【倉方俊輔の建築旅】繊細さとダイナミックな造りに触れる福井県勝山市の旅

福井県

2023.02.23

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【倉方俊輔の建築旅】繊細さとダイナミックな造りに触れる福井県勝山市の旅

建築史家の倉方俊輔さんが案内する、建築をきっかけにその街を新しい視点で見つめる「建築旅」連載。今回は昨年12月に亡くなった世界的な建築家・磯崎新が設計した住宅をリノベーションしたショップ兼カフェや、黒川紀章が設計した恐竜博物館など、旅に出たくなる建物が多数ある福井県勝山市を巡ります。

文・写真/倉方俊輔

目次

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楕円錐から光が降り注ぐ「福井県立恐竜博物館」(2000年)/黒川紀章

傘天井の大広間が特徴的な「旧料亭花月楼」(1897年)

建築家・磯崎新が設計した住宅をリノベーション「nimbus」(1986年)/磯崎新・伊東孝

おわりに

楕円錐から光が降り注ぐ「福井県立恐竜博物館」(2000年)/黒川紀章

福井県勝山市

福井県勝山市には、雄大な眺めが待っています。福井市から永平寺を越えて東に進むと、周囲を1,000メートル級の山々に囲まれた当地に出ることができます。悠々と流れるのは福井県で最も大きな川である九頭竜川。遠くにはひときわ高い白山連峰がそびえています。

福井県立恐竜博物館

「福井県立恐竜博物館」は、そんな風景に呼応しています。卵のような形で、遠くからも存在に気づきます。冬に訪れれば、光を反射する表面のアルミパネルの陰影が、手前に広がる雪原のようです。太陽が厚い雪雲の向こうから姿を現した瞬間、変貌する光景が一層心に刻まれることでしょう。

福井県立恐竜博物館

日本有数の恐竜の博物館として、福井県内有数の観光スポットになっている建物は、建築家・黒川紀章によって設計されました。内側もダイナミックです。入ってすぐに圧倒されるのは、大きな楕円形の吹き抜け。左右対称のカーブする階段が、中央のエスカレーターを引き立てています。3階分を一気に下る、見たこともないほど長いエスカレーターです。乗りながら見上げていると、空に突き出したガラスの楕円錐から光が降り注ぐさまが、頭上に展開します。

福井県立恐竜博物館

すでに導入路で、子どもでなくてもわくわくします。その先に、外から見えた卵型の内部をいっぱいに生かした、堂々たる恐竜の展示が広がっているのです。勝山で発掘された化石も数多く含まれています。人類が誕生するはるか以前、大きな足跡がこの地を行き交っていたのでした。現在、福井県立恐竜博物館は、2000年の開館以来となる大規模リニューアルで休館中です。さらに展示を充実させて、今年夏ごろの再開館が予定されています。

◆福井県立恐竜博物館
住所:福井県勝山市村岡町寺尾51-11かつやま恐竜の森内
電話番号:0779-88-0001
開館時間:9:00~17:00 ※夏季繁忙期は8:30~18:00
休館日:第2,4水曜日(祝日の時はその翌日、夏休み期間は無休)、年末年始
※現在休館中。夏にリニューアルオープン予定
入館料:一般/730円、高・大学生/420円、小・中学生/260円

傘天井の大広間が特徴的な「旧料亭花月楼」(1897年)

旧料亭花月楼

福井県立恐竜博物館は夏ごろまで休館していますが、勝山への訪問は夏を待たなくて良いでしょう。日本有数の豪雪地帯として知られる冬から、街中を流れる小川の水音も力強くなり始めれば、春の訪れ。盆地である当地は、四季の変化もまた生命力に溢れています。

枝垂れ桜が出迎えるのは「旧料亭花月楼」です。勝山が繊維業やたばこ産業で発展した明治時代に、花街として賑わう河原通りに開業しました。1897(明治30)年に完成した建物には、芸子の控えの間、帳場など、当時の繁栄ぶりと料亭の趣が随所に息づいています。

旧料亭花月楼
旧料亭花月楼
旧料亭花月楼

2階の大広間に驚かされます。32畳ある部屋の天井は、真ん中が盛り上がった「傘天井」と呼ばれる珍しいつくりです。通常であれば、竿縁(さおぶち)という細長い材が平行に走って、天井板を止めています。それがここでは中央部から放射状にカーブを描いて、天井板もそれぞれに違った大きさ。にもかかわらず、部屋の四方では同じ高さになって、何事もなかったかのように障子や襖が付いているのですから、まるでだまし絵の中にいるかのような気分になります。

旧料亭花月楼
旧料亭花月楼
旧料亭花月楼

円形と正方形を組み合わせた遊びは、細い桟を互い違いにした障子や大胆に斜め線を用いた欄間にも。他では目にできない幾何学のデザインを、壁や障子の鮮やかな色彩が引き立てています。

◆旬祭食祭 花月楼(旧料亭花月楼)
住所:福井県勝山市本町2-6-21
電話番号:0779-87-1355
FAX番号:0779-87-1360

【1階 庭園の間】
営業時間:11:00~14:00
定休日:火曜日、水曜日

【2階 傘天井の間】
営業時間:11:00~14:00(要予約)、18:00〜21:00(要予約)
定休日:水曜日

建築家・磯崎新が設計した住宅をリノベーション「nimbus」(1986年)/磯崎新・伊東孝

nimbus
nimbus

内側に驚かされるのは「nimbus(ニンバス)」も同じです。勝山市役所の隣に、昨年9月に開業したショップ兼カフェです。建築家・磯崎新の設計した住宅が、勝山には2軒もあります。その一軒に、建築家の清水俊貴さんと山田寛さんが本来の質を高める改修設計を施して、訪れることが可能になったのです。

nimbus
nimbus

昨年12月に逝去された磯崎新は、世界の建築関係者の誰もが知っている歴史的な人物です。各国の建築家はもちろん、芸術家や思想家とも幅広い交流関係を持ち、第一級の知識人として、1970年代から建築の潮流が変わることに大きく貢献しました。公共建築として「北九州市立美術館」(1974年)や「つくばセンタービル」(1983年)などを設計し、海外にも「ロサンゼルス現代美術館」(1986年)、1992年のバルセロナ・オリンピックの会場となった「パラウ・サン・ジョルディ」など数多くの建築を残しています。

nimbus

そして、住宅も磯崎新を知る上で重要なのです。経歴の早い時期から、新たな建築観を試みる挑戦の場所となってきました。けれど、住宅というのはその性格上、内部を見学することが困難なもの。そこに風穴を開けたのが、この1986年に完成した建物です。中に入ってみましょう。外観はさほど突飛ではありません。打放しコンクリートの四角い箱で、入口部分がかき取られたようになっています。窓の形が変わっているくらいでしょうか。磯崎新の建築に詳しい方でしたら、多くの磯崎作品の中でも目にしたことのない形だと不思議に思うかもしれません。

nimbus
nimbus

入口から鉤の手に入ると、2階分が吹き抜けになっている空間があります。住宅だった時にリビングルームとして使われていたスペースは、部屋ではなくて、空間と呼びたくなる場所。通常の住宅のような個別の窓はなく、外から見えた特徴的な形の2つの窓と、通りの反対側に天井まで抜けたガラス面があります。高い天井まで打放しコンクリートの壁が続き、公共建築のような爽快さです。

nimbus

見上げる天井の大きな円が、一層のロマンを加えています。正方形の天井は、真ん中で盛り上がっています。巨大な球体が衝突したかのような窪みです。これを打放しコンクリート仕上げで実現するには、かなりの手間と精度が必要になるのですが、おかげで空間に求心性が生まれ、閉じられた内部が外部の天球のようにも感じられます。

nimbus

実際、上部が広がった形の窓は空だけを見せ、そこから差し込む光は日時計の針のように鋭く室内を移動します。内側にこんな小宇宙を抱え込んでいると、外観から予想できたでしょうか。

nimbus

「中上邸」(1983年)

この3年前に磯崎新が完成させた勝山の「中上邸」(1983年)とは異なり、この住宅は使用する形や色や素材をかなり限定しているのです。だから、鏡のような大理石の効果が引き立ちます。その裏にある階段から2階に上がると、住宅だった頃の寝室やクローゼットや浴室があり、ここも吹き抜けと同型の正方形平面と円の天井でまとめられています。天井の高さの違いや光の効果によって、幾何学的な構成で生き生きとした空間がつくられています。室内で移り変わる光を眺めながら、思いにふけることができます。

nimbus

正方形と円形は、旧料亭花月楼の「傘天井」へのオマージュなのでしょうか。そうではなく、建築家は雄大な地球全体に通じるものを勝山に感じて、架空の球体の一端を天井に刻んだのでしょうか。あるいは約100メートルしか離れていない中上邸(非公開)と外観も室内も対照的に設計することで、どちらが上でも無い関係性をこの街の2つの家に贈ったのでしょうか?

この住宅は中上邸を訪れて、その空間に魅せられたご夫妻が磯崎新に設計を依頼。基本構成が固まりつつあった段階で、元所員である建築家の伊東孝が設計を引き継ぎ、このような形で完成しました。

磯崎新は関わった作品について饒舌に語ることでも有名です。しかし、本作の意味は記していません。伊東孝もこの世を去っています。人間は天に召されて永遠の謎になり、建築は地上に残って解かれるのを待っているのです。

◆nimbus(ニンバス)
住所:福井県勝山市元町1-1-36
電話番号:0779-64-5103
営業時間:12:30~18:00
定休日:日曜日、水曜日
※季節によって変更があるため、以下でご確認ください。
https://www.instagram.com/nimbus__12/

おわりに

店名の「nimbus(ニンバス)」とは、この建築に魅了されて購入し、明治時代から続く勝山市の繊維企業に新たなファクトリーブランドを立ち上げた笠川まさよさんの命名で、「雪雲」を意味しています。明らかなのは、こんなに大らかで繊細な出来事が起こる、勝山には文化が息づいているという事実です。今こそ、訪ねてみてください。

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#建築旅 #福井県 #勝山市 #恐竜博物館 #北陸を元気に

Author

建築史家 倉方俊輔

建築史家

倉方俊輔

1971年東京都生まれ。大阪公立大学教授。日本近現代の建築史の研究と並行して、建築の価値を社会に広く伝える活動を行なっている。著書に『京都 近現代建築ものがたり』(平凡社新書)、『東京レトロ建築さんぽ』(エクスナレッジ)など。Peatix「Kurakata Online」や「NHK文化センター」で、建築の見かたをやさしく学ベるオンライン講座も開講中。

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