこうだよな」と思う生々しいリアル感みたいなものが斬新に描かれていて、いろんな楽しさがある作品だなと思いました。
澪はずっと自分のことをダメな人間だと思い込んで生きて来たと思うんです。映画のポスターにも「変わる」と書いてあるんですけど、変わるだけではなくて、元々本人が持っているものを発揮していくと私は思っていて。誰かを大切に思う気持ちだったり、何かを好きになることによって、本来の自分を知っていくことが描かれているんじゃないかなと思います。
松本さんにとってアニメーションの声優は本作が2作目となりますが、普段のお芝居とはどんなところが違いますか?
普段のお芝居はどうしても外見を変えるのには限界がありますし、自分から出てくるものしかないと感じているんですが、(アニメは)見た目も何もかも違うので、まるっきり別人になりきれる感覚というのは楽しかったですね。
役者さんでも声だけでお芝居するのは難しいと聞きますが、難しさはあまり感じませんでしたか?
感じました。意識して声を出さないと、アニメの画にのっかりづらくて浮いてしまうというお話を監督からも聞いていたので、いつもとは少し違う声の出し方ではあったと思うんです。ただ、監督が「松本さんには役者さんができる間の取り方やセリフのテンポ感を大事にしてもらいたいので、そこまで画の口に合わせようと気にせずに、思うお芝居をやっていただきたい」と言ってくださっていたので、そこに対しての不安な気持ちはなく臨むことができました。
役作りなど、何か準備されたことはありましたか?
収録前に監督とリハーサルみたいなものを一対一でさせていただいて、監督の思いや、澪ってこういう人だよね、というお話はしました。元々私も澪のように、自分に自信を持てなくて、すぐ諦めてしまうようなところはあって。高校時代などは特に感じていたものだったりするので、共感できる部分もありました。話していくうちに、自然と役作りができていたのかなと思います。
共演者の方と作品や役に対して話し合ったりはされましたか?
瀬戸(利樹)さんとは初対面で幼なじみの役(新役)なので、収録前に監督の演出で即興芝居のエチュードを二人でやったり、お昼時間には一緒にお弁当を食べたりしました。「何が好きなんですか?」とか、本当に初対面の人同士の会話をしたりして(笑)。話しやすくて、ナチュラルな方なので、自然と距離は近づけたかなと思いますね。
声優の方々がとても豪華ですが、見ていて印象的だった方は?
森おばあちゃんを演じた夏木マリさんは、声だけであの包み込む優しさを表現できるところはすごいなと思いました。(澪の母親役の)仙道(敦子)さんも夏木さんも、監督が言う「役者さんにしか表現できない、セリフの言い回しや間の取り方」になっていて、すごく面白いなと思いました。声優さんとは違うだろうなということは感じましたね。
本作は池袋が舞台になっていることも特徴ですが、池袋に思い入れはありますか?
あまり行ったことはないんですが、好きなドラマ『池袋ウエストゲートパーク』の舞台だったので、池袋に行って「ここが舞台になったところなんだ」と思ったことがあって。なので、今回この映画を見て、誰かにとってそういう作品になったらすごいなというのは感じましたね。
映画には池袋の実在のスポットがいくつか出てきますが、実際に行った場所はありましたか?
サンシャイン水族館は収録前に一人で行きました。澪の好きな場所だったので、行ったことないし見ておきたいなと思って行きました。(アフレコするにあたり)自信につながりました。
澪が迷い込む世界“世の境”は、その人の“思い出”がモチーフになっていました。澪の場合は池袋でしたが、松本さんだったらどこでしょうか?
やっぱり地元の大阪ですね。学生時代ずっと大阪で過ごしてました。
地元で思い入れのある場所といえば?
最寄り駅のパン屋さんとかショッピングモールにはよく行っていました。
ちなみに、旅行はよくされますか?
好きですが、あまり行けるタイミングがなくて、全然してないですね。お仕事で行くぐらいです。最近は京都に撮影のお仕事で行っていて、やっぱりいいなと思いました。お仕事で行っている時は観光もあまりしないので、プライベートでまた行きたいなと思います。
これまでに行って思い出に残っている場所というと?
広島ですね。(『この世界の片隅に』の)役のために行かせていただいたんですが、戦争の歴史であったり、実際体験された方に直接お話を聞けたりする機会があったので、すごく印象に残っています。広島焼きをいただいて、とてもおいしかったです。
では、今後行ってみたいと思う場所はどこでしょう。
東北の、福島に行きたいですね。福島出身の女の子の役(『ひよっこ』)をやったことがあるんですが、私自身はまだ行けたことがないので。小名浜あたりに行ってみたいなと思いますね。海外なら、オーロラは一生に一回は見てみたいなと思っています。寒いところに行きたいです。寒い方が苦手なんですが、なんとなく旅先では暑いより寒い方がいいなあって(笑)。