【東京谷中】朝倉彫塑館どおりの静かな時間——寺町でこだわりの手仕事をたのしむ
週末は通訳案内士として東京を中心にガイドしている旅色LIKESライターのふみこです。外国人ゲストによくリクエストされるツアーの目的地は浅草、明治神宮、渋谷スクランブル交差点など。最近は谷中に行ってみたいとのリクエストが増えている。なんでも、昔ながらの観光客向けではない地元店が集まる谷中銀座で日本の日常を味わいたいとか。実際にガイドを始めてみると、あちこちにお寺が点在する寺町に、地元のカフェ、手仕事の店などが集まり、街歩きが楽しい地域であることに気づいた。今回は東洋のロダンといわれる朝倉文夫のアトリエ兼自宅あとの朝倉彫塑館どおりを歩いてみた。
駅から風情ある寺町へ
「御殿坂」、名前から風情がある。
JR日暮里駅西口にでると、目の前には御殿坂が。五代将軍・徳川綱吉の母である「桂昌院(けいしょういん)」の広大な屋敷がこの付近にあったことが名前の由来とか。なるほど風情がある。坂の両側に植えられた木々の緑に癒されながら谷中霊園を左手に緩やかな坂を登っていくと、点在するお寺の山門が視界に入ってくる。この付近は江戸城(現:皇居)から見ると鬼門に当たる北となる。江戸の町を守るために寛永寺が建てられ、それを中心とした寺町となっていったとか。現在でも70以上の寺院がある。この先が人気の観光スポット谷中銀座になるのだが、今回は、三つ目の道を左に曲がり朝倉彫塑館通りへ。
日常生活をおくる街に溶け込む朝倉彫塑館通り
この通りは観光客もまばらで、普段の日本の生活が味わえるよう。曲がり角を一つ二つと過ぎてゆくと、やがて左側に、黒い木塀と重厚な門構えの建物が左手に見えてくる。「朝倉彫塑館」だ。明治時代後期から昭和時代中期にかけて活躍した、“東洋のロダン”といわれる彫刻家・朝倉文夫の旧邸を活用した美術館。早稲田大学の「大隈重信像」や美術の教科書にでてくる「墓守」など、名前は知らなくてもその作品にはどこかでお目にかかっているはず。中庭やアトリエも見学でき、暮らしのなかでの芸術を味わえる。前庭に飾られた作品を見ながら、ふと上を見上げると屋上から見下ろす彫像が。「あれはなんだ。」とワクワクしながら、玄関で靴を脱ぎ、朝倉邸へお邪魔する感覚で入っていく。
暮らしと芸術が隣り合わせの芸術家の住まい「朝倉彫塑館」
玄関から代表作が並ぶアトリエへ。天井は約8.5mと高く、窓枠が木製の大きな窓から自然光が入ってくる。光と影を感じながら名作が製作されたのだと思いながら、空間を楽しむ。壁が本で埋め尽くされ、天井までぎっしりと並んでいる書斎へ。そこを抜けると、趣のある木造の住居部分。池に鯉が優雅に泳ぐ中庭を囲むように、ガラス戸の廊下が静かに伸びている様子から、朝倉彫塑館ができた昭和初期の空気感を感じる。2階へ上がると、畳敷に床の間、障子のある「朝陽の間」。日本の伝統的な空間に、作品が違和感なく溶け込むように置かれていて、障子越しに差し込むやわらかな光が心地よい。蘭を栽培のための温室だった「蘭の間」にもさりげなく作品が。光があふれるこの部屋にある作品はまた違った表情だ。最後は屋上庭園へ。今でこそビルの屋上緑化は当たり前だが、当時としては革新的な試みであったに違いない。訪れる人を見下ろしていた彫像が、砲丸投げの選手をモチーフにした『砲』という作品だと知る。近づいてみると、背中の筋肉が緊張し、まさに砲丸を投げようとする瞬間の躍動が伝わってくる。1924(大正13)年に制作。100年近くもの間、変わりゆく東京の風景を静かに見つめ続けてきた。なぜだか、ノスタルジックな気持ちに襲われた。写真撮影の場所が限られているので、記事ですべてのものを見せることができない。是非、足を運んでみては。
◆朝倉彫塑館
住所:東京都台東区谷中7-18-10
電話:03-3821-4549
営業時間:9:30~16:30 (最終入館16:00)
定休日:月・木曜日※祝日の場合は翌平日
小さな看板に導かれて「自分だけの一足」に出逢う「ブルービー」
通りを歩いていると、道端に小さな看板を発見。カラフルな靴の写真と「履き心地の良い 手作り靴」の文字が。 内反小趾(ないはんしょうし)で小指が靴に当たり痛みに悩んでいた私は、その看板に導かれるようにお寺に向かう裏路地へ。そこにあったのは、小さな靴工房「ブルービー」。見過ごしてしまいそうなほど控えめな佇まい。小さな工房には靴用の革や道具が所狭しとならび、革独特の匂いが漂う。代表のサチエさんと職人のオオタさんが黙々と手を動かし、靴を作っている。この瞬間、「この人たちに靴を作ってもらいたい」という思いにかられた。
まずは、足の測定から始まる。「お客様にそれぞれ足のサイズ、デザインや色の好みが違うため、ご希望に少しでも近づくような靴づくりを目指しています」とサチエさん。次に選ぶのは木型。そして革、ステッチの糸、靴紐まで自分で選べる。21cmと極小の足を持つ娘・ノリコは、自分に合う靴がないのが悩みの種。早速、コンビの革靴を選択。ベースを濃いブルー。トップを白にするかアイボリーにするか悩みに悩んでアイボリーを選択。そしてステッチの方法と色、靴紐と選ぶ楽しさは尽きない。「あれやこれや悩んでいる時間も楽しんで欲しいんです。」とサチエさんは小さな悩みにも根気よく付き合ってくれる。オオタさんは、ステッチの入れ方を丁寧に説明してくれる。どの糸がどこに現れるのか細部まで教えてもらい、自分だけの靴が形になるイメージが自然と湧いてくるから不思議だ。オオタさんは「靴づくりはどこまで行っても難しい。だから続けられるんです。」と新しい靴のデザインに余念がない。木型に合わせてまずは縫製し、その後のフィッティングで自分の足にぴったり合うように調整してもらう。完成まで約6週間。どんな「自分だけの一足」ができるのか、楽しみだ。
◆ブルービー
住所:東京都台東区谷中5-8-21
電話:03-5834-7843
営業時間:10:00~17:00
定休日:月曜日
手仕事で本と過ごす時間をもっと素敵に「旅するミシン店」
またまた、目を引く看板を発見。ポップなイラストに誘われて店内に入ると、手作りのブックカバーが所狭し並んでいる。店長のナナセさんが会社勤めをしながら、息抜きに手作り市でバックを販売したのが始まり。あるとき、偶然ブックカバーの作り方を知り、試しに販売してみたところ、予想以上の反響があったそう。 それをきっかけに、今ではブックカバーをメインに制作するようになったという。リバーシブルのブックカバーの表には味があってかわいい動物のイラストが、裏側にはそれぞれ違った個性的な布が使われており、選ぶのが楽しい。イラストは、ナナセさんが生み出したお店オリジナルのキャラクター。 なんと、消しゴムはんこで一つひとつ丁寧に印刷しているそう。 その素朴な風合いが、なんとも言えない味わいを醸し出している。ブックカバーは日本独特の文化だそう。お店に立ち寄った外国人観光客のためにペーパーバックサイズのブックカバーの販売している。お気に入りのペーパーバックを、ボロボロになるまで読み込むという人も多く、カバーをつけることで何度読んでも綺麗なまま保てると好評なのだとか。
◆旅するミシン店
住所: 東京都台東区谷中7-18-7-1F
営業時間:11:00~17:00
営業日:土・日曜日、祝日
※不定休のため営業日時は公式HPでご確認を
パリの風を感じる、古民家の鞄店「BOHÈME PLUS BEAUDESSIN」
今度はパリの街角とおもわせるほどのひときわオシャレな看板を発見した。横文字の看板に導かれてたどり着いたのは、なんと趣ある日本の古民家。赤い暖簾をくぐると、そこにはセンスに溢れた鞄が並んでいる。店主のイクシマさんはパリが大好きとのことで、「BOHÈME PLUS BEAUDESSIN」という店名もフランス語だとか。オリジナルブランドを、40年以上にわたりデザインから素材選びまで手がけてきたという。さらに、すべての製品がどの職人によって、どのように作られているかを把握しているとのこと。 ブランドの魅力を直接伝えたいという思いから、今も店頭に立ち続けている。出勤用にPCの入る鞄を探していた私がイクシマさんと相談しながら選んだのは、キャンバス地と革のコンビが美しい、丈夫な一品。 内側にはオリジナル生地が使われ、細部まで丁寧なつくり。PCの重さで取っ手が外れてしまっても修理対応してくれるという安心感も嬉しい。お気に入りの鞄を長く楽しめそうだ。
◆ボエム(BOHÈME PLUS BEAUDESSIN)
住所: 東京都台東区谷中7-17-9轟天01
電話番号: 03-5842-1048
営業時間:11:00~18:00
基本営業日:月・火曜日 ※祝日は営業
寺町の魅力とは
築地塀。寺町ならではの風情が漂うフォトスポット。
昔の街並みが残る寺町を歩いてみると、思いがけない発見がある。ブルービーのサチエさんは「賑わっている場所があると思ったら、路地に入ると落ち着ける空間があって、足を運ぶたびに新たな発見があります」と谷中歩きの楽しさを語ってくれた。旅するミシン店のナナセさんは、「谷中はアートだけでなく、文学の街でもあるんです。」一箱古本市と呼ばれる、段ボール一箱分程度の古本を持ち寄るフリーマーケット型の古本市は谷中が発祥とか。歴史小説をかかえて街歩きを楽しむのも一興かも。BOHÈME PLUS BEAUDESSINのイクシマさんは「大人の街ですよ。こだわりの詰まったお店を探すのもたのしいですよ」。アートや文学、静けさと賑わいが共存する谷中。自分の“好き”に合わせて、ふらりと訪れてみては。
















