【4月14日】中将姫の伝説を紡ぐ春の歴史絵巻。奈良・當麻寺練供養へ

昨年、国の重要無形民俗文化財に指定された、奈良県葛城市にある當麻寺(たいまでら)の「練供養」が、今年も4月14日に開催されます。極楽浄土へのお迎えを表現した全国各地の「練供養」と呼ばれる仏教行事の中で最も古く、実に1000年以上もの歴史があるとされるのが、當麻寺の練供養です。中将姫の伝説をモチーフにした、厳かで美しい春の伝統行事を(“幻のよもぎ餅”情報とともに)、昨年訪れた時の写真でご紹介します。
目次
當麻寺の練供養とは
當麻寺は612年に聖徳太子の弟、麻呂子親王が創建したと伝わる古刹です。奈良時代の貴族の娘とされる伝説の女性、中将姫が一夜にして織り上げたと伝わる當麻曼荼羅(国宝)をご本尊としています。當麻寺の練供養は正式名を「當麻寺練供養会式(たいまでらねりくようえしき)/聖衆来迎練供養会式(しょうじゅうらいごうねりくようえしき)」といい、中将姫が観音菩薩らによって、生きたまま極楽浄土に迎えられたという伝承を再現した劇のようなものです。姫の命日にあわせて、毎年4月14日に営まれます。昨年は日曜日だったため、この機を逃すまいとばかりに葛城市に向かいました。

中将姫の墓塔は鎌倉時代後期の作とされる十三重の石塔
中将姫ゆかりの花の寺・石光寺へ
當麻寺の練供養は夕方16時からの開始ですが、現地にかなり早めに到着したので、當麻寺近くにある中将姫ゆかりの石光寺(せっこうじ)を訪れることに。牡丹、芍薬など「花の寺」として知られる石光寺では、ちょうどぼたん祭りが始まったばかり。境内には、色とりどりの大輪の花が咲いていました。ここには中将姫が糸を染めたという井戸「染めの井」と、糸を干したという「糸かけ桜」が残ります。
◆石光寺
住所:奈良県葛城市染野387
電話番号:0745-48-2031
拝観時間:8:30~17:00
拝観料:大人400円、小学生200円
◆ 當麻の里ぼたん祭り(當麻寺・石光寺)
開催日時:4月13日~5月6日(2024年)※2025年の日程はHPを確認
練供養の時だけ架かる120mもの橋
當麻寺では本堂である曼荼羅堂と東にある娑婆堂(しゃばどう)が、この行事の時だけ120mほどの木製の架け橋で繋がれます。練供養では西方極楽浄土に見立てた本堂と、俗世間を象徴する娑婆堂を繋ぐ「来迎橋(らいごうばし)」を、観音菩薩らが練り歩くのです。

コロナ禍の2年間は祭りの規模が縮小され来迎橋が架けられなかった
練供養が始まるまで當麻寺をゆっくり見学して回りたかったところですが、今回は當麻寺最古の塔頭である中之坊だけを拝観することに。ちょうど中将姫ゆかりの宝物を展示する春季特別展が開催されていました。美しい庭園や中将姫が剃髪されたというお堂(良縁を導く観音様が祀られています)などを見学し、旧国宝の書院でお抹茶をいただいて、1時間ほど過ごしました。
この日は人が多かったので、中之坊の見学を早めに切り上げ、練供養の開始1時間半ほど前には来迎橋のすぐ下を陣取ってスタンバイすることに。まだ4月半ばだからと、帽子や日傘などの日よけ対策を怠っていた私は、昨年の予想以上の暑さに準備不足を後悔……。着ていたカーディガンを頭から被ってただひたすら待っていると、みるみるうちに周囲は開始を待ちわびる人で溢れ返ってきました。

橋の奥に見えるのが娑婆堂
なお、中将姫誓願桜や姫の伝説については、以前こちらの記事でもご紹介しました。あわせてご覧いただけると嬉しいです。
荘厳で幻想的な情景に魅了される仏教絵巻「練供養」
開始時刻になると、僧侶の読経と雅楽の演奏が響き渡る中を、僧侶、お稚児さん、雅楽隊、二十五菩薩、観音菩薩らが、来迎橋を本堂から娑婆堂に向かって練り歩いていきます。黄金の面と煌びやかな衣装をまとった菩薩ら一行の背後から、まるで後光のように夕日が差し、まぶしいくらい。来迎橋のすぐ下で見学していたため、目の前を練り歩く菩薩の力強い足音は迫力がありました。
この行事最大の見どころは、一行が娑婆堂(現世)から本堂(極楽浄土)に戻っていく場面。ちょうど本堂の背後にある二上山に夕日が沈むタイミングで西に向かい歩みを進めていくため、菩薩の面は真正面からオレンジ色の夕日を受けて金色に光り輝き、煌びやかで幻想的ですらあります。まるで夕日が西方浄土の光のよう。この時間に行われる理由がよくわかりました。
1時間ちょっとの荘厳な歴史スペクタクル劇は神秘的でもあり、まるで夢か幻を見ているかのような情景でした。とてつもなく長い間、これほどの伝統行事を受け継いできたことに、奈良の歴史の深さや仏教との結びつきはもちろんのこと、伝統を紡ぎ続ける方々の矜持を感じずにはいられません。なお、昨年は晴天でしたが、雨天の場合は来迎橋ではなく、本堂の周りを練り歩くのだそうです。
◆當麻寺
住所:奈良県葛城市當麻1263
電話番号:0745-48-2008(奥院)
拝観時間:9:00~17:00
拝観料:大人500円、小学生250円(金堂・講堂・本堂合わせて)
中之坊拝観料:大人500円、小学生250円※特別公開などにより変更される場合あり
葛城市のもう一つの幻(?)、年に3週間限定の「よもぎ餅」
厳かな練供養に感動した春の一日でしたが、一点だけ心残りがありました。それは、名物のよもぎ餅を買えなかったこと。當麻寺の近くに、練供養の日から3週間だけ営業するよもぎ餅専門店「春木春陽堂(はるきしゅんようどう)」があります。生のよもぎが採れる、この季節しか口にできない希少なよもぎ餅は“幻のよもぎ餅”と呼ばれているのだとか。よもぎ餅の存在に気づいた時にはとっくに売り切れていましたが、食べられないとなると、どうしても食べてみたくなる……。そこで練供養から3週間後のゴールデンウィークに、リベンジとばかり買いに行ってきました。
8時から整理券が配布されるとのことですが、訪れたのがゴールデンウィーク最終日かつ今年の最終販売日なので、早朝、暗いうちに自宅を出発し、7時ちょうどにお店に到着しました。が、その時点ですでに軽く100人は超えている長蛇の列……。祈るような気持ちで、並んで整理券配布を待ちます。待ち人数が多いからか、8時にならないうちに整理券配布が始まりました。

朝7時でこの行列
販売されるのは「ひめ餅10個入り」と「よもぎ大福5個入り」の2種類のみ。1人につき、それぞれ最大2箱まで購入できます。残念ながら、私の2人前でひめ餅は完売。ぎりぎり、よもぎ大福の整理券だけを入手できました。ちなみに、よもぎ大福も私のすぐ後ろの人で完売。危なかった……。確実に入手するなら平日に行くのがいいのでしょうね(それでも朝早いとは思いますが)。私のように、ゴールデンウィーク最終日に行くなら7時より前に並んだ方がよさそうです。
◆春木春陽堂
住所:奈良県葛城市當麻7
電話番号:0745-48-2205
営業日:4月中旬から3週間程度(2024年は4月14日~5月5日。年によって期間は前後するので要事前確認)
営業時間:9:00~なくなり次第終了
こちらもおすすめ! 中将堂本舗の「中将餅」
春木春陽堂から歩いてすぐの場所に、ひめ餅とよく似たよもぎ餅「中将餅」を販売する「中将堂本舗」があります。中将餅はひめ餅と違い、一年を通じて購入できるものの、こちらも練供養の日には買いそびれていました。今回は中将餅も買うつもりだったので、春木春陽堂で大福を購入した後、10時半くらいに中将堂本舗に。中将堂本舗も人気店で、15人ほどが店の外に並んでいましたが、行列が進むのが早く、それほど待たずに購入することができました。その間も、次々とお客さんが後ろに並び、行列が絶えません。売り切れ次第終了なので、ゴールデンウィークは早めにゲットした方がよさそう。

普段はイートインできるがこの日はお持ち帰りのみ
◆中将堂本舗
住所:奈良県葛城市當麻55-1
電話番号:0120-483-203
定休日:7月、8月中旬~8/31、12月末~1月初旬※詳細はHPを確認
営業時間:9:00~16:00※売り切れ次第終了

春木春陽堂の大福(上)と中将堂本舗の中将餅(下)
大福も中将餅も、その日のうちに自宅でいただきました。どちらもよもぎの香りがしっかり感じられ、上品な甘さのこしあんがよもぎの風味とよく合います。2箱ずつお土産に購入しましたが、家族4人であっという間に完食。今度は、今回買い損なったひめ餅と中将餅を両方購入して、食べ比べてみたいものです。
中将姫の伝説を紡ぎ続ける伝統行事に魅了される
なぜこれほど多くの人が練供養を見たいと當麻寺を訪れるのか、厳かで幻想的ですらある情景を目の当たりにし、その理由が少し理解できたような気がします。2025年の練供養(4月14日)は月曜日なので、昨年に比べれば多少は混雑がマシになるかもしれません。春の一日、1000年以上も大切に受け継がれてきた歴史絵巻の荘厳な世界に浸ってみてはいかがでしょうか。