「リゾナーレ那須」の中心にはいつも田んぼがあった~施設広報1年目・小川の備忘録~
リゾナーレ那須の最大の特徴は約8,500平米の田んぼが施設内にあること。2018年から稲作をスタートし、今年から田んぼで収穫したお米を「アグリガーデン米」としてビュッフェレストラン「SHAKI SHAKI」にて提供開始。この商標登録は、リゾナーレ那須で田んぼや畑に携わるスタッフにとって、この上ない快挙だった……とのことだが、当時サービスチームにいた私は喜びの盛り上がりを感じていなかった。今年から広報担当となり、お米の取材に立ち会うことが増えたとき、「アグリツーリズモリゾート」を標榜しているリゾナーレ那須で、いまや当たり前の存在となった田んぼを深く知りたくなった。開業時に田んぼと向き合い続けたキーパーソンへのインタビューを通して、理解を深めていく。
photo:村上未知
目次
リゾナーレ那須広報・小川のプロフィール
2016年入社。星のや富士、ホテルWBFグランデ博多を経て2023年12月からリゾナーレ那須へ。お客様のご案内などを担当するサービスチームにいたが、今年3月から広報を担当することに。
最近の楽しみは、リスが松ぼっくりの種を食べ残した通称「森のエビフライ」を探すこと。リゾナーレ那須のアクティビティ「朝の森さんぽ」に参加するお子さんと一緒に夢中で探すうちに、達人級の速さで見つけられるようになった。
想いの伝播とアイディアが止まらない初期
【キーパーソン①】松田直子さん(元・リゾナーレ那須総支配人)
2005年入社。最初の5年間はリゾナーレ八ヶ岳に、続いてリゾナーレ熱海に8年勤務したのち、リゾナーレ那須の開業時の宿泊支配人に。コンセプトワークから考えるため2018年冬から那須で過ごす。現在はリゾナーレ大阪で総支配人を務めている。千葉県出身で海より山派。リゾナーレ那須への移動を決めたのは「海より、山が恋しくなってきたから」
アクティビティを行うおしゃれな小屋も、松田さんが来たときはネズミが走り回る掘っ立て小屋だった
松田さんがリゾナーレ那須に来たのは、開業の1年前。もともとあった二期倶楽部の建物をリニューアルしている最中でした。そのため、今のアグリガーデンの小屋(野菜やハーブを育てる場所)を拠点にしていたそう。
松田「ずっと温暖な気候の熱海に比べると、四季の変化がパキっとしていてすごくドラマチックなところに感動しました。ただものすごく寒いんです(笑)。壁に囲まれているはずなのに凍てつく寒さと那須特有の空っ風を感じました」。
寒さに耐えながら、初代総支配人の中瀬さんと広報担当の東谷さんとともに、リゾナーレ那須の今後を思い描いていたそう。コンセプトであるアグリツーリズモリゾートが目指すのは「自然豊かな那須の風景や農作物に触れる時間を提供する」こと。特に松田さんがこだわったのは「風景」。開業前にワインで有名なイタリアへ視察をした際、目の前に広がるブドウ畑が人々の心を射止めていることを知り、「体験することも大事だけど、こうした原風景を見せることも大事なのか」と気づきます。そのため、リゾナーレ那須の客室はどこからでも自然豊かな風景が見られるのです。
「リゾナーレブランドは自由度が高い! いつか船を宿にした施設を作ってもいいと思う」。松田さんは夢をどこまでも広げていける人
松田「農業をしていたり、野菜を作ったりする時間が豊かに感じるんです。そんな時間の贅沢さを景色からも届けたかったんです」
理想と会社としての判断とにもがくモヤモヤ期
担当カラー・オレンジを任せられている。
【キーパーソン②】小鷹さん(アグリガーデン担当)
開業が落ち着いた頃からアグリガーデン担当(農作業や田んぼや畑を活用したアクティビティの企画運営を行う)の中心にいて、田んぼを使った「お米の学校」や「ファーマーズレッスン」などを担当。トレードマークのオレンジ色のオーバーオールを着て田んぼで先生をしていると思ったら、田んぼで除草作業を黙々とこなし、フロントスタッフとしても現れる、まさに必殺仕事人。現在もアグリガーデンの担当を務めている。
雨の日も風の日も小鷹さんとサルから畑と田んぼを守り抜いた英雄
【キーパーソン③】林さん(元・アグリガーデン担当)
開業時から小鷹さんとアグリガーデン担当の中心人物として働く。目玉アクティビティ「お米の学校」発起人。野菜と仲間への思いがアツく、「スタッフ全員が同じくらい作物に関しての知識を持てるように」と定期的に「アグリガーデンクイズ」を出題していた。実家の果樹園を継ぐため2021年に退職。
小鷹さんと働けて良かったと語る藤井さん、退職時に小鷹さんに宛てた手紙が胸熱ものだった
【キーパーソン④】藤井さん(元・アグリガーデン担当)
林さんのあとを継ぎ、小鷹さんの右腕となり「お米の学校」を担当。田のモニュメントのなかで、自分でおにぎりを作って食べるイベント「田んぼっくす」など独創的なセンスでお客様を楽しませていた。2023年に退職し、実家の米農家をしながら、和歌山県でおにぎり屋を営んでいる。
【キーパーソン⑤】薄井さん(農家)
田んぼの所有者。稲作づくりを引退しようと思っていた時にリゾナーレ那須から声がかかり続けることに。現在も水の管理などリゾナーレ那須のお米を一緒に育てている。寡黙な方だが、メディアでリゾナーレ那須が取り上げられるときは欠かさずチェックしてくれる。
今年も順調に出来上がった稲。那須エリアの中でも遅い10月に入ってからの収穫
リゾナーレ那須で稲作づくりがスタートしたのは2019年。「アグリツーリズモリゾートだからこそ、ゲストに農作物を食べることまで体験してほしい」という構想のもと、敷地内にあった地元農家・薄井さんの田んぼを活用することに。
薄井さんの田んぼでは飼料米(牛や馬の飼料となる米)を作っていましたが、食用のうるち米に変えられないかと初代総支配人の中瀬さんが相談しに行きました。うるち米は飼料米と作り方は変わりませんが、雑草をとったり、収穫までの時間が長くなったり、少し手間が増えます。薄井さんは了承してくれましたが、「無農薬で作る」という提案には顔をしかめられたのだとか。小鷹さんはじめ林さんらスタッフ全員米作り未経験のなか「原風景」を追求し、こだわった米作りをスタートしました。ですが、薄井さんが渋る理由が数か月後に判明することに。
小鷹「初年度のスタッフの除草時間、500時間を超えていたんですよ」
半日集中して除草作業をしても、6面ある田んぼのうち1面の1/10程度しか進まなかったそう。一通り終わっても2~3日すれば新しい雑草が生えてきて、また除草作業……。「もう雑草をとるのがいやだった、諦めたくなった」と40年農家をしている薄井さんも苦笑いしていました。それでも雑草は稲の栄養を奪ってしまうため、心が折れかけながらも除草作業を続けます。さらに大変だったのは、ほとんどのスタッフが稲作の素人だったこと。雑草と稲の見分けがつくまでに3年かかったそうです。
林「レストラン業務前やフロント業務後に除草作業をし、総支配人ふくめ、手の空いたスタッフ全員でやっていたなぁ」
小鷹さんたちが育てた米を初めて食べたのは2019年11月の試食会。総支配人室に置かれた2台の炊飯器の前に多くのスタッフが集まりました。一年間、手間暇かけた努力の結晶を目の前にし、期待で胸がいっぱいだったそう。しかし、食べたスタッフのほとんどがそっと箸を置いてしまいます。小粒で触感が悪く、おいしくなかったのです。料理長からは「お客様に提供できるものではない」と言われてしまいます。その米は使われることなく、総支配人室の隅に積み上げられることに。
林「悔しかったですね。総支配人室にずっと積んだまま、誰も目を向けないようにしていたんです」
二年後にアクティビティ「玄米カイロ」として一部が使われましたが、その後使いきれなかった分を「誰も使わないなら処分して」と指示を受け、小鷹さんたちの手で処分することに。
目標としていたレストラン提供ができないまま、お米作りは翌年以降も続きます。
社内で問題になったのがスタッフの労働時間。特に時間がかかる除草作業の削減が課題になったのです。総支配人だった松田さんも除草作業がどれだけ大変でも、無農薬にこだわることでスタッフたちに農作物への情熱を持ってほしいと考えていました。そのうえで「今年の除草作業は〇時間に収められないか」、「いや~それじゃ間に合わない」といった松田さんと小鷹さんらアグリガーデン担当スタッフたちとの攻防が毎年繰り広げられていたそう。幾度の協議の結果、品種を変え、1面だけ農薬を使う決断をしました。農薬があるかないかで雑草の違いは明らかでした。
「お米の学校で田んぼを訪れた人たちに『右と左の風景が違いますよね。右が日本の原風景ですよ』って農薬を使った田んぼを紹介していたんです。いまでこそ笑い話ですけどね」と小鷹さんは話します。農業に触れるという豊かな時間をスタッフにも感じてほしかったはずが、経営のために農薬を取り入れたことでスタッフが農業に関わる時間が少しずつ減ってしまいました。しかしその反面、収量と味が向上してレストランの一部提供を始めることができました。
藤井「お米の学校に来た人は、『ここで育てたお米ってレストランで食べれるんですよね』って感じだったと思うんですけど、私たちは聞かれないと答えられない状況だった。歯がゆさがありましたね」
価値が顕在化したアクティブ期
【キーパーソン⑤】鈴木さん(元・総支配人)
レストランやバーテンダーとしてのキャリアを積み上げた「食」のスペシャリスト。「リゾナーレ那須のような食材の産地があるホテルなら自分の強みを生かせるのでは」と思い異動。現在はリゾナーレ下関の総支配人。今も食と農を繋ぐことに常に頭を巡らせている。
小鷹さんは鈴木さんのことを「よく散歩している人だった」と話していました。鈴木さんは、「ただ散歩してたわけじゃないよ~」と笑います。歩き周るなかでスタッフの様子を見ていたそう。
鈴木「雨でも作物を見に行き、夏は炎天下のなか汗を流しながら作業する生産者の苦労を知っていました。なので、当時のアグリガーデンスタッフたちからは、やるせなさや悔しさみたいなものを感じたんです」
当時は、米の品種を変え、農薬を使い始めたことで収量は増え、食べられる味になったため、期間限定でレストランでの提供が始まっていました。しかし、食品に関する規定などから「ホテルで採れたお米を使っています」とは言えなかったそう。ゲストには田んぼも案内しているのに胸を張って「うちのお米です」と言えないやるせなさと、農作業時間の短縮などから稲作をやる理由が分からなくなるほどのフラストレーション。そんな負の感情の連鎖を起こしていたスタッフたちの行動を目に見える形で成果に繋げてあげたいと鈴木さんは考えていました。
そこで思いついたのが「産地登録」をすること。もっと米のPRをして、米の価値を上げられれば。「自分たちのお米はホテルで作っています」ということをスタッフが自信を持って言える環境を目指したのです。産地登録に向けて動き出した2024年にはお米の収穫量は2,000キロを突破。施設で一年間提供するために必要な量を満たしていました。「これいけるぞ」と社内申請やマニュアル作成などを行い、構想からわずか3か月ほどで産地登録を実現。
アグリガーデン米は、甘みが強いのが特徴。
今年の新米は11月頃から「SHAKI SHAKI」で提供予定。今年の冬にはコース料理を提供する「OTTO SETTE NASU」でも登場します。これでリゾナーレ那須に宿泊するすべてのゲストにお米を届けることができるようになりました。
さいごに
部屋からぼんやり眺める田んぼの景色。
インタビューのなかで鈴木さんが「リゾナーレブランドの良し悪しを決めるものさしは、楽しいか楽しくないかだ」と語っていました。リゾナーレは、イタリア語で「共鳴する、響き合う」という意味です。インタビューを通して、リゾナーレ那須で快挙といわれる田んぼで収穫したお米の産地登録は、アグリガーデン担当が共鳴をし始めたきっかけだったのだと感じ、キーパーソンを思い浮かべながら小さく万歳をしました。きっと当時のスタッフたちもそうしたのかなと思って。最近では「OTTO SETTE NASU」のシェフが、アグリガーデン担当に野菜を依頼し始めるなど、レストランスタッフにも共鳴の輪が広がり始めています。私も広報として共鳴の輪の中に入って広めていきたい。今日も田んぼを見て思います。次に私はどんなことを仕掛けようか。
◆リゾナーレ那須
住所:栃木県那須郡那須町高久乙道下2301
TEL:050-3134-8093(リゾナーレ予約センター)
アクセス:東北自動車道那須I.C.より車で約20分、JR東北新幹線 那須塩原駅から送迎バスで約35分













