音と景色が呼び覚ます、私の旅の記憶
映画「旅と日々」を観て感じたことを、過去の旅を振り返りながら綴ると共に、映画のロケ地でもあり、私の憧れの島である神津島についても少し紹介します。自分にとって、旅とはどんなものか、思いを馳せながらご覧いただけたら幸いです。
目次
懐かしい―映画「旅と日々」を見て感じた感覚である。「旅」とは非日常の世界だと思っていたけれど、その懐かしさが相まって"旅も日常の中の一場面に過ぎないのかもしれない"そんな風に思わせてくれる、不思議な作品だった。主人公である脚本家の李(シム・ウンギョン)がスランプに陥って、カメラ片手に目的のない旅へ衝動に駆られてでかけたくなる気持ちに妙に共感できた。
ふと過去の自分の旅を思い出すことが多かった。懐かしい過去の思い出を振り返ってみよう。
思い付きの一人旅
2回目の一人旅がまさにそんな旅だった。「日光に行こう」と思い立って電車に乗って、行きの電車で宿を取る。「さぁ、着いた。ここからどうしようかな」と駅に着いてひとまず深呼吸して周囲を見回してみる。既に陽が落ちていたので、思ったよりも人通りが少ない。誰かにつられて歩くことは諦め、地元の人が通う食事処に入った。常連だというお客さんと、ちょっと緊張しながらの乾杯。お互いの身の上話をする頃にはすっかり打ち解けて、ちゃっかりお酒やおつまみをごちそうになる。計画しない旅での偶然の出逢い……これぞ旅の醍醐味というものだ。
作品の中でも、全く想像していなかっただろう出逢いの後、最初の少し緊張した姿から、会話がリズミカルになって表情に色がついていく様子が自然で、自分ももしかしたらこんな感じだったのかもしれないなと思い出しながら頬が緩んだ。
少し二日酔いの翌日、定番の観光スポットをまわった後は、散歩を楽しむ。ふと見つけた喫茶店で、名物のカレーをゆっくりいただく。一口ずつじっくり味わいながら食べると、いつもよりも味を繊細に感じられたような気がした。誰かと「美味しいね」と話したいなとソワソワもしながら、穏やかだけどちょっと寂しくも感じる時間を過ごした。食べたものの味やお店の雰囲気、感覚をしっかり記憶できているのは、それだけ感覚が研ぎ澄まされていたからかもしれない。
音を合図に映画の世界に引き込まれる
この映画で印象的だった、音。この作品では、本当に必要で最低限の音しか流れない。余計な情報が入らないからこそ、聞いたことのある音に、自分の体験と重なって没入感が得られた。
映画の舞台の一つとなった神津島(こうづしま)。この島をまだ訪ねたことはない。しかし、仕事終わりに船に飛び乗って、たびたび島を訪ねていた私には、島のシーンは特に懐かしさを感じるものだった。穏やかな波の音、台風が近づく頃のゴーゴーという風の音、枝を踏んだ時のパキッとなる音。その音をきっかけに、過去に見た景色にワッと引き込まれてリンクしたのか、一瞬にして自分がその場にいるような感覚を覚えた。潮のかおりまでしてきそうだった。
定期的に自然の中に身を投じたくなる。それはきっと、映画を見た時にも感じた、その場の空気に包み込まれるような感覚が心地よいからなのだと思う。
もう1つの舞台は山形県庄内。夏の景色とはうってかわって雪深く積もる地域。このシーンでも私が思い出した景色がある。きっかけは、劇中で雪の中を歩く際に聞こえた、雪がぎゅっ、ぎゅっと軋む音。私が冬の美瑛で聞いた音でもある。自分たち以外に誰もいない雪の中を歩くと、シンとした世界に自分たちの息の音と雪を踏む音が響く。時に鳴く鳥の声に、人間が自然の世界に“お邪魔している”ように思えた。
美瑛の旅と言えば、もう1つ懐かしい音がある。早朝に響く、トントンという音だ。カーテンの隙間からうっすら差す光で目が覚めると、隣の部屋から朝食を準備する音が聞こえる。テンポよく野菜を切る音、ジューっとなにかを焼く音、ドアの隙間からふと流れる焼き立てパンの香り。これだけで幸せな気持ちになれた。
劇中でも李が目を覚ますと、朝早くから忙しく働くべん造(堤 真一)の姿を見て、本当に宿屋だったんだなと思うとともに。また懐かしい気持ちになった。
さぁ、次の旅へ
神津島観光協会発行の「旅と日々」ロケ地マップには、三宅唱監督らのインタビューも掲載
過去の旅を懐かしく感じたのと同時に、私も旅に出たくなった。候補に真っ先に浮かんだのは映画の舞台、神津島。美味しい魚、美しい星空や海が有名だが、他にも見どころがたくさんあるらしい。
神津島が作成した映画のロケ地マップには、どのシーンでどの場所が使われたか、詳細に紹介されているだけでなく、グルメや観光のおすすめまで掲載している。
ロケ地巡りはもちろんのこと、「赤崎遊歩道」でエメラルドグリーンに輝く海で泳ぎ、「Hyuga brewery」でクラフトビールを片手に地元食材を使った料理を堪能し、渚役を演じた河合優実さんもお気に入りだという「ありま展望台」で寝転がりながら星空を眺めたい。
さいごに
私にとっての「旅と日々」について考えてみた。
なんの目的もない、ちょっとした旅でも、そこで出会った人たちや見た景色、音の記憶は確かに自分の中に残っていて、心を豊かにしてくれる気がしている。旅に出る機会が増えるごとに好奇心は増したと思うし、日々がカラフルに感じるようになった。またどこかに行きたいなと思えば、つらいことでも頑張れる。”旅”と”日々”はとても近いところにあると改めて気づいた。
これからも、私にとって旅は日常であり、日々の生活に必要なものであり続けるだろう。

















