「東京建築祭2025」が5/17~25に開催! 特別公開・展示される43件の建築で東京を再発見する旅へ

昨年に初開催され、のべ約6万5,000人が参加した「東京建築祭」が、今年も5月17日(土)から25日(日)にかけて開催されます。参加建築はさらに充実。無料、原則申込み不要で特別公開・特別展示される建物が全部で43件もあります。昨年に引き続き、今年も実行委員長を務める私が、その中からとっておきのものを選びました。どれも人に話したくなる場所です。
目次
人の心を沸き立たせる大空間「共立講堂」(1938/57年)

共立女子学園の施設として1938年に完成、1957年に現在の姿となった
まずは、千代田区一ツ橋の「共立講堂」からご紹介しましょう。正直、今回の東京建築祭で取り上げるまでノーマークだった建物です。どちらかというと地味な外観の中に、素晴らしい空間が広がっています。そのことを多くの方に知っていただきたいです。
完成は1938年で、共立女子学園の式典や学校行事のために建設されました。当初の座席数は1階・2階を合わせて2,578席。2,000席を超える講堂となると、当時の東京では他に日比谷公会堂くらいしかなかった時代です。学園が使用しない時間には、学外にも貸し出されました。戦前から戦後にかけて、音楽関係の公演やラジオ中継に多く用いられ、人々の心を潤した場所です。
けれど、1956年に発生した火災で、講堂の内部は全焼。すぐに復旧工事に取り掛かり、翌年に再び開館します。今私たちが目にできるのは、この時の姿です。かつて日比谷公会堂に近い雰囲気を与えていたゴシック様式の装飾は、姿を消しました。横から見た時の特徴だったアーチ型は、四角い窓になりました。戦後らしい、モダンな外観に変わったわけです。

色鮮やかな赤と青の扉に目を奪われる。金色のドアノブにも注目
しかし、内部に一歩足を踏み入れると息を呑みます。色鮮やかなドアが正面で出迎え、2つのドアの上は、アールデコ風の彫刻で彩られています。金色に輝くドアノブも曲線を連ねた、見たことがない形です。

2本の柱からもモダンな雰囲気が伝わる
エントランスホールの手前側には一対の柱があって、講堂としての格式を漂わせています。それでも柱は冷たい印象を与えません。よく見ると、手前と奥の2面がゆるやかにカーブしています。様式的な建築の決まりごとにも、単なる合理性にもとらわれず、人の心を沸き立たせる新しい形が工夫されています。共立講堂の内部に息づいているのは、そんな戦前らしいモダンさなのです。
設計者に注目すると、この建築の独特さが見えてきます。前田健二郎という建築家が、当初の共立講堂の設計も、今の姿への改修設計も担当しました。「京都市京セラ美術館」(1928年)の設計者として有名です。けれど、彼は同館のような帝冠様式と呼ばれるものだけでなく、戦前の資生堂化粧品部や資生堂パーラーといったモダンな作品も手がけました。優れたデザイナーとしての素質が、この戦後の共立講堂にも共通しています。
東京建築祭では、5月24日と25日の公開時間中、共立講堂の1階エントランスホールと客席、2階のホールと客席が特別公開されます。客席は2017年にリニューアルされ、1,769席のゆったりした椅子に変わりましたが、前田健二郎が共立講堂のテーマにした温かな色合いを踏襲しています。

かつて“音楽関係の公演のメッカ”として知られていた共立講堂
客席の遠くに見えるレンガの壁面は、音響を考慮した木製です。内部の手すりのカーブや、入口の上部に施したカーテンなどにも細かに気を配っています。かつての劇場の格式を彷彿とさせるところが、戦前から活躍した建築家ならでは。その一方で、曲面を何層も重ねた内部空間はダイナミックです。それでいて、どことなくロマンティックなのが、戦前らしいモダンさと言えます。1886年以来の歴史を有する学園が、建築を大切に維持してきたおかげで、今の私たちは都内で貴重な空間を体験することができるのです。
◆共立講堂
住所:東京都千代田区一ツ橋2丁目2
数寄屋風の意匠を凝らす木造建築「三段坂の和館(岩田家住宅和館)」

池之端の閑静な地に佇む
「三段坂の和館(岩田家住宅和館)」は、台東区池之端の閑静な住宅地に佇んでいます。かつては洋館と対を成していた弁護士の住まいであり、後に東京大学に通う学生・学者の住居として使われました。普通よりも高い天井や玄関と床との間に入っている上がり框(かまち)、生活の跡を残す郵便受けやガス灯の名残などに、住まいの品格が感じられます。
決して豪華でも広大でもない木造建築ですが、落ち着いた空気が流れています。2023年よりNPO法人たいとう歴史都市研究会が所有者から借り受け、活用しながら保全活動を行っています。5月25日の公開時間中に訪問してみてください。東京のとっておきの場所として受け継いでいきたい。そう思うのではないでしょうか。
◆三段坂の和館(岩田家住宅和館)
住所:東京都台東区池之端4丁目17-7
“内田ゴシック”と呼ばれる特徴的なデザインに注目「港区立郷土歴史館」(1938年)

隣にある東京大学医科学研究所と対になって建てられた「港区立郷土歴史館」
「港区立郷土歴史館」は、戦前の大規模な建築が現代的な公共施設に転用された良い例です。1938年、港区白金台に公衆衛生院として建設されました。設計を手がけたのは、関東大震災後に東京大学本郷キャンパスの復興を指導した建築家・内田祥三です。そのため、この建物にも「内田ゴシック」と呼ばれるデザインの特徴が見られます。
スクラッチタイルの外壁やゴシック調のアーチが美しく、コの字型の平面プランや、左右対称の外観も印象的です。今回の東京建築祭では、ふだんは見ることのできない建物裏側の鉄骨大屋根エリアが特別公開されます。5月24日と25日の公開時間中に訪れて、大きな建築全体がどのように現代の公共空間として活かされているのかを、体感してみてください。
◆港区立郷土歴史館
住所:東京都港区白金台4丁目6-2
日本橋浜町に新たな魅力を生み出している「HAMACHO FUTURE LAB」(2023年)・「HAMACHO TOKYO HOTEL」(2019年)
「HAMACHO FUTURE LAB」は、築60年と築45年の建物を再生し、新たな街の魅力を生み出したプロジェクトです。通常であれば、敷地ごとに個別に建て替えが検討されるところですが、同じ会社が所有していたことで、2棟をまとめて改修し、まち全体の面白さに繋げることができました。
築60年の木造棟は一部を解体し、現在の法律に合うかたちに。その空いたスペースには、隣の築45年の鉄筋コンクリート造ビルから新たに避難階段を設けることで、ビルの活用の幅が広がりました。耐震補強を施した木造棟は個性的なオフィスとなり、ビルにはまちに開かれたサウナが入居。以前よりも人の流れができ、賑わいが生まれています。
東京建築祭では、5月24日と25日の公開時間中、木造棟、鉄筋コンクリート造棟、新設された鉄骨造の内部を見学できます。さらに、近くの「HAMACHO HOTEL TOKYO」でも5月24日と25日の公開時間中、通常は宿泊者しか体験できない「TOKYO CRAFT ROOM」が特別公開されます。丁寧なまちづくりによって注目されている中央区の日本橋浜町。この機会にお気に入りのショップやレストランを見つけてみるのも、東京建築祭の楽しみ方です。
◆HAMACHO FUTURE LAB
住所:東京都中央区日本橋浜町3丁目9-8
◆HAMACHO TOKYO HOTEL
住所:東京都中央区日本橋浜町3丁目20-2
電話:03-5643-1811
おわりに
東京建築祭は「建築から、ひとを感じる、まちを知る」をテーマにした建築体験イベントです。公開される場所は、普段から使われている方々のご厚意によって、特別に無料で開かれています。訪問する際には、必ず東京建築祭の公式WEBサイトで、最新の情報や注意事項をご確認ください。建築をきっかけに旅するように、いつもと違う東京に出会っていただければと思います。