俳優 村上虹郎
女優 芋生悠
“梅や神社の朱色が
印象に残っています”(村上)
“和歌山じゃないと撮れない
シーンばかりでした”(芋生)
和歌山県を舞台にした映画『ソワレ』で
W主演を務める村上虹郎さんと芋生悠さん。
役者として信頼し合うお2人が
撮影を振り返りながら、お互いの印象や
ロケ地での思い出などを語ってくれました。
取材・文/小林未亜(エンターバンク)
撮影/島本絵梨佳
ヘアメイク/村上虹郎:橋本孝裕(SHIMA)、芋生悠:YOUCA
スタイリング/村上虹郎:望月 唯、芋生悠:末吉久美子

【村上虹郎】
LAD MUSICIAN/LAD MUSICIAN HARAJUKU、Paraboot/Paraboot AOYAMA

【芋生悠】
BELPER、AOI WANAKA、furuta、EL PRODUCTS、RANDA

映画『ソワレ』が初共演だそうですが、撮影前や撮影を通して感じたお互いの印象を教えてください。

芋生 撮影前の印象は、オーディションで初めてお会いしたんですけど、すごく魅力的な目をされている方だなと思って。あと、本当にまっすぐな表現をされる方だなと思いました。

映画を撮っている間は、現場の座長みたいな感じだったので、その責任をちゃんと担ってくれていて、なおかつ、ぎすぎすした雰囲気を絶対に作らず飄々とされていました。大変なシーンの前でもそのスタンスは変えないので、すごく安心感があって信頼できましたね。

村上 最初にオーディションでお会いして、そのあとに豊原(功補)さん演出の舞台(2019年の『後家安とその妹』)を拝見して、それから現場だったんですけど。その3つの場面で共通して、力強いという印象を受けたんですよね。身体的にも表現としてもそうですし、さっき「(魅力的な)目」とおっしゃってくれましたけど、それはお互い様で。

(芋生さんが演じる)タカラは、自発的に行動する人間じゃないけど、凛とした強さは持っていて、いろんな表現の仕方があるキャラクターだと思うんです。それってすごく繊細で難しいと思うんですけど、オーディションの時から、難なく表現されているように見えました。

拝見した舞台も、共演されていた大先輩たちの中でも、存在感があってかっこよかったです。現場に入る時には心配もなく、「頼みました」みたいな感覚でしたね。信頼できる方だなと思います。

『ソワレ』は、お2人が演じる翔太とタカラの関係性が肝になっていると思いますが、その関係性を作り上げるために何かしましたか?

村上 話したことがなかったので、クランクインする前に監督と3人で一度ご飯に行きました。新宿のご飯屋さんで、いろいろと雑談して。

芋生 そうだったね。

村上 和歌山に向かう電車でも、前日に監督伝いで「ご一緒していいですか?」と言っていただいたので「ぜひぜひ」って。そこでだらだらとしゃべったぐらいですね。それ以降は現場に入ったので、タカラと翔太が逃げる瞬間まではあまり会う機会もなく、お互い「いるなあ」みたいな。

芋生 「あ、いるなあ」ってね(笑)。

映画を拝見して、お2人の作り上げる世界観に終始引き込まれました。演じていて、「これはすごいシーンになる」と思うことはありましたか?

芋生 撮影中は、手ごたえみたいなのは、いちいち感じられなかったんです。でも、橋の上で村上さんが独白するシーンでは、村上さんが演じる翔太の思いが、目とか言葉とか、すべてから伝わってくるというか。いろんな悔しい思いをして、いろんなものを見て来た目をしていて、そこから受け取るものがたくさんありました。今でもあの時の村上さんの表情がずーっと残っています。

村上 表情つながりだと、ネタバレになるのであまり言えないですけど、2人が逃げる時のタカラの表情ですね。表現しがたいですけど、鬼とかそういう感じの表情で、(タカラが)憑依していましたね。

そんなお2人の細かい表情も注目ですね。また今回、豊原功補さんと小泉今日子さんがプロデュースを担当されていますが、現場でプレッシャーなどはありませんでしたか?

芋生 プレッシャーはまったくなくて、むしろいてくれるとすごく安心するというか。その直前に一緒にやった舞台で、豊原さんにしこたま怒られたので(笑)。

村上 え、何を怒られたの?

芋生 全部……かな。たくさんしごかれて、そこですでに言葉はもらっていたから、今回の現場にいらっしゃる時は特に何も言われなかったんです。その舞台で築き上げた関係性とか、もらった言葉などがあるから、いてくれるだけで安心しましたね。

村上 僕も俳優を始めて2年ぐらいの時に、お2人同時に舞台で2か月半ぐらいご一緒して、その時すでに全恥をさらしていますからね。もちろん、それから数年経って、ちょっと成長を見せないと、みたいなところはありますけど(笑)。でも今回の現場では、お2人は主に車両部として動かれていたので。専属ドライバーかのように現場まで乗せてもらったり。

芋生 (笑)。

村上 車両止めとかもやってくれて。車を止められた和歌山の方も、「え、キョンキョン!?」って驚いていたと思います。逆に目立つからやめて、って言われてましたけど。

物語の背景となる和歌山の景色も印象的ですが、演技するうえで、環境は影響しましたか?

芋生 めちゃめちゃ影響しますね。和歌山の自然とか海とか、地面が湿っていたり、風で揺れる木が騒がしかったり、全部がすごくシーンに合っていて。天候に恵まれていたのもよかったですね。撮影の時は全然意識していないんですけど、あとになって、走っている時の景色とかが走馬灯みたいによみがえったりします。和歌山じゃないと撮れなかったな、と思います。

村上 僕は暖色のイメージがあって。木々の緑や海の青もあるんですけど、物語に関わる梅のイメージと、神社の朱色がすごく僕の中で印象に残っています。今回の映画はほとんど休みがなかったんですけど、そのあとにまた別の作品で和歌山に行く機会があって、その時にたくさん観光しました。先輩俳優とかと一緒に、南紀白浜の三段壁とか温泉とか、最終的には動物園まで行ったので。(芋生さんに)全然行ってないでしょ?

芋生 行ってない! いいなー。

村上 (観光した場所の)すべてがものすごかったんですけど、那智の滝が特にやばかったですね。話せば長くなっちゃうんですけど。

詳しく聞きたいところですが……最後に、お2人の「旅に行きたくなる映画」を教えてください。

芋生 自分がちょっと出ているんですけど、『恋恋豆花(れんれんどうふぁ)』という台湾で撮影された映画ですね。豆花というのは台湾で有名なスイーツなんですけど、それが本当においしくて。台湾の中でも、地域やお店によって味や入っている具材が違ったりするので、その土地のいろんな景色を味わいつつ、豆花巡りをしたくなります。台湾最高です(笑)。

その撮影の時は観光できたんですか?

芋生 実は、私の登場シーンでは台湾での撮影がなくて……行きたかったー(笑)。台湾には修学旅行で行ったことがあるんですけど、その時に同い年の学生さんたちとすごく仲良くなって、今でも連絡を取っているんです。また台湾に行った時は案内してくれるみたいなので、楽しみにしています。早く台湾に行きたい(笑)。

村上 最近、映画は劇場でしか見たくなくなっちゃって、家にいると海外ドラマしか見ていないんですけど……。

海外ドラマでも大丈夫です!

村上 じゃあ、最近見た『ウエストワールド』。映画界のレジェンドであるアンソニー・ホプキンスが初めて出たドラマで、シーズン3になるとヴァンサン・カッセルとか、『ブレイキング・バッド』のアーロン・ポールとかも出てきて。SF的な世界と名前の通りアメリカのウエスタンの世界が舞台なんですけど、正直ウエスタンにはあまり興味がないので見てなかったんですけど、いろんな人に勧められて見たら面白かったんです。

それで、ウエスタンに行きたいというよりは、アメリカに行きたいと思って。アメリカの映画は見るし、ニューヨークには行ったことあるけど、僕はアメリカとちゃんと向き合ったことがなくて。イギリスとか台湾とか東南アジアはいくつか旅しているんですけど、アメリカはあまり知らないから、改めて行ってみたいなと思いましたね。

村上虹郎さんが旅に行きたくなるドラマ

『ウエストワールド』

『ウエストワールド』

<ファースト・シーズン>ダウンロード販売中、デジタルレンタル中
ブルーレイ コンプリート・ボックス12,430円
DVD コンプリート・ボックス10,340円
発売元・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
<サード・シーズン>ダウンロード先行販売中

J.J.エイブラムス製作総指揮、『ゲーム・オブ・スローンズ』のHBO製作によるSFアクションサスペンス。アンソニー・ホプキンスなど豪華キャストも話題。壮大なスケールで作られた西部劇の世界の中で、人間そっくりなアンドロイドたち“ホスト”が人間たち“ゲスト”をもてなす体験型アトラクション“ウエストワールド”。人間たちが欲望のままに遊ぶ日々を繰り返していたが、ホストたちがプログラムにない異常な行動を起こし始める。

芋生悠さんが旅に行きたくなる映画

『恋恋豆花』

『恋恋豆花』

ベラルーシやウクライナ、ロシアなどで映画を撮ってきた今関あきよし監督が、モトーラ世理奈を主演に迎え、台湾を舞台に描いたヒューマンドラマ。大学生活に退屈している主人公・奈央は、父の3度目の結婚相手となる女性と、なぜか2人で1週間の台湾旅行へ行くことに。その旅行では、台湾の魅力的なスイーツやグルメとの出会い、そして思いがけない人々との出会いが待っていた。「家族で台湾に行きたいと思える作品です!」(芋生)
INFORMATION
『ソワレ』©2020ソワレフィルムパートナーズ

『ソワレ』

2020年8月28日(金)より、テアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか全国公開

『此の岸のこと』(2010年)や『燦燦-さんさん-』(2013年)で知られる外山文治監督が、村上虹郎と芋生悠が演じる若い男女の逃避行を描いた物語。豊原功補と小泉今日子の映画初プロデュース作品。俳優を目指すも結果が出ず、犯罪に加担して暮らしていた翔太(村上)は、故郷・和歌山の高齢者施設で演劇を教えることになり、そこで働くタカラ(芋生)と出会う。数日後、ある事件をきっかけに、2人の逃避行の旅が始まる。

監督・脚本:外山文治
出演:村上虹郎、芋生悠、江口のりこ、石橋けい、山本浩司ほか
配給:東京テアトル

Profile
村上虹郎
村上虹郎Nijiro Murakami

1997年3月17日、東京都生まれ。2014年、第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品である映画『2つ目の窓』で主演を務め俳優デビュー。以降、『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)、『武曲 MUKOKU』(2017年)、主演作『銃』(2018年)、『ある船頭の話』(2019年)、『楽園』(2019年)をはじめ、映画・ドラマ・舞台などで活躍。待機作に『燃えよ剣』(近日公開予定)、『佐々木、イン、マイマイン』(11月27日公開予定)がある。

芋生 悠
芋生 悠Haruka Imou

1997年12月18日、熊本県生まれ。2014年、「ジュノン・ガールズ・コンテスト」のファイナリストに選ばれ、翌年女優活動を開始。主な出演映画は『恋するふたり』(2019年)、『左様なら』(2019年)、『37セカンズ』(2020年)、『#ハンド全力』(2020年)など。待機作に『サイレント・トーキョー』(12月4日公開予定)、『HOKUSAI』(2021年公開予定)がある。NHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(2019年)をはじめ、テレビドラマの出演も多数。

あの人の旅カルチャー

今月のテーマ「絶景」 「絶景」をテーマに本と映画の“目利き”が作品をセレクト。
大自然、世界遺産、国内の名所など、絶景のある作品で旅を満喫!

Book

  • 『いますぐ行きたくなる
    物語のある絶景』

    『いますぐ行きたくなる 物語のある絶景』
    由緒を掲示した名所は多いけど、本書はもう一歩踏み込み「この風景はどんな思いによってつくられ、今なお守られているか」がドラマチックに綴られたお話付きの写真集。長岡の花火大会には「世界中の爆弾が花火に置き換わればいいのに」という祈りの物語が、屋久島には「森は話さない。だが、語りかける」という世界遺産になるまでの秘話が添えてあり、極上の眺めがより深く見えてきます。
    細田高広/著
    1,518円/文響社
  • 『タワー 内藤多仲と三塔物語』

    『タワー 内藤多仲と三塔物語』
    日本の三大タワーと言えば、東京タワー、通天閣、そして名古屋のテレビ塔ですが、どれも同じ人物=内藤多仲の設計であることをご存じでしたか? 本書は三塔が出来上がっていく写真や通天閣のネオンサインの変遷など貴重なビジュアルから、内藤が「塔博士」と呼ばれて人々に愛された理由をさぐります。街になじみ、塔じたいが美しく、塔から見た眺めも絶景! タワーに上りたくなる一冊です。
    田中弥寿雄、橋爪紳也/著
    1,650円/LIXIL出版
  • 『日本の星空ツーリズム
    見かた・行きかた・楽しみかた』

    『日本の星空ツーリズム 見かた・行きかた・楽しみかた』
    絶景は昼間ばかりではありません! 本書は星の綺麗な場所に特化したガイドブック。著者は国立天文台の先生で、天体観測に関するやさしいQ&Aや季節の星座のお話がついているのがうれしい。「人工オーロラ発生装置」がある北海道の銀河の森天文台から南十字星が見える波照間島の観測タワーまで、おすすめは地域別に紹介されていて、周辺の観光スポットやおみやげ情報も! 空気が澄む秋に、ぜひ。
    縣秀彦/著
    1,980円/緑書房
間室道子さん 代官山 蔦屋書店

代官山 蔦屋書店に勤める文学担当のコンシェルジュ。雑誌「婦人画報」の連載を持つなど、さまざまなメディアでオススメの本を紹介するカリスマ書店員。文庫解説も手掛け、書評家としても活躍中。

Movie

  • 『世界の中心で、愛をさけぶ』

    『世界の中心で、愛をさけぶ』
    映画としてだけではなく社会現象としても印象深いセカチュー。17歳で不治の病を抱えるアキと、彼女を支えるサクとの初恋は、切ないだけじゃなく猛烈に純度高めでひたすら心が洗われます。映画のラストに印象的に登場するのは、オーストラリアの世界遺産ウルル。先住民族アボリジニの聖地です。10代の頃は、世界の中心とはこのウルルを指すのかと思っていました。でも、大人になって世界の中心とは“自分が今いる場所”なのではと気付きました。シンプルに、今、この瞬間を大事にしようと思えます。
    DVD4,180円 発売中 発売元:博報堂DYメディアパートナーズ・小学館 販売元:東宝
  • 『きっと、うまくいく』

    『きっと、うまくいく』
    閉塞感いっぱいの生活にエネルギーをチャージしてくれる、インドの工科大学を舞台にした、笑って踊って泣けちゃう友情映画です。でも、単なるエンタメで終わらず「なぜ勉強するのか? 成功とは何か?」といった競争社会へのアンチテーゼになっている秀逸な作品。170分の長編だからと観ていない人、損してる! きっと有意義な時間になるはずです。ラストに登場するインド・ラダック地方のパンゴンツォという標高4300mに位置するターコイズの湖の美しい景色は、主人公の清らかな心とリンク。天国みたいな絶景です!
    Blu-ray5,720円/DVD4,620円 発売中 発売元・販売元:ハピネット
  • 『恋におちたシェイクスピア』

    『恋におちたシェイクスピア』
    あのシェイクスピアが恋に落ちたことで『ロミオとジュリエット』が生まれる。演劇の恋と実際の恋が二段構造で重なり合う圧倒的にロマンチックな設定です。さすが世界一の文豪だけあって、美しい言葉遣いのデパートでこちらまで語彙力が磨かれそう。大事な手紙を書く前にも良いかもしれません。さらに演者、衣装、美術、セットといった映画の構成要素の全てが贅沢で、延々と続く目の保養状態に歓喜。シェイクスピアが恋心を告げた、古き良き時代を感じるエレガントなブロートン城にも注目したいアカデミー作品賞受賞作です。
    Blu-ray2,075円/DVD1,572円 発売中 発売元・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
東 紗友美さん 映画ソムリエ

映画ソムリエとして、テレビ・ラジオ番組での映画解説や、映画コラムの執筆、映画イベントのMCなど幅広く活躍。映画ロケ地巡りも好き。日経電子版で「映画ソムリエ 東紗友美の学び舎映画館」を連載中。

※価格はすべて税込みです