浅田政志の宿旅

旅の目的は、あの宿に泊まること―。そんな宿泊体験を切り取る写真連載。第 回は、天井、壁、至るところが日本美に彩られたミュージアムホテル。ここは泊まれる美術館です。
写真家 浅田政志の宿旅
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Vol.15「ホテル雅叙園東京」東京都目黒区

泊まった人は出会えるアート
豪華絢爛な和室宴会場のエントランスはかつて「昭和の竜宮城」といわれた、
旧目黒雅叙園の入口を移築・再現。
宿泊者限定のアートツアーに参加すれば、ここも含めてじっくりと鑑賞できます。
ここから先は別世界
正面玄関から艶やかな美術品が奥へと誘ってくれます。進んだ先には、赤の欄干も美しい「招きの大門」。屋根には縁結びを連想させる棟飾り。くぐった人に、良縁が訪れますように。
客室は静やかな艶やかさ
客室は全60室、すべてがスイートルーム。うち12部屋ある和室は2019年にリニューアル。随所に心遣いが尽くされた客室は静かですが心踊る空間です。
未完の美学
有名な「百段階段」が本当は99段だと知っていましたか?「満つれば欠ける世のならい(物事は盛りに達すれば必ず衰えはじめる)」という故事を踏まえ、完成させないよう99段にしたのではとのこと。東京都指定有形文化財となった今も見学することができます。
アーティスト イン レジデンス
百段階段でつながれた宴室は昭和の終わりころまで会食などで使われており、いまも企画展などで利用されています。創業者の細川力蔵が、目でも楽しませたいと多くの芸術家を住まわせて天井や壁に施した美術は85年以上たった今も見る人の心を奪います。
屋根 in YANE
日本料理「渡風亭」は趣深い茅葺屋根の一軒家。吹き抜けが印象的なアトリウムにあります。
ここだけ時間の流れが異なっているかのような、独特の存在感。どこを見ても驚かされる、それがホテル雅叙園東京の魅力です。
夜空の星以上
館内の装飾はどこも目を引きますが、日本料理「渡風亭」の螺鈿細工は必見。
貝殻の内側の真珠色に輝く部分を磨き、絵図を描く技法です。
日本中の貝殻が集められたのでは、と思うほどどこもかしこもまばゆく、上品な装飾。
芸術家と、それを支えたホテルの熱量に圧倒されます。
このもてなし、国賓級
中国料理「旬遊紀」には現存する最古といわれる回転テーブルがあります。螺鈿細工が美しく、壁面も天井も贅を尽くした装飾で埋められています。驚くべきはこの回転テーブルや個室を現在も利用できること。歴史的価値のある芸術作品を使わせてくれる、雅叙園の懐の深さよ。

ホテル雅叙園東京

前身は料亭で、創業者の細川力蔵が料理に加えて目でも楽しんでほしいと、芸術家たちを招いて壁画や天井画を描かせ、いまの形になったといいます。1935年に建造された東京都指定有形文化財「百段階段」をはじめとして、館内の壁面や天井には美しい装飾が施されています。その数は約2500点にもなるそう。そんな美しい装飾も、訪れた人を喜ばせたいという創業者の思いから。目に見えない形でも尽くされるもてなしに、目だけでなく心も奪われます。

住所 / 東京都目黒区下目黒1-8-1
電話 / 03-3491-4111(代表)
URL/ https://www.hotelgajoen-tokyo.com/
料金 / 1泊朝食付 1室2名 66,000円~

浅田政志
Masashi Asada浅田政志
1979年三重県生まれ。2007年に写真家として独立。2008年、写真集『浅田家』(赤々舎刊)で第34回木村伊兵衛写真賞を受賞。『浅田家』をもとにした映画『浅田家!』が2020年10月2日(金)公開。著書に、『NEW LIFE』(赤々舎刊)、『家族新聞』(幻冬舎刊)、『家族写真は「」である』(亜紀書房)など。国内外で個展、グループ展を精力的に開催している。