人よりカモメが多い無人駅 木村裕子のおもしろ鉄道旅~“カモメの魔術師”編~

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1年で1番寒い2月に突入しました。この時期は、旅好きな私でさえ外に出ることをためらってしまいます……が! どうしても、どうしても! この2月に行っていただきたい、「なに!? このおもしろい駅!」という場所があります。この記事を読めば、きっと寒さよりも「行ってみたい♪」という気持ちが先行すると思いますよ。
カモメを召喚する魔術師がいる

インパクト絶大なこの写真。私がスゴイのではありません。ここに行けば誰でも同じ体験ができてしまうんです。場所は、静岡県の浜名湖付近に半円を描くように走る天竜浜名湖鉄道の浜名湖佐久米駅(はまなこさくめえき)。ホームのすぐ目の前に浜名湖が広がり、毎年11月~3月にシベリアから渡り鳥であるユリカモメが飛来します。
そしてこのカモメたちを呼んだのが、私の隣に写る男性。近くでお寿司屋「笹すし」を営む笹田さんを、私は「ローカル駅に舞い降りたカモメの魔術師」と勝手にお呼びしています。
カモメとの絆のストーリー

いったいどうやってこの大群を呼び寄せたのか? そこには、笹田さんとカモメとの絆の物語がありました。
笹田さんの娘さんは、この無人駅を借りて喫茶店「カトレア」を開いています。そこで余ったパン耳を、笹田さんがカモメに与えたのが全ての始まり。その後約20年間、笹田さんはカモメの来る冬になると毎日40斤分のパン耳をカモメに与え続けたそう。その結果、なんと多い日には約800羽がホームに集まるようになったのです。すると口コミで噂が広がり、普段の1日の乗降客数が20人ほどの小さな駅に、1,200人を超える観光客が集まる日もあるほどに。笹田さんの活動はすべてボランティア。まさにローカル線の救世主ですね。
笹田さんはカモメの見分けが付く

記念写真に「私も入れて♪」とグイグイ映り込むカモメちゃん
さらにすごいのは、カモメを呼ぶことは笹田さんにしかできないということ。実は以前、入院してエサやりができなくなり、アルバイトを雇ったことがありました。代理で1日4回、同じ時間に同じパンを与えていたのに、日に日にカモメの数が減ってしまい、とうとう駅からカモメが姿を消してしまいました。それなのに、退院後に笹田さんがエサやりを再開すると、またカモメたちが戻って来たんです!
笹田さんは「カモメは自分の子どものように可愛いよ。あの子は今年から来た新人。あの子は今年で9年目だね」と教えてくれました。えーっと……私には全く違いが分かりません(笑)。始めたころは警戒心が強くてここまで近くへは寄ってこなかったそう。それが今では「ごはんちょうだい♪」と、観光客の頭に止まるパフォーマンスもしてくれます。長年カモメに愛情を注ぎ、信頼関係を築いてきた証ですね。
最後に木村ポイント!
笹田さんは毎日、10時台と14時台の到着列車に合わせて登場します。もちろん笹田さんがいなくてもカモメはいますが、出現とともに突然増える不思議現象を見たい方は、この時間に合わせていくことをおすすめします。近くにお店がないので、事前に食パンなどを準備して向かってくださいね。