【宮崎県】歴史と文化が息づく美しい港町・油津(あぶらつ)を歩く

宮崎県

2025.03.16

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【宮崎県】歴史と文化が息づく美しい港町・油津(あぶらつ)を歩く

宮崎県日南市にある堀川運河は、300年以上の歴史を持つ人工の運河。飫肥(おび)杉をはじめとする木材を油津港へと運ぶ重要な水路として、地域経済を支えていました。今回は、伝統・自然などに触れる旅が好きな旅色LIKESライター・じゅんが知る人ぞ知る油津の魅力を紹介します。のどかで穏やかな町並みで、14もの国登録有形文化財が残っているので”ゆるり文化旅”にぴったりです。

目次

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日本三大運河の一つ「堀川運河」

油津のシンボル・堀川運河に架かる「夢見橋」は“時代を繋ぐ存在”

油津の歴史を語り継ぐ「チョロ船」

堀川運河の象徴的な風景を作り出している「堀川橋」

老舗和菓子店「井上松味堂(いのうえしょうみどう)」と「マグロ通り」から感じるマグロ景気

油津港を目指しながらレトロ建築を訪ね歩く

さいごに

日本三大運河の一つ「堀川運河」

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夢見橋の周辺はのどかな景色が広がっている

堀川運河は北海道の小樽運河、愛知県の半田運河に並ぶ日本三大運河の一つ。1686(貞享2)年に現在の日南市に流れる広渡川の河口付近から油津港までを開削した運河で、この開削により、高波などで難しかった飫肥杉などの運送が安全かつ効率よくなりました。運河の長さは約1,500メートル。完成当時、水害を防ぐための護岸は石積みで築かれていましたが、現在は歴史的資産として運河を残すため、崩れた石積みなどを修復し遊歩道も整備。かつての運河の面影を感じながら散策できます。

油津のシンボル・堀川運河に架かる「夢見橋」は“時代を繋ぐ存在”

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綺麗なアーチの屋根がついている夢見橋

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よく見ると線路跡が

堀川運河にかかる夢見橋は2007(平成19)年に架かったもので、樹齢120年の飫肥杉と飫肥石を使用しています。釘などの金属を一切使用しない伝統的な建築工法「木組み」で造られ、木と木を繋ぐパーツの一部には地元の子どもなど4,000人の「願いごと」が書き込まれています。また、緩やかに湾曲した天井は、かつて造船に使われていた伝統技術を応用したもので、飫肥杉の特徴を活かし船の先端部分の曲線を再現しています。さらに、橋の周りには赤レンガが敷き詰められ、すぐ近くには貨物支線の線路跡。夢見橋は歴史と伝統、地元の人たちの想いがつまった、時代を繋ぐ存在となっています。

◆夢見橋
住所:日南市材木1丁目

油津の歴史を語り継ぐ「チョロ船」

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復元されたチョロ船

堀川運河を歩いていくと、運河に浮かぶ木造のシンプルな船が見えてきました。油津に伝わる伝統的な木造舟のチョロ船です。昭和初期には120隻ものチョロ船があり、カツオやマグロ漁で活躍していました。全長約8メートル、横幅2.4メートルの大きさ。2本の帆をもつ船で、船材に使われているのは飫肥杉です。現役のチョロ船はもうありませんが、地元有志で復元したものが運河に係留されています。お祭りなどのイベントでの体験乗船や、小学生の総合学習などで新しい世代へと伝統や文化を伝えるため活躍をしています。

堀川運河の象徴的な風景を作り出している「堀川橋」

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アーチの石橋が美しい、時代の流れを感じさせる堀川橋

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堀川橋では、寅さんとヒロイン・蝶子さんが言葉を交わすシーンで使われた

港に向かって歩いて行くと、静かに佇む石橋が見えてきます。運河の開削により分断された油津の町をつなぐために、1903(明治36)年に架けられた堀川橋です。以前は油津板橋という木橋でしたが、度重なる雨風で流されてしまい、現在の石橋へ。橋の下は船が行き交うためアーチを高くする必要があり、両岸の道路は3メートルの嵩(かさ)上げが行われました。そのため道路に合わせて2階が玄関となった家が現在でも残り、独特な風景を作り上げています。また、この橋は人気映画シリーズの45作品目『男はつらいよ 寅次郎の青春』のロケ地でもあります。

◆堀川橋
住所:日南市油津1丁目1-5

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神社の入口にはアヒラツヒメが今も油津の町を見守っている

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神社の参道を兼ねている堀川橋

堀川橋のすぐ側には赤い鳥居が印象的な吾平津(あひらつ)神社があります。神武天皇妃であるアヒラツヒメが祀られていて、通称・乙姫神社とも。アヒラツヒメは日南出身で、神武天皇の東征(※)の際は同行せずに油津から成功と道中の安全を祈っていたとされています。そのため、今でも油津の町をお守りしているといわれ、神社は航海安全や商売繁盛など地域の人達の祈りの場に。そんな神社へと続く参道の橋としても堀川橋は重要な役割も果たしています。

※神武天皇の東征(神武東征):神武天皇は日向(宮崎)を出発して東に向かい、大和国(奈良)に至ってそこに都を開いた。

◆吾平津神社
住所:日南市材木町9-10
電話番号:0987-22-2863

老舗和菓子店「井上松味堂(いのうえしょうみどう)」と「マグロ通り」から感じるマグロ景気

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羽二重餅は柔らかくて中はこしあん

神社の対岸にある老舗の和菓子屋さん「井上松味堂」。ひっそりとした佇まいですが80年もの歴史を持つ地元でも人気のお店です。一つひとつ手作りされた、ここでしか手に入らない小振りな和菓子が並びます。おすすめは昔ながらの製法で作られた「羽二重餅」。もちもちの柔らかい皮に、なめらかで優しい甘さのこし餡が入っています。シンプルですがどこか懐かしさを感じる味に気分もほっこり。散策の際は是非立ち寄りたいお店です。

◆井上松味堂
住所:日南市油津1丁目1-12
電話番号:0987-23-4646
営業時間:8:30~19:00
定休日:不定休

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この看板が目印

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マグロ通りの先には海が見える

井上松味堂の近くには「マグロ通り」という小道があります。油津は昭和初期には年間15,000匹を超えるクロマグロが水揚げされ“東洋一のマグロ基地”として全国から漁船が集まるほど。マグロ漁の隆盛は油津の町全体を潤し、多くの人々が訪れるようになりました。そんなマグロ景気で栄え、漁師が行き来して賑わった油津の歴史を現在にひっそりと伝え続けているのが「マグロ通り」です。

◆マグロ通り
住所:日南市油津

油津港を目指しながらレトロ建築を訪ね歩く

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文化庁登録有形文化財であり、日本建築学会の「日本近代建築総覧」に掲載されているほか宮崎県建築百景にも選ばれている

港方面へさらに歩いていくと、レトロな建物がいくつも見えてきます。国の登録有形文化財に指定されているものもあり、大正末期から昭和初期までのマグロ景気で栄えた当時の面影を感じさせます。なかでも注目のスポットが二つ。一つは赤と緑の塗装が目印の「杉村金物本店」。明治に創業し、金物・漁具・船具などを扱い、全国から集まる漁船に販売をしていた老舗のお店です。1932(昭和7)年に建てられた主屋は木造3階建てで、1階は店舗、2・3階は住居になっています。銅板の外壁と縦長の窓は洋風なデザインになっているのが印象的です。主屋の後ろには1918(大正7)年に建築された赤レンガ造りの倉庫があり、異素材の組み合わせなのに違和感がありません。現在も営業しており、昭和を感じさせる金具や船具を販売しています。

◆杉村金物本店
住所:日南市油津1丁目6番12号
電話番号:0987-23-5211

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大正期のレンガ造り建築を知れる文化財でもある

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館内には堀川の資料が展示されている

もう一つは、1922(大正11)年に飫肥杉の流通で成功を収めた河野家が建てたレンガ造り2階建ての倉庫「油津赤レンガ館」です。町の繁栄を表したシンボル的な建築物ですが、1997(平成9)年に競売にかけられる危機に瀕しました。他者の物になれば取り壊しは避けられず、地元有志31人がそれぞれ100万円を出資しなんとか競売から阻止したというエピソードがある、深い愛情と熱い想いが込められている建物です。現在は市が管理をし、1階は油津の歴史資料の展示と無料の休憩室として開放されています。2階は会議やイベントなどレンタルスペースとしての利用可能です。

◆油津赤レンガ館
住所:日南市油津1丁目9番3号
電話:0987-27-3600
営業時間:9:00~18:00
定休日:年末年始
入館料:無料

さいごに

日南市の発展を支えた油津地区には14もの国登録有形文化財が残り、当時の建物だけでなく思いが残る貴重なエリアです。また、世界中の大型クルーズ船が訪れる油津港もあり、国際的な玄関口でありながら日本人でも知らない歴史と文化が息づく穴場スポットでもあります。今回は約60分の滞在でしたが、もっとじっくり散策したくなりました。市内の代表的スポットでもある城下町・飫肥からも車で10分弱なのでひと足延ばしてみてください。

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#日南市 #レトロ建築 #油津 #散歩 #体験レポート

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ゆるり文化旅 じゅん

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じゅん

東京郊外在住の会社員。美味しいものを食べながら、伝統・自然などに触れる旅が好き。新しい発見を求めて文化×探求心でマイペースに楽しんでいます。写真からも旅の楽しさを伝えたいを目標にカメラも勉強中です。たまにドローンを片手に出かけることも。

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