異国情緒あふれる城下町・平戸の歴史を歩く一日さんぽ
歴史や伝統に触れる旅が大好きな旅色LIKESライター・長月あきです。今回は、6月に行われた旅色LIKESライター・おんりさん主催のイベント「長崎さるく」参加後に一人で訪れた平戸のまち歩きをご紹介します。日本で最初に西洋貿易が行われた地で、異国情緒あふれる城下町の歴史さんぽを満喫できました。
目次
大航海時代を伝える平戸オランダ商館
前日に泊まっていた佐世保から約1時間半、路線バスに揺られ、平戸桟橋バス停へ。目の前にある、平戸市観光交通ターミナル内の観光案内所でまち歩き用の地図をもらい、いざ出発です。海沿いの遊歩道から、海の向こうに平戸城の模擬天守が見えて、初っ端からわくわく。
平戸オランダ商館は、1609(慶長14)年にオランダ東インド会社(※1)が江戸幕府から貿易を許可されて開いた東アジアでの拠点です。しかし、鎖国が厳しくなった1641(寛永18)年、拠点は長崎・出島へ移され、平戸の建物は取り壊されました。現在見られる建物は、1639(寛永16)年に建てられた石造倉庫を2011(平成23)年に復元したものです。
館内は当時の建築様式を忠実に再現し、オランダとの交易を物語る品々や史料がずらりと並びます。商館の歴史を紹介する映像もわかりやすく、かつての自由で活気ある交流の雰囲気を感じられます。また館内のショップでは、平戸が海外交易でにぎわっていた頃に取り引きされ、焼酎のルーツともいわれる「アラク酒」など、平戸ならではのお土産を購入できます。商館周辺には、オランダ塀(※2)やオランダ井戸(※3)といったスポットも点在し、当時の面影を感じながら散策できます。
※1オランダ東インド会社:1602(慶長7)年創設。17~18世紀にオランダのアジア貿易を独占した、世界最初の株式会社。
※2オランダ塀:オランダ商館の塀の一部が残っている民家の前の通りから、山手に登る石段の坂道に沿っている石塀のこと。
※3オランダ井戸:オランダ商館跡近くにある大小ふたつの石枠を組み合わせて造られた井戸で、オランダ商館関係者が使用した。二つの井戸は中でつながっており、大きな井戸は屋外からの水汲み用、小さな井戸は商館の屋内から調理等に用いたものだと言い伝えられている。
高台に歴史を刻むザビエル記念碑と三浦按針の墓
ザビエルの記念碑には、エルサレムを遠く望むかのように、彼の胸像が刻まれている
オランダ塀を眺めながら坂道を上っていくと、フランシスコ・ザビエルの記念碑が立つ崎方(さきがた)公園に到着。ザビエルは日本で最初にキリスト教を広めた人物として知られ、約2年の滞在中に平戸でも布教活動をしていました。
三浦按針の墓
さらに5分ほど歩くと、徳川家康の外交顧問として活躍したイギリス人・ウィリアム・アダムス(日本名:三浦按針(あんじん))の墓が見えてきます。平戸にオランダやイギリスの商館ができた背景には、彼の働きがあったといわれています。晩年は平戸で過ごし、ここで亡くなったのだとか。現在の墓は1954(昭和29)年に建てられたものです。墓のある崎方公園は高台に位置し、平戸の町並みや港を一望することができます。
◆崎方公園
住所:平戸市大久保町2529
「松浦史料博物館」で藩主の歴史に触れる
次は、平戸藩主・松浦家の資料を公開する松浦史料博物館へ向かいます。道中には、貿易が盛んだった時代に植えられたという大きなソテツや、明の商人が明式で築いたと伝わる六角井戸など、当時のにぎわいを感じさせる史跡が点在しています。
博物館は、1893(明治26)年に松浦家の私邸として建てられた鶴ヶ峯邸を活用したもの。館内にはキリシタン迫害に関する史料や伊能忠敬の地図、徳川家康の朱印状、小牧・長久手や長篠の合戦図屏風の模写など、多彩な展示が並び、見応え十分です。
敷地内には武家茶道・鎮信流(ちんしんりゅう/※4)を体験できる茶室 閑雲亭(かんうんてい)も。開放的で落ち着いた空間のなか、お茶とお菓子をゆっくり味わえます。お菓子は「百菓之図」(※5)をもとに復元されたカスドース(※6)と烏羽玉(うばたま)の2種類から選べ、私は黒ごま餡を求肥で包み和三盆をまぶした烏羽玉をいただきました。上品でやさしい甘さが印象的でした。
※4鎮信流:旧肥前平戸藩の4代藩主である松浦鎮信(しげのぶ)が興した、松浦藩主家に伝わる武家茶道の流派。質実な礼法と国際的なおもてなしを特徴とする。
※5百菓之図:約200年前の江戸時代、平戸藩主松浦凞公が町民の為に作ったお菓子図鑑。100のお菓子とレシピが書かれている。
※6カスドース:平戸市の銘菓で、カステラに卵黄の衣とグラニュー糖をまぶして作られる南蛮菓子。
◆茶室 閑雲亭
住所:平戸市鏡川町12
電話番号:0950-22-2236
営業時間:9:30〜17:00
定休日:12月29日〜1月1日
「眺望亭 寅の月」でおまかせランチ
博物館のすぐ隣に、開店してまだ1週間というレストラン「眺望亭 寅の月」を見つけました(訪問は6月)。ランチは「おまかせランチ」一択で、地元食材を使った料理がどれも味わい深く大満足。明るく元気な店主さんとのおしゃべりも楽しく、窓から見える平戸のまち並みと海が旅気分をさらに盛り上げてくれました。パワフルな店主さんと絶景のコンビが魅力的で、思わず長居したくなるお店です。
◆眺望亭 寅の月
住所:平戸市鏡川町12
電話番号:080-8580-9626
営業時間:7:00~17:30(LO17:00)
定休日:木曜日
教会と寺院が交わる風景
午後は平戸ザビエル記念教会へ。禁教(※7)が解かれた1931(昭和6)年に建てられたこの教会は、小高い丘の上にあり、淡いミントグリーンの外観と尖塔がひときわ目を引きます。礼拝堂は静かで厳かな雰囲気で、奥には入れませんが、入り口から内部を見学できます。なお、内部は写真撮影不可です。
教会から少し歩くと、「寺院と教会の見える風景」と呼ばれる絶景ポイントがあります。ここからは、平戸ザビエル記念教会の尖塔と、正宗寺(しょうしゅうじ)、光明寺(こうみょうじ)、端雲寺(ずいうんじ)の三つの寺院が重なって見え、東西の宗教文化が交わる平戸を象徴する景観が広がります。
※7禁教:ある特定の宗教の信仰や布教を法的に禁止すること、またはその禁止された宗教そのものを指す言葉。特にキリスト教を禁じた「禁教令」を指すことが多く、豊臣秀吉の「バテレン追放令」や、江戸幕府によるキリスト教の弾圧・禁止政策がこれにあたる。
老舗和菓子店「平戸蔦屋」で味わう伝統の味
「寺院と教会の見える風景」から坂を下ると、かつて英国商館があった「英国商船通り」へ。レトロな町並みを歩いていくと、創業1502(文亀2)年という超老舗の和菓子店・平戸蔦屋にたどり着きます。江戸時代には松浦家の御用菓子司(※8)を務め、県内最古の和菓子店としても知られています。茶室・閑雲亭で供される菓子も、ここで作られているそうです。
三浦按針の居宅跡とされる築300年の建物を活かした店内には、購入した和菓子をお茶やコーヒーとともに味わえる座敷もあります。私も名物カスドースを購入し、店内でいただきました。歴史ある建物の中で、平戸に受け継がれる甘味文化をじっくり堪能できます。
※8御用菓子司(ごようかしつかさ):将軍家や大名家などの武家、あるいは宮家などへ和菓子を納めることを許されたお菓子屋のこと。
◆平戸蔦屋
住所:平戸市木引田町431
電話番号:0950-23-8000
営業時間:9:00~18:30
定休日:無休
ラストは「平戸城」で歴史も景色も満喫
最後は平戸城へ。1600(慶長5)年の関ヶ原の戦いの少し前に着工し、完成まで12年以上かかったものの、完成直後に初代藩主・松浦鎮信が自ら焼失させたという、なんともドラマチックな歴史を持つお城です。その後、松浦家はしばらく城を持たず、約100年後の江戸中期になってようやく再建されたのだとか。こうした築城の物語は、時代背景とともに天守閣内のシアターで臨場感たっぷりに紹介されていて、思わず見入ってしまいました。
城全体が亀の形をしていることから「亀岡城」とも呼ばれ、天守閣のほかにもいくつもの櫓(やぐら)など見どころが盛りだくさん。散策しながら歴史ロマンを存分に味わえます。天守閣前の売店には、平戸ならではのお土産や、ご当地アイスキャンディーが。城内を歩き回ったあとは、爽やかな香りの平戸夏香アイスでクールダウンして締めくくりました。
おわりに
平戸城で旅を締めくくるつもりでしたが、うっかり帰りのバスに乗り遅れてしまい、次の便までの時間でもう少し散策を続けることにしました。道すがら「酒蔵公開」の看板に惹かれ、森酒造場に立ち寄ってお土産に地酒を購入。さらに、平戸城から三重塔が見えて気になっていた最教寺へも足を伸ばしました。最教寺は、さきほど見学した平戸城を築城し、すぐに全焼させた、平戸藩初代藩主の松浦鎮信により建立された寺です。
時間が限られていたため、汗だくになりながら参道を急ぎ上り、三重塔を間近で見学。1988(昭和63)年に建立された比較的新しい三重塔は、内部が資料館になっているようでしたが、開館時間を過ぎていたため外観のみを鑑賞しました。
そんなハプニングもありながら、朝から夕方ぎりぎりまで平戸のまちを歩き尽くし、中心部の見どころを存分に満喫できました。次に訪れる際は、レンタカーで平戸郊外にも足を延ばしてみたいものです。これからは気候も涼しく、お出かけにぴったりの季節。ぜひ平戸で歴史散歩旅を楽しんでみてくださいね。















