【福岡県・柳川】約400年守られ続けた文化財で泊まる体験。「柳川藩主立花邸 御花」宿泊レポ

福岡県

2025.05.23

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【福岡県・柳川】約400年守られ続けた文化財で泊まる体験。「柳川藩主立花邸 御花」宿泊レポ

水郷が美しい福岡県柳川市で、400年あまりの歴史や文化を繋ぎ続けている立花家。その末裔が営む料亭旅館「柳川藩主立花亭 御花(以下、御花)」に「ゆるり文化旅」を連載する旅色LIKESライター・じゅんが宿泊しました。立花家のストーリーを紐解きながら、ほかにはない文化財の魅力を紹介します。

目次

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柳川の景観をも作りだした立花家の歴史と御花のはじまり

随所に散りばめられた立花家の歩みと地元とのつながり

宿泊者だけが堪能できる「文化財ツアー」と「夜の庭園鑑賞」

御花の歴史を「食で感じる」こだわりメニュー

さいごに

柳川の景観をも作りだした立花家の歴史と御花のはじまり

大名から伯爵へと時代の流れとともに柳川で歴史を重ねてきた立花家。歴史とともに培ってきたものは地域の魅力・財産となり柳川を語る上では欠かせない存在となりました。そもそもなぜ伯爵家が現在の料亭旅館を営む事になったのでしょうか。

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柳川が水郷と呼ばれるのは町中に掘割が縦横に張り巡らされているから。今では川下りが観光として有名に。

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海抜0メートルで有明海に面する柳川の掘割は水害から守る役割も担っている。

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西鉄柳川駅近くにある立花宗茂公、岳父 戸次道雪公、宗茂の妻 誾千代姫の三神を祀った三柱神社。 宗茂は元居た領地に戻ることができた、たった一人の大名だったことから「復活の神様」 として 崇拝されている。

初代藩主の立花宗茂(たちばなむねしげ)は、戦国時代から江戸時代初期にかけて活躍した武将です。いくら掘っても海水しか出ない柳川の地に農業水を確保するため水路を整備したことで有名です。この水路は農業には不向きだった柳川を農業が盛んな土地にしただけでなく、生活用水にも使用され、現在も変わらず残っています。

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かつては水路が主要な交通網だった時代も。御花の入口となる船着き場は門付きで貴重な文化財の一つ。

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四季折々の花々と掘割の景色はかつての「花畠」を感じる

宗茂の子孫である第五代藩主・貞俶(さだよし)は、1738(元文3)年に住まいを柳川城の裏鬼門にあたる場所に移します。その場所が現在の御花がある場所です。この名前の由来は、薬草や美しい花々が植えられた花畠(はなばたけ)があったことから敬称をつけて「御花さん」と親しまれたことからだそう。

御花の正門と西洋館

明治末に迎賓館として建てられた西洋館は今も変わらぬ佇まい。

松濤園

国指定の名勝「松濤園」。黒松と岩だけのお庭で、柳川城の土台にされていた岩も使用されている。

大広間

松濤園を眺める100畳ある大広間。能舞台にもなり、毎年11月には能が開催されている。

家政局(お役間)

現在でいうオフィス棟で、お役間としては日本で唯一残る和館の文化財。

時代は明治になり、第十四代藩主の寛治(ともはる)は大名家から伯爵家となり、現在は国の名勝に指定されている松濤園(しょうとうえん)や、西洋館や大広間、家政局(お役間)を有する伯爵邸をつくった人物です。また、農作物、特にみかんの栽培に力を入れ、日本初となる温州みかん「宮川早生(みやがわわせ)」を生み出しました。

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当時の柳川警察署からの「風俗営業許可書」。ロビーで見ることができる。

こうしてさまざまな功績を残していく立花家ですが、御花誕生のきっかけになるのが第十六代藩主の和雄(かずお)と妻の文子(あやこ)です。和雄は華族となった立花家の一人娘・文子の入婿として迎えられます。しかし、1947(昭和22)年の華族制度の廃止により重い税負担を強いられ、所有していた東京の土地や広大な農地などを売却。多くの財産を失いましたが「郷土である柳川は守りたい」という強い想いを抱いていました。そんななか、殿様屋敷だった御花は、華族制度が廃止された頃は特別な日だけ地元の人たちが松濤園の見物ができるよう許可をしました。そしていつの日か、松濤園を眺めながら食事がしたいと医師会や消防団など地元の人たちから依頼があり、夫妻はそれに応えるようになります。しかし、この振る舞いが法律違反だと警察から指摘され、多額の税金を徴収されることに。抵抗も虚しく税金を支払うことになりましたが、これをきっかけに財務事務所から料亭への転身をすすめられます。これが「料亭旅館御花」の始まりです。

随所に散りばめられた立花家の歩みと地元とのつながり

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宮川早生の蜜柑絞りも御花の歴史を受け継ぐ一つ。

松濤館(宿泊棟)のロビー

引き継がれている伝統文化と現在が調和した空間。

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ロビーや客室を照らす伝統工芸の八女提灯。

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さげもんの人形は着物の残り布などを使用し、一つひとつ願いを込めて手作りされた。

敷地全体の7,000坪が文化財に指定されている御花。貴重な文化財に囲まれた施設ですが、年齢制限が一切なく小さなお子さんでも宿泊が可能です。これは幼い頃の楽しい思い出を次の世代に繋げてもらいたいという想いからだそう。そんな温かい想いの中にも守りながら次世代へと繋げていくという強い信念を感じます。
到着時のおもてなしは、ウェルカムドリンクには宮川早生のジュース。砂糖は一切使われておらず皮ごと絞ったジュースで、すっきりした甘さの中に濃厚なみかんの風味を感じられるのが印象的。実はこの宮川早生は赤字続きだった初期の料亭御花を支えた高級フルーツ。この売り上げがなければ、現在の御花はなかったかもと言われています。
ロビーのインテリアは創業200年以上の老舗ちょうちん屋・伊藤権次郎商店の提灯や、地場産業である佐賀県のレグナック株式会社の家具を使用。シンプルながら歴史と文化が溶け込む空間に居心地の良さを感じます。
和館の家政局には柳川に江戸時代から伝わる雛飾りの「さげもん」が。縁起物の人形51個を組み合わせ、天井から吊るして雛飾りと一緒に飾ります。子どもへの願いが込められた色とりどりのさげもんは作り手の優しさが部屋全体を温かく包みこんでいるかのよう。
客室名には立花家と繋がりの深い花や鳥の名前がつけられています。

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ガーデンビューの客室「菖蒲」は、お堀や濤園も眺められる。天気の良い日は雲仙岳が見えることも。

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環境にやさしい木製のカードキーは水を大切にしてきた柳川の想いを象徴しているよう。

東庭園

客室名にもなっている東庭園に咲く黒椿。珍しい品種で深みのある赤色が特徴。

今回宿泊したのは「菖蒲(しょうぶ)」の部屋。「尚武」「勝負」とも読めるこの花は、武士の立花家にとって縁深く大切にされてきた花です。敷地内にある東庭園では菖蒲のほかに黒椿、藤など部屋の客室名になっている植物が植えられ今でも大事に育てられています。

宿泊者だけが堪能できる「文化財ツアー」と「夜の庭園鑑賞」

大広間

金箔押桃形兜。錆を防ぐために金箔が貼られた桃型の兜。立花家のお屋敷からはこの兜が200頭以上見つかっている。

西洋館

西洋館の照明の上にある白漆喰のレリーフ。 照明は当時のもので、外国製だったり日本橋三越で購入していた記録も残っている。

西洋館

本来は暖炉の近くには熱を伝わらせるため窓は作らないが、左右にある大きな窓も立花家の形にとらわれないユニークさを感じる。

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客室の浴衣にある「おはな」の文字は料亭旅館を創業した女将の立花文子が書いた文字をそのまま使用。

チェックイン後には、宿泊者限定で文化財ツアーが行われます。スタッフの方が館内を一緒に歩き、柳川の歴史や立花家のエピソードと共に文化財の魅力を案内してくれます。立花家の屋敷から出てきた貴重な資料や、西洋館の天井にある美しい装飾のこと、客室に用意されている浴衣の文字のことなど興味深い話ばかり。まるでレトロ建築巡りをしているような気分にもなります。建物の中は形にとらわれない立花家の発想がちりばめられていて、随所に光るセンスにワクワクしっぱなしで、ツアーのあともカメラ片手に夕食時間ギリギリまで館内を歩き回ってしまいました(笑)。

大広間

静けさの中に鳥や虫の声が聞こえる夜の松濤園は、一層穏やかな時間が流れる。

松濤園

ライトアップされた夜の松濤園は、鏡のように池に映る黒松がはとっても幻想的。

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夜の庭園で、地酒を片手に過ごす優雅なひとときは宿泊しないとできない体験。

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庭園以外でも昼とは違う顔を見せる観光客のいない静かな船着き場もおすすめ。

夜はライトアップされた松濤園を一望できる大広間で地酒などのドリンクを片手に鑑賞します。大広間から松濤園を眺めていると立花家の人たちが身近に感じ、タイムスリップしたような時間が流れます。非日常的な穏やかな空間に宿泊する価値をしみじみ実感。歴史と文化に浸る夜の松濤園は、今も昔も変わらない癒しの場所なのかも……。

御花の歴史を「食で感じる」こだわりメニュー

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前菜は立花家の農園で育った文旦の蜜煮や郷土料理のわけ(イソギンチャク)の唐揚げ。初めて食べたイソギンチャクはコリっとしていてクセになる味。

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15代当主の立花鑑徳は、有明海での鴨猟で自ら調理した鴨料理を皇族に振る舞うことも。メインの鴨肉とも深い繋がりがある。

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卵焼きを食べた後にお皿に現れた 鷺の絵柄。鷺は松濤園によくいる鳥なんだそう。

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料亭なのに洋食メニューは意外と思いつつも、何度も食べたくなるほどの絶品。

建物や装飾だけでなく、食事も立花家や地元への思いが詰まっています。夕食では立花家が所有する農園で採れた果物や地元有明海の海産物や、立花家と繋がりが深い食材など、柳川の食文化が凝縮されたメニューが提供されます。ドリンクも地酒や地元のクラフトビールに蜜柑絞りなどこだわりのラインナップ。
朝食はレストラン対月館で松濤園を眺めながらいただきます。九州の食材がのった小皿が並び、第五代藩主・貞俶の大好物だった鮭イクラや、御花の農場で誕生した「三池高菜」の漬物など、一品ずつこだわりが詰まっています。また、土鍋で炊かれた長崎県島原の湧き水で育ったお米「ひのひかり」はツヤツヤしていて、おかずとも相性がぴったり。時間帯によってはお堀巡りをしている船頭さんの歌声も聞こえます。
さらに、ルームサービスには柳川で育ったA5ランクのブランド牛「豊作和牛」のローストビーフをはさんだクラブハウスサンドも。西洋文化にもいち早く触れていた立花家では、洋食メニューを提供していた歴史もあります。このクラブハウスサンドはその復刻メニュー。今回はどうしても食べたくて、チェックアウトの日の昼食に頂きました。ボリューム満点ですが、柔らかいお肉に酸味のあるソースがさっぱりとしていてペロリと完食。知る人ぞ知る隠れた絶品メニューです。

さいごに

敷地内には歴史・文化・建築と立花家の魅力が至るところに溶け込んでいて、知れば知るほど探求心を掻き立てられ、1泊では足りないほどでした。宿泊者には立花家資料館の入館チケットも付いてくるので、こちらも是非立ち寄って見て下さい。数多くの展示品にはきっと更なる立花家の発見と魅力に出会えるはず。ただ泊まるだけではない、柳川の歴史と文化にゆっくりじっくり浸る「文化財にふれる宿泊」してみませんか?

◆柳川藩主立花邸 御花
住所:柳川市新外町1
電話:0120-336-092
時間:チェックイン15:00~19:00、チェックアウト~10:00

柳川藩主立花邸 御花

福岡県柳川市新外町1

柳川藩主立花邸 御花

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ゆるり文化旅 じゅん

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じゅん

東京郊外在住の会社員。美味しいものを食べながら、伝統・自然などに触れる旅が好き。新しい発見を求めて文化×探求心でマイペースに楽しんでいます。写真からも旅の楽しさを伝えたいを目標にカメラも勉強中です。たまにドローンを片手に出かけることも。

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