【奈良 大和高田】まもなく見頃な千本桜…だけじゃない、奈良在住ライターおすすめの歴史ロマンへ誘う日帰り旅
奈良県在住の旅色LIKESライター・神奈月みやびです。皆さんは「大和高田市」を知っていますか? 毎年3月下旬から4月上旬頃にかけて高田川の両岸約2.5kmにも及ぶ千本桜が咲き誇るので有名な町です。そのため「大和高田といえば桜だけ」と思われがちなのですが、数々の伝説や歴史遺産が今も残っており、ぶらぶら散策するのにぴったりな町です。そんな大和高田市の魅力を存分に感じられる歩き方を紹介します。
目次
大和高田市ってどんな町?

大和高田市観光サイトから転載
このエリアは飛鳥時代、日本史上最初の女帝とされる推古天皇によって作られた、大阪府と奈良県を東西に結ぶ日本最古の官道(※1)「竹内街道」と「横大路」の切り替わりポイントに当たる場所です。市内東西を横大路が横断していることから、万葉人(※2)の往来も盛んだったといわれています。その後、江戸時代に建立された「専立寺(せんりゅうじ)」を中心に寺内町(※3)が発達し、いまの大和高田市の基礎が作られました。昭和30年代には「天神橋筋商店街」や「片塩商店街」などに多くの買い物客がごった返し“商業の町”として成長。市内に鉄道3路線が通り、高田川を付け替えた道路も整備された便利な町になっています。
※1官道:日本の国家によって整備・管理・維持がなされた道路。
※2万葉人(まんようびと):日本の民俗・国文・国語学者である折口信夫(おりぐちしのぶ)の造語。飛鳥に都が移ってから奈良朝ができてから当時の国土で暮らしていた人々のこと。
※3寺内町(じないちょう):寺院の境内に接して形成された宗教自治都市のこと。大名・領主などの干渉を排し、自治を確立していた。
大和高田市を発展させた「専立寺(高田御坊)」
そんな町の重要スポット「専立寺」は、関ヶ原の戦いと同年の1600(慶長5)年に創建され、大和五ヶ所御坊(※4)の一つであることから「高田御坊」とも呼ばれています。開祖は准如上人(※5)で、観光寺院ではないので普段は開いていませんが、ご住職にお願いし、本堂やお庭を見せていただきました。本堂にある20分の1図を見ると当時のほうが敷地がもっと広かったようです。それにしても、関ヶ原の合戦の年によくこんな大きなお寺の建築ができたものですね。京都や奈良の仏教界は武士の世界とは少し距離をおいていたのでしょうか……。この頃、奈良県内のみならず近畿・中部地方でも寺内町が発展していたのも納得ができます。豪華な彫刻を施した表門と太鼓楼が市の指定文化財になっており、ご本尊の阿弥陀如来様もとても立派なものです。四季折々の花の咲く庭園にはご住職いわく「石棺あったからちょっときれいにしてお祀りしている」そう。
※4大和五ヶ所御坊(やまとごかしょごぼう):奈良県にある浄土真宗本願寺派の寺のことで、橿原市の今井御坊(称念寺)と畝傍御坊(信光寺)、御所市の御所御坊(圓照寺)、田原本町の田原本御坊(浄照寺)と大和高田市の高田御坊(専立寺)の五つ。
※5准如上人(じゅんにょしょうにん):安土桃山から江戸初期にかけての僧。浄土真宗本願寺派の本山である西本願寺の開祖でもある。
◆専立寺(高田御坊)
住所:大和高田市内本町10-19
電話:0745-52-5180
拝観料:無料 ※要事前問い合わせ
安寧天皇の宮跡の近くには静御前の母も住んでいた?
専立寺から徒歩約10分、高田市駅に隣接する「石園坐多久虫玉神社」(いそのにますたくむしたまじんじゃ)は市内で唯一の延喜式神社(※6)で、別名「龍王宮」とも呼ばれています。この神社にはさまざまな逸話があり、なかでも有名なのが安寧天皇と静御前の母についてです。
安寧天皇は『日本書紀』『古事記』のなかで大和朝廷の第三代天皇とされていますが、実在性については諸説ある人物です。その宮(皇居)の名前が片塩浮穴宮(かたしおのうきあなのみや)とされており、前後の諸宮が全て奈良盆地にあることから、境内に石碑が建てられています。「片塩」「浮穴」「礒野(いその)」は現在の大和高田の地名にも残っています。
静御前は源義経の妻で白拍子(※7)の名手とされていますが、その母・礒野禅尼の故郷がこの神社周辺の「礒野」だったと伝わっています。静御前は吉野山で捕らえられ、鎌倉へ送られます。そこで、罪人である義経を想う舞を舞ったことで頼朝の逆鱗にふれ、殺されるところでしたが、頼朝の妻・北条政子の助命嘆願で救われました。静御前は鎌倉を追放された後、この礒野の地に戻り、余生を過ごしたそうです。静御前が義経を偲んで舞った「しずやしずしずのおだまき繰り返し昔をいまになすよしもがな」の記念碑は、後に紹介する桜の名所「大中公園」の中に建っています。
※6延喜式(えんぎしき)神社:平安時代の法律などをまとめた「延喜式」の中の神名帳(じんみょうちょう)に載っている神社。全国各地の神社2861社、3132座が収められている。
※7白拍子:平安朝末期に起こった歌舞、もしくは、それを舞う遊女のこと。
◆石園坐多久虫玉神社(龍王宮)
住所:大和高田市片塩町15-33
電話番号:0745-52-6855
拝観時間:6:00~19:00
休観日:無休
拝観料:無料
400年続いた老舗旅館の伝統を受け継いだフレンチレストラン「ヴェルデ辻甚」とラーメン店「くろす」
本町通りと横大路の交点の辻にあるのが、「ヴェルデ辻甚」。400年以上の歴史を持つ老舗料亭旅館「辻甚」をリニューアルし、結婚式のできるチャペルを備えたフレンチレストランになりました。ヴェルデは「緑」の意味で、上品な外壁の緑色が寺内町の名残が残る通りにもなじんでいます。100坪の日本庭園を見ながらフランス料理をいただくのは、和洋折衷の極み、乙なものです。また、ウェディングもできる施設ということもあり、提供される料理は見た目も美しい! 軽めのランチコース(デジュネA 4,400円)もあるのでちょっと贅沢したいときにぴったりです。ウェディングといえば、俳優の福山雅治さんと吹石一恵さんがここで挙式披露宴を挙げたとの噂があります。スタッフさんに尋ねてみましたが「お客様に関する情報には守秘義務がありますので、一切お答えできません。」とのこと。真偽はわかりませんが、地元でも「辻甚ならそれもあるだろう」といわれるほどの名店なのは確かです。
◆ヴェルデ辻甚
住所:大和高田市南本町11-43
電話:0745-25-5201
営業時間:11:30~15:00(LO14:00)、17:30~22:00(LO21:00)
定休日:水曜日(祝日の場合は営業)
「くろす」の入り口は、ラーメン屋っぽくない
また、辻甚本店の向かいにはカジュアルなラーメン屋「くろす」があります。カジュアルとは言え、辻甚のシェフが監修しているので、フレンチの流れを汲んだカプチーノ風スープなど、ラーメンのイメージを一新する味になっています。ちょっとお財布がさびしいときには、1,000円前後のメニューが揃うこちらで一風変わったラーメンもおすすめです。そして、ヴェルデ辻甚監修のデザートのシュークリームが絶品。テイクアウトでもどうぞ。
◆くろす
住所:大和高田市南本町10-22
電話:0745-25-3500
営業時間:11:00〜14:30(LO15:00)、17:30〜21:00(LO21:30)
定休日:水曜日(祝日の場合は木曜日)
町の名所「高田千本桜」にも知ってほしい歴史あり
大和高田市に来たら、やはり「高田千本桜」は外せません。高田川の土手沿いを南北約2.5kmもの桜並木が続きます。樹齢70年を超え、今では県内でも屈指の桜の名所になっていますが、この植樹には大きな苦労がありました。
1948(昭和23)年に市政施行を記念し桜並木を植える計画が立ち、市内の町内会から桜の苗木を寄付してもらい、その数が千本になりました。ところが、当時「河川敷に桜を植えると堤防が弱くなる」という理由から県庁から許可が下りなかったそう。そこで、当時、奈良に駐在していた米軍政府司令官ヘンダーソン大佐に「桜は植え方次第で堤防をより強くできる」と市長たちが直訴したところ、大佐が自分と自分の家族の名前で桜の苗木を買うための寄付をしたのです。その後、250本分の寄付が軍曹たちからも集まったので、堤防の安全な場所に植えることに。そして、次々と苗木を植えた結果、県内有数の桜の名所ができあがったのです。諦めずに桜を植えてくれた先人の熱意と努力に感謝して、桜を眺めたいと思います。
昼間の桜も見事ですが、夜にはライトアップされ違った雰囲気になります。コロナの時期は自粛されていましたが、2023(令和5)年からは前のようにぼんぼりが灯り、賑やかにお祭りも開催されるようになりました。桜の予想は本当に難しいですが、日々の桜の咲き具合をホームページでチェックし、見頃に間に合うといいですね。
高田千本桜の中心は、大中公園。公園内の大中池には、1998(平成10)年、市政施行50周年を記念して、能舞台(浮舞台)のある桜華殿が作られました。
◆大中公園(高田千本桜の中心)
住所:大和高田市大字大中183番地
開花時期:3月下旬~4月上旬 ※ライトアップは18:00~21:00
さいごに
私は以前、大和高田駅前のマンションに住んでいたのですが、こんな風に町を歩いたことがほとんどありませんでした。少し歴史を知り、視点を変えて町を歩いてみると新たな発見があります。近鉄大阪線の快速急行を使えば大阪上本町駅から大和高田駅まで約30分、近鉄南大阪線の急行なら阿部野橋から高田市駅まで約30分でアクセスできますので、ぜひ日帰り旅に来てほしいですね。