「あなたのための一杯」を追求し続ける焙煎士・五十嵐さんに聞くコーヒーの魅力
旅色LIKESレポーターのERIです。『散歩の達人』編集長の久保拓英(たくえい)さんにインタビュー術を学びました。その学びを活かしたいと、地元・埼玉でインタビューを敢行。インタビューしたのは、埼玉県深谷市でコーヒー店を営む焙煎士の五十嵐さん。今年新札の顔となった渋沢栄一ゆかりの地として注目を集める深谷、街の真ん中を通る旧中山道の通り沿いに、昭和にタイムスリップしたような古い酒造跡「七ツ梅酒造跡」があります。その一画でスペシャルティコーヒーを提供する「50COFFEE&ROSTERY」のオーナーです。地元の人が幸せな気持ちになる“1杯”のコーヒーにかける情熱を教えていただきました。
目次
「50COFFEE&ROASTERY」オーナー・五十嵐 智(さとる)さんのプロフィール
千葉県出身、埼玉県深谷市育ち。初めて飲んだエスプレッソに感動して学び始める。エスプレッソのおいしさを広めたい、たくさんの人に知ってほしいとの思いから「LOTUS Café」を深谷市で2006年に開業。2016年にはコーヒーに特化した2店目となる「50COFFEE&ROASTERY」を七つ梅酒造跡にオープン。日本スペシャルティコーヒーマイスター、バリスタ資格を持ち「コーヒーと日常」などイベントなども企画、運営。一般社団法人まち遺し深谷理事長も務める。
日本で4台しかない焙煎機「スマートロースター」
―コーヒーのいい匂いであふれていますね。まるで医療機器のような焙煎機ですね!
アメリカ最新型熱風式焙煎機「スマートロースター」というものです。日本にまだ4台しかなくて、埼玉県での導入はここが初めて。私はこの機械を導入することがずっと夢でした。コーヒー豆は焙煎具合によって酸味や苦み、味が変わってきます。豆に合わせてコントロールすることがおいしさの秘密で、人の好みに合わせた細かい調整も可能。優れものなんです。徹底して品質管理をした「スペシャルティコーヒー」は、14店舗ほどに卸すこともしています。
おいしいというだけではない「スペシャルティコーヒー」
―スペシャルティコーヒーとはどのようなものですか?
“風味が素晴らしく飲む人がおいしいと満足するコーヒー”という定義があります。高品質であることはもちろんですが、おいしいコーヒーを届けるために持続的に生産できる環境を整えることが必要です。豆の生産地には途上国が多く、重労働のうえ貧困に苦しむ農家が多く品質や流通にも影響がありました。ひとつの生産地、農園から公正な取引をすることで、農家は生活も安定して設備投資もできるようになり、よりよいコーヒー豆を生産、流通することができるようになります。だから僕は生産者がわかっている農園からしか仕入れていません。まだ世界シェア5パーセントくらいですが、味は私のお墨付きです!
―ただ単に豆の品質がいいだけではないのですね。
そうです。そしてコーヒーを飲むことで、お客様自身も生産者に貢献することができるのです。
イタリアで学んだエスプレッソの味
―コーヒーにハマるきっかけは何だったんですか?
はじめて飲んだエスプレッソに感動しました。「おいしかった」より、飲んだあとの余韻が心地よく感じたんです。その身体を包み込むような心地よさが忘れられませんでした。知れば知るほど面白くて、イタリア人はカフェで1日7回くらい飲むんですよ。もう社交場となっていて、カフェで街のことが何でもわかるんです。そんな文化をつくりたいと思ったんですけど、日本では無理ですね(笑)。気分に合わせて細かくエスプレッソを指定してくる人もいて、なかには自分のお気に入りの店(マイバール)を持っている人もいます。
―感動したというエスプレッソ、飲ませてください。
ぜひ! エスプレッソを知るとおもしろいですよ。エキスプレス(特急)が由来となっていて、その名のとおり抽出時間が約25秒とあっという間に終わります。「抽出25秒25㏄でマシンの圧力は9気圧」と作り方に決まりがあるんです。マシンのボタンを押したからといって、毎回同じような味になるわけでもないんです。一杯目と二杯目が全く違うこともあります。バリスタも同じ味になるように調整をしていますが、作業が繊細で難しいんです。一杯ずつ慎重に思いを込めてバリスタがいれるので“あなただけのために”という意味合いもあるんですよ。
―苦みが、まろやかというか嫌な感じが全くないです。
焙煎した豆には油分があって、圧縮することでクレマ(泡)ができます。この泡に400種類くらいのアロマ成分が含まれているといわれていて、飲んだときのホッとする心地よさを生み出しているのです。また「濃い=カフェイン多い」と思う人もいますが、実はカフェインが少ないんです。僕はエスプレッソを飲んだほうがよく眠れます。
―本格的なエスプレッソを飲むのは初めてで、砂糖を入れることも知りませんでした。入れると味わいが変わりますね。
イタリアではティースプーン3杯くらい入れることも一般的なんです。カップの底に残った砂糖をすくって、ドルチェとしても楽しんでいます。この一杯にカフェのすべてが詰まってるんです。
この街からおいしいコーヒーを伝えたい
―なぜこの場所でお店を出されたのですか。
客として通っていた店にいいマシンがあって、この機械があればもっとおいしく出せるんじゃないかと思っていたんです。そのうち閉店したと聞き、居抜きで始めたのが上柴町にある今の本店です。ありがたいことにランチやご飯が好評なカフェとなったんですが、もっとちゃんと“コーヒー”を伝えたいという思いがあり、焙煎機を導入できる場所がないかと思っていたところで今の場所を見つけました。新たに「50COFFEE&ROSTERY」をコーヒーの専門店として始めたんです。
―とても趣のある素敵なカフェですね。
いいでしょう、この場所。屋根が抜け落ちていてボロボロだったけど、ここまで造り上げました。この七つ梅酒造跡は、レトロな雰囲気をそのままにしているので、映画やドラマの撮影にも使われることも多いんです。撮影のときにセットを作り上げるんですが、いいな~と思ったものはそのまま残してもらっています。たとえばこの窓枠のサッシ、撮影のときに木枠を追加していたのですが、雰囲気が素敵でしょ。
ほんとうにおいしい一杯を知ってほしい
―今後の目標はありますか?
次の目標は、生産者のところに行って直接豆を仕入れることです。今までコーヒーの大会にも出ていたのですが、農園に行って豆を採ってきたという人が結構いるんです。今は、エチオピアのアラカ農園というところで作っている日本人と出会って、そこから買っています。いつか直接いきたいな~と思っているんです。誰が作ったかが、ちゃんとわかる安心感だけでなく、農家の方が一生懸命作ってくれたっていうのをお客様に伝えていくことも役目だと思っています。
終わりに
コーヒー文化を深谷に広めていく、その思いを聞き、地元の深谷に「50COFFEE&ROASTERY」があることをさらに自慢したくなりました。五十嵐さんの淹れてくれる一杯は味も香りもおいしいうえに、あの素敵な空間で飲むことができるので、ふとした瞬間に「行きたい」と思わされます。ぜひ「あなたのための一杯」を体験しに訪れてほしいです。
五十嵐さん、今回はインタビューをうけてくださり、ありがとうございました。