予約がとれたらラッキー! 長崎で話題の「セヴィリヤ・スケッチ」で、思い出に残る一枚を描いてもらおう

旅先で絵を描いてもらったことはありますか? 長崎市にある「喫茶セヴィリヤ」では、季節のカステラやミルクセーキなどをいただきながら、自分自身をスケッチしてもらえるユニークなイベント「セヴィリヤ・スケッチ」が不定期で開催されています。出来上がったスケッチは、思わず笑っちゃうほどそっくり! 長崎市在住・旅色LIKESライターのおんりが、実際にスケッチしてもらいながら、イベント誕生秘話を伺いました。
目次
イベントの舞台は「喫茶セヴィリヤ」
「喫茶セヴィリヤ」は、長崎市内にあるカステラの老舗「松翁軒(しょうおうけん)本店」に併設された喫茶室です。異国情緒あふれる店内では、季節限定のカステラやミルクセーキ、レモンケーキなどをいただくことができます。ステンドグラスのやわらかな照明の下、路面電車を眺めつつカステラをいただいていると、いつもより時間がゆっくりと流れているように感じます。モバイルオーダーのお店が増えるなか、店員が水とおしぼりを運び、注文を取るクラシカルなスタイルが、外国人観光客にも人気なのだとか。
大人気のイベント「セヴィリヤ・スケッチ」とは?
喫茶メニューを注文した方を、イラストレーターの泗水(しすい)綾子さんが無料でスケッチしてくれる人気のイベントです。所要時間は20分ほど。原画を持ち帰ることはできませんが、写真に収めることは可能です。ラフなタッチでありながら迷いがなく、洗練された雰囲気が「喫茶セヴィリヤ」の異国感に似合います。人物だけではなく、食べているものや背景も合わせて描くことで、空気感も表現することを心掛けているのだそう。
「食べてるところをスケッチされるなんて、緊張してしまう」という方も心配ご無用。泗水さんが絵を描かれている間、インタビュアーの浅野佳子さんがいろいろと質問してくれます。「喫茶セヴィリヤ」を訪れた理由、子どもの頃の思い出を話していると、時間はあっという間です。話したエピソードは似顔絵と共に編集され、約2ヶ月後にリーフレットとなり自宅に郵送されます。
「セヴィリヤ・スケッチ」が誕生した理由

山口喜三社長(右)と娘の佳奈子さん(左)。
すっかり「セヴィリヤ・スケッチ」のファンになってしまった私。イベントのことをもっと知りたくなり、山口喜三(きぞう)社長にお話を伺いました。
ー「セヴィリヤ・スケッチ」が誕生したきっかけを教えてください。
45年ほど前、この喫茶店はレストランだったんです。夜10時頃まで営業していて、文化人や地元の人達が集う場所として親しまれていました。その頃からのご縁で、今も演奏会やお話会、ワークショップなどを開催しています。ただの喫茶店ではなく、長崎名物であるカステラを通して文化を体験できる場を提供できればと思っているんです。本店と喫茶のリニューアルを翌年に控えていた2022年に、お客さまにセヴィリヤらしい催しで楽しんでいただきたいということで、商品のパッケージのデザインなどをお願いしていた川路(かわじ)さんに相談したのが、このイベントのきっかけです。
川路さん(左)、浅野さん(中)、泗水さん(右)。
社長から相談を受けた川路あずささんは、「喫茶セヴィリヤ」の文化的背景や魅力を伝えるような読み物を定期的に発行できたらと思い、幅広い編集の経験をもつ浅野さんに相談したのだそう。
(浅野さん)読み物もいいけど、場所が素敵なのでお客さまも混じって何かできないかなと思って。それで泗水さんのことが頭に浮かんだんです。以前一緒にお仕事をさせていただいた時に、絵を描いてもらったお客様がすごく嬉しそうにしていたのが印象に残っていて。ある程度ストックができたら、展覧会をしたり、本にできたらいいですね。
ーこんなに素敵なイベントを無料で行っているのですか?
(山口社長)召し上がっていらっしゃるお客さまを描かせていただくわけなので、むしろ「協力していただけませんか?」という感じで。今でこそ予約でいっぱいですが、声をかけても断られることがしばしばで。最初は母と息子にも頼んでいたくらいです。
ーそんな時期があったんですね。紙でお渡しするのもこだわったポイントですか?
(山口社長)データでさっと送れる時代に、わざわざ紙に描いて、印刷して、数ヶ月後に郵送するって、時代と逆行していておもしろいなと思ったんです。手書きって味がありますし、紙は先代も好きだったんですよ。本も倉庫にたくさん残っていますしね。
ーどんな反響がありましたか?
(川路さん)初めてお会いしたときは妊婦さんだった方が、赤ちゃんが生まれてご家族でまたイベントに来てくださったり、旅行中のお客さまが、思いがけない体験に感動して涙ぐまれることもありました。後日、お礼のメッセージをいただいたり、一つひとつ心に残っています。
(山口社長)お客様の年代がふくらんだ気がします。以前は1~2名でいらっしゃるご年配の方が多かったのですが、小さいお子様連れのご家族まで幅広くなりました。このイベントのために他県から来られる方もいらっしゃいます。
(川路さん)お客さまにとって特別な時間を過ごしていただけるだけでなく、松翁軒がお客さまお一人おひとりのことを知るきっかけにもなっているのではないかと思っています。
イベントが形になっていく過程を伺っていると、必要な繋がりが生まれ、その輪が広がっていく様子に、私も気持ちが高まりました。皆さんがこの場所と文化的背景を大切にされているという思いが伝わります。
古き良き時代の「喫茶セヴィリヤ」
昭和の時代、長崎市公会堂(今は解体され、長崎市役所新庁舎が建っている)は、舞台やコンサート、発表会など、あらゆるイベントが開催される文化の中心地でした。すぐ隣にある松翁軒本店は、待ち合わせ場所として長崎市民に愛されてきました。イベント後には、モダンな洋食をいただきながら観劇の余韻を楽しむことができる、なくてはならない場所だったのです。「喫茶セヴィリヤ」が文化的な交流の場であったということは、もうすぐ 80 歳になる私の伯母の記憶にもしっかりと刻まれていました。店内に飾られている骨董品を鑑賞しながら、おしゃべりに花を咲かせる時間は、何ものにも代えがたい時間だったのだとか。
どこをとっても絵になる「喫茶セヴィリヤ」。雨の日も素敵なのだそう。
長崎の人たちにとって、「喫茶セヴィリヤ」は時代や文化を象徴する場所であり、記憶や思い出と密接に繋がっている場所です。昭和から令和へと、時代の変化を見守り続けてきた場所だからこそ、新たな発想のイベントが誕生し、その歴史がまた次世代へ継承されていくのだと感じました。
「セヴィリヤ・スケッチ」は数ヶ月に一度の不定期開催ですが、公式HPで予定をチェックして、ぜひ参加してみてください。忘れた頃に届く「セヴィリヤ・スケッチ」が、長崎旅の思い出と共に、驚きと感動を届けてくれますよ。
♦喫茶セヴィリヤ
住所:長崎県長崎市魚の町 3-19-2F
電話:095-822-0410
営業時間:10:00~17:00
・臨時休業:毎週火曜日(2025年5月20日~7月5日まで)
・改装期間:2025年7月6日~7月下旬は、店内改装に伴い休業
・営業再開予定:2025年7月下旬(再開日は確定次第、公式サイトにて告知)
●セヴィリヤ・スケッチ
開催日:不定期
所要時間:約20~30分
料金:無料(喫茶のメニューをご注文の方にご参加いただけます)