【奈良】梅雨時にもぴったり。「鑑真様」ゆかり唐招提寺や苔の名所・秋篠寺を巡る旅

奈良県在住の旅色LIKESライター・神奈月みやびです。今回は「唐招提寺(とうしょうだいじ)」と「秋篠寺(あきしのでら)」についてです。唐招提寺といえば、歴史の教科書でおなじみの鑑真大和上(以下、鑑真様)ゆかりのお寺。また、どちらのお寺もこれからやってくる梅雨時期には苔に覆われて美しくなります。二つの寺の歴史や見どころを交えて紹介します。
本記事内では、親しみを込めて「鑑真様」と記載します(仕事柄なのか、昔からなのか、呼び捨てにしづらい……)。
目次
鑑真様ってどんな人?
平城宮跡の(復元)遣唐使船を見れば、当時の航海の険しさが感じられる
鑑真様は、中国の唐王朝時代に揚州(ようしゅう)で生まれました。この頃の日本では僧侶の質の低下が顕著だったため、聖武(しょうむ)天皇が正式な授戒(※1)ができる高僧を中国で探すよう、二人の僧に命じます。その二人が中国で見つけ出したのが鑑真様でした。しかし、当時の渡航はかなり困難で、なんと12年の歳月の中、五回失敗し、やっと日本にたどり着いたときには鑑真様は65歳。度重なる苦労で失明もしてしまいました。そんな困難に屈することなく、759年には日本で初めての戒律に基づく寺院・唐招提寺を建立。ここで多くの弟子を育て、律宗(※2)を広めていき、日本の仏教に大きな影響を与えていったのです。
※1授戒:仏教における戒律を授けること。またはその儀式。
※2律宗:戒律を重視し、戒律の研究と実践を重視する宗派。
一見の価値あり。鑑真様ゆかりの寺の名宝たち
唐招提寺には奈良時代の姿のままの建物や天平時代の仏像など、国宝や重要文化財に指定されているものが多くあります。中でも注目したいのは「金堂」と「御影堂(みえいどう)」の二つ。国宝に指定されている金堂は、奈良時代の荘厳さを感じさせる建築です。お堂の中にはご本尊の盧舎那仏(るしゃなぶつ)坐像を中心に、右に薬師如来立像、左に千手観音菩薩立像(以下、千手観音像)がいらっしゃいます。これらも国宝で、とてもスケールが大きく、圧巻です。特に気に入っているのは千手観音像。ほかのお寺でも見かけますが、実際の手の数は1,000本もないのが多いです。ところが、こちらの像は手の数が953本あり、ほかでは見られないお姿だと思います。御影堂には国宝になっている鑑真和上坐像が安置されており、命日の6月6日とその前後3日間だけ特別公開されます。その際には、鑑真様のために歳月をかけて東山魁夷(※3)が描いた襖絵も合わせて開扉。青い襖絵の前の坐像は、まるで海原に浮かんでいるようで感動的です。なお、個人拝観予約はできず、当日の朝から整理券を配布しての時間指定、かつ、人数限定での拝観、とハードルは高いですが、ぜひ訪れてほしいです。どうしてもこの3日間に訪問できない方は開山堂へ。鑑真の円寂(※4)から1250年にあたる2013年に作られた鑑真和上坐像の「御身代わり像」が安置されています。
※3東山魁夷(ひがしやまかいい):昭和を代表する日本画家の一人で、風景画の分野では国民的画家といわれる。
※4円寂(えんじゃく):仏教における僧侶の死を意味する言葉。悟りや涅槃(ねはん)に達し、煩悩を滅して完全に寂静(せきしょう)になる状態を表す。
5月~7月にかけて見たい、自然で彩られる唐招提寺
唐招提寺の見どころは名宝だけではありません。GW前後には瓊花(けいか)という花がが咲きます。この花は、1963年の「鑑真和上遷化(※5)1200年」の記念事業の一環で、中国仏教協会から贈呈された揚州の名花です。ガクアジサイに似た可憐な白い花で、隋王朝の皇帝・煬帝(ようだい)のお気に入りだったため、それ以降、門外不出とされていたという大変貴重なものです。見頃の時期のみ、御影堂の供華園(くげえん)が特別に開園。瓊花が終わった初夏には池に蓮の花が咲き始め、お寺を美しく彩ります。また、鑑真様の墓がある開山御廟へ至る道は、まるで苔のカーペット。訪れるのなら、雨上がりの日がいいかもしれませんね。
※5遷化:高僧が亡くなること。
◆唐招提寺
場所:奈良市五条町13-46
電話:0742-33-7900
拝観時間:8:30~17:00(受付は16:30まで)
拝観料:大人1000円 中学生・高校生 400円 小学生200円 (30名以上の団体割引あり)

“東洋のミューズ”がいる苔の名所・秋篠寺
唐招提寺の北にある秋篠寺も苔が美しく、これからの時期にぴったりな場所です。近鉄線のターミナル駅である大和西大寺駅から徒歩約20分。同駅北口からバスも出ています。私がこのお寺を知ったのは、渡辺淳一という大人の恋愛を描くのが得意な小説家の本ででした。不倫のカップルが秋篠寺を訪れ、苔の林を歩くシーンが心に残っています。境内に入ると参道の両脇に苔庭があり、特に梅雨時期には雨粒が反射して緑がより鮮やかになっています。境内の庭だけなら無料で散策できますが、ぜひ、本堂の仏様も拝んでほしいです。こちらには“東洋のミューズ”とも呼ばれる芸能の神様・伎芸天立像がおられ、その妖艶でしなやかなお姿や、歌うかのような、微笑んでいるかのようなお顔が本当に美しいです。ちなみに、秋篠宮皇嗣殿下は、宮家創設の際にこのお寺からお名前を取られました。伎芸天の横顔が紀子妃殿下に似ておられたからだとの噂があったそうですよ。
◆秋篠寺
場所:奈良市秋篠町757
電話:0742-45-4600
拝観時間:9:30~16:30
拝観料:大人(高校生以上)500円、中学生200円、小学生100円 ※小・中学生は成人家族を伴うこと

さいごに
唐招提寺や秋篠寺のある西ノ京は、東大寺や興福寺のある奈良公園エリアから少し離れています。ですが、奈良時代の天皇たちがおられた宮殿からも近く、重要なエリアでした。唐招提寺、秋篠寺のほかにも、薬師寺や西大寺、そして、平城宮跡などの名所も回ることができます。ぜひ、西ノ京エリアへも足を運んでみてください。