【倉方俊輔の建築旅】神戸・北野エリアに集う7つの宗教建築を巡る

兵庫県

2024.06.11

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【倉方俊輔の建築旅】神戸・北野エリアに集う7つの宗教建築を巡る

神戸のなかでも異人館で知られる北野エリア。明治時代には外国人と日本人が隣り合わせで暮らす「雑居地」が誕生し、15か国以上の外国人が既に住んでいました。その歴史から、さまざまな国の飲食店や食材店が立ち並び、神戸独自の文化が生まれました。宗教施設も密集し、ほかの地域では見られない珍しい建築があるのも神戸ならでは。今回はその中から7つを紹介します。異国情緒あふれる宗教建築を巡る、いつもと違った神戸の旅に出かけてみませんか。

目次

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天に上昇するような感覚に「神戸ムスリムモスク」

偶像を持たないモスクとは対照的な装飾「バグワン・マハビールスワミ・ジェイン寺院」

艶やかで装飾豊かな「関帝廟」

インド風の様式で“モダン寺”と親しまれてきた「本願寺神戸別院」

正教の文化が息づく「神戸ハリストス正教会」

国内で最も古い歴史をもつ「関西ユダヤ教団シナゴーグ」

方舟がイメージされた聖堂「カトリック神戸中央教会」

11月には「神戸モダン建築祭2024」も開催決定

天に上昇するような感覚に「神戸ムスリムモスク」

第二次大戦時の神戸大空襲や阪神淡路大震災にも耐えぬいた歴史あるモスク。Ⓒ一般財団法人神戸観光局

Ⓒ一般財団法人神戸観光局

礼拝室はじゅうたんが敷かれ、天井にはシャンデリアが。Ⓒ一般財団法人神戸観光局

神戸・北野のパールストリートに姿を現す「神戸ムスリムモスク」。1935年に日本で初めて建設されたモスク、イスラム教の寺院です。イスラム教は世界各地で信仰されているだけに、モスクの形もさまざまですが、ミナレットやドームが美しい見どころとなっているものが多いのです。
ミナレットとは本来、ここから礼拝の時刻を告げるためにつくられた高い塔。そんな由来から、バルコニーで飾られるのが一般的です。このモスクも目を凝らすと、正面左右のミナレットにバルコニーがまわっています。それが下は正方形、その上が八角形、さらに上は円形と変化する塔の形を引き立てています。

Ⓒ一般財団法人神戸観光局

Ⓒ一般財団法人神戸観光局

中央には大きなドームがあります。半円形ではなく、真ん中が尖っています。ドームの繊細な曲線が、上に引くほど細くなるミナレットと一緒になって、天に上昇する感覚を生み出しているのです。ドームの上に乗っているのは、イスラム教の象徴である三日月の飾り。建設以来90年間、変わらない姿で、祈りの場所となっています。
日本初のモスクがつくられた背景としては、国際貿易港である神戸が貿易業を営むインド人、ロシア革命で亡命してきたトルコ系タタール人など、さまざまな国のイスラム教徒を受け入れたことがあります。


◆神戸ムスリムモスク
住所:神戸市中央区中山手通2-25-14
※肌の露出(半ズボンやミニスカートなど)は避けること
※礼拝時間は季節によって異なる

偶像を持たないモスクとは対照的な装飾「バグワン・マハビールスワミ・ジェイン寺院」

寺社はインドから取り寄せた純白の総大理石造り。Ⓒ一般財団法人神戸観光局

Ⓒ一般財団法人神戸観光局

「バグワン・マハビールスワミ・ジェイン寺院」はさらに珍しいものかもしれません。ジャイナ教の寺院として1985年に完成しました。ジャイナ教は、仏教と同じくらい古くからあるインドの宗教です。あらゆる生きものを傷つけてはならないといった厳しい戒律で知られます。したがって、殺生に関連する職業にはつかず、金融業や宝飾業などに従事しました。
神戸は日本における真珠の集積地。それに関わるジャイナ教徒が建てた寺院となります。鼻を上げた象などの生き生きとした彫刻も、上すぼまりになった砲弾のような塔の形も、まるでインドに来たかのよう。偶像を持たないモスクとは対照的であることにも気づくでしょう。


◆バグワン・マハビールスワミ・ジェイン寺院
住所:神戸市中央区北野町3-7-4
拝観時間:日曜・祝日 13:00~15:00 もしくは事前予約

艶やかで装飾豊かな「関帝廟」

本堂。関羽の他にも一切の苦を取り除いてくれる「大慈大悲観世音菩薩」、航海・漁業の神「天后聖母」が祀られている。Ⓒ一般財団法人神戸観光局

睨み合っている青龍を見ると幸せになるという言い伝えが。Ⓒ一般財団法人神戸観光局

台湾檜の一刀彫で龍が彫られた中門。龍の柱の隣に見えるのが唐獅子

「関帝廟」も装飾が豊かな建築。神戸の貿易業にはインド系、そして中国系の人々が活躍しました。関帝廟は、財の神として名高い三国志の武将・関羽(関帝)を祀った霊廟です。鯉がやがて龍になる故事になぞらえて彫刻された中門、躍動感あふれる夫婦の唐獅子、本堂の屋根には北京の紫禁城と同じ皇帝色の瓦を用い、宝玉をつかんでにらみ合う青龍が乗っています。
現在の関帝廟は1948年に建てられ、1995年の阪神淡路大震災で被災した後、1999年に復興されました。物語性に満ちた空間です。


◆関帝廟
住所:神戸市中央区中山手通7-3-2

インド風の様式で“モダン寺”と親しまれてきた「本願寺神戸別院」

西本願寺からは車で1時間ほどの場所に位置する本願寺神戸別院

西本願寺からは車で1時間ほどの場所に位置する本願寺神戸別院

仏教もまた世界宗教だったことが、国際都市・神戸で思い出されます。「本願寺神戸別院」は、西本願寺の直属の寺院ですが、複数のカーブが連なった中央のアーチや三角形の屋根が乗った塔の形など、普通のお寺とはずいぶん違った形をしています。
デザインの特徴は1930年に建てられ、「モダン寺」と呼ばれた先代の建物から引き継がれたもの。当時まだ珍しかった鉄筋コンクリート造で、開かれた仏教寺院にしようという思いは、1995年に完成した現在の建物にも受け継がれています。


◆本願寺神戸別院
住所:神戸市中央区下山手通8-1-1

正教の文化が息づく「神戸ハリストス正教会」

第二次大戦の神戸空襲で教会は焼失。1952年、神戸のチョコレートメーカー「コスモポリタン」が再建した。Ⓒ一般財団法人神戸観光局

「神戸ハリストス正教会」は正教の教会です。東ヨーロッパやギリシアなどを旅すると、カトリックだけでなく、正教会が大きな位置を占めていることが分かります。神戸で正教が布教されたのは明治初めの1873年で、大正時代から教会がいくつもできました。
戦災による焼失の後、1952年に現在の聖堂が完成。独特な玉ねぎ型の屋根が、白い外壁に映えます。その上の十字架に2本多く横棒があるのに気づくでしょう。八端十字架と呼ばれ、正教の特徴になっています。


◆神戸ハリストス正教会
住所:神戸市中央区山本通1-4-11
※ 月1回の日曜日と月2回の土曜日には10:00〜礼拝が行われていて、その際に内部を見学することも可能
※露出の多い服装は避けること

国内で最も古い歴史をもつ「関西ユダヤ教団シナゴーグ」

第二次世界大戦時には、杉原千畝が発給した「命のビザ」を手に、4千人以上のユダヤ人難民が神戸に避難。ここを訪れた人も多いのだそう

第二次世界大戦時には、杉原千畝が発給した「命のビザ」を手に、4千人以上のユダヤ人難民が神戸に避難。ここを訪れた人も多いのだそう

シナゴーグは、ユダヤ教徒にとっての祈りや集会の場所として、世界各地に存在しています。国内で数少ないシナゴーグの中でも最も古い歴史を持つのが、北野町の「関西ユダヤ教団シナゴーグ」です。
第二次世界大戦以前から個人宅で礼拝の集まりが行われており、戦後に商人ソロモン氏の家の倉庫を改造してシナゴーグが生まれ、現在のシナゴーグが1970年に建てられました。モダンな形の中に、ダビデの星がユダヤ教の場所であることを示しています。


◆関西ユダヤ教団シナゴーグ
住所:神戸市中央区北野町4
※ 内部見学には事前予約が必要(英語のみ)

方舟がイメージされた聖堂「カトリック神戸中央教会」

教会正門前

カトリック麹町 聖イグナチオ教会

「カトリック神戸中央教会」は、阪神淡路大震災の後、神戸で最も古い伝統のある中山手教会をはじめとした3教会を統合する形で2004年に完成しました。聖堂は三位一体を象徴した3枚の壁で囲まれ、おおらかな形は方舟(はこぶね)もイメージしています。内外ともに壁面にはオランダ産の白煉瓦が使われ、優しい雰囲気です。そんな中、シャープに立つ鐘楼が、ここが集いの場であることを告げています。鐘楼にはフランスから贈られた旧中山手教会の鐘が移設されました。
教会敷地内に併設されている社会活動神戸センターと併せて設計を行ったのは、建築家の村上晶子さん。東京の上智大学に隣接した「カトリック麹町 聖イグナチオ教会」など多くの教会を手がけている設計者らしく、開かれた教会のあり方が美しく具現化されています。


◆カトリック神戸中央教会
住所:神戸市中央区中山手通1-28-7

11月には「神戸モダン建築祭2024」も開催決定

異国にあっても心安らぐ人間関係を築き、他の人々とも安定して交流できる基盤となる。宗教建築が、そんなコミュニティを築く大事な存在であることが、神戸の建築から分かります。

また、昨年に続き、2024年も11月22日(金)~24日(日)には、「神戸モダン建築祭」を開催することが決定しました。新たなエリアや参加建築を含め、ガイドツアーや連携企画など盛りだくさんのプログラムをお届けいたします。みなさんもこの機会に、神戸を建築視点から見る旅をしてみませんか。昨年開催の様子はこちらから。

【倉方俊輔の建築旅】まちに息づく“神戸らしさ”を感じる「神戸モダン建築祭」が11月より開催!

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#建築旅 #倉方俊輔 #北野

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建築史家 倉方俊輔

建築史家

倉方俊輔

1971年東京都生まれ。大阪公立大学教授。日本近現代の建築史の研究と並行して、建築の価値を社会に広く伝える活動を行なっている。著書に『京都 近現代建築ものがたり』(平凡社新書)、『東京レトロ建築さんぽ』(エクスナレッジ)など。Peatix「Kurakata Online」や「NHK文化センター」で、建築の見かたをやさしく学ベるオンライン講座も開講中。

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