「乙女の文学さんぽ」を片手に鎌倉を歩く文芸散歩旅
鎌倉が舞台になっている物語に登場するスポットを取り上げた「乙女の文学さんぽ 鎌倉・湘南編」(東京書籍)という本があります。こちらを片手に、本の中で紹介している二作品「ビブリア古書堂の事件手帖(著:三上延)」と「ツバキ文具店(著:小川糸)」で出てくるスポットを、旅色LIKESライター・なおが2022年に巡った模様をご紹介。海あり山あり寺社あり、どこを切り取っても絵になる鎌倉。日本を代表する観光地であるこの町は、数多くの文学、漫画、映画の舞台になってきました。鎌倉は何度も旅をしたことがありますが、文芸作品にスポットを当てて歩くとまた違った発見があり、充実した旅になりました。
目次
鎌倉の文芸散歩旅で参考にした本
今回の旅で参考にしたのが、「乙女の文学さんぽ」という本です。物語に登場した数多くの史跡をはじめ、カフェや雑貨店などを紹介した女子向けの旅行ガイド本。鎌倉文学をテーマに旅をするには欠かせない一冊です。
古書にまつわる謎を解き明かす「ビブリア古書堂の事件手帖」を巡る
北鎌倉の古書店「ビブリア古書堂」の店主、栞子さんは、お客とろくに話もできないほどのあがり症で人見知り。にもかかわらず、本のこととなると途端に饒舌になります。栞子が持つ膨大な本の知識をもとに、古書にまつわる数々の謎を解き明かしていくミステリー小説です。
旅のスタートは「北鎌倉駅」から
タイトルにも出てくる「ビブリア古書堂」があるのは、北鎌倉駅の円覚寺側です。ホーム隣にある路地の向かいとされています。店から北鎌倉駅の脇を歩いて行く途中、崖をくり抜いた形をしている「洞穴のようなトンネルを抜ける」というくだりがあるのでこの先に洞穴があるはずなのですが、平成28年に崩れて通行止めに。今も遠回りでの通行を余儀なくされているようです。栞子さんは足が悪いので実在していたらさぞ辛いことだろうと、勝手に想像してしまいます。
◆北鎌倉駅
住所:鎌倉市山ノ内
文豪たちの心の拠り所になった「円覚寺」
北鎌倉駅の目の前にあるのが「円覚寺」。こちらも小説に登場しています。夏目漱石や島崎藤村など、数々の文豪が坐禅に訪れた文学者の心の拠り所でもあったお寺です。
◆円覚寺
住所:鎌倉市山ノ内409
電話:0467-22-0478
絶品のスイーツが多数取り揃えられている「鎌倉小川軒」
北鎌倉駅から電車で一駅、鎌倉駅で降りましょう。駅西口から徒歩約2分。御成通りにある洋菓子屋が「鎌倉小川軒」です。栞子さんの恋人・大輔が栞子さんのお見舞いのために買ったレーズンサンドは、このお店のもの。「半ば押しつけるようにレーズンサンドの箱を渡した」とあります。栞子に会いに行く「口実」ともいえるレーズンサンド。生まれつつある恋の甘酸っぱさを感じます。ビスケットにはさまれたレーズン入りのクリームがなんとも美味です。
◆鎌倉小川軒
住所:鎌倉市御成町8-1
電話:0467-25-0660
営業時間:10:00~18:00
定休日:なし
文具屋と代書業を営む鳩子に心があたたかくなる「ツバキ文具店」を散策
続いて紹介する作品は、テレビドラマ化されたことでも知られる「ツバキ文具店」。鎌倉宮の近くで文具店を営む雨宮鳩子、通称「ポッポちゃん」。先代から受け継いだ手紙の代書業を請負っており、さまざまな依頼者と心を通わせながら言葉を紡いでいきます。そして、自らも心通わせられずに亡くなってしまった先代への気持ちに気づいていくという物語。作中に数多くの鎌倉の観光地や実在するお店が登場して、さながら“文学版鎌倉ガイド”といった印象を持ちました。「どのお店も行ってみたい!」と思わせてくれる、鎌倉文学散歩にもってこいの作品です。
後醍醐天皇の皇子・護良親王が祀られている「鎌倉宮」
まずはツバキ文具店のお膝元、鎌倉宮へ。白い鳥居が特徴的な鎌倉宮は、祀られている護良親王の通称にちなんで「大塔宮」と呼ばれ、バス停はこの名になっています。護良親王は後醍醐天皇の皇子です。
1枚200円で盃(さかずき)を買い、厄割石と呼ばれるこの石に思い切りぶつけて割り、厄祓いをします。ポッポちゃんが隣人・バーバラ婦人や男爵(メインの登場人物が名前ではなく、あだ名で呼ばれるのがこの作品の特徴です)らとハイキングに行ったときにやっていました。いい音を立てて盃が割れると超気持ちいいです!
獅子頭は鎌倉宮のシンボル。護良親王が獅子頭のお守りを兜に忍ばせていたことが謂れです。このように小さな獅子頭がたくさん飾られていました。
◆鎌倉宮
住所:鎌倉市二階堂154
電話:0467-22-0318
流鏑馬(やぶさめ)発祥の地としても知られる「鶴岡八幡宮」
鎌倉宮から徒歩約12分。鎌倉観光の中心、鶴岡八幡宮に到着です。鶴岡八幡宮に鳩が多くいると言われていることから、ポッポちゃんの名前「鳩子」の名が付きました。でも当のポッポちゃんは鳩が苦手で、この神社にはあまり来ていません。私が訪ねた時期はコロナ禍で、桜の時期にもかかわらず外国人観光客は少なめでした。今はこの交差点も多くの観光客で埋め尽くされていることでしょう。
八幡宮の八の字は「鳩子の鳩」が寄り添う形になっています。なんとも可愛らしいですね。
◆鶴岡八幡宮
住所:鎌倉市雪ノ下2丁目1-31
電話:0467-22-0315
“レンバイ”の中にあるパン屋「PARADISE ALLEY BREAD & CO.」
鶴岡八幡宮から徒歩約12分。鎌倉駅のやや南、若宮大路沿いにある庶民的な「鎌倉市産地直売所(通称:レンバイ)」。地元の方の食を支える市場のような場所ですが、この中にもツバキ文具店ゆかりの店が。パン屋の「PARADISE ALLEY BREAD & CO.」です。ここでは個性的な模様入りのパンを売っています。ポッポちゃんがバーバラ婦人と食べるために買ったあんぱんを、私も購入。スマイルマークが特徴的で、中はポッポちゃんが好きだというこし餡。生地がやや固めですが、レンジで温めるとちょうどいいもっちり感になります。
◆PARADISE ALLEY BREAD & CO.
住所:鎌倉市小町1丁目13-10
電話;0467-84-7203
春になると満開の藤棚が見られる「スターバックスコーヒー鎌倉御成町店」
PARADISE ALLEY BREAD & CO.から約8分のところにあるカフェで、少し休憩をしましょう。ポッポちゃんが長時間読書をしたい時に行く「スターバックスコーヒー鎌倉御成町店」。隣の「ガーデン」というカフェで、バーバラ婦人と朝食を取りに行く光景も描かれています。こちらのスタバは「フクちゃん」で有名な漫画家、横山隆一さんの邸宅をそのまま利用したものです。
テラス席ではかつての住人が使っていたと思われるプール、そして藤棚を眺めながらティータイムを過ごすことができますよ。
◆スターバックスコーヒー鎌倉御成町店
住所:鎌倉市御成町15-11
電話:0467-61-2161
営業時間:7:00~21:00
定休日:不定休
鶴岡八幡宮移転前の場所「由比若宮(ゆいのわかみや)(元八幡)」
鎌倉駅から南に約12分。材木座の住宅街の中にひっそりと佇む神社を「由比若宮(元八幡)」と言います。ここはかつて鶴岡八幡宮があった場所。鶴岡八幡宮は移転して、今の場所になりました。そのため「元八幡」とも言われています。ポッポちゃんが初詣に来たのはここ。店のシンボルである藪椿はここの神社から分けられたものだからです。
◆由比若宮(元八幡)
住所:鎌倉市材木座1-7
電話:0467-22-0315(鶴岡八幡宮)
出張所時代の面影をそのまま残した「THE BANK」
最後はバスに乗り、和田塚駅近くにあるバー「THE BANK」へ。元は銀行の出張所だったところをバーにしたのだとか。確かにかなり年季の入ったそれっぽい建物です。
看板にも旧字で「由比ヶ浜出張所」とあります。ポッポちゃんが男爵の仕事の依頼を受けた成功報酬として連れてこられたバー。残念ながら営業時間外でした。次は夜の鎌倉を訪れて、ポッポちゃんが飲んだサンブーカ・コン・モスカ(コーヒーと炎のカクテル……炎!? )を飲んでみたいです。
◆THE BANK
住所:鎌倉市由比ガ浜3-1-1
電話:0467-40-5090
おわりに
参考にした本:乙女の文学さんぽ
取り上げた作品:「ビブリア古書堂の事件手帖」「ツバキ文具店」
場所:神奈川県鎌倉市
移動手段:北鎌倉・鎌倉各駅まではJR横須賀線。現地では徒歩
誰と行くか:一人でも二人でも大勢でも楽しめます!
予算:約5000円(拝観料、お茶代など)+交通費
鎌倉文学散歩といいながら二作品しか紹介していませんが、かなり充実した散歩になりました。鎌倉は文学ゆかりの地がまだまだたくさんあります。このプランも参考にしながら、あなたの好きな鎌倉文学の旅を見つけに出かけてみてください。