早春の滋賀で弥生の御朱印集め。菜の花を愛でながら弥生時代の遺跡を巡る旅へ

日本の歴史や伝統に触れる旅が好きな旅色LIKESライター・長月あきです。近年、神社仏閣を参拝した際にいただく「御朱印」以外に、多様な「○○印集め」を楽しむ方が増えています。「御酒印」、「御書印」、「鉄印」、「御城印」などなど、旅の記念につい集めたくなってしまいます。今回私は、滋賀県守山市にある弥生時代の遺跡や関連施設をめぐって「弥生の御朱印」を集めてきました。市内約150か所から遺跡が見つかっている守山市は、一足早く菜の花が咲く公園や春の味覚・いちごを堪能できるカフェもあり、歴史旅だけでなく、早春のお出かけ先にぴったりなんです。春の訪れを感じつつ、弥生時代についても学べる歴史旅へ出かけましょう!
目次
「弥生の御朱印巡り 全国版」とは?
2022(令和4)年から始まった「弥生の御朱印巡り」は、各地の遺跡・施設を巡って、神社仏閣でいただくような御朱印を集める企画です。鳥取県主導の下、教科書でお馴染みの吉野ヶ里遺跡(佐賀県)や登呂遺跡(静岡県)などを含む全35遺跡38施設が参加しています。私のように、歴史は好きでも古代史は全然詳しくない……という方でも気軽に弥生時代について知れるいい機会になりそう。御朱印は無料で、押印は手持ちのメモ帳やノート、御朱印帳など何でもOK。考古学者御用達の野帳(※1)だとサイズがちょうどいいようです。
※1野帳(測量野帳):コクヨ株式会社から測量士のために発売されたスリムでコンパクトなミニノート。発掘・観察などのフィールドワークや、旅の記録など、様々に用途が拡大している。
守山の遺跡発掘調査の拠点「守山市立埋蔵文化財センター」(服部遺跡)
「守山市立埋蔵文化財センター」は弥生時代前期から鎌倉時代の水田跡や墓跡が見つかった服部遺跡の発掘調査をきっかけに、1980(昭和55)年に開館した施設です。現在も市内で出土した遺物を調査をしつつ、出土品の収集保存や展示を行っています。見学は無料で、1階のコンパクトなスペースに解説パネルや出土品が常設展示されています。ここでいただけるのは服部遺跡のイラストが描かれた御朱印。服部遺跡は1974(昭和49)年に発見された遺跡で、日本で最大の淡水デルタ地帯である野洲川下流域にありました。弥生時代前期の水田跡や、中期の方形周溝墓群(※2)が見つかったほか、奈良時代の銅印(※3)「乙貞(おとさだ)」も出土しています。なお、展示替えのため休館していることがあるようなので、事前にホームページ等をチェックしてください。
※2方形周溝墓:弥生時代から古墳時代前期に作られた墓の一つ。埋葬部分の周囲に溝を方形に巡らした墓。中央部に土壙を掘って遺体を埋葬した。
※3銅印:現代の判子のようなもの。弥生時代に中国から日本に持ち込まれて以降、公印や私印として利用されるようになった。
◆守山市立埋蔵文化財センター
住所:守山市服部町2250
電話番号:077-585-4397
営業時間:9:00~16:00
休館日:火曜日、祝日の翌日、年末年始
入館料:無料
巨大な環濠集落の遺跡を保存する「下之郷史跡公園」
弥生時代中期の大規模な環濠集落(※4)の遺跡「下之郷遺跡」を保存する「下之郷史跡公園」は、守山市立埋蔵文化財センターから車で10分程度の場所にあります。国の指定史跡に認定されており、環濠に囲まれた集落部の大きさは、この時代の環濠集落としては国内最大級。幅の広い環濠が集落の周りに3本、さらにその外周にも数本の溝が張り巡らされており、環濠からは土器や武器などが数多く出土していることから「弥生のタイムカプセル」と呼ばれ、御朱印のキャッチフレーズにもなっています。園内には環濠の一部を復元し弥生時代を再現したエリアや、環濠保存施設(建物)があります。保存施設では環濠が露出展示されており、出土品の展示や解説映像などが見られます。
※4環濠集落:周囲に堀をめぐらせた集落。
◆下之郷史跡公園
住所:守山市下之郷一丁目12-8
電話番号:077-514-2511
開館時間:9:00~17:00
休館日:火曜日(休日を除く)、祝祭日の翌日(ただし、その日が土曜日、日曜日および休日に当たるときは翌日)、12月29日から翌年1月3日まで
入館料:無料
邪馬台国の痕跡? 建築好きも注目の「伊勢遺跡」
「伊勢遺跡」は、弥生時代後期の集落遺跡としては吉野ヶ里遺跡に匹敵するほどの規模を誇る国指定史跡です。御朱印に「弥生の王国」とあるように、この場所は邪馬台国があったのでは? という説があるのです。その理由として、大型の建物跡や楼観跡(※5)、それらを囲む形で円形に配置された祭殿のような複数の建物跡などが挙げられています。このような配置は全国的にも珍しいそう。また、遺跡からは土器など日常生活に使用する遺物がほとんど発見されなかったことから、生活の場ではなく政治や祭祀を行う特別な場所であったと考えられています。そして、魏志倭人伝(※6)に書かれている卑弥呼の居処と建物の構成や配列が似ていることが、「邪馬台国琵琶湖畔説」の根拠の一つとなっています。伊勢遺跡が邪馬台国ではなかったとしても、日本の国の形成過程になんらかの大きな役割を果たした場所だった可能性はあるのかも……。
2023(令和5)年に史跡公園として整備されました。そのときに完成した特徴ある遺構展示施設は、翌年にはウッドデザイン賞奨励賞(審査委員長賞)を受賞しています。低いドーム状の建物は一歩中に入るとあっと驚かされる空間。天井は凹凸のある木材で、足下は強化ガラスに覆われ、リフレクションがとても綺麗です。建物の下に本物の遺構があり、強化ガラスの下には遺構のレプリカが発見された状態で復元されています。建築美も光るこの施設は一見の価値ありです。ほかにも、伊勢遺跡や下之郷遺跡などの出土品、伊勢遺跡のジオラマも展示されていました。スタッフによる解説や映像もあるので、予備知識がなくても楽しく学べます。
※5楼観:高く造られた物見やぐら。
※6魏志倭人伝:『三国志』で有名な魏・呉・蜀のうちの一国である魏の記録で、3世紀ごろの日本や邪馬台国について書かれているもの。
◆伊勢遺跡史跡公園
住所:守山市伊勢町80番地
電話番号:077-599-3223
開館時間:9:00~17:00
休館日:火曜日、祝日の翌日、年末年始
入館料:無料
自然が生み出すコントラストが美しい、早咲きの菜の花畑へ 「第1なぎさ公園」
弥生時代を感じたあとは、伊勢遺跡から車で約20分の春を感じられるスポットへ。琵琶湖沿いの第1なぎさ公園では、毎年1月下旬頃から「カンザキハナナ」という早咲きの菜の花が見頃になります。菜の花畑の規模はそれほど大きくありませんが、比良山地(※7)に積もる白い雪と黄色のコントラストが美しい、早春の映えスポットです。1月10日(金)から菜の花畑が開園していますが、1月20日(月)時点で咲いている花はほんのわずか。今年は例年に比べ開花が遅れているそうなので、2月に入ってから見頃を迎えそうです。
※7比良山地(ひらさんち):琵琶湖西岸に連なる山地。大部分が琵琶湖国定公園に属し、古くから近江八景の一つ「比良の暮雪」で知られる景勝地でもある。
◆第1なぎさ公園
住所:守山市今浜町地先
電話番号:077-582-1266(守山市観光物産協会)
定休日:期間中開放(今年は1月10日(金)~)
料金:無料
「河西いちご園」で味わういちごシーズン限定メニュー
第1なぎさ公園から車で10分ほど走り、守山で春を感じられるもう一つの人気スポット「河西いちご園」へ。農園に併設されているカフェ「ICHIGO CAFE」にはさまざま々ないちごスイーツが揃います。特に今のシーズンは新鮮な完熟いちごを使った限定メニューがおすすめ。ジャム、ケーキ、焼き菓子などの販売コーナーもあり、かわいいパッケージはお土産にも喜ばれそう。農園でのいちご狩りやいちごの直売は5月までですが、カフェは年中営業しています。
◆河西いちご園
住所:守山市立田町4380
電話番号:070-6542-1115
営業時間: ICHIGO CAFÉ 9:30〜16:30 ケーキ・ギフト:9:30-18:00
※いちご狩り期間 3月中旬~5月のいちご終了まで
※いちご直売期間 いちごの収穫期間12月~5月末頃まで
定休日:月曜日
おわりに
今回の「弥生の御朱印巡り」をきっかけに、ほかの地域の弥生遺跡や、各地の「邪馬台国があったかもしれない」候補地に俄然興味がわいてきました。九州説や畿内説など、長年多くの考察がされている、邪馬台国にまつわる古代史の謎に想いを馳せ、妄想を膨らませながら巡ってみたいです! みなさんもぜひ、古代ロマンにときめきつつ、春を感じに守山市へ出かけてみてくださいね。