『君の名は。』の聖地・飛騨古川で人・文化・地域を繋ぐプロジェクトが始動!
飛騨古川を知っていますか? 実は私、深海誠監督のアニメ映画『君の名は。』のモデルになった場所であることくらいしか知りませんでした。公開から8年が経つ今、飛騨古川で進行中の面白いプロジェクトがあるそうです。現在、そして未来の飛騨古川はどのようになるのか、現地でリサーチしてきました。
目次
飛騨古川はどこにある?
岐阜県最北部に位置する飛騨市古川町(通称:飛騨古川)。飛騨高山へ電車で約15分、車では20分程で行くことができ、世界遺産の白川郷も車で1時間程の距離です。比較的近隣エリアより観光客数が落ち着いているためゆったりと観光することができ、「高山の奥座敷」ともいわれる穴場的な存在です。
鯉が泳ぐ古都「白壁土蔵街」を散策
白壁土蔵街(しらかべどぞうがい)は、江戸時代にタイムスリップしたかのような街並み。その横には500メートル程の瀬戸川が流れており、そこでは4~11月の期間に1,000匹もの鯉が泳いでいます。この鯉は今から50年程前、高度経済成長期に汚染された川を美化する目的で地域住民が放ったそうです。昔から地域の方々が積極的に街の環境づくりに参画していることがうかがえます。
街歩きで見つける祭りの気配
街を歩いていると紋章をよく見かけます。これはユネスコ無形文化遺産にもなっている奇祭「古川祭」で使われる屋台の紋なのです。古川祭は気多若宮神社の例祭で、4月19~20日に行われ、多くの市民と観光客で賑わいます。絢爛豪華な屋台と古式ゆかしい神輿行列の“静”と、「越し太鼓」というさらし姿の男性たちが大太鼓がある櫓を目がけて突進する“動”の両面を持つ祭りです。飛騨古川まつり会館で祭りの4K映像や屋台のレプリカを通じて、一年中祭りの雰囲気を楽しむことができます。
◆飛騨古川まつり会館
住所:岐阜県飛騨市古川町壱之町14-5
電話:0577-73-3511
営業時間:3~11月 9:00~17:00、12~2月 9:00~16:30
料金:大人(高校生以上)700円、こども 300円
世界の各賞を受賞! 伝統を守り挑戦し続ける酒蔵
飛騨古川は清らかな水、米、寒冷な気候など、おいしい酒造りに欠かすことができない条件が揃った恵まれた地でもあります。街には、渡辺酒造店と蒲酒造場の老舗酒蔵があり、いずれも試飲が可能です。お酒が苦手な人もノンアルコールの甘酒があるのでご安心を。
蒲酒造場は宝永元(1704)年から300年以上続く酒蔵です。チャレンジ精神のある女性が代表を務めており、20年程前にスパークリング日本酒をいち早く開発し、コロナ禍に学校給食などで行き場を失った地元の牛乳を使ってヨーグルト酒を開発しました。こちらでは、酒造りについてのお話を聞きながら酒蔵見学をすることも可能です。
飛騨地域の居酒屋では地元のお酒だけを置いているところも多く、地酒の消費も県内随一。地元の人も惚れる飛騨古川の銘酒を、ぜひ現地で味わってみてはいかがでしょうか 。
◆蒲酒造場
住所:岐阜県飛騨市古川町壱之町6-6
電話:0577-73-3333
酒蔵見学時間:9:00~15:00※要予約
見学料:100円
所要時間:約30分
健康の秘訣は薬草
おいしい地酒をついつい飲みすぎてしまった……、そんなときは薬草茶の出番です。森林面積が9割以上を占める飛騨市には250種もの薬草が自生し、昔から人々の健康や療養に使われていました。「ひだ森のめぐみ」では、飛騨の薬草文化を日常的に取り入れられるよう薬草茶の試飲や薬草商品を販売するほか、薬草七味作り、苔玉作りなどの7つの薬草ワークショップを体験することができます(要予約)。
◆ひだ森のめぐみ
住所:岐阜県飛騨市古川町弐之町6-7
電話:0577-73-3400
営業時間:10:00~16:00
定休日:年末年始
飛騨から世界に発信する“真の地域おこし”共創プロジェクト
飛騨古川の街歩きをする中で、地域住民たちが伝統を継承しながら新しいことにも挑戦し続けてきたことがうかがえました。さらに飛騨地域では「Co-Innovation Valley」という名のプロジェクトが進行中です。今回は仕掛け人たちが一同に集うトークイベントに参加し、話を聞いてきました。お話の中で聞いた3つの軸をご紹介します。
①地域創生を学ぶ大学の設立
「Co-Innovation University(仮称:略称CoIU)」という名の大学を設立予定です。「共創学」という自ら問いを立て、他者との対話を通じて社会の課題を解決していく真の地域活性化人材を創出していくことをコンセプトにしています。1年次のキャンパスは飛騨古川の街全体。実際に街の人たちと共に実践形式で地域課題の解決法を考え学んでいきます。その後は飛騨古川に残ってもよし、提携する日本各地の地域に行きフィールドワークをするもよし。2026年に開学予定で社会人のリスキリングも受け入れるそうです。学生たちの自由な発想で、ますます飛騨古川の街が面白くなりそうだと感じました。
②人々が集う商業施設の開設
プロジェクトの拠点となるほか、企業・アーティスト・街が共創する商業施設「soranotani」が令和9(2027)年に開業予定です。設計は世界的にも有名な建築家である藤本壮介氏が手掛けました。「人が主役になる建築」を心掛けている藤本氏が造る建物がとても面白いのです。飛騨の地形―山々に囲まれた盆地をイメージしたお椀型の円形で、中から見上げると穴から空が見え、他の地域、そして世界との繋がりを意味しています。目指したのは人が行き来しやすく、360度開かれた空間。多様な人々の活動が響きあい、共鳴しあう場です。私が参加したキックオフイベントでも会場では飛騨の木工遊具で遊ぶ子どもたちの声が聞こえる中でトークセッションが繰り広げられ、まさに“多様な人々の活動が共鳴しあう場”を象徴しているようでした。現在商業施設の入居店舗は未定ですが、宿泊施設や温浴施設が入るそうです。
③地域資源を生かした再生可能エネルギー事業の確立
持続可能な地域の発展には継続的に収益を出していく仕組みが必要です。飛騨地域は面積の約90%が森林。その資源を余すことなく活用する再生可能エネルギーとして「木質バイオマス」※3と「小水力発電」を組み合わせた「飛騨・高山モデル」に取り組んでいます。この事業の収益は教育・人材育成への支援にも充てられるそうです。
※3 木材からなるバイオマス資源。バイオマスは生物由来の有機性資源を指す
※4 小規模な水力発電
飛騨古川の未来に思いをはせて
「この街にはカフェもない」「雇用もない」「高校を卒業したら東京に行く」、そう言っていた「君の名は。」の主人公たち(※5)。彼女たちがもし、このプロジェクトの存在を知ったとしたら……。全国の若い世代が「私たちの地元にはこんないいものがある」と胸を張って言えるような場がこれからもっと増えていくといいなと思う、期待で胸が膨らむプロジェクトでした。
※5 登場人物たちが暮らす街は架空の街
英語で「穴場」はHidden gem(隠れた宝石)と言います。宝石の原石=若者たちがこの飛騨古川に集い学び、日本全国のHidden gemが活性化されていったら、そう考えるとワクワクしませんか? 引き続き飛騨古川の今後に注目です。