【伝承ロード】宮城県 山元町の震災遺構を訪ねて。判断の難しさと復興の兆しを知る

宮城県

2025.02.26

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【伝承ロード】宮城県 山元町の震災遺構を訪ねて。判断の難しさと復興の兆しを知る

東日本大震災が起きてから14年を迎えます。被災地の復興は進む一方で、震災の記憶と教訓を次世代へ伝え、今後の防災に活かすことが重要になっています。震災後、被災地に数多くの震災伝承施設が設けられてきました。今回は旅色LIKESメンバーのさくやさんが、宮城県 山元町の伝承施設を訪ね、展示内容に込められた想いをたどる旅へ出かけました。

目次

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伝承ロードとは

至るところで震災の影響を感じる、宮城県 山元町

生々しい傷跡が残る震災遺構 中浜小学校

映像プログラムから被災当時の緊迫した判断場面を知る

一面のネギ畑と堤防沿いの黒松に復興の兆しをみる

◆この記事を書いたメンバー

伝承ロードとは

東北各地にある震災遺構のマップ

東北各地にある震災遺構のマップ

青森から岩手、宮城、福島までの東日本大震災の被災地には、被害の実情や教訓を伝える震災伝承施設が数多くあります。これらの施設をネットワーク化し、防災に関する「学び」や「備え」を国内外に発信することで震災を風化させず、後世に伝え続けていく取り組みのことを「3.11伝承ロード」といいます。
東日本大震災当時、両親の隠居先の茨城県神栖(かみす)市もまた津波の被害を受けていました。その地元出身の母が以前より「大潮になると、利根川に太平洋の海水が津波のように大逆流を起こす」という昔話を話していました(現在は常陸川水門の造設により逆流を防いでいます)。東日本大震災の大規模な地震のあとの各地で起こる津波の情報にその昔話を思い出した私はパニックになり、母に電話し続けた記憶があります。幸い家の2㎞先までで津波は引いたとの話ですが、その一件以降、実際の津波の被害を受けた現地を一度見てみたいと考えるようになりました。

至るところで震災の影響を感じる、宮城県 山元町

津波で駅はごっそり持っていかれたそう

電動自転車をレンタルしたら、地元のお母様に見送られ出発です

この道路は津波で不通区間になった常磐線の跡でもある。今はさらに高くして、堤防の役割も果たせるようになっているそう

訪れたのは宮城県 山元町。太平洋沿岸に位置する町で、常磐線で坂元駅まで向かいます。常磐線は津波で駅のホームがえぐれ、列車が押し流されるなどの被害が出て、しばらくの間不通区間がありました。その後内陸へ線路を移し、2020年3月に全線開通に至った経緯があります。坂元駅も不通区間だった駅の一つです。
駅すぐそばの農水産物直売所「やまもと夢いちごの郷」でレンタサイクルを借ります(事前に電話予約も可能)。料金は電動付き自転車なのに一日借りても無料とのこと! 震災遺構を見に行ってもらうのが目的なのか、伝承ロードに沿う常磐線周りでは無料で自転車を貸してくれるスポットは多いです。
ちなみにこの辺りは直売所の名前のとおりいちごの栽培が盛んで、いちご狩りできる農園が駅の10キロ圏内に10こほどあります。これからの時期は自転車争奪戦がありそうですね。目的地の「震災遺構 中浜小学校」へは自転車で15分ほどの道のりです。
一面の野原、そしてネギ畑が続く道を走っていきます。高い堤防状になっている道路にぶつかったら相馬方面へ進んでいくと、その先に中浜小学校が見えてきました。
建物はその小学校しかありません。遺構の前には黄色いハンカチがたなびく柱と慰霊碑がおかれています。

生々しい傷跡が残る震災遺構 中浜小学校

外開きの扉が、津波の力で内開きに

多目的ホール

教室は扉と廊下のない最新の造りの校舎だった。そのため、扉のあった校長室以外はすべて中のものを持っていかれてしまったそう

近くで見ると、生々しい傷跡が残る建物です。小学校横の受付のある管理棟で受付をし、中に案内されて入ります。この小学校で津波から児童含む90名の命が守られたという現場です。何がこの町で起こったのか、中の展示で思い知らされたのでした。
一階は津波の被害を受けた当時のままの建物内を通路から見ることができます。
窓という窓のガラスは吹っ飛び枠はひしゃげ、流されてきたであろう机や椅子は元々どの教室から来たのかもわからない……。一部自衛隊の方により片付けられているところもあるそうですが、当時の災害があったままの展示とのことです。自然のパワーに人の力は小さすぎます。

映像プログラムから被災当時の緊迫した判断場面を知る

2階天井近くまで津波が入り込み、何度も押し寄せたとのこと。海岸まで300mの地点でこの高さは恐怖でしかありません

津波はこの写真の画面上部いっぱい、かつ一面に広がり、目の当たりにした方々は絶望を感じたそう。遠くに海が見える

2階の図書室だった場所は当時の山元町の街の様子や、震災前後の小学校での詳細な記録を展示したスペースになっており、隣の音楽室は当時の関係者(校長先生やPTA会長)の話や映像をまとめたドキュメンタリーを視聴できます。第一波時の映像も残っており、すごく速いし、校舎前を横切った軽トラは大丈夫だったのかと心配になる衝撃的な映像でした。
この建物がなぜ残ったのかというと、地元の方から出た高潮対策の意見により、元の地面より2m盛り土がされたことが一番の理由でした。大津波警報時の予想波高が10mで建物が盛り土2m+8m(2階の校舎部分まで)+2m(屋上部分)でギリギリ津波から避けられることができると判断した当時の校長が決断し、屋上の屋根裏倉庫への避難をしました。
あとは4回押し寄せた津波のうち最大だった4回目の津波が、返し波に打ち消されたことなどの偶然が重なったため建物が奇跡的に残り、自衛隊により速やかに救助されることになったのです。

生死を分けた、資料室の階段。普段は授業の資料室として使われており、階段が急なため教師以外は存在が知らされていなかった。ここを上って屋根裏倉庫へ避難した

生死を分けた、資料室の階段。普段は授業の資料室として使われており、階段が急なため教師以外は存在が知らされていなかった。ここを上って屋根裏倉庫へ避難した

震災当日は、津波注意報発令→津波警報発令(6m)で2階に全校児童避難→急遽大津波警報(10m 20分後に到達予定)に発令が変更になる、と展開が矢継ぎ早に変わり、先生たちは判断をとても迷ったそう。
校舎の屋上に避難するという判断に至るまで、11日の本震が起こる2日前に起きた最大震度5弱もの前震後からの職員会議内容がとても興味深くためになりました。時間と距離、避難の際の判断基準の重要さをこの展示で知りました。
ドキュメンタリーの最後、当時のPTA会長の「避難するのか(内陸部の中浜中学校への避難もその時検討されていた)、校舎にとどまるのか、どの判断が正解なのかは今でも難しい」の一言が印象的でした。「小学生の足の速さで内陸部の長浜中学校への避難は、津波到達予定時刻より早く着ける可能性が低い」が決定打だったそうです。隣町の同じ条件の小学校は内陸部のへ避難して全員助かっているそうなので、何とも難しい問題です。


◆震災遺構 中浜小学校
住所:宮城県亘理郡山元町坂元字久根22番地2
電話:0223-23-1171

震災遺構 中浜小学校 詳細はこちら

一面のネギ畑と堤防沿いの黒松に復興の兆しをみる

かつて商店街があり、一番住宅が密集していた地域。現在は住むことは禁止されており、堤防沿いにわずかに黒松が伸びている。元々防風林があった場所にまた植えているそう

大人が判断した避難内容も、子ども達に現状をどう理解できるかの言葉を選ぶのも、難しい作業だと今回の訪問で思いました。何が正しかったのか、結果がないとわかりません。毎年しっかり避難訓練をしているためか、有事の際も落ち着いて対応できるのは日本特有なんだなあと改めて思います。
小学校周辺にはネギ畑が広がります。元々集落があった場所が津波により塩を含んでしまっているため、塩分に強いネギを植えているそう。直売所にもそのネギが売られていました。そのネギ畑の海岸沿いには黒松の防風林があったそうで、今は黒松の苗木を植えています。大きくなって災害前のような防風林になるのは40~50年後。

もうすぐ東日本大震災が起きてから14年。被災した町の「今」を知り、震災の恐ろしさを、学びを意識が薄れることのないように訪れることは大事なことだと思いました。

◆この記事を書いたメンバー

さくやさん
ワイナリー、ブリュワリー、酒蔵のはしごが好き。

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