「食のために、人は遠くからでも来る」豆腐屋さんが人気レストランへ変貌! 佐嘉平川屋の代表・平川さんの野望【佐賀県武雄市】

佐賀県武雄市は複数の空港から近く、新幹線を含む鉄道や高速道路の分岐点。佐賀の嬉野や有田、そして長崎への観光にも最適の拠点です。1300年の歴史を誇る武雄温泉が有名ですが、名物を町の人に聞いてみると、「佐嘉平川屋さんの温泉湯豆腐」の声が多数。佐嘉平川屋の温泉湯豆腐は、温泉水と同じ成分の調理水で特製の豆腐を煮るという佐賀県の名物料理。豆腐が溶け出してふわふわの食感となり、白濁した汁は豆乳よりさっぱりして優しい味わいです。そのおいしさのほかにも、「店内がおしゃれ」「おもたせにもぴったり」との声があがりましたが、名物を手掛け、2つのレストランを運営する平川屋さんは、もともと町のお豆腐屋さん。どんなきっかけで、そしてどんな思いで変容を遂げていったのか、佐嘉平川屋の代表・平川大計(ひらかわ ひろかず)さんに聞きました。
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佐嘉平川屋
昭和25(1950)年、武雄市(旧・北方町)で豆腐店として創業。その後、「温泉とうふ」の開発、温泉湯豆腐を提供する飲食部門を立ち上げ、徐々に人気店へ。豆乳パフェが仲里依紗さんのYoutubeで取り上げられて話題を呼ぶ。2022年9月に、武雄温泉本店をオープン。
佐嘉平川屋 武雄温泉本店
住所/武雄市武雄町大字武雄7411
電話/0954-27-8481
時間/9:00~18:00(LO 16:30)
定休日/なし
町の豆腐屋さんが名物を作り上げるきっかけ
――もともとは小売りのお豆腐屋さんが、町の名物を作るまでになりましたが、最初はどんなきっかけで「温泉湯豆腐」を作ることになったんですか?
「温泉湯豆腐」は、嬉野の旅館で朝食として提供されていました。うちは武雄で豆腐店として営業していましたが、先代が、取引先のスーパーマーケットから「自宅でも楽しめるような温泉湯豆腐」を作ってくれないかと言われたのがきかっけでした。それから嬉野温泉へも相談に行き、温泉湯豆腐専用の豆腐を開発。嬉野から温泉を分けてもらって商品を作りました。当時は温泉湯豆腐の知名度がなかったので、みんなで盛り上げていこうという感じでした。

佐嘉平川屋 代表取締役・平川大計さん
――まず、商品ができたんですね。そこからお店を出すまではどういった経緯なんでしょうか?
佐賀県出身の元プロ野球選手・加藤博一さんという方が、「温泉湯豆腐を通販で購入したい」と言ってくださって、通販部門を立ち上げました。それが雑誌で紹介されて、結構話題になったんです。そのなかで「席を予約をしたいんだけど」というお問い合わせをいただきました。温泉湯豆腐は調理する商品なので、実店舗があると思われて当然ですよね。それで、嬉野店を立ち上げました。当時は周囲に反対もされて、そしてそのとおり、開店当初はびっくりするほど誰もこなかったんです(笑)。それでも、そのうち少しずつ「温泉湯豆腐」の知名度が上がっていきました。
温泉湯豆腐を通して武雄の役に立ちたい
――今や人気店です。
最初は見向きもされないところから始めて、いまはずっと席が埋まっている状況です。しかも、たまたま店の前を通った方より、わざわざ食べに来てくださったお客様が多く、食が持っている可能性を感じることができたんです。「食のために、人は遠くからも来る。温泉湯豆腐にはその力がある」と確信したんです。

――そんななかで満を持しての「武雄温泉本店」の開店だったんですね。
私は高校まで武雄で過ごし、周辺への思い入れもありますが、その頃に比べると、あたりの賑わいは落ち着いてしまったように思っていました。そんなときに、武雄温泉楼門の前の土地が空いていると聞いて、嬉野に力を入れてましたがもともと本社は武雄市ですし、一丁目一番地に店を出すというのは会社にとっても魅力的だと思いました。それに、店を出せば、武雄市の観光にも寄与することができるんじゃないかと思ったんです。
豆腐のフルコース、おしゃれな建物……付加価値を高めて唯一無二に
――武雄温泉本店はどんな特徴がありますか?
温泉湯豆腐を提供しているのはほとんど旅館さんで、朝食の品々のなかの一品として提供していたんです。でもうちは豆腐屋ですし、佐賀の豆腐文化を知ってもらうために、本店では温泉湯豆腐をメインディッシュにしました。

1. まずは温泉湯豆腐を食べる
2. 残りの汁に野菜などを入れて鍋として食べる
3. ごはんを入れて雑炊にして〆る
という流れで、豆腐や豆乳を使って前菜やデザートもつけて、フルコースでご提供をしています。嬉野店は温泉湯豆腐を多くの方に知ってもらうため定食スタイルにしていますが、武雄温泉本店はうちのお豆腐のことを知って味わってもらうためにコース料理にしたんです。その分、嬉野店に比べれば価格は高いですが、単価が低くて疲弊するという観光地の問題を避けたかったので、あえてこちらを「本店」と呼び商品力を打ち出しました。地域に根ざした歴史もありますし。周辺ももっと価格を上げていく必要がある、その価値があると思っています。

――建物の雰囲気もずいぶん違いますよね。美術館のようです。
建築の力は偉大です。「ブルーボトルコーヒー」の店舗建築も手掛け、プロダクトもできる建築家・芦沢啓治さんにお願いしたのですが、この建物をわざわざ見に来る方もいらっしゃいます。家業を継ぐつもりがなく、起業をしようと思ったときから、「居心地のいい空間を作りたい」と思っていて、ようやくやりたい方向に持ってこれたと思いますね。5年くらい前からリブランディングして、建物や商品コンセプトを含めて、ようやく一つの方向性に固まってきたように思います。
これから挑戦したいこと
――これから挑戦してみたいことはありますか?
いつかオーベルジュをやってみたいですね。飲食もセットで、一つのコンセプトの元に展開するので、クオリティも担保されます。うちはメーカーですが、観光業のほうが個人的に楽しいんです(笑)。ただ、商品について絶対的な自信はあります。生粋の豆腐屋さんがやっている飲食店って多くはないんです。豆腐の特性をよくわかっているのも強みですね。

――まずは温泉湯豆腐を味わって欲しいと。
そうですね。通販もやっているので県外の方がお土産にも選ばれることも多くてありがたい限りなんですが、誤解している方が多いのが、煮る加減です。豆腐を調味水で煮てちょっと白濁したくらいで食べて「おいしい」って言う方がいらっしゃいますが、全然違います(笑)。現地で見て、どういう食べ方が正しいか、おいしいか知るのが極めて重要だと思いますね。
おわりに
平川さんはもともと運輸省(現国土交通省)で働かれていて、家業を継ぐ気はなかったといいます。起業のために退職し、その間にと手伝った家業の大変さを目の当たりにして、継ぐことを決意したそう。温泉湯豆腐の可能性を見出し、元のお店をリブランディングし、地元に賑わいを呼び戻そうとするアイデアと行動力には圧倒されますが、なにより武雄市を愛する心がその根底にあると感じました。『月刊旅色4月号』では、米倉涼子さんも「佐嘉平川屋」を訪ねています。ぜひご覧ください。