【京都】ヴォーリズ唯一のレストラン建築に京の喫茶文化感じるカフェ、一休さんの禅寺……。日常が愛おしくなる、京都の冬の旅
比較的観光客が少なくなり、悠々とした時間を愉しめる冬の京都。一休さんの禅の考えに触れられる寺院に喫茶文化が根付く京都で訪れたいカフェ、ヴォーリズ唯一のレストラン建築など、実際に訪れて心とカラダが癒された場所を、京都好きの筆者が案内します。旅からもどった日常が前よりもっと愛おしくなる。好奇心ひとつ持って行けば、目の前には色とりどりの世界が広がっているはずです。
Text、Phot:中村律
目次
一休さんが求めた“本当の禅”を感じられる「真珠庵」
室町期の堺で活躍した大商人、尾和宗臨(そうりん)。一休さんの禅の教えに深く傾倒し、応仁の乱(1467~1477年)のあと、「遺産の全ては大徳寺の復興費にあてよ」と命じました。
一休さんといえば、アニメで観たとんち話の可愛い小僧としての記憶があります。ところが、禅の高僧でありながら型破りで破天荒、権威や名声を嫌った反骨の生涯を送った人。一休宗純として紐解かれた姿は全くの別人のようです。
その一休さんを慕って建てられた「真珠庵」は、庫裡(僧侶の日常生活と修行を支える重要な施設)に入る戸障子には紙が張られておらず骨のような桟だけを残しています。中国の禅僧、楊岐和尚の故事では『やぶれ衣をまとい、髪も伸びほうだいで平然とあばらやに住んでいた。修行場の道場は老朽化しており、雪が吹き込んで、床一面に「真珠」を撒きちらしたようだった』と伝えられていて、その姿は、髪は伸び、無精ひげを生えちらしている一休さんの肖像画とよく似ているそうです。
絵画、墨蹟など多くの重要文化財を保存している
裸のままのこの戸障子は、世俗の権力を嫌い、清貧に徹した厳しい修行の上に成り立つ禅の教えをあらわす静かな情景として一休さんが残してくれたもの。
自分のこころと向き合う禅の教え。身一つで船を操り、荒海を乗り越え中国へ行く中、つねに自分のあたまで考えて決断を導くこころが必要だった堺の商人たちの心に響いていたこと。また、一休さんは身分の隔てなく民衆の中に入って禅の教えをわかりやすく伝えることに心を配り歩いていたこと。真珠庵は中に入れませんが、一休さんのほんとうの禅を求め続けたまっすぐなこころに触れることができる場所です。
◆真珠庵
住所:京都府京都市北区紫野大徳寺町52
電話:075-492-4991
日本でも珍しい、禅と盆栽を組み合わせた庭園で禅のことばに触れる
寒い冬の澄んだ空気に包まれて門前に佇むと、まっすぐに伸びた石畳に吸い込まれそうです。粉雪がちらついてきてなんとも風情がありました。
大徳寺の塔頭寺院である芳春院は、加賀藩前田利家の夫人・まつが1608(慶長13)年に建立した前田家の菩提寺です。盆栽に枯山水を組み合わせたユニークな庭園は、2021年春に開園されました。盆栽家の森前誠二氏が主管を務められています。
庭園の中で観る盆栽は清々しく生き生きと感じられました。何百年もの間、人の手で受け継がれてきた盆栽。目に見えない刻を感じることができます。主人が目の前の木を大切に育む愛情、その日常があるがままに映し出されているようでした。
『平常心是道』ーーーどんな状況においても、ありのままの心でいることが大切である。禅のことばは、日々の生活でつい忘れがちな大切なものをそっと思い出させてくれます。飾り気のないシンプルな言葉で。
芳春院ではありませんが、大徳寺の一部(興臨院、黄梅院、総見院)で今年の秋冬は特別公開があるので、早い時期に訪れたなら併せて鑑賞してみるといいでしょう。
◆芳春院
住所:京都府京都市北区紫野大徳寺町55
電話:075-492-6010
喫茶店文化が根付く京都で珈琲時間
冬の京都は寒いので、すぐに喫茶店へ駆け込みたくなります。京都は2,000軒余りの喫茶店やカフェがあり、この数は全国的にみても多く、喫茶店文化が古くから根付いています。自家焙煎している本格的な珈琲屋さんが多いのが嬉しい。出町柳駅から近く、鴨川沿いにある「コーヒーハウス マキ」にて。平日限定のサンドウィッチは人気でなかなか食べれませんが、海苔、卵焼き、貝割れの絶妙なコンビネーションで虜になります。
もちろんコーヒーもとても美味しい。いつもブレンドを頼みます。苦味・コク・酸味のバランスが私にはぴったりと合い、これが飲みたかったんだ〜と、いつまでもここにいたくなる幸せな気分になります。
◆コーヒーハウス マキ
住所:京都府京都市上京区河原町今出川上ル青龍町211
電話:075-222-2460
営業時間:8:30~17:00(LO16:30)
定休日:火曜日
夜がひときわ美しい東華菜館
異国情緒漂う素敵な空間で美味しい北京料理をいただきます。大正15年に建てられ、建築は日本近代建築を代表する建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ。初めは西洋料理店だったものが、戦時中に北京料理店へと移り変わりました。
中華料理なのに京都の味、と思ってしまうので不思議です。優しくてあっさり、でもしっかりと舌には余韻が残り、つい色々と頼みたくなってしまいます。同店の名物「炸春捲(ヂァーチュンヂュア)」は、筍と豚肉を薄焼き卵で巻き、薄衣をつけて揚げた北京式のハルマキ。優しい味の秘密が衣になっている薄焼き玉子だったとは、後で知りました。餡入り揚げ餅は創業時から愛されているメニューで、熱々のうちにいただきます。中のとろける餅と餡のハーモニーがたまりません。
外観も素晴らしく、夜の灯のもとで四条大橋とこの建物を眺めていると、ここに住んだことのない私でもノスタルジーを感じる浮遊感が心地よく、寒さを忘れるほど。
◆東華菜館 本館
住所:京都府京都市下京区四条大橋西詰
電話:075-221-1147
営業時間:平日:11:30~15:00(LO14:30)、17:00~21:30(LO21:00)
土日祝:11:30~21:30(LO21:00)
定休日:週1日(不定休)
走りたくなる鴨川
冬もランニングしたいなら、北山〜上賀茂神社〜鴨川へ。雪景色の幻想的な京都を目にしながら、どこまでも心地よく走れそうなほどしあわせな高揚感に包まれていました。
日常に寄り添う、冬の京都時間
冬の京都は、街の中にいても静かでゆったりと流れる時間に身をまかせることができる。そこかしこの暮らしの息遣いから人と自然と文化のつながりが感じられて、調和する心地よさがうらやましくもなるほど。澄んだ空気の中で、ほんの少し、いつもとちがう神経が研ぎ澄まされていく感覚を味わうことができる私にとって大切な場所です。旅をするのは特別なことが理由ではなく、自分の中の好奇心が動くとき。自分の見たいものをひとつ、手にして旅に出てはいかがでしょうか。













