酒旅を楽しくするのは「知識」ではなく「出会い」。酒旅プランナー・岩瀬大二さんに聞いた、日本酒の楽しみ方
近年、雑誌やテレビで日本酒や酒蔵について特集することが多くなり、興味を持つ人が増えてきました。一方で、若い世代の酒離れや、「専門知識がないと触れてはいけないのでは?」としり込みしてしまう、ということもまだまだあります。そこで今回は、『旅色の旅行プラン』で酒旅プランを発信している岩瀬大二さんにインタビュー。専門家である岩瀬さんからアッと驚く知識が出てくるのかと思いきや、「まずは好きになるのが大事」という回答が! 酒旅を気軽に始めたい方、必見です。
写真/魚住貴弘
目次
旅もお酒も、“出会うこと”が好きへの近道
――“赤ちょうちんからレッドカーペットまで”をテーマにされている岩瀬さん。お酒にまつわる数々の活動のきっかけを教えてください。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』を立ち上げたところがはじまりです。そこからワインに興味を持って、さらに日本酒、焼酎、ウイスキー……と広がっていきました。どれも一生懸命な作り手がいて、いろんなシーンで飲み手が楽しんでいる、というのは変わりないので。
――最初はシャンパーニュからだったんですね。日本酒についてのエピソードも教えてください。
富山県にある満寿泉(ますいずみ)という日本酒を作っている桝田酒造店との出会いが印象的です。現当主で五代目の桝田隆一郎さんは、日本酒だけでなくワインやウイスキーにも詳しくて、スコッチウイスキーのリーディングブランド・シーバスリーガルともコラボレーションをされた素晴らしい作り手。彼の日本酒に対する哲学や、地元のまち作りへの思いを聞いていると、いい出会いをしたなと思えたんです。特に印象的だったのは、桝田さんと娘さんとのエピソード。娘さんから「日本酒ってそんなにたくさんの人が飲んでいるわけではないから、お父さんが相手にしている人ってごくわずかな人だと思う。もっと多くの人(若い人)にも飲んでもらいたいなら、ラベルのデザインから変えてわかりやすくしたら?」とアドバイスをもらったそう。そのアイディアを素直に受け入れた桝田さんが新しく作ったのがPeroというお酒。アルコール度数が低く、子どもが見ても親しみやすいデザインです。そんな作り手さんたちのエピソードにこれまでたくさん出会いましたが、聞けば聞くほど、お酒が面白く感じるんです。
小江戸蔵里でも、店員さんとの交流を楽しむ岩瀬さん
――このエピソードはまさに、岩瀬さんが提唱されている「気持ちのテロワール(※1)」ですね。「その地の文化的な背景がそのお酒の背景にあり、そこに気持ちを寄せると、より豊かにその酒を楽しめる」というこの感覚。最初に感じられたのはいつですか?
駆け出しのライターだったころ、シャトー・マルゴー(※2)の70年代物を初めて飲む機会があったのですが、若かったし、ワインも慣れていなかったのでおいしさが分からなかったんです。それで周りの方に、これってどこがおいしいんですか?と聞いたら「勉強しなおしてこい!」と言われてしまって……。お酒を飲むのに勉強が必要なの? と驚いてしまったんです。そのモヤモヤが積み重なっていたころにオーストラリア旅行中に行った、シドニーの港にあったレストランで再びワインを飲む機会ができました。一番安いものでしたが、グリル料理と相性が抜群で! 店員さんたちも「とにかく楽しんで飲みましょう」という雰囲気を出してくれていて。目の前の料理と、窓から見える夕暮れ、店の空気感。これらと一緒にワインを楽しめばいいんだ、って気づかされたんです。自分もテロワールのなかの一員になったような。業界の人たちは「知識がないと」なんていう人もいますが、そんなことは抜きに、楽しめばいいんだ、って思えた出来事でした。
――旅もそうですが、現場に行くことで感じられるものがありますよね。
おっしゃる通りです。お酒の楽しみ方もロケーションが重要だと思うんですよ。楽しい気分のときにいた場所で出会ったもの、おいしいものを食べたときに一緒にいた地元の人とか……。そんなことから旅先のファンになれると思うんです。好きになったことって気づけば覚えているじゃないですか。お酒についてもそうであってほしいと思います。
※1テロワール:ワインやコーヒーなどの農産物が育つ、土地固有の自然環境(気候、土壌、地形、日照、標高など)と、栽培・醸造に関わる人間の技術や文化を総合した概念で、その土地ならではの独特の風味や個性(味わい・香り)を生み出す源泉を指す。
※2シャトー・マルゴー:フランス・ボルドー地方の五大シャトーの一つで、「ワインの女王」と称される最高級の赤ワイン。カベルネ・ソーヴィニヨンを主体とし、優美で「女性的」とも評される華麗な香りと複雑でしなやかな味わいが特徴。
無理に飲む必要はない。けど、「飲まない」を無理に続けるのはもったいない
「のみくらべマシン」での課金が止まらない岩瀬さん
――最近はお酒が苦手な人も増えていますが、そんな人たちにはどんな声掛けをされますか?
一番は「無理するな」です(笑)。昔の日本酒の飲み方ってそんなにかっこ良くはなかったと思うんです。例えば、家でお父さんが野球を見ていて、推しているチームが負けたからやけ酒している、みたいな。日本酒に限らず、やっぱりお酒は楽しくなれる場面で飲んでもらいたので、無理禁止・やけ酒禁止です。特に、落ち込んだとき飲むのはおすすめしません。そういう時に飲むのって生産者にも失礼じゃないかなって思うんです。
――それこそ、マイナスイメージがより広がりそうですもんね……。
もう一つ言いたいのは、「無理に飲む必要はないけど、『飲まない』という考えを無理に続けることはない」ということです。なぜかというと、お酒を通じて広がる世界が間違いなくあるから。例えば、スポーツバーでサッカーを見ていたら外国の方と出会う。そこでビールを分かち合って「いつかこのお酒が作られた、君のホームタウンに行くよ」なんて会話が生まれるかもしれません。こんな出会いを作ってもらうために、お酒に興味を持ってもらえるよう、知識を紹介するのが僕の仕事だと思っています。
――知識は興味を持つきっかけの一つであって、まずは飲みに出かけるのが大事なんですね。
変な話ですけど、もし最初に出会ったお酒がおいしくなかったら、一回諦めてもいいと思います。たまたま、日本酒と相性の悪い料理を食べてしまって気分が悪くなる、ということもあると思うんです。その時は無理しないでいいです。でも、ワインもそうですが、日本酒もいまはたくさんの種類があります。次に出かけた際、例えば広島を訪れて、瀬戸内海の新鮮な白身魚と地酒が出てきたら「すごい! この間と全然違う」と思えるはず。そのくらい、お酒には出会いのチャンスがあります。
――日本酒もですが、酒蔵一つをとっても、いろんな取り組みされていますしね。
酒蔵に行くのも、出会いのチャンスですね。直接「このお酒はどういうものですか」って聞けるし、その蔵で作られているすべてのお酒に出会えますから。なので、小江戸蔵里は素晴らしい施設です。500円で3つまで飲めるというシステムなので、自分で考えて、じっくり味わえるのが良いと思います。
酒旅プランのポイントは“余白”から生まれる出会い
ライターとして活躍している岩瀬さん。小江戸蔵里でたくさんの試飲をしたが、すべて違う表現で感想を教えてくれました。講座当日は酒旅を発信する際のキーワードを聞いてもいいかも
――今、気になる酒旅エリアはありますか?
もう1回、高知を掘り下げたいんです。高知といえば、淡麗辛口でどしっと男前のお酒というイメージですが、いまはワイングラスが合うエレガントなものやさっぱりとしたものなど、種類豊富になっています。例えば、3泊4日でメインをカツオのたたきに絞っても合うお酒が違ってくると思います。昔ながらのカツオのたたきなら、伝統的な高知らしいお酒の司牡丹の船中八策とか。ちょっとおしゃれな創作和食系なら、文佳人とか美丈夫など新しいテイストのお酒をあわせるのも面白い。それらを飲み比べするのは絶対楽しいと思います。
――酒旅の旅行プランを組む際に意識していることはありますか?
ぜひ取り入れてほしいのは、朝から飲むこと。せっかくの旅なんで、普段できないことをしてほしいです。なので、1軒当たりの飲酒量は無理せずに。2泊3日以上のダイナミックなプランの場合は、どこかで旅館に泊まる行程を入れて、お風呂にちゃんと浸かってほしいです。ゆっくりとデトックスするのも大事な要素かと。
――飲むお酒の種類も変えたほうが良いですか?
僕は変えたい派です。ただ、なかなか難しい。朝、昼、夕方、晩、さらにもう1軒行くとすると、ずっと空いているとこってあまりないんです。なので、1軒入ったら常連さんや店員さんに「この時間に空いているところないですか?」って聞くと、ガイドブックでは見つけられない名店と出会えることも。そんな出会いのために、余白のあるプランを作っています。もしお店が見つからなかったら、日帰り温泉に行ったり、酒蔵を訪ねたり、お城からまち全体を見たり……。自分の趣味を織り込むとより面白くなります。
おわりに
酒旅ライターとして活躍する岩瀬さんの原点は「まずは出かけて、好きなお酒と巡り合う」ことでした。岩瀬さん曰く、「居酒屋でかっこいいお兄さんが飲んでいたから」「ラベルがなんだか可愛かったから」でも十分なきっかけになるとのこと。少しでも日本酒に興味があるなら、行動あるのみです。














