【体験レポート】8年後に「寿司といえば、富山」を目指す富山県の風土の魅力に気が付いた2日間の旅

富山県

2024.08.08

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【体験レポート】8年後に「寿司といえば、富山」を目指す富山県の風土の魅力に気が付いた2日間の旅

「寿司といえば、富山」と思い浮かべる人の割合を2032年までに90%にする―
これは、昨年末に富山県の新田知事が会見で語った言葉だ。2023年10月に富山県が実施した東京都、大阪府、愛知県に住む約4000人に行った「寿司でイメージする都道府県はどこか」というアンケートで、富山県は4位の8.9%。圧倒的な1位は52.1%の北海道で2位が9.5%の東京、3位が金沢を要する石川県の9.2%と続く。約10年で北海道の52.1%を抜くどころか90%にするということが、正直「何を言っているんだろう」という感じでとらえていた。6月に開催されたプロジェクトのキックオフイベント「SUSHI collection TOYAMA」に参加したら、印象に変化が訪れた。その2日間をレポートする。

目次

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(1日目)“べるもんた”で巽先生の美食地質学講座

「成希」で一夜限りのコラボレーションディナー

被災酒蔵を支えた富山に息づく互助の精神

(2日目)新湊漁港で“富山湾の宝石”白えび漁を体験

寿司クレープでモーニングトリップ

お土産にぴったりな「丸龍庵」のます寿司作り

富山県美術館の「BiBiBi&JURULi」でグランドフィナーレ

“世界一のスタバ”で富山のSUSHIを考える

(1日目)“べるもんた”で巽先生の美食地質学講座

初日の13:30、食に精通したメディア関係者が居並ぶJR新高岡駅ホームに、フランス語で「美しい山と海」を表す名を冠した観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール」が滑り込む。愛称“べるもんた”、貸し切りだ。額縁をイメージした幅2.5mの大きな窓からまさに絵画のような景色を眺めながら、“食通のマグマ学者”巽好幸氏による「美食を生み出す富山の地質学教室」がはじまった。

「富山湾は能登半島と佐渡島が作った天然の定置網なんです」
「3000万年前の日本はアジア大陸の一部だった」
「立山はマグマの生産量が多いため、1年に1cmと隆起速度が速い」

べるもんた

車内は城端線・氷見線沿線の伝統工芸品「井波彫刻」や「高岡銅器」をイメージした装飾が施されている

巽好幸氏

地質から食を語る巽好幸氏の講義

富山湾寿司

べるもんたの車内では富山の“きときと”な寿司も食べられる※要事前予約

190cm近い巨躯から淀みなくあふれる関西弁イントネーションの講義を聞きながら、列車は雨晴海岸を通過。眼前に広がる地形と美食地質学の授業が五感に沁み込んでくる。

「豊かな自然、きれいな水はどこにでもある。それだけではただの自己満足」
「地殻変動から能登半島はできた。住んでいる人々は試練と恩恵の両方を受けている」

雨晴海岸駅

海が眼前に迫る雨晴駅

富山湾越しに立山連峰の3,000m級の山々を望むことができる

知の巨人による含蓄ある言葉たちをメモしていると、氷見駅に到着。氷見で代々続く網元「濵元家」で灘浦定置漁業組合の組合長、酒井孝さんの話を聞く。酒井さんは以前七尾市で取材したことがある鹿渡島定置の酒井船長の親戚筋だと言っていた。穏やかで聞きやすい語り口は血筋なのか、定置網の漁法だけでなく、漁業権や漁業組合の仕組みといった業界ならではの話もわかりやすく耳に入ってきた。

広い前庭を抜けると白漆喰塗り・土蔵造りの主屋が見えてくる

灘浦定置漁業組合の酒井孝組合長

灘浦定置漁業組合の酒井孝組合長

氷見は越中式定置網発祥の地として400年の歴史があるとのこと

◆氷見 網元の旧家「濵元家」
https://www.himiamimoto.jp/
富山県氷見市泊10
※能登半島地震による修繕等のため当面の間、見学受付は休止中

「成希」で一夜限りのコラボレーションディナー

濵元家を辞した後、車で10分ほど氷見市内を移動して「成希(なるき)」へ。オーナーの滝本成希さんと富山市北部岩瀬地区にある「GEJO」の下條貴大さんという気鋭の料理人2人による、一夜限りのコラボレーションディナーを体験。

まずは、下條さんのラウンド。

下條貴大氏

丁寧に食材の説明をする下條さん

下條貴大氏

世界中を飛び回っているだけあって握りだけじゃなく会話も滑らか

白えび

白えび

バイ貝

バイ貝。富山県民に人気のネタ

大根寿司

大根寿司

のどぐろ昆布締め

のどぐろ昆布締め

肴に続いて、桜のような香りが鼻に残る白えび、味が濃く滋味深いバイ貝、岩瀬のノドグロの炙りといった地の物の握りが、合気道の達人のような淀みない動きのなかから繰り出される。富山の豊かな食材が下條さんの技で見事にフックアップされている。世界中で修業をしてきた下條さんが「ばあちゃんの家で採れた野菜なんです」と話しながら供される逸品に、土地への信頼が感じられた。

続いて滝本さん。
レコード会社でメジャーアーティストのマネージャーを務めていたという異色の経歴。31歳から東京の某有名店で修業をしたという努力の人だ。

滝本成希氏

常に笑顔を絶やさない滝本さん

滝本成希氏

銀座の老舗有名店などを渡り歩いた確かな技術

氷見のマグロ

氷見のマグロ

氷見の郷土食・くじら味噌汁

氷見の郷土食・くじら味噌汁

柔和な表情の滝本さんが「寿司店にしてはありえないほど広いんです」と語った店は、母親が運営していた商店を改築したもの。サワラ、アジ、小鯛を淡々と供しながら余計な蘊蓄は語らない。
「富山湾の魚を楽しんで欲しいので、仕事は最小限にしています」
まぐろがおいしかったので質問すると
「少し酸味がありますよね。東京では味わえない“青春”のまぐろなんです(笑)」

被災酒蔵を支えた富山に息づく互助の精神

髙澤酒造場の六代目杜氏の髙澤龍一さん。ディナーで提供された三笑楽酒造の山崎社長とは大学の同級生

髙澤酒造場の「有磯 曙 純米酒 大漁旗」

二人の寿司コラボレーションを体験して、味はもちろん間違いなかったが、全体をとおしてあくせくしていない余裕のようなものを感じた。空間そのものが心地よかったのだ。もちろん、滝本さんの実家の商店を改築した店ということもあるが、それだけではない。ディナーで日本酒を提供していた氷見の酒造、高澤酒造場の高澤さんが語った話から、その余裕の理由がわかってきた。

能登地震で井戸が液状化して仕込み水が使えなくなり、髙澤さんがもうだめかもと思ったとき、県内各地の蔵元が水の提供を申し出てくれたという。そして酒蔵継続の決め手となったのは、富山県酒造組合会長でもある桝田酒造の桝田隆一郎さんが「まだできる。やりなさい」と背中を押してくれたひと言だった。地域で文化を守っていくという互助の精神がSUSHI文化=魚、酒、米の作り手たちを育てているのかと得心した。この土地にいることの心理的安全性が空気感に現れているのかもしれない。濱本家の酒井さんの話で、定置網漁というのは全てを捕り尽くすのではなく、他の漁師のために資源を残して持続可能にする漁法だという説明があったことを思い出した。

◆割烹料理握り寿司「成希」
住所:富山県氷見市幸町32-31
TEL:0766-74-5151
公式HP:https://naruki-himi.com/
営業時間:18:00〜22:00
定休日:不定休

◆Japanese Restaurant Gejo
住所:富山県富山市東岩瀬町180
TEL:076-471-8522
公式HP:https://gejo.jp/
営業時間:12:00~15:00、18:00~22:00
定休日:不定休

◆髙澤酒造場
https://ariiso-akebono.jp/

(2日目)新湊漁港で“富山湾の宝石”白えび漁を体験

早朝の新湊漁港

早朝の新湊漁港

翌早朝、富山湾の宝石とも言われる、白えび漁の船に乗せていただいた。新湊漁港から船で15分も行けば水深300mの漁場。こんなに恵まれた土地は他にはないとのこと。まさに天然の生け簀。巽先生が言われていたことが実感としてとらえられる。

白えび

水揚げされたばかりの白えびは透明で朝陽に照らされてまさに宝石のようだ

漁場

漁港から15分で漁場に到着

野口和宏さん

正㐂丸船長の野口さん。白えび漁観光船でのマイクパフォーマンスも慣れたもの

ことしの白えびは能登の地震の影響で地形が変わったためかかなりの不漁とのことだったが、我々の乗った正㐂丸はここ1ヶ月ほどで一番の獲れ高があった。周りの漁船が喜んで手を振ってくれたのが印象的だった。

船長の野口和宏さんが「昔はライバルでしたが、いまは白えび漁ができる日をA班、B班と分けて乱獲を防ぐプール制を導入しています。水揚げ金額をプールし、各船に均等に分配するので、みんなで収穫を喜ぶんです」と言っていた。ここにも互助の精神が息づいていた。船上でいただいた白えびは、甘くとろりとした身が殻の食感と塩水と相俟って無限に食べられそうだった。

◆富山湾しろえび倶楽部
※観光船の運行は現在休止中です。再開状況は公式サイトで確認してください。
https://shiroebiclub.net/

寿司クレープでモーニングトリップ

射水市に移動した先の「café uchikawa 六角堂」で朝ごはん代わりに用意されていたのが寿司クレープ。監修は大阪にある中国料理の名店「AUBE」の東浩司さん。

café uchikawa 六角堂

「café uchikawa 六角堂」は筑75年以上の古民家を改装した内川のほとりにあるオーガニックのコーヒー&サンドイッチの専門店

店主の明石あおいさん

デザイン会社を営んでいる店主の明石あおいさん

寿司クレープ

イカスミのクレープ生地の中には、白えびのほか、たまねぎ、かぶ、シャリ、「富富富」のおこげが入っている

白えびが主役で、野菜やおこげがアクセントになっているクレープを内川の水辺で食べていると、昨日までの寿司の概念が崩れていくのがわかる。こうやって考えさせることに意味があるのだろうなと、六角堂のブレンドティーとともにパクついていると、ふいに富山県のゆるキャラ・三太が現れた。早朝の漁の疲れもあって、リアルなカモシカ感がある三太と内川に佇んでいると、ちょっとしたトリップタイムだった。

◆café uchikawa 六角堂
住所:富山県射水市八幡町1-20-13
TEL:0766-30-2924
公式HP:https://inacafe.net/
営業時間:ランチ11:30〜14:30、カフェ14:30〜17:00(L.O.)、ディナー17:00〜20:30(L.O.)
定休日:月、火※祝日の際は翌日

三太

三太と筆者

ブレンドティーと寿司ロール

ブレンドティーと寿司ロール

お土産にぴったりな「丸龍庵」のます寿司作り

「丸龍庵」の木村さん

「丸龍庵」の木村さんによるお手本

山本さん

鱒よりコワモテの射水市産業経済部農林水産課の山本さん

ます寿司キット

ごはん、鱒、笹を専用の器に盛りつける

内川沿いを歩いて、「内川の家 奈呉」で「丸龍庵」のます寿司作りをみんなで体験。富山には60~70のます寿司メーカーがあるらしい。僕はます寿司が好きなので、この情報だけで嬉しくなった。伝統食を残すためにサクラマスの養殖に取り組んでいるという射水市の山本さんの話を聞きながら、笹を敷いて酢飯を乗せて、大人たちがキャッキャと作業している。巽先生も「僕もはじめてや。なかなか笹がうまくまとまらんなー」と楽しそう。作ったます寿司はお土産に。常温で少し寝かせてから食べられるので、お土産にぴったり。ます寿司好きの僕は帰りの新幹線ですぐに食べてしまったけど。

◆内川の家 奈呉
住所:富山県射水市放生津町17-5
TEL:0766-75-3137
公式HP:https://uchikawanoie-nago.com/
受付時間:9:00〜18:00
定休日:不定休

◆丸龍庵
https://ganryuan.co.jp/

内川エリア

日本のベニスと言われる内川エリア。川と船と家が近接してここならではの景観美を作っている

山王橋には郷土出身の竹田光幸氏制作の大理石で作られた手の彫刻が

ます寿司とは関係ないけど、内川沿いを歩くのが楽しかった。川の両端に家々が建ち並び、たくさんの船が止まっているおだやかな川辺は、生活を想像して風土を考えるのに最適だった。

富山県美術館の「BiBiBi&JURULi」でグランドフィナーレ

「INABAR」の稲垣隆志さん、「abysse」の目黒浩太郎さん、「AUBE」の東浩司さん

右から「INABAR」の稲垣隆志さん、「abysse」の目黒浩太郎さん、「AUBE」の東浩司さん

富山県の新田八朗知事

富山県の新田八朗知事

雄峰高等学校専攻科の学生

雄峰高等学校専攻科の学生もサービスとして参加

イベントの最後は「富山県美術館」へ。館内の「BiBiBi&JURULi」で、富山県の新田八朗知事も参加のスペシャルなランチ。寿司クレープの監修もした、「AUBE」の東浩司さんと、東京のフレンチ「abysse」の目黒浩太郎さんによる豪華な共演、饗宴。
ここに、富山市のバー「INABAR」の稲垣隆志さんによる、氷見の「小境荘」のどぶろくを活かしたカクテルなどが加わり、テンションを上げる。ロックフェスで最後に大物ミュージシャン全員でシングアロングしているかのような大団円感に圧倒された。サーブ役として参加していた雄峰高等学校専攻科の学生たちがさながらコーラス隊のよう。

◆富山県美術館レストラン BiBiBi & JURULi
住所:富山県富山市木場町3-20
TEL:076-482-3037
公式HP:https://tad-toyama.jp/facility/restaurant-cafe
営業時間:11:00~17:00
定休日:美術館 休館日※臨時休業する場合があります。

鯖のかぶら寿し、バイ貝のフィンガーフード、フクラギの湯葉巻き

東シェフによる鯖のかぶら寿し、バイ貝のフィンガーフード、フクラギの湯葉巻き

サクラマスのabysse風かぶら寿し

サクラマスのabysse風かぶら寿し

東シェフによる岩牡蠣の蒸し寿司

東シェフによる岩牡蠣の蒸し寿司

稲垣隆志さんによる氷見稲積梅アロマジンソーダ

稲垣隆志さんによる氷見稲積梅アロマジンソーダ

“世界一のスタバ”で富山のSUSHIを考える

イベント終了後、強烈な体験の数々に頭の中で「寿司といえば、富山」がリフレインをしていた。東京に帰る前に落ち着こうと“世界一のスタバ”として知られる環水公園のスターバックスに歩いて行った。注文の列に並んでいると、イベントに参加していた“富山の女将アナ”青木栄美子さんとご主人に遭遇。これから東京に帰るんですと言うと、すかさず
「富山駅まで送りましょうか?」

スターバックス富山環水公園店

スターバックス富山環水公園店

辻井隆雄青木さんと青木栄美子さん

辻井隆雄さんと青木栄美子さん。夫婦で氷見の民宿「あおまさ」を運営している

青木夫妻のお気持ちだけいただき、駅までのブールバールの広い歩道をゆっくりと歩いた。べるもんたで聞いた巽先生のことばを思い出していた。

「おいしいものが生まれる場所には、風土を形成する人々の営みがあるんです」

寿司といえば、富山。その本質の一端に触れられた気がした旅でした。

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#富山県 #寿司 #食文化

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旅色編集長。情報誌、美容メディアなどを経て、現職。新企画を立ち上げるのが好き。最近は福井県の小浜市で出会った懐箸を持ち歩いています。

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