言葉から解き放たれる旅とは―映画『旅と日々』から感じたこと―

兵庫県

2025.11.21

LINEでシェア
はてなでシェア
pocketでシェア
言葉から解き放たれる旅とは―映画『旅と日々』から感じたこと―

大学生の頃の遠い記憶。 叔母の本棚に偶然つげ義春の漫画『紅い花』を見つけた。小学校で図工を教えていた「光子おばちゃん」は、絵を描く楽しさを教えてくれた人。親には言えないことも相談できる、私にとって大好きな存在だった。ページをめくると現れるのは、山村の静かな日常。『紅い花』には特別なことは起こらない。ただ、淡々と流れる時間が描かれている。そのなんとも言えない印象がずっと心の奥底にしまわれていたようだ。そんな記憶をふっと思い出しながら、つげ義春原作の映画『旅と日々』を見るため映画館の赤いシートに身を埋めた。

目次

閉じる

スクリーンに響いたひとこと

「旅」の日常と「日々」の日常

私の『旅と日々』

スクリーンに響いたひとこと

赤いシートに身を沈め、大きな画面とリアルな音で映画を楽しむ。

どんなストーリーが展開していくのか。

ライターの性なのか、映画を見てもストーリーの起承転結を探ろうと、物語の伏線を必死に探ってしまう。が、映画は淡々と進んでいった。特別な事は何も起きないのだ。日常もきっと、そんなものなのだと思う。生活を続けていくなかで、嬉しいことがあったり、涙をこぼす日があったり、小さなエピソードが生まれていく。途中でそれに気づき、ストーリーの流れに身を任せることにした。するとスクリーンの中の言葉が、静かに胸に響いた。シム・ウンギョンさん演じる李が放った「旅は言葉から離れることかもしれない」。日常生活のルーティンは自分の中で言語化され、「やらねばならないこと」に変わっていく。旅は、その言葉から解き放たれる時間なのかもしれない。

「旅」の日常と「日々」の日常

ひんやりとした土間に光が差し込む玄関。

古民家でのワールドクラスのおもてなし。

そんな旅もあったなあ。と、思い出すのは丹波篠山にある農家民宿 DENでの出会い。城下町から車で約20分。築約150年の農家住宅をベースにしたゲストハウスは、玄関を開けると広がる土間、畳の部屋へと続く空間が、ノスタルジック。日常だけど自分の日常にはない風景だ。タガワさんご夫妻がにこやかに迎えてくれた。夕食は地元食材をふんだん使って奥さんが腕をふるった料理。元国際線ファーストクラスのキャビンアテンダントのタガワさんが洗練された動きで料理を取り分けてくれる。日常の中で、ワールドクラスのおもてなしという非日常も味あわせてもらった。薪ストーブの炎を見ながら交わす何気ない会話も、旅の醍醐味だ。

霧に包まれた里山の秋の風景。

しっとりとした朝の空気が心地よい。

旅で出逢ったユカちゃんが常夜灯に灯をともす。ユカちゃんお気に入りの一枚。

翌朝、部屋に置かれた綿入れを羽織り散歩へ。霧が山から下りてきて幻想的な風景が広がる。冷たい空気が頬にあたって気持ちいい秋の里山だ。夕方には地域の神社で常夜灯を灯す当番に参加。日常だが自分の日常生活とは違う。地域の日常をおすそ分けしてもらうような体験は、言葉に捕らわれた日常から解放されてくれるようだった。そうやって、心に溜まった澱のような感情を浄化させていくのだろう。「あの場所で何を見たい、何を食べたい」という目的を持った旅とは違う。言葉から解放され、地域の日常に身を委ねることで、心の澱がすっと消えていく。戻った日常が軽やかに感じられるのは、その旅のおかげなのかもしれない。

◆農家民宿DEN
住所:兵庫県丹波篠山市小倉342

私の『旅と日々』

鞄にはいつも小さなスケッチブック。旅と日々を書き留める

鞄にはいつも小さなスケッチブック。旅と日々を書き留める

還暦を過ぎて、スケッチを始めた。旅の記録から日々の小さな出来事を小さなスケッチブックに書き留めていく。2冊目の表紙に『旅と日々』のステッカーを貼った。ここには言葉から解放された絵を描いていきたいと思っている。ただ、目にした風景や感じた空気をそのまま描く。

映画『旅と日々』公式HPはこちら

Related Tag

#兵庫県 #映画レビュー

Author

出逢い旅 ふみこ

出逢い旅出逢い旅

ふみこ

山口県出身。神奈川県在住。 平日は会社員。週末は全国通訳案内士(英語)。史子の名前のとおり歴史好き。交流が旅の醍醐味と、出会った方とおしゃべりを楽しむ。料理好きで、地元のお茶、塩、味噌はマストバイ。自宅で旅の余韻を楽しんでいます。

Articles

出逢い旅 ふみこ

【兵庫県】日本人も外国人も一緒に楽しめる城崎温泉の魅力

出逢い旅 ふみこ

【東京谷中】朝倉彫塑館どおりの静かな時間——寺町でこだわりの手仕事をたのしむ

出逢い旅 ふみこ

【長崎県】邦久庵で地元の暮らしにふれる、もうひとつの旅のかたち

New articles

- 新着記事 -

熊本県山鹿(やまが)の 「不動岩」で、新年の誓いを“不動”にする新春開運旅【巨石パワースポット探訪記】
  • NEW

熊本県

2026.01.14

熊本県山鹿(やまが)の 「不動岩」で、新年の誓いを“不動”にする新春開運旅【巨石パワースポット探訪記】

トレンド旅 おんり

おんり

トレンド旅

【2月8日締切】お酒を通して“自分だけの物語”を醸す「ちゃんと旅を考える学校」第2期開講
  • NEW

全国

2026.01.10

【2月8日締切】お酒を通して“自分だけの物語”を醸す「ちゃんと旅を考える学校」第2期開講

tabiiro 旅色編集部

旅色編集部

tabiiro

大人も子どもも楽しめる! 2026年行きたい学びのスポット4選
  • NEW

全国

2026.01.10

大人も子どもも楽しめる! 2026年行きたい学びのスポット4選

大人の社会科見学旅 さっか

さっか

大人の社会科見学旅

【青森在住のJALふるさとアンバサダーが教える!】絶品グルメ満喫!下北・津軽半島1泊2日ドライブ旅のおすすめ
  • NEW

青森県

2026.01.09

【青森在住のJALふるさとアンバサダーが教える!】絶品グルメ満喫!下北・津軽半島1泊2日ドライブ旅のおすすめ

JAL JALおでかけ便り

JALおでかけ便り

JAL

【福井・三国湊】風を待つ町で、文化の層を歩く旅

福井県

2026.01.03

【福井・三国湊】風を待つ町で、文化の層を歩く旅

フォトエッセイ リリ

リリ

フォトエッセイ

【体験レポート】鬼と共に一昼夜、吉野山で過ごしてきた。日本で唯一の金峯山寺の「節分会・鬼の祭典」について

奈良県

2026.01.02

【体験レポート】鬼と共に一昼夜、吉野山で過ごしてきた。日本で唯一の金峯山寺の「節分会・鬼の祭典」について

旅色LIKES メンバー

メンバー

旅色LIKES

More

Authors

自分だけの旅のテーマや、専門的な知識をもとに、新しい旅スタイルを提案します。

トレンド旅 おんり

トレンド旅トレンド旅

おんり

tabiiro 旅色編集部

tabiiro

旅色編集部

大人の社会科見学旅 さっか

大人の社会科見学旅大人の社会科見学旅

さっか

JAL JALおでかけ便り

JAL

JALおでかけ便り

フォトエッセイ リリ

フォトエッセイフォトエッセイ

リリ

旅色LIKES メンバー

旅色LIKES旅色LIKES

メンバー

歴史旅 長月あき

歴史旅歴史旅

長月あき

出逢い旅 ふみこ

出逢い旅出逢い旅

ふみこ