「比叡山延暦寺」がおみくじ発祥の地!? 2025年のスタートは比叡山・坂本エリアの歴史旅へ
日本の歴史や伝統に触れる旅が好きな旅色LIKESライター・長月あきです。早いもので今年も残り一ヶ月となりました。年明けには初詣でおみくじを引く方も多いと思います。そのおみくじ発祥の地が、あの有名な比叡山延暦寺にあることをご存知でしょうか?
目次
日本仏教の聖地「比叡山延暦寺」とは
京都と滋賀の県境にある比叡山延暦寺は、788(延暦7)年に最澄(平安時代初期の日本の仏教僧)が開いた日本仏教の聖地であり、天台宗の総本山です。また、中学校の歴史の教科書にも出てきた、法然・親鸞・栄西(えいさい)・道元・日蓮など、日本仏教の名だたる名僧が修行をした地です。戦国時代には織田信長の焼き討ちにあったことでも有名ですね。その際にほとんどの堂塔伽藍(寺院の建物の総称)が焼失してしまいますが、その後再建されます。「延暦寺」というのは広大な比叡山一帯に点在する約100のお堂の総称で、「延暦寺」という建物があるわけではありません。「東塔(とうどう)」、「西塔(さいとう)」、「横川(よかわ)」の三つのエリアに分かれており、それぞれのエリアに本堂があります。各エリアは奥比叡ドライブウェイを使って車で巡るか、比叡山頂~横川間を結ぶシャトルバスで行き来が可能。時間はかかりますが、徒歩でも周れます。車なら3~4時間で主要なお堂は一通り見学できます。
『源氏物語』にも登場する比叡山の最奥地「横川」は写経信仰発祥地
横川は、第三世天台座主(※1)の慈覚大師円仁(じかくだいしえんにん)により、三つのエリアの一番最後に開かれた地で、親鸞、日蓮、道元などが修行に入った地として知られています。本堂である舞台造り(※2)の「横川中堂」は信長の焼討ちや雷で複数回焼失した後、1971(昭和46)年に復元されています。横川中堂の前に、「写経信仰発祥地」と書かれた看板があったので、私も写経をしてきました。三種類の写経用紙の中から、今回は10分ほどで書き上げられる「根元中堂大改修結円大写経」を選択。薄い文字をなぞるだけだけど、筆ペンで字を書くのは難しい……。いや、普通の筆でも難しいんですけどね。
横川中堂は、『源氏物語』の終盤に登場する「横川の僧都(※3)」が修行している場所としても登場します。「横川の僧都」のモデルと言われる人物・源信が住んでいた恵心堂が横川中堂から少し歩いた場所にあり、外観のみ見学できます。
※1 天台座主(てんだいざす):日本の仏教天台宗の総本山である比叡山延暦寺の貫主(住職)で、天台宗の諸末寺を総監する役職。
※2 舞台造り:正式名称は懸造(かけづくり)。崖などの高低差が大きい土地に、長い柱や貫で床下を固定してその上に建物を建てる建築様式。
※3 僧都(そうづ):僧正に次ぐ地位で、のちに大僧都・権大僧都・少僧都・権少僧都の4階級に分かれた。
おみくじ発祥の地「元三大師堂(がんさんだいしどう)」
横川中堂を抜け少し歩くと、「角大師(つのだいし)」として知られる平安時代の僧・元三大師良源(がんざんだいしりょうげん)を祀る元三大師堂(四季講堂)があります。ここは良源の居住地跡なのだそう。現在、多くの寺社で見られるおみくじは、良源が観音菩薩より授かった偈文(※4)100枚がルーツと言われています。100枚のうち1枚をひかせ、五言四句の偈文から進むべき道を教え導いたのが由来なのだとか。
元三大師堂でもおみくじが引けるのですが、運試しにいつでも気軽にひけるおみくじではありません。具体的な悩みや迷いがある時にだけ、まずはその迷いについて詳細に当執事に相談します。おみくじを引いて良いとなれば、読経の後、当執事がおみくじを引き、その内容を解説してくれます。カウンセリングに近いイメージでしょうか。時間がかかるので事前の電話予約が必須です。これから先、ものすごく深い悩みや迷いが出てきた時にはぜひ予約したい……。
ほかにも、横川には仏教経典を書写したものを納めて祈念し、安置しておく根本如法塔(こんぽんにょほうとう)や、道元禅師得度(※5)の地などの見どころがあります。
※4 偈文(げもん):仏の教えや仏・菩薩の徳を称える韻文が記されたもの。
※5 得度(とくど):仏陀(ぶつだ)の悟りの世界にわたること。出家して受戒すること。
◆比叡山延暦寺
住所:滋賀県大津市坂本本町4220
電話番号:077-578-0001(代)
巡拝時間:<東塔地区>9:00~16:00 、<西塔・横川地区>3~11月 9:00~16:00 、12月~2月 9:30~16:00 ※最終受付15:45
料金:大人1,000円、中高生600円、小学生300円 ※東塔・西塔・横川共通
里坊と石積みのまち「比叡山坂本」
比叡山の麓にある延暦寺の門前町・坂本は最澄生誕の地とされ、比叡山で修行をしていた僧が高齢となって隠居した「里坊」が点在する場所でもあります。また、「穴太衆(あのうしゅう)積み」という技法で作られた石垣があちこちで見られ、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
穴太衆とは、坂本に隣接する穴太村出身の石工集団のこと。加工しない自然石を組み合わせる「穴太衆積み」は延暦寺や日吉大社などの寺院の石垣だけでなく、戦国時代には安土城をはじめ、いくつもの城郭の石垣に用いられています。横川中堂の石垣も穴太衆積みでした。一般公開されている里坊の一つ「滋賀院門跡」も穴太衆積みの石積みと白壁をめぐらせた門が印象的です。
元三大師堂のおみくじは少々敷居が高いので、伝統的な石積みのまち坂本で気軽に楽しめる、かわいいおみくじのある寺社をご紹介します。
『古事記』にも登場する由緒ある「日吉大社」では猿が魔除けの象徴
全国に約3800社ある日吉・日枝・山王神社の総本宮・日吉大社。約2100年前に創祀され、『古事記』にも登場する、由緒正しい神社です。京の都の表鬼門(北東)に位置し、延暦寺創建以前から都を守る社として崇められていました。鳥居の上部に三角形の破風(屋根)が乗った独特な山王鳥居があるほか、境内のあちこちに猿の装飾があることで知られます。
日吉大社では、猿は古来より魔除けの象徴とされ、「神猿(まさる)」と呼ばれます。「魔が去る」「勝る」に通じる名前でもあり、大変縁起が良いものとして考えられていたのだとか。
◆日吉大社
住所:滋賀県大津市坂本5-1-1
電話番号:077-578-0009
明智光秀ゆかりの「西教寺」にはお寺を守った手白猿のおみくじが
聖徳太子が創設したという説がある西教寺は、天台系仏教の一派・天台真盛宗(てんだいしんせいしゅう)の総本山です。信長の比叡山焼き討ちで焼失しましたが、その後、坂本城の城主となった明智光秀の支援を受けるなどして復興しました。光秀の菩提寺であり、境内には光秀の供養塔や一族の墓があります。
西教寺のおみくじも猿をモチーフにしたもので、「護猿(ござる)みくじ」といいます。
室町時代に徳政一揆が起こった際、西教寺の真盛上人を首謀者と疑い、僧兵が攻め入ったところ、一匹の手の白い猿が本堂で鉦(かね)をたたいていた。「日吉山王の使者である猿まで上人の不断念仏の教えを受け、念仏を唱えているのか」と感銘を受け、僧兵は立ち去った・・・、という逸話から西教寺を救った猿を「護猿(ござる)」と呼ぶようになったそうです。本堂内には「身代わりの手白猿(てじろのましら)」が祀られています。
◆西教寺
住所:滋賀県大津市坂本5丁目13番1号
電話番号:077-578-0013
大根と巾着がシンボル・聖天様を祀る「最乗院」
日吉大社から車ですぐのところにある最乗院は、2002(平成14)年開創の新しいお寺で、聖天様(※6)をお祀りしています。ヒンドゥー教のガネーシャと同様に象の頭を持つ神様で、大根と巾着がシンボルなのだそう。大根は身体健全・夫婦和合、巾着は商売繁盛・富を表わすものとされ、特に大根は、心身を清浄にする聖天様の「おはたらき」を象徴するものとして、聖天様のご供養に欠かせないお供物とされているのだとか。こちらでは、そんな大根の入った宝袋のおみくじが引けます。
※6 聖天(しょうてん)様:大聖歓喜天(だいしょうかんぎじざいてん)、歓喜天(かんぎてん)などとも称される。多くは厨子などに安置され、秘仏として扱われており一般に公開されることは少ない。
◆最乗院
住所:滋賀県大津市坂本4丁目1-7
電話番号:077-579-0992(受付時間10:00~16:00)
おわりに
比叡山延暦寺や坂本エリア、さらにその周辺地域は歴史好きには興味深いスポットが多すぎて、何度も足を運んでしまう場所です。また、延暦寺は四季折々の風景も見どころのひとつ。皆さんも一度と言わず、何度も旅してみては? まずは、2025年の旅はじめにどうぞ!