戦国城下町・岐阜で「織田信長のおもてなし」に触れる雨の日さんぽ

今年も岐阜県岐阜市では、1300年以上の歴史を持つ「長良川鵜飼(ながらがわうかい)」のシーズンがはじまりました。この長良川鵜飼と関わりの深い戦国武将といえば、織田信長です。信長は、岐阜城を拠点に天下統一を目指す戦いを繰り広げる一方、岐阜の自然景観や文化を活かし、岐阜城を客人を手厚くもてなす場所としていたといわれています。今回は「信長のおもてなし」に触れながら、雨の日の岐阜公園周辺を旅色LIKESライター・長月あきがご紹介します。
目次
金華山(きんかざん)のふもとの「岐阜公園」で見る“地上の楽園”の痕跡
岐阜市中心部の金華山のふもとに広がる「岐阜公園」は、戦国時代、信長の義父にあたる斉藤道三(※1)や、織田信長らの居館(※2)があった場所です。園内には、信長の居館跡のほか、再建された岐阜城天守や岐阜市歴史博物館など複数の施設があります。また、「信長の庭」と言われる、信長をイメージした美しい日本庭園が創られており、市民の憩いの場ともなっています。金華山の自然に包まれた公園は、雨の日も、木々の緑がきれい。
信長はこの場所にあった居館で暮らし、客人をもてなしたといわれています。もてなしを受けた一人がポルトガルの宣教師ルイス・フロイス。彼は、戦国時代研究の貴重な資料とされる著書『日本史』で、信長の居館を“地上の楽園”のようだと書き残しています。居館そのものは復元されておらず、現在は礎石や遺構が見られるだけですが、ところどころに出土品などの解説看板が建てられています。
※1斉藤道三(どうさん):戦国時代の美濃国の守護代として、居城である稲葉山城を築城。その後、織田信長が城を攻略し、地名を「岐阜」と改名、天下統一の本拠地とした。
※2居館(きょかん):住まいに使われる大邸宅。
公園内には、「華松軒」という、気軽に抹茶と和菓子を楽しめる立礼茶席(※3)が設けられています。この日の和菓子は薄緑の涼しげな「かえで」。鵜飼の絵が描かれているお茶碗や、茶室の鮎の掛け軸が岐阜らしさを感じさせてくれます。
抹茶をいただいたあとは、華松軒のすぐ隣の「信長居館発掘調査案内所」を見学。発掘調査の成果をもとに、岐阜城や信長公居館に関連する出土品や解説パネルなどが展示されています。近年の発掘調査で居館跡から複数の庭園跡が見つかったことから、居館は迎賓館のような、客人をもてなすための場所であったことが判明しました。発掘調査は現在も進行しているので、斉藤道三や信長時代の岐阜城の姿が着々と明らかになっていくのが楽しみです。
※3立礼(りゅうれい)茶席:茶道における、テーブルと椅子を使って茶を点てる方法。
◆岐阜公園
住所:岐阜市大宮町
電話番号:058-264-4865(岐阜公園総合案内所)
営業時間(総合案内所):9:00~18:00(3~11月)、9:00~17:00(12~2月)
◆華松軒
住所:岐阜県岐阜市大宮町1(岐阜公園内)
電話番号:058-263-8647
営業時間:【5月11日~10月15日】10:00~16:30、【10月16日~5月10日】10:00~16:00
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日休み)、年末年始
◆日本遺産・信長居館発掘調査案内所
住所:岐阜県岐阜市大宮町1(岐阜公園来園者休憩所内)
スタッフ対応可能時間:9:00~16:00
スタッフ非対応日:火曜日(祝日の場合は翌日休み)、年末年始(12月29日~1月3日)を除く)
観覧料:無料

信長の客人たちが見た絶景は見えなくても・・・霧の中の「岐阜城天守」
金華山山頂の天守までは、いくつもの登山道が整備されており、体力に応じたコースで登ることができますが、この日は雨。足元が悪いので、迷わず往復ロープウェーを使うことに。金華山の名前の由来となったツブラジイ(※4)の淡黄色の花が、ちょうど見頃を迎えていました。ロープウェーを降りたあと、天守までは10分ほど歩きますが、石段が整備されているので、雨の日でも問題ありません。晴れの日は、山頂の天守や展望台から、晴長良川と岐阜のまち並みを一望できます。以前、訪れた時はその絶景に感動したのですが、この日は霧に覆われ真っ白。けれど、霧の中の天守は、どことなく幻想的な雰囲気がありました。信長は山頂にも客人を招き、もてなしたとされています。山頂からの絶景も、信長流のおもてなしの一つだったのでしょう。
※4ツブラジイ:ブナ科シイノキ属の常緑高木。5〜6月に開花し、黄白色の穂状の花をつける。
◆ぎふ金華山ロープウェー
住所:岐阜市千畳敷下257番地
電話番号:058-262-6784
営業時間:要HP参照
運賃:<大人>往復1,300円、片道800円、<小人>往復650円、片道400円
◆岐阜城天守閣
住所:岐阜市天主閣18番地
電話番号:058-263-4853
営業時間:要HP参照
入場料:大人200円、小人100円

4月オープンの岐阜の新しいおもてなし施設「岐阜城楽市」
ふもとへ戻って、今年の4月末に、岐阜公園内にオープンした「岐阜城楽市」へ。信長の楽市楽座(※5)をイメージし、岐阜の名物や限定グルメを提供する11の店舗が並んでいます。私は和菓子店「起き上がり本舗」で看板商品のだるまの形をした「起き上がり最中」を購入。信長が岐阜城を攻略した際に残したと言われる名言「我、正に起き上り最中也」より名付けられたそう。ほかにも、きな粉味の有平糖を使用した「信長りんご飴」を提供するフルーツ飴専門店や、信長が愛した湯漬けをアレンジしたモーニングメニューを提供するカフェなど、信長にちなんだグルメを楽しめるお店があります。
※5楽市楽座(らくいちらくざ):戦国時代から江戸時代にかけて、各地の戦国大名が自分の領地を繁栄させるために行った経済政策のこと。市場税を免除したり、座商人の特権を廃止したりして、自由な商業を促進することを目的としていた。
◆岐阜城楽市
住所:岐阜市大宮町1丁目
信長のおもてなしに活用された「長良川鵜飼」を知る
長良川鵜飼は7世紀頃から行われていたといわれていますが、この鵜飼を手厚く保護し、客人をもてなすための手法としたのが信長です。長良川を挟んで岐阜公園の対岸にある「長良川うかいミュージアム」では、鵜飼の歴史や価値を、充実した展示からわかりやすく学ぶことができます。信長以外にも、徳川家康、松尾芭蕉、明治天皇、チャーリー・チャップリンと長良川鵜飼と関わりのある人物とのエピソードは興味深かったです。
また、鵜飼自体は国内の他地域にもありますが、「宮内庁式部職鵜匠」という宮内庁所属の国家公務員である鵜匠は、長良川鵜飼の鵜匠6人と、岐阜県関市の小瀬鵜飼の鵜匠3人の計9人しかいません。鵜飼という伝統文化を守り今に伝える鵜匠の仕事についての展示も面白く見学できました。鵜飼観覧の前に訪れると、鵜飼がさらに楽しめておすすめ。
鵜飼シーズン中の土曜日と、6~9月の第3金曜日には、うかいミュージアムの目の前にある長良川沿いの遊歩道「長良川プロムナード」で、屋台が立ち並ぶ「長良川夜市」が開催されています。川沿いの夜市は雰囲気があって、夜のお散歩にぴったり。これからの季節は夕涼みがてら、ライトアップされた岐阜城の天守や、鵜飼船の灯りを、川縁に腰掛けて眺めるのもいいですね。
◆長良川うかいミュージアム
住所:岐阜市長良51番地2
電話番号:058-210-1555
開館時間:【5月1日~10月15日】9:00~19:00 ※最終入館18:30、【10月16日~4月30日】9:00~17:00 ※最終入館16:30
休館日:12月29日~1月3日、 ※5月1日~10月15日は無休(一部指定日除く)、10月16日~4月30日は火曜日(祝日の場合は翌平日)
入館料:大人600円、小人300円、乳幼児無料
◆長良川夜市
開催日:鵜飼シーズン中(5月11日〜10月15日)の土曜日、6〜9月の第3金曜日
開催場所:長良川プロムナード
※開催時間、出店店舗は日によって異なるので公式Instagramを要参照
美濃へは何度でも訪れよ
信長は、ルイス・フロイスとの別れ際に「美濃(現在の岐阜県南部)へは何度でも訪れよ」という言葉をかけています。岐阜公園周辺は、風情ある古いまち並みや多くの史跡が残る、歴史ファンには魅力いっぱいのエリア。最近は特に賑わっているので、ゆっくり散策するなら雨の日は比較的狙い目です。晴れでも雨でも、色々な表情の岐阜に何度でも訪れてみてくださいね。なお、今回紹介した岐阜城の天守は耐震化工事のため、2026年6月から休館し、2028年4月にリニューアルオープンの予定です(岐阜公園内の歴史博物館も2026年4月から休館)。来年から2年近くの間、見学できなくなるので、ご注意ください。